英雄に鍛えられるのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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怪物祭

「モンスターの調教(テイム)の見世物に、参加?」

 

 帰ってきたベルから突然『怪物祭』(モンスター・フィリア)の目玉であるショーに参加すると聞かされ固まるヘスティア。

 何でそんなことになったのか、聞けばベルが参加しないとある女神が問題を起こす可能性があるのだとか。どんな因果関係だそれは。

 

「うーん、大丈夫なのかいそれは」

「まあ、所謂調教(テイム)の難しさを主張するための引き立て役で、何なら倒しちゃっても良いそうですし」

 

 あくまでも見世物だから、モンスターも相手に合わせて強さを調整しているとの事。

 

「うーん、まあ、危険がないならいいかな」

「大丈夫ですよ。それに、いい経験にもなるでしょう………終わりましたよ」

 

 ベルはそう言ってヘスティアの髪を解いていた櫛を離す。タケミカヅチというらしい極東の神から教わった椿油というものを馴染ませたヘスティアの髪はしっとりと輝く。

 

「フフン、中々良いじゃないか。しかしそうか、ベル君と祭り回りたかったなあ」

「出るのは本当に最初の方だけですし、終わったら一緒に回りましょう」

「本当かい? 約束だぜ!」

「はい、約束です、神様」

 

 

 

 

 

「…………ふぅん。あの子が………アーディの提案かしらね」

 

 バベルの頂上、まるで己が王であるとでも言うように都市を見下ろせる場所に住まう女神はガネーシャより渡された手紙を見つめる。

 あの時アーディは己の反応を見ていた。警戒されていたのだろう。気に入ってる女の子が自分を意識していたと言うのはなかなか嬉しいことだ。そして、自分が探していた兎を知っている。都市に来たばかりということも。

 普段は顔を出さぬ女神の出席、その女神が気に入りそうな相手、その時期。そこから推測を重ねたのだろう。普段はほんわかしているが人も時には神の本質を見抜くいい目をしている。

 

「だけど、50点かしら」

「と、言うと……」

 

 愛すべき主神の言葉に猪人(ボアズ)の男が反応する。鍛え抜かれた身体に、身に纏う覇気。冒険者と言うよりは、武人という言葉が似合う男だった。

 

「だってあの子の相手、シルバーバックよ?」

「駆け出し相手に、随分と無茶な」

「? ああ、貴方、あの子を見たことないものね………」

 

 一瞬不思議そうな顔をした女神はしかしすぐに納得したように頷くと、闘技場を見ながらスッ、と目を細める。

 

「アレンを呼びなさい」

「何を……?」

「対戦相手を、変えてもらうの………」

 

 だって、どうせならあの子のかっこいい姿を長く見ていたいもの、と女神は笑う。

 恋する乙女の我儘のように、いたずらを思いついた少女のように、気に入った相手に、命の危険すらある試練を与える。

 

 

 

 翌日、ベルは時間はまだあることを確認しつつ闘技場の近くの出店を回る。と、見知った影を見つけた。

 

「あ、あれ〜…………?」

「姉ちゃん、財布忘れたのかい?」

「そうみたいです。すいません、せっかく揚げていただいたのに………」

 

 ジャガ丸の店の前でしょんぼり落ち込む薄鈍色の髪を持った女性。シル・フローヴァがそこにいた。

 

「シルさん」

「あ、ベルさん!」

「財布、忘れちゃったんですか」

「はい、お恥ずかしい」

 

 シュン、と落ち込むシルに悪くないのに罪悪感でも抱いたのか店主がうぐ、とうろたえる。ベルはなら、と懐から財布を取り出す。

 

「僕が払います。幾らですか?」

「え、そ、そんな! 悪いですよ。お返しも出来ないのに」

「えっと………じゃあ、デートしてくれませんか?」

「…………はい?」

 

 突然の逢瀬の誘いにコテンと可愛らしく首を傾げるシルに、ベルは少し頬を染めながら照れたように言う。

 

「その、シルさんみたいに可愛い人とデートできたら、十分なお返しになるので」

「…………ぷっ。あははは!」

「わ、笑わないでくださいよ!」

「ふふ、ごめんなさい。ええ、そう言うことならベルさんに買われちゃいますね。さ、じゃあ早く買って行きましょう。周りの人の目も怖いですからね」

 

 その言葉に振り向けば、確かに列に並ぶ者たちから物凄い視線を向けられていた。

 

「す、すいません! 邪魔でしたよね!」

 

 殆どがこれみよがしにイチャイチャしやがって! と言う嫉妬の視線なのだがベルはその辺り、とても鈍感だった。

 

「へえ、それじゃあベルさん、『怪物祭』(モンスター・フィリア)のショーに出るんですね」

「はい。成り行きで………ですから、あまり一緒には回れません」

「残念です」

 

 ベルからショーに参加するということを聞き、すぐに別行動になると聞かされ残念そうなシル。

 

「まあ、少し時間はありますし軽くお腹に入れようかと思いまして…………すいませーん、このタコ一匹まるまるたこ焼き10個セット、3つくださーい」

「おお!? 気前がいいんなあんちゃん、食べ切れたら1万ヴァリスだ!」

「っ! ご馳走になった上に、お金を貰えるんですか!?」

「…………かるくおなかにいれる?」

 

 シルは知っている言葉のはずなのに知らない何処か別の国の言葉を聞かされたかのような顔をしたのだった。

 

 

 

 

 美神、フレイヤは不機嫌そうに窓の外を眺める。

 これから闘技場に向かおうと思っていたのに、突然呼び出されたのだ。

 無視しても良かったのだが時間はある、仕方なく出向けばロキはまだ来ていないの来た。

 

