英雄に鍛えられるのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
【アストレア・ファミリア】の
団員人数11人という少数精鋭ファミリアだけあり、あまり大きくない。内装も特に派手ではない。
ただ、様々な種族が混じった見目麗しい美女達に見つめられるのは少しくすぐったい。
彼女達も彼女達で主神が呼び出し、かつ一躍有名人になった都市の英雄に興味があるのだろう。「意外と小せえなぁ」と
「今日はごめんなさいね、突然呼び出してしまって……」
そう申し訳なさそうに言うのは、この【アストレア・ファミリア】の主神、女神アストレア。とても綺麗な人だ。これで美の神で無いというのだからひょっとしたら美の神は母に匹敵する美しさなのかもしれないと考えるベル。
「それで、えっと………ベル君と、呼んでも?」
「は、はい、構いません………」
「良かった。あの人の手紙から貴方のことは良く知ってるわ………一度会って、お話してみたかったの」
朗らかに笑うアストレア。なんというか、母性にも似たものを感じる。多分、いや間違いなく良い人だ。
「アストレア様、手紙というのはなんのことですか? そちらの英雄殿を、昔から知っていると仰っておりましたが………」
そう切り出したのは極東の服に見を包んだ黒髪の美女。アーディやアリーゼ、リオン達に近い威圧感。恐らくLv.4なのだろう。
「昔っからの知り合いよ。とても、大切な
苦笑しながら頬に手を当てるアストレア。その顔は、困った奴と言いながらもその相手を嫌ってはいないと言っているようなものだ。
「ア、アストレア様の大切な!?」
「ネーゼ! しっかり、傷は浅いわ!」
何故か
「その、アストレア様………その大切な方と言うのは?」
「私の父よ」
ガバリ! とネーゼというらしい女性が飛び上がる。復活したようだ。
「お父上、ということは、クラネルさんはその神の眷属? 都市の外で恩恵を得ていたということですか?」
と、リオンが尋ねる。仮にそうだとしても彼の公式レベルは1。あれだけの活躍はできるとはレベルではない。
もしやレベルを偽っているのだろうか?
「いえ、お爺ちゃんからは恩恵を受け取ってません。僕が神の恩恵を得たのはオラリオに来てからです」
「ええ、手紙でもそう書いてあるわ。それに、今の言葉にも嘘はない………」
「そうですか………」
つまり純粋に恩恵得たてで、あれだけの偉業をなした。力がないから全ては救えぬからと、切り捨てるしかないと決めた自分の覚悟など嘲笑うかのように、と一人の眷属がなんとも複雑な心境でベルを見つめる。
「あの
そう言って微笑むアストレア。やはり善神のようだ。祖父から聞いていた通りの性格で、確かにヘスティアに出会わなかったら彼女の眷属になるのもありかもしれない、そう思わせる魅力が彼女にはある。
「…………ところで、ベル君はあの
「? はい、そうなりますね………」
「つまり、貴方は私の甥とも言えるわけよね?」
「それは、えっと、どうなんでしょう………」
祖父との関係は、形だけのつもりはない。血の繋がりこそ無いもののベルはあの神のことを本当の家族のように愛しているし、彼からも孫のように愛されていたと信じたい。
あ、それとも呼び方だろうか? 義母にはそれでよく殴られていた記憶がある。
「そうなのよ…………だからね、ベル君………いいえ、ベル───」
ニッコリ満面な笑みで、アストレアは両手を広げる。
「アストレア叔母ちゃまに、好きなだけ甘えていいのよ?」
「…………………はい?」
「「「…………ゑ?」」」
ベルは何を言われたかすぐに理解出来ずに、惚ける。【アストレア・ファミリア】の面々も、何を言ったか理解出来ずに固まる。アストレアはマイペースに両腕を広げながらベルに笑顔を向けていた。
