設定のガバ。解釈違い色々あるかと思いますが容赦ある目でご観覧ください
運命、邂逅
「おーい、士郎。腕の調子どうだー」
玄関を開けると同時にもうすでに帰って来ているであろう
が呼びかけに対する返答は聞こえない。その代わりというか居間から会話、なのだろうか。僅かに声が漏れ聞こえていた。
『誰か来ているのか』
靴を脱ごうと三和土《たたき》の方に目をやれば士郎のスニーカーと大河ねえのローファー。そして見慣れない靴が一足ほど。
自分の靴の向きを揃えてから居間の方に移動し襖の前に立つ。向こう側から聞こえてくる声は二つ。どちらも聞き慣れたものだった。だが
『二つ?』
それはおかしい。それだと靴の数に合わない。依然として聞こえてくる声は二つであるし。
僅かにその
『失礼のない様にしないとな』
別に普段の素行が悪いわけでは無いが、それでもだった。襖の向こうにいる人物が何者かは存じないが
気持ちが落ち着いたのを確認してから襖を開ける。
「ただいま。士郎、大河ねえ。えっとそれから」
士郎と大河ねえを一瞥する。そしてテーブルを挟んでその客人に目をやった。その客人は紫色の髪の毛で、運悪く先刻の雨に打たれてしまったのだろうか。わずかに湿っているようにも見えた。そして恐らくなのだが。わずかに少女の体躯には合わないサイズの
そのパーカーには見覚えがあり、
「それ、オレのパーカーじゃね」
何気ない客人に向けた一声。
そしてこれがオレ、
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これに近いやり取りを何度繰り返したのだろうか。
「だからさ。今までも幸宗と俺でなんとかやってこれたし、それに友人の妹に手伝いをさせるわけにもいかないよ」
士郎は目の前の客人に向けてそう語りかけた。がしかし、客人は先ほどと同じように首を振るのみ。
なるほど。先ほどの謎が解けた。客人は受け答えを声ではなく、身振りで行っていたのだ。
そんな少し考えればわかるかもしれない小さな謎は一瞬にして氷解したのだが、したのだが……
堂々巡りとはこのことか。自分が会話に参加してから既に5分。恐らくオレが帰ってくる前からこの問答は続いているのだろう。
士郎はずっと断る理由を口にするがそれに対し客人。間桐の妹はそれを拒否するように首を振るのみ。
もはやその様は暖簾に腕押し。というよりは両者ともに意地の張り合い。
時たま、会話の間に大河ねえが意見を言う事もあるがそれに対する間桐の妹の反応は寸分士郎の時と違わず。
『士郎も大概だが、この子もかなりの意地っ張りだな』
「なあ、幸宗の方からも何か言ってやってくれないか」
思考に耽っている最中、唐突に話を振られる。
切り口を変えたいのだろう。士郎はこれまで一度も会話には参加していない、訂正。オレが居間の入ってから一悶着あって以降、気まずくなって一切会話に参加できなかったオレに向かって話を振ってきた。
『この鈍感野郎』
わずかにずれてしまった眼鏡をブリッジ部分を中指の腹で押し上げ定位置に戻す。
この一悶着。というのがまあオレを思考を鈍化させていて。だが士郎は5分前のことなんぞ既に彼方へと放却したのか、さも当然のようにオレに意見を求めたのだ。
というのも間桐の妹はオレの一言を厭悪の感情から発したものだと受け取ったのかおもむろにオレのパーカーを脱ぎ始めたのだ。
待て待て待て、と。三人同時に止めに入ってそれでおしまい。なのだが事の始まりが自分という事もあって勝手に一人で罪悪感を覚えているのだ。
『てゆうかなんでオレのパーカーなんだよ。
別に自分の服を勝手に着ていたことを怒っているわけではない。ただ人のを客人に着せるのは失礼だっていうか。というか匂いとか大丈夫かなとか。そんな不安を覚えたりなんだり……
