解釈違いがあったら語ってください、喜びます。
「アノッサァァァアー!」
ここはとあるマンションの一室、最上級ではないとはいえ自分で働き家賃を稼いでいる魚臣 慧にとって、自分の城とも言える場所である……はずだった。ゲームを快適に取り組むために用意した拘りの家具たちの中央に位置する机に広げられたジャンクフードの数々、なぜか自分より先に酔っぱらっている友人。
「ねぇ……今日は僕の誕生日を祝いに来てくれたんだよね」
「彼女が先に来ていたのは予想外だったけど、三人でお祝いするはずだったわ」
ついに片足を机に立て、演説を始めた友人を見ながら考える。どうしてこうなったのだろうか。
遡ること一時間前、太陽が傾き始めたかというような頃、夏目 恵は慧の部屋まで訪れていた。片手には飲みやすさが売りというシャンパンを抱えこみ、喜びと緊張で表情筋を全力で引きつらせながら慧が出てくるのを待つ。
「なんか嫌な予感がするわ」
切っ掛けは昨日爆薬分隊で慧の誕生日パーティを開いたことにある。実際の誕生日からは一日ずれるが、メンバー全員が無理なく集まれる日が昨日だったため、レストランの一室を貸し切りにして祝ったのだ。そこで恵は閃いたのである、20歳という彼にとって節目になる記念日を利用して、距離感を縮められないだろうか、あわよくば男女として意識してもらえないだろうか、と。
夏目 恵と魚臣 慧、二人とも日本を代表するプロゲーマーチームに所属しておりレストランに二人きりというのが週刊誌の喜ぶゴシップになるのは理解している。しかし手料理を振舞うというのはガッツキ過ぎではないだろうかと悩み、そもそも振舞えるほどの腕ではないことに気付き落ち込んだ。そこで昼食を終えてしばらく経つであろうこの時間を選んだのだ、昼下がりに二人で乾杯、思いついてみればなかなかいいアイデアではないかと恵は一人部屋小躍りするほどだった。
なお、「二人で乾杯」というイベントに憧れがあったのも理由に数えられる。そんな考えをもって慧と約束を交わし、現在浮かれている恵であった。
ピッ、というもう聞きなれた電子音が鳴ってドアが開けられた。
「お待たせ、慧」
何やら騒がしくする人の声が聞こえる、急な来客があったのだろうか。
「ごめん、ちょーーっと騒がしいゲストがいるけどいい?」
「ゴホン、今日は僕のためにありがとう、乾杯」
「「かんぱーい」」
それぞれのコップに注がれたシャンパンを口につける。小さなクラッカーも鳴らしてちょっとしたパーティ気分だ。
「にしてもシルヴィア、クラッカーとか気合い入りまくりじゃん」
「Of course!20歳ってことは日本の成人なんでしょ、いい男なんだから本格的にアタックする人が出てきそうじゃない、良い機会だからスキャンダルの一つでも作っておこうかと思ったの」
「そうよね……数か月後に慧が付き合いだしててもおかしくないわ……」
「はぁ?僕のスキャンダルとか深淵に堕ちる覚悟はできてるんだな?」
「あー……、シルヴィア、迂闊なことは言わないほうがいいわよ」
「そもそも僕が仮に恋愛したところでメグたちとの時間を減らす気はないから」
「あ…………そぅ、もぁ゛!」
「ぅう…っん!!!ケイ!Happy birthday!」
「ちょっと待って、ビールをもって何をする気だ、ていうかそれ僕の分なんだけ―――」
慧が一口だけ飲んだビールを口に当て、一気に飲み干すシルヴィア。その勢いに二人が止めることもできず、空っぽになった空き缶が軽快な音を立てて机に転がる。
「一気……って体に良くないのよね?」
「No problem!この私がその程度で酔うわけないわ!ピザの追加するわよ!」
「うん、完全に良くない酔い方してるじゃない!?そもそも何で慧の部屋にいたのよ!?」
「私が!答えるわ!!ずばり、今日がケイのバースデイだからよ!!!」
「耳元でうるっさいわねぇ!この酔っ払い!」
「My head's killing me!」
「メグも十分酔ってるからペースダウンしなよ、しんどいならソファで寝ていいから」
「必殺!ボディプレスアターック!」
「ちょ、吐きそう、くっつくなとかじゃなく、吐くからっやめっ」
「慧!?袋…いやどきなさいよ!!」
「ケイ!温まってきたんだからつきあいなしゃい!」
「もうおとなしく寝ときなさいってば」
恵がソファで横にさせようとするが上手くいかない。シルヴィアの足元がふらついてしまい、テーブルに頭をぶつけそうになったところを慧が抱きとめる。
「ああもう、ゴメーン……ちょっと、寝るわね……」
慧の腕に抱かれたまま目を瞑り、うとうととし始めた。仕方がないので、抱きかかえた姿勢で、あやすように背中を撫でて寝かしつける、吐かれても困るのだ。慧はゲロの対処が得意ではない上に、自分の部屋をゲロで汚したくなかった。完全に寝たのを確認した慧は普段なら騒ぎ立てるメグが静かに、何も喋ってこないことに気付いた。
「メグ?……メグさん?」
声を掛けても返事はなく、既に熟睡しているメグが見つかった。アルコールを飲んだわけでもないのに静かに寝息をたてており、疲れていたことが伺えた。机の上には空っぽのピザボックスやスナックの袋が散乱してしまい、悲惨な状態となっている。シルヴィアと二人で何本か空けたビール缶も転がっており、慧は片づけのことを考えて眩暈がした。
「はぁ……でも、こういうのがありふれた幸せっていうのかな」
去年までは見られなかった光景。友達を家に呼び、どんちゃん騒ぎを楽しみ、最後は片づけに苦しめられる。酔いが回り、睡魔が襲い掛かってきたことを自覚した慧は、二人を床に寝かせて自分も床に寝転がるのだった。
わちゃわちゃするのが書きたかった(遺言)