「抱きしめて、ヨシヨシしてあげましょう。それとも膝枕がいいかしら? あ、クッキー食べる?」
とても、とても朗らかな笑顔でベルに向かっておいでおいでしたり、膝をポンポン叩いたりするアストレア。全員が硬直している事に気付き、疑問符を浮かべ首を傾げる。
「どうしたの?」
「あ、アストレア様!? い、一体何を!!」
「そうです! 頭ヨシヨシならアタシにしてください!」
「ネーゼ、貴方何を言ってますの?」
「お、おば………アストレア様が? あ、アリーゼ! 貴方からも何か………!」
「………………」
騒ぎ出す【アストレア・ファミリア】の面々の中で、何かを考え込むように黙っているアリーゼ。
「…………アストレア様の甥ってことは、私達アストレア様の
「あなたまで何を言っているのですか………」
「さあさあベル! アリーゼお姉ちゃんに頭を撫で回させなさいな!」
「う、うええ!?」
「何とち狂ってんだこの馬鹿は!」
「馬鹿は貴方達よ、ベルの髪すっっごくモフモフして撫で心地最高よ? それが合法的に撫で回せるのよ!?」
「合法的とは言わないと思いますが……」
アリーゼの主張に呆れたように言うエルフ。ベルは状況に全然ついて行けない。取り敢えず母ならゴスペルだろうなぁ、とその状況を眺める。
「はいはい、皆そこまで。ごめんなさいね、ベル。確かに、知ってはいても会ったこともない相手。距離を詰めすぎたわ………」
「あ、はい……」
「でも、困ったことがあったら何時でも言ってね……」
「は、はい………ありがとうございます、アストレア様」
「叔母ちゃまでも、良いのよ?」
「さ、流石に恐れ多いですよぉ!?」
「私の事はお姉ちゃんで良いわ!」
「おい、誰かこの馬鹿を止めろ」
その後ベルは『アイアム・ガネーシャ』に戻り、歓迎会を開く。
ハシャーナが『俺はオラリオで最初に英雄と話した男だ!』とベルの肩を掴み会場を回ったり、酒飲み勝負をして殆どの団員の頭に『
そして………。
「グリー、重くない?」
「クルルル」
「ほぉ〜う、本当に懐いてんなあ」
ハシャーナと共にダンジョンに潜るベルとグリー。【ガネーシャ・ファミリア】のエンブレムではなく兎を象ったネックレスが首輪にぶら下がっていた。
その首輪についた手綱を握るベルはハシャーナを乗せながらダンジョンの中を飛び回る。
目的地は30階層。人を二人乗せながらだがかなりの速度で飛ぶ。
比較的安全な上空で移動するベルは、不意に何かを考え込む。
「……………」
「どうした、ベル?」
「いえ………17階層の破壊跡が気になって」
「ああ……【
17階層。ゴライアスという階層主が住まうその階層にて、破壊の跡があった。巨大な力と力がぶつかりあったような破壊の跡。
リヴィラの住人達とゴライアスがぶつかった訳ではない。ゴライアスと戦ったのは、少なくともLv.5か、下手をすればそれ以上の相手という事になる。何か、嫌な予感がする。
生憎と疼く親指は持っていないが、何かが待っているような予感がしてならない。
「…………と、拾ってくるもんはお前にも見られちゃならんらしいからな、ここで待っててくれ」
ハシャーナはそう言うと
「んじゃ、リヴィラに戻って、これを仲介人に渡して、そこで一泊してから地上に戻るか………知ってるかベル? リヴィラにもな、たまに抱かれに来る女がいんだ。お前は有名人だからな、誘われるかもしれねえぞ?」
「そんな、まさか………」
というかならず者の街で女に声を掛けられても普通に怪しい。
だけどこの時顔を赤くしながら否定する初心な少年も、そんな少年に笑う男も知らなかった。これから起きる、リヴィラの街史上最低最悪の事件が待っていることを、まだ、知らなかった。
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