では第12話、どうぞ!
日が沈み始めた森の中、3つの明かりがあった。
それは無論フィーアたちを照らす碧とフラメアの炎である。本来であれば明るい時間に行くのが一番ではあるが、フィーア曰く夜はヴェノムは巣である洞窟に戻り群れの長である1匹のヴェノム、【クイーン】と呼ばれる個体を守るんだとか。
クイーンごと森に住むヴェノムをすべてを倒すにはこの方法が一番ということで彼女たちは僅かな炎を頼りにフィーアの案内の下ヴェノムの巣へと向かっていた。
「足元や周りに気を付けてくださいね。この森は結構段差も多いうえに森に住むモンスターの中には夜行性もいますので」
「確かにこの暗がりだと気を付けてないと襲われそうですね…」
「精霊である私やフィーアちゃんなら多少は大丈夫だけど…碧ちゃんは人間だもんね」
「そうですね…今の私には魔法の並列発動なんて器用なことはできませんから」
私はまだ魔法に慣れているわけでは無い。最近ようやく発動できるようになり、イメージも今のところ矢か火球かしかできないのだ。そんな私が同時に魔法を使えるようになるにはまだ練習を重ねる必要があった。
おそらく、精霊魔法のスキルレベルもそういった技術が上達すれば上がっていくのだろう。複数の属性を扱うということは要求される技術も高くなるのだから。
「まあ、私も2つが限界だけどね。それも別々の形にはできないし…」
「それでも複数使えるだけ便利だと思いますよ」
「フィーアちゃんは?」
「私はまだ1つしか使えません。私はステータスにもある通り精霊として生まれてから14年しか経過していませんから、魔法をいくつも使えるだけの技術はないんです」
「まあ…だよね~。その年齢で並列で魔法が起動できる精霊ってそうそういないし」
「そうそう…ってことは居るんですか?それができた精霊が」
「うん、居るよ。ほら、碧ちゃんは会ったでしょ?長老様だよ」
「アダノスさんが…そうだったんですね」
「だから幼精の頃、魔法に関していろいろ教えてもらったな~」
「教えてもらえる精霊が居るってとてもいいことですね。私なんかずっとここに住んでいましたから魔術の事は教えてもらえても魔法については聞いてもわからないとしか言われませんでした」
「そういえば…そもそも精霊って魔術使えるんでしょうか」
「使えないよ~。人間はともかく精霊は魔法しか使えないの。ほら」
そういってフラメアは【灯火】と唱える。しかし、何も起こらない。
「…何も起こりませんね」
「今唱えたのは魔術の中でも初歩中の初歩と呼ばれる灯火ですね。精霊以外なら誰でも使える指先に火を灯すだけの魔術です」
そう聞いた私はフラメアと同じように【灯火】と唱える。するとボッと音を立てて指先に火が灯った。
「わ、本当に発動しました」
「ね?精霊以外は誰でも使えるの」
「そうみたいですね」
と、そんなことをしつつ歩いているとフィーアちゃんが立ち止まる。
「お二人とも、着きました。ここがヴェノムの巣になっている洞窟です」
フィーアちゃんのその言葉で私達も立ち止まり、目の前に現れた洞窟に目を向ける。そこは洞窟独特の苔やつたは無く、その代わりに獣かはたまた人かはわからないが肉片と化した何かが所々に散らばっていた。
「これは…酷いですね」
「ヴェノムは獣はもちろん、人も連れ去り喰らいクイーンの栄養分とするそうです。ヴェリアでも何人か犠牲者が出てますし…」
どうやら思っていた以上にヴェノムというモンスターは危険らしかった。まともに攻撃を受ければ軽傷では済まないだろう。
「…大丈夫ですか?」
少し表情を強張らせた私にフィーアちゃんは心配そうに尋ねてくる。それに対し私は軽く微笑み
「はい、大丈夫ですよ」
そう返した。正直、恐怖感はある。だが、それ以上に他者が犠牲になるのを黙って見ているわけにはいかない。
だから、私はそのまま洞窟内へ足を踏み入れた。
「すごい臭いですね…この洞窟…」
洞窟内に入ってすぐに異臭が漂い始める。それは普段嗅ぎ慣れることの無い肉が腐ったような臭いだった。
「おそらく肉片や死体が腐って放置されているんでしょう。ヴェノムは決して綺麗に食事を行うわけではありませんから」
周りを見渡せば確かに肉片や獣の死体が至る所に散らばっている。正直言ってあまり長居はしたくない。
「この洞窟、どのくらい長いんでしょうか」
「ヴェノムの巣はそこまで長くはありません。ほとんどの巣は今歩いているような1本道に大きな空洞がつながっていて、そこにクイーンとその他のヴェノムが住み着いています」
「基本的には…ってことはやっぱりそうじゃない場合があるんだ」
「そうですね。自然に作られた洞窟がヴェノムの巣になっていた場合は大きな空洞が無く、細かな空洞だけが広がっています。この場合、クイーンは洞窟内で最も広い空洞で守られています」
「自然の洞窟の方が大変なんですね」
「そうですね…お二人とも、止まって下さい」
会話をしながら歩いていた私達をフィーアちゃんが手で制止する。何かあったのだろうか?