「よぉー、待たせたか?」

「ええ、待ったわ。呼び出したんだから、もう少し早く来てほしいわ」

「うん?」

 

 何時もなら気にしないであろう僅かな遅刻。それを叱責して来るなど今日はやけに機嫌が悪いようだ。

 こんなところに呼び出した理由はなんだ、手短に言えとやはり不機嫌そうなフレイヤにロキは単刀直入に聞く事にした。

 

「何をやらかす気や」

「何を言ってるのかしら、ロキ?」 

「とぼけんな、あほぅ」

 

 最近フレイヤが動いているのには気付いていた。

 普段参加しない『神の宴』に参加したり、情報収集をしていたり、ついでにガネーシャから何かを貰ったらしい。

 あのガネーシャが関わるのなら危険はないと判断したいが目の前の相手が相手ではろくな事になるとは思えない。

 

「男か?」

「………」

 

 無言で笑みを浮かべるフレイヤにやっぱりか、と内心舌打ちするロキ。この色ボケはまたどこぞの男にうつつを抜かしたらしい。

 

「どんな男や、自分の目に止まった子供は? 何時見つけた?」

「とても、強い子よ。何より透明で、透き通って、綺麗だった………」

 

 うっとりと頬を染めるフレイヤ。そして、窓から街を眺め目を閉じる。

 

「時間よ。私はこの後用事があるから、それじゃあね」

 

 フレイヤはそう言うと立ち上がり、店から出ていく。

 

「なんやぁ、あいつ。ま、ええか。ウチ等も向かうでアイズたん。今からなら間に合うはずや」

「…………あの女神様も、同じようだったり」

「いやいや、あの色ボケがモンスターの調教なんかに興味あるわけ無いやん」

 

 

 

 

 

「ん〜、ベル君似合ってるね。歴戦の戦士、って感じだよ」

「あ、ありがとうございます。でも、なんか着ていると言うより着せられてる感が………」

 

 メインは調教(テイム)を行うことだがモンスターも人も見栄えが大事だということで渡されたショー用の鎧。

 青をメインカラーとした軽装にベルは何処か気恥ずかしそうだ。

 

「それじゃあ、頑張ってね。かっこいい姿を見せればあの女神様も満足だと思うから」

「は、はい! 女神様も楽しめるように、頑張りまふ………あ、あの、アーディはん?」

 

 気合を入れるように叫んだベルの両頬を、アーディはモニモニと掌で押す。困惑するベルに対してアーディは何処か不満そうだ。

 

「あのね、ベル。背負わなくていいんだよ?」

「………へ?」

「女神様が何かをするにしても、それがベルを目的としたものでも、ベルのせいじゃなくて女神様のせいなんだから」

「で、ですけど………」

「本当なら私達だけで何とかするべき事。でも、本気で来られたら自信ないから、ベルに手伝ってもらった私達の方こそ謝りたいよ」

 

 はぁぁ、とため息を吐くアーディ。件の女神はそれほどまでに厄介ということだろう。

 

「だからね、ベル。逃げてもいいよ調教(テイム)を心掛けてなくても、ひょっとしたら大きな怪我をするかもしれない…………逃げても、誰も責めない」

「……………逃げません」

「…………………」

「女の子が助けてくれないか? そう聞いてきたなら、見捨てるなんて出来ませんよ。おじいちゃんに怒られちゃいますし………それに、一度参加すると決めたのに逃げたら師匠やお義母さんに怒られます」

「………そっか、うん。解った……」

 

 ニコリと微笑んだアーディはパッ、とベルから手を放す。

 

「じゃあ、頑張ってきます」

 

 ベルはそう言うと控え室から出ていった。

 

 

 

 

 闘技場の地下、【ガネーシャ・ファミリア】の女冒険者がモンスターが運ばれてくるのを待つ。最初は外部参加。モンスターの調教の仕方などまるでわからぬ素人だから、まず調教(テイム)は無理だろう。だが雑魚モンスターで失敗すればその冒険者が笑いものになるかもしれないのでそれなりに強そうなモンスターがあてがわれる。もちろん、それは第3級でも十分倒せる相手だが。

 

「…………ん!?」

 

 だが、運ばれてきたモンスターを見て、女冒険者は目を見開く。後ろから一人で押していて姿は見えないが、そいつに文句を言ってやらねば気がすまない。

 

「おい! どういうつもりだ、そのモンスターは明らかに素人用じゃない────がっ!?」

 

 突如折り向こうの人影が消え、物凄い力で地面に押し付けられる。その衝撃で、意識が暗転した。

 

 

 

 

 現れたのは獅子の身体に鷲の翼と頭、足を持ったモンスター。そのモンスターの登場に観客達がわく中【ガネーシャ・ファミリア】の者達が目に見えて動揺する。

 

「何故鷲獅子(グリフォン)が!? くそ、どうなっている!」

 

 Lv.3にも匹敵しうる力を持ったモンスターの登場。観客達は喜んでいるが今すぐ中止に、と思った時ベルも現れる。

 グリフォンを真っ直ぐ見つめるその目に、シャクティは思わず言葉に詰まる。ベルは、モンスターを目にしてもやる気だった。その目は闘志に満ちていた。

 背中の大剣をスラリと抜くベル。その大剣に、数人の者達が目を奪われた。

 

 

 

 

「───っ! あれは、あの剣は!」

「…………そう、そういう事。何処まで貴方の思惑通りなのかしらね、ゼウス」

 

 ベルの剣、正確には『彼』の剣では無いだろうが、模したと分かるほど瓜二つの剣を見て動揺する己の眷属を横に、美の女神は笑う。

 かの大神が残した存在。それを手に出来たなら、ああ、それはきっと素敵だろう。




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