とにかく。この様な凶行を何故に敢行したのかの理由は後で士郎に問うとして、だ。意見を求められた以上応えてあげるが当然の定め。というわけで。
「いいんじゃないの。別に」
「ウンウンそうだよなって、え?」
「おっ、よかったな間桐の妹。とうとう士郎が折れたぞ」
光明が見えたのか。間桐の妹は俯きがちだった顔をゆっくりとだがわずかにあげた。
「いやいや待て。待ってくれ幸宗」
士郎は先ほどしっかりと頷いたくせに待ったをかける。まあ恐らくさっきのはオレが反対意見を述べてくれると思っていての相槌だったのだろうが。
「なんだ。士郎は反対なのか」
「さっきからそう言っているだろ。逆になんでお前は賛成なんだよ」
「なんでって。そりゃこの話し合いに終わりがないからだよ。
正直オレはこの不毛な話し合いをさっさと終わらせたかったのだ。
それにこうして賛成してあげたほうが彼女にとっては
「ちょ、ちょっと待った。
と、少しばかし静観を決めていた大河ねえが話に割り込んでくる。
「なんだ、大河ねえも反対なのか?」
「士郎と同じだけどさっきからそう言っているでしょ。それに心配いらないって。家事全般は私がサポートするからさ」
「…………」
唖然とはこの事を言うのだろう。本気で言っているのかこのアホ虎は。
「本気で言っているのか、大河ねえ」
「むっ、失敬な。この藤村大河一度言った事に「二言はないよな」二言は、えっ」
大河ねえの発言に先取る形でこちらも発言する。
「さっき言った”家事全般は私がサポートする”。この発言に二言はないよな、大河ねえ」
「う、うん。どうしたの
よし。ならばあと一手。これでもう王手、いや、詰みだ。
「士郎もだ。さっき一応なしくずしとはいえ頷いたんだ。男に二言はないよな」
「えっ、いや待て幸宗。さっきのはだな」
「二言は・ない・よな」
語気を強めて士郎を
「うっ。わ、わかった。わかったから幸宗」
「よしじゃあ決まりだな。大河ねえにはこれから一つテストを受けてもらう。それが及第点に見合わなかったら
わずかに顔が上がっていた少女の瞳がメガネのレンズ越しに交わる。
思わずこちらが気まずくなって取り繕った笑顔を受けべながら
「その時はその時だ」
と先を濁してしまった。
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わかっていた事だった。うん、こうなるだろうな、という予想は既に出来ていたのだ。ただまあ、万が一、大河ねえの場合は時たまあり得ない奇跡を起こす事がある。だから先ほどは言葉を濁したのだが。
大河ねえに受けて貰ったテスト。それは家事の一つ、料理。更には家庭料理の定番、卵焼きを作るということだった。
プロの料理人には卵料理を作らせることでその人物の腕を測ると聞くが、俺としてもそこまでのクオリティを大河ねえに求めてはいない。
審査員はオレと士郎の二人。間桐の妹には公平を期す為に審査員から外れて貰った。
だがしかし……
「大河ねえ……」
「藤ねえ……」
テーブルの上に置かれた二皿の上にある物体は黒かった。
オレ達二人は目の前の卵焼きとして作られた料理らしき物。
見た目としては完全に落第だが、これを料理と謳われた以上食べなければ失礼というもの。意を決して箸で物体を摘み口に放り込む。
「あっ、待って、
大河ねえの制止を意に返さず舌で味わう。
「んっ。うへぇ、これは流石に」
そばに置いてあった湯呑みをとって淹れておいた緑茶で無理やり喉の奥に流し込む。
思わず苦言を漏らしてしまう。炭。その表現がピッタリといえるものだった。
「うん、士郎。これは贔屓目に見てもオレは落第の評価だ。後はお前次第、さっさと評価してやってくれ」
