英雄に鍛えられるのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
18階層、リヴィラの街。
モンスターが生まれぬその階層には、地上との中継地が存在する。それこそがこの街だ。
モンスターが生まれぬとは言っても他の階層から食料を求め森にやってくるモンスターも降り生態系じみた環境が出来上がっているが、それに気をつければ突然壁や床からモンスターが生まれることもなく、安全に過ごせる街。
恩恵を持たぬギルドには介入できぬ故に、力こそが全ての場所。ハシャーナはLv.4で、ベルは話題のルーキー。
ハシャーナは全身鎧で身元がわからぬようにしては居るがそれでも熟練の冒険者ともなれば相手の強さもある程度察せる。それに、全くの無秩序というわけでもなく特に絡まれる事も無く酒場に赴き例の荷物を人を渡す。ベルはそれを目撃しないように外で待っていた。
「おう、待たせたなベル」
「ハシャーナさん…………そちらの方は?」
見た目弱そうな、しかし噂と合致するベルを遠巻きに眺めるリヴィラの住人。噂を知らぬ冴えない中年男がベルにいっちょ社会の厳しさを教えてやろうとした時、ハシャーナが戻って来た。
その隣にはローブを纏った女が居た。顔を隠した女は、ローブ越しでも解るほど肉感的な肢体をしている。
「おう、誘われちまってな。いやぁ、やっぱりモテる男は違うっていうか?」
ははは、と豪快に笑うハシャーナに対してベルは目を細める。無意識に背中に刺した大剣の柄に手を伸ばせるように構え、そんなベルの様子に気づいた女もフードの奥でベルを見据える。
「悪いなベル、こっから先は大人の時間だ。お前はまだ若い、金はやるから適当に宿を取ってくれ」
「───それは、ですけど………」
「ガキが見るような光景じゃねえよ………」
「…………解りました」
ハシャーナの言葉に、ベルは体から力を抜き、宿のある区画を目指し歩き出す。その背を見送ったハシャーナは行くか、と歩き出し女もその後に続いた。
「おい、どこまで歩くつもりだ?」
「リヴィラは言っちまえば適当に作られた街だからな。壁が薄いんだよ………だったら、周りに人が居ない宿を貸し切ったほうが良いだろ? 声だけでも人が集まるかもしれねえ」
雑多に人がいた場所から離れ、簡易的な壁を抜けテントなどが隣接する場所も過ぎ、資材置き場などがある場所まで歩き女が苛立ったように言う。ハシャーナは肩をすくめながら言うと女は黙り込むが、イライラした空気が伝わってくる。
「さっきの坊主………知ってるだろ? 今や有名人のベル・クラネル」
「知らん」
「え、マジで?」
今やオラリオでは有名人なのに。まあリヴィラでは一部知らない人間も確かにいたが。
「あー、まあその………あれだ。彼奴はな、スゲー奴なんだよ。ぶっちゃけ最初見た時は、良い目をしてるが、弱そうだなあって思ってたんだわ。けどよ、思ったよりすげえ奴だった…………あれで冒険者として俺の後輩だってんだから立つ瀬がねえよなあ」
「……………何が言いたい」
要領を得ないハシャーナの話に苛立ったように呟く女。ハシャーナは肩をすくめて苦笑する。
「まあ、あれだ………あんな格好いい奴に近くに居られるとよ、カッコつけなきゃだろ? 綺麗ってだけで女に一々興奮してみるべきもんを見逃すわけに行かねえ…………目的は何だ、なんの為に俺に近づいた」
「…………………」
ゾワリと、女から殺気が広がる。
はぁ、と女がため息を吐いた。面倒くさいというように、己が警戒されている事を、目の前に敵意を持つオラリオでも有数の
この魔境のオラリオにおいて………人外魔境のダンジョンに置いてそれが行えるのは、絶対的な力を持つ証左。
「まあ良い。人気がないところに来てくれたのは幸いだ…………死ね」
「────!?」
ハシャーナの二つ名は【剛拳闘士】。その名が意味するは、近接戦の殴り合いにおいて並外れた強さを誇るという事。
そのハシャーナが、驚愕する速度。敏捷が高い。ハシャーナよりも。明らかな前衛タイプのステイタス!