「この先が空洞のようです。…先に私が確認しますね」
そういってゆっくりと空洞の奥をのぞき込む。私には光景がわからないが、耳を澄ませるとグチャリ…グチャリ…と何かを喰らっているような音が微かに聞こえてくる。どうやら食事中らしい。
「今ならこちらに気づいてないようですので先手を打つことは出来そうです。…準備はよろしいでしょうか?」
「問題ありません。フィーアちゃんの合図でいつでも」
「私も同じだよ」
「わかりました。…では…行きましょう!」
フィーアちゃんのその合図とともに私達は空洞の奥へ飛び出す。何匹かのヴェノムは気づき、こちらへ向かって来ようとするが一足遅い。フィーアちゃんによる闇魔法で大多数のヴェノムは視界を塞がれ、私とフラメアによる火矢と火球によって体を焼き尽くされる。そうして先手を打ったことで全体の4分の1は削ることができていた。
だが、ここからは奇襲などは不可能だ。食事をしていたヴェノムはもちろん、彼らのリーダーだろう不定形ではなく一定の形を保った個体、クイーンがこちらに気づき、攻撃態勢を取っている。
「ここからが本番です。…アオイさん、フラメアさん、決して無理はしないでください」
「「もちろんです!」「もちろん!」」
「私はとにかくヴェノム達の視界や動きを封じますのでお二人は攻撃を!」
「わかりました!」
フィーアちゃんが視界を封じていくのに合わせて私は火矢でヴェノム達の頭を的確に貫いていく。しかしこの数だ、どうしてもすべてを倒しきることができずに何匹か私の方へ接近してくる。
「■■■■■■■■!!!!」
「アオイさんっ!!」
あの時と同じモンスターとは思えないほどの俊敏さで私の眼前へ接近し、私の身体をかみちぎろうとその不定形の身体から覗く鋭利な歯が私へ迫ってくる。しかし私は魔法を放ったばかりですぐに第2射を撃つことはできない。
だが、その歯があと数センチで私に届くというところで眼前にいたヴェノムはゴウッと音を立て飛んできた火球に横から吹き飛ばされ空洞の壁へとめり込み絶命する。どうやら咄嗟にフラメアが私めがけて火球を放ってくれたらしい。
「大丈夫碧ちゃん!」
「すみません、助かりました!」
そうして互いに助け合って戦い、1匹、また1匹と数は減っていく。そして気づけば残るヴェノムはクイーンのみとなっていた。
「あとはあのクイーンだけですね」
「なら早いところ倒してしまいましょうか」
「そうだね」
そうして最後のクイーンを倒すべく私は魔法を発動しようとする。だが次の瞬間、クイーンは視界3人の視界から消える。
「あれ、クイーンはどこ―――」
それ以上先の言葉は発せなかった。なぜならその言葉を発するよりも先に私は突如隣に現れたクイーンによって壁まで吹き飛ばされたのだ。何とか気絶はしなかったものの、突然の出来事に私達は動揺を隠せない。
それもその筈だ、何しろ目の前にいたはずのクイーンの動きを私達は捉えることができなかったのだから。その時、私の頭に図書館で読んだ内容の一部が思い返される。それはこの世界に存在するモンスターを調べていた時のことだ。
「ヴェノム―――獣人国ラルゴに生息する不定形のモンスター、このモンスターはクイーンと呼ばれる特殊な個体をリーダーとした群れで行動し、人や動物、他モンスターを喰らう。通常のヴェノムは動きはある程度早いが見切れないほどではない。しかし、クイーンは群れで行動している間は他のヴェノム同様の速度で移動を行うが、単独になった場合身体能力が向上し移動速度が急激に上がる為討伐の際はクイーンを先に倒すとよい」
そんな内容を今更ながら思い出したことに私は後悔する。本来、ヴェノムの群れの討伐ではクイーンを真っ先に倒すべきだったのだ。しかし、それを忘れていた私達は運悪くクイーンを最後に残してしまったがためにこうなってしまっていた。
「これは一体どうすれば…」
「よくよく見れば動き出すタイミングはわかるから攻撃事態は防げなく無いんだけど…攻撃を加えるとなるとこれはどうしようもないかも…」
「広範囲な魔法を行使すれば倒せると思いますがこんな洞窟で使ってしまうとおそらく崩れてしまいますね」
「何か…いい方法は…」
私は攻撃を何とか防ぎつつ、打開策を考える。
このクイーンを倒す方法で今思いつくとすれば2つ。1つは何とか動きを止める、もしくは動きを制限してから魔法を当てる。もう1つは先ほどフィーアが言っていたように広範囲の魔法を行使する方法だ。しかし、広範囲の魔法では私達まで被害にあう可能性がある。
どうしたものかと考えていると、ふとフィーアちゃんと目が合った。その時、私に1つアイデアが浮かぶ。この状況下でクイーンの動きが封じられる唯一の方法。そのアイデアを実行すべく私は攻撃をかいくぐり、フィーアちゃんの元へと行った。
「フィーアちゃん、ちょっと良いですか?」
「何か打開策を思いついたんですか?」
「はい。実は―――」
私は手短に思いついた内容を伝える
「なるほど…確かにそれなら確実に当てられますが…その場合アオイさんが怪我を負う可能性が…」
「重症にさえならなければ構いません。そこはフィーアちゃんを信じます」
「…わかりました、アオイさんのそのアイデア、実行してみましょう!」
「碧ちゃん、フィーアちゃん、何かいい方法が浮かんだの?」
「はい、とっておきの奴が浮かびました!」
「よ~し!なら早速反撃開始だねっ!」
そして私はクイーンの動きを封じるべく走り出した―――
碧「死ななければ大丈夫ですよ」
フラメア「それフラグっていうんじゃ…」
フィーア「大丈夫です!私が死なせません!」
この調子だと多分次回の後にUA500記念が挟まるかも?
一体どんな方法を思いついたのか…
次回もお楽しみに!