ギリギリ間に合ったけどもあまりクオリティは期待しないで……
お互いしか眼中にないドロ甘の楽玲もいいけど、二人で同じものへの感動を共有できる楽玲もいいなと思って書いてみました。
動画の中の彼を見た。
何度となく繰り返して彼を見続けた。
動画の中の彼はあまりにも輝いていて。
紡がれた謳は主演の彼を引き立て、より一層
その雰囲気に圧倒されて。
私も
貴方に
近くのホールで行われる演奏会のチケットを二人分予約したのは無意識の間の事だった。
「………………」
私何やってるんでうびゃぁあ!?!?!?
ーーーーー
ーーーーー
「ーーーというわけで、いっ……いっしょに……」
登校中、玲さんの様子が何やらおかしかったのはどうやら俺を誘うタイミングをうかがっていた、という事らしい。要約してみれば、父さんが玲さんのお爺さんに美味しい魚をあげたとか。そのお礼の一環で誘ってくれているそうだ。
「……それにしても、オーケストラかぁ」
「ご……ご迷惑だったでしょうか……」
「全然そんなことないよ?」
オーケストラと聞いてパッと頭に浮かんだのはあの劇場。前回の
「ていうことは……!!」
「うん。ご一緒させてもらおうかな」
「ッ~~!?!?」
……玲さんと遠出するのはJGE以来か。
最近はテスト勉強でお世話になったりとリアルでの交流も増えた玲さんとのお出かけ。前は『デートっぽくなる』なんて気にしていたけど、せっかく今回も誘ってくれたんだ。細かいことは気にせずに厚意を受けよう。
「……ぁぅ……ぁぅ……」
脳内でのスケジューリングを済ませて視線を戻せばそこにいた玲さんはいつもよりもなおさら顔を赤くしていた。
「……玲さん?」
「ぅひゃい!?なんでふか!?!?」
「だいじょうぶ?」
「……!!……!!……!!」
「……??」
「…………!!!!」
問いかけに対して思いきり首肯で答える玲氏。
え?それ首大丈夫?と、どこか焦点の定まっていない目を覗き込めば声にならない声が漏れ出してきて。
それから学校に着くまで玲氏は会話できる状態じゃなくなっていた。
……途中で聞いてしまった「遺書の準備を……」ってうわ言は聞かなかったことにしておこう。
◇
そして迎えた鑑賞会当日。
またもや二人で1時間以上早く集まってしまったりエッグベナっ…ベヌっ…ベネディクトを食べたりと予定外だけど予想内のイベントもあったりしたが、ようやく会場へと辿り着いた。
「はぇぇ…」
想像以上にしっかりとした内装に感嘆の息が漏れる。
広いステージ。
高い天井。
奥の壁がジグザグしてるのは音の反響が計算されてるとかいないとか。
……まぁ、そんな雑学があってるかどうかは俺にはわからないけど、この空間はただの部屋として処理するにはあまりにも芸術的だった。
「……なんか……すごいですね」
「……うん」
隣の玲さんも圧倒されている。
「玲さん、こういう所は初めて?」
「昔、母に連れられて来たことがあります。でも当時はこの雰囲気をまだ感じれなかったといいますか……改めて、すごいなって」
VRでは絶対に感じられない生身の肌で感じる迫力。システム的に受ける迫力とは違う、体の髄が感じ取ってしまう圧力。それがひしひしと伝わってくる。
「玲さん、席ってどこだっけ」
「えと、ちょっと待ってくださいね…………あの右奥の方ですね」
「とりあえず行こうか」
「そうですね」
ずっと入り口で突っ立ってるわけにもいかないのでとりあえず予約した席へ移動。そのまま隣同士の席に腰掛けた。
「「……!!」」
座席だけ切り取ってしまえばきっと映画館と大差ない、いや、映画館の椅子のほうがしっかりしてるし座り心地はいいかもしれない。だけど、この映画館にはない荘厳な雰囲気の中だとむしろこれくらいシンプルな座席に座れることに感動を覚えるというか……
「……ふふっ」
「どうしたの?」
「なんだか私と楽郎君、さっきから感動してばっかりだなって」
「ははっ。確かに」
隣に座る玲さんとの会話はいつもより声量が1段階低い。どんなに小さな声でもどこまでも響いてしまうんじゃないかってくらいに静かな会場の中では右隣から聞こえてくる囁くような玲さんの声が耳に焼き付いてしまいそうだ。
「目につく一つ一つに感動しててもきりがないって分かってるんですけどね」
「しょうがないよ。初めてこんなところに来たら感動せずには居られないでしょ」
「なんていうんでしょうね、VRじゃないけどVRみたいっていうか」
「わかる。VRじゃ味わえない情報量なんだけど、現実味はわかないよね」
「そうなんですよ!起きてるのにどこか夢見心地といいますか……」
「そうそう!気がつくと目が何かを追ってて全く落ち着けないんだよ」
「わかります……!!そわそわしちゃいます!」
決して声が大きくなっているわけではないけれど、確実に俺たちの話し声は熱気を帯びてきていて。慣れないイベントにテンションの上がっている俺達だが、その興奮も二人重ねれば響き合う。まるでこのホールで音が鳴り響くように。
「私、今日来れて良かったです!」
「それはコンサートが終わってから言うのでも遅くないんじゃない?」
「……楽郎君とこんな感動を共有できただけでも一生の思い出ですよ」
「あぁ、俺もそう思う」
ーーー急に、客席の明かりが消えた。
「(……始まる!!)」
玲さんとのおしゃべりに夢中になっている間に幕の向こうでは楽団の準備が整ったのかブザーの音とともに舞台にライトが集まろうとしていて……
幕が上がった。
「「…………」」
……すごかった。
本当にすごいものを見たら人は語彙がなくなるなんて言うけど本当にその通り。公演が終わって約30分経っても正直まともな感想が出てこない。頭の中に言葉が浮かんでこないんだ。
「すごかったですね」
「ほんと。すごかった」
「……私達、この会話何回目です?」
「4回目くらいじゃない?」
こういうの慣れてる人ならきっと今頃はどの曲のどこがすごかったなんて具体的に語り散らかしているのだろうけど、生憎俺たちにそこまでのポテンシャルはない。何なら聞いてた曲の細かい部分までなんて覚えてさえいられなかった。
ただ全身に打ち付けるように響く音。それが腹の奥から全身をめぐるように体の内側で何度も響いてる気がして。頭の中で何度も響くその音が隣の玲さんに聞こえてるんじゃないかってくらいに膨れ上がって、それでも続けられる演奏にかき消されていくあの感覚。まだ頭に焼き付いてる。
「玲さん」
「はい?」
「また、来よう」
「……はい!」
隣を歩いている玲さんと少し指先が触れた。
俺の指はまだ演奏からくる震えがかすかに残っていて、そして玲さんの指もまだ少し震えていて。触れた指がバチッて音を立てるように痺れた気がした。
そして伝わってきた。玲さんの内側に残る熱気や興奮、感動が。
それはやはり俺の中にあるものと同じで。
「約束ですよ?」
「もちろん」
俺たち二人の中でくすぶり続けた熱は、静かな帰り道に小さな交響曲を色鮮やかに奏でていた。
らくれとても難しかったです。らくれ創作者さんたちに本気のリスペクト。いつもすごいらくれをありがとうございます!
感想お待ちしています!!!