隣で未だ戸惑っているように見える士郎に卵焼きらしきものを食すことを促す。
「うっ。いや俺もこれは」
「食わなきゃ評価できないだろ。大河ねえも待ってるぞ」
「いいよ士郎。お姉ちゃん責任持って食べるから、ね」
「てことは大河ねえ。それはつまり?」
「ううーん。でも」
「まあ大河ねえの言い分も士郎の言っていることも理解できるよ。ただまあせっかくの申し出だしそう無碍にするのも失礼じゃない? 本人が手伝いたいって言っている以上さ。それに家事全部を押し付けるつもりは毛頭ないし。何かあったらオレが責任持って対処するからさ」
「うーん。ねえ、本当にいいの? えっと桜ちゃん」
ある程度納得してくれたのか大河ねえが確認といった感じで質問し、それに対し間桐の妹は首肯した。
「よし! 決まりだな。細かいことは追い追い決めるとして。よろしく頼むな。間桐の妹」
「まとうさくらです」
「んっ?」
何か間桐の妹が呟いた気がした。
「間桐、桜です」
なるほど。そういえばまだすべきことが残っていたしそのことを忘れていた。
「ああ、オレの名前は衛宮幸宗。よろしくな。えっと、桜って呼べばいいか?」
そうして今まで忘れていた自己紹介をようやっと済ます。
コクリ。と目の前の間桐のいも、ではなく桜は頷いてくれたのであった。
「よし。いい時間だし晩飯作るとするか。まと、じゃなくて桜もよければ食ってくか。流石にうちの飯のクオリティがあの炭みたいなのと思われるのは癪なんでな。大河ねえ、弓道部の顧問なんだから間桐の家の電話番号知ってるよな。連絡してやってくれないか」
少し、いやかなり強引に桜を食事に招待する。
「むー、何もそんな言わなくてもいいじゃんかさ」
「何か手伝おうか幸宗」
「怪我人はそこで煎餅でもかじってテレビ見てろ。桜、早速だが手伝ってもらいたいんだが料理ってゆうか包丁握ったことあるか?」
大河ねえは廊下にある固定電話の方へ。
返ってきた反応は否定。なるほど。となると包丁を使わず出来る料理。
卵焼きでも、と一瞬頭に浮かんだが先ほどの二の舞は避けたいし、何よりいきなり綺麗に形を整えることが難しいというのは幼い頃に把握済みだ。なら……
メガネのツルの部分を持って僅かにずり下げる。そして
「桜」
オレの指示を隣で待っている桜に呼びかけるとこちらを見ようと視線が上がりオレと目が合う。
そうして
「うんそうだな。いきなり桜が包丁を持つのは危ないから今日は注意事項を色々教えるとして、あとはお米が炊けてから一緒におにぎりでも握ろうか」
メガネの位置を戻しながら方針を桜に伝える。
「とりあえずお米が炊けるまではオレの隣で見学。ゆっくり教えるつもりだけど早かったり、わからない事があったら全然聞いてくれていいからな」
こうして第一回お料理教室が幕を開け、桜がうちに手伝いにきてくれるようになったのだ。
本編ではないんです。
タイミングとしては聖杯戦争より1年半前。
HF1章の最序盤の一幕です。
別にある意味ここも共通√の部分だから書いてもイイよね!な感じで書いてます
”あの大災害生き残れるわけないじゃん”とお思いになられる方もいらっしゃると思いますが型月主人公の例に漏れず、こいつも一応逸般人です。
どこがそうなのかは次回かそのまた次回かの最後にまとめにして書ければなと思っています。
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幸宗「ところでなんで桜にオレのパーカー貸したんだ?」
士郎「俺よりサイズ的に幸宗の方が小さかったかから」
幸宗「なるほど。士郎中庭に出ろ。久々に喧嘩と洒落込もうじゃないか」
士郎「なんでさ」
男にとって身長ネタは人によっちゃやぶ蛇なのだ