「っ!!」
驚愕しながらも顔をそらし避けると金色の斧型の魔剣を取り出す。雷属性の魔剣。それを振るい、放たれるは光に並び最速の魔法の一つたる雷。女はそれを後ろに飛び避ける。その足が地面に付く前に、ハシャーナは全力で魔剣を振るった。
オラリオ屈指の名工が作り出した魔剣でありながらも実践にも耐えうる戦斧。
Lv.4の前衛職が振るった渾身の一撃は深層のモンスターすら屠るだろう。だが───
「Lv.5………いや、4か………ステイタス昇華間近と言ったところか?」
「嘘、だろ!?」
片手で受け止められた。ステイタスの耐久を上げれば、確かに刃を肌で止めるのは可能だろう。だが、
耐久、力だけなら下手をすればLv.6………【フレイヤ・ファミリア】しか保有していない最高ランクに匹敵する。
「っ!」
女が手を伸ばす。爪のように曲げられた指がハシャーナの首の肉を一部えぐる。力はハシャーナの耐久を遥かに凌駕している。
近接戦は不利! そう判断する日が来るとは。
内心舌打ちしながら魔剣から魔法を放つ。敏捷だけなら規格外という程でもない。ある程度の動き読んでから放てば、当たる。そして雷は確実に動きを止める。
「────っ!」
女もそれを解っているのか、魔法は避ける。使用回数に制限のある魔剣。当たらない魔法を無闇に打ちたくはないが近づけば間違いなく死ぬのだから仕方ない。と、その時だった
「っ!? な、何だあ!?」
爆音が、響く。リヴィラの街の方からだ。その爆音に思わず硬直するハシャーナ。下層のモンスター相手なら隙にもならぬ一瞬。しかし、目の前の相手には決して晒してはならなかった一瞬。
女の手がハシャーナの首に迫る。一度捕まればハシャーナでは振り解くことも叶わず首を折られるだろう。
ハシャーナは死を覚悟し、女は勝利を確信する。一秒が永遠に引き伸ばされたかのような時間の中、ハシャーナは見た。
遅緩した世界の中に置いても姿を確認できぬ白い流星が降り注ぐのを。女と同じく、一瞬の隙を虎視眈々と狙っていた襲撃者がいた事を。
「っ!!」
死が遠ざかり時間の感覚が元に戻る。
女を挟み込むように地面に激突した流星は地面を抉りながら突き進み、唐突に横に弾かれるように跳ねる。
バサリと翼が羽ばたく風切り音が聞こえる。鳥、ではない。獣の体を持っている。
「クルゥ……」
「ハシャーナさん! 逃げましょう!」
「ベル!?」
グリフォン、グリーに騎乗したベルは驚愕するハシャーナの腕を掴み無理矢理その場から引っ張っていく。有翼のモンスターと共に飛んだ事など無いハシャーナは初めての浮遊感に戸惑いつつもベルに向かって叫ぶ。
「まて、ベル! せめてとっ捕まえて所属を……!」
「無理です。あの人、あの状況で、あの体勢で………グリーを
先ほど白き流星となったグリーが横に跳ねたのは彼女が横に飛んだからではない。女に殴られ、その力で吹き飛んだのだ。
地面に擦りつけられながら、踏ん張りなどまともに出来ぬ状況で、腕の力だけでLv.3相当のモンスターを吹き飛ばした………異常な力だ。
「それに、先程の爆音も気になります」
「ああ、そうだな…………クソ、俺ってかっこわりい!」
「大丈夫です! 女性は、その、また寄ってきますよ!」
どうやらハシャーナの言葉を寄ってきた女が命を狙っていたからショックを受けたゆえに出た言葉だと思われていたらしい。つまり、あの本人に聞かれたらこっぱずかしい台詞は聞かれていなかったようだ。
「それに、僕は今でも十分かっこいいと思ってます!」
「ええい畜生め!」
と、叫ぶハシャーナだったかとりあえずリヴィラの街の方角から聞こえてきた爆音だ。グリフォンの飛行速度なら直ぐにリヴィラの街の中心地に辿りつくだろうが………。
そして、その光景を見た。
「嘘だろ、こいつ等、どっからこんな!?」
真っ白な布を纏った種族も年齢も性別もバラバラの暴徒達が魔剣やらを使いながらリヴィラの住人に襲いかかる。
「ベル! 降ろせ!」
「はい!」
ハシャーナを降ろし、ベルもまた飛び降りる。魔剣にさえ気をつければ、彼等のステイタスはさして高くない。ハシャーナが後で尋問する為だろう。一人捕まえる。見事な手際。
だが、ベルはその
死への恐怖が
何に対しての期待かは解らない。だが、死と共に感じる期待がまともなはずが無い。
「ハシャーナさん! 離れて!」
「ああ!?」
捕まえた相手を離せというベルの言葉に疑問を思いながらもその声に詰まった懇願にハシャーナは反射的に離れる。途端、男が爆ぜた。
炎に包まれ爆音が響く。
「っ! こ、こいつ等………自爆!?」
「火炎石!? こいつ等、正気かよ!?」
『火炎石』。深層域に棲息するモンスター『フレイムロック』から入手できるドロップアイテムであり、強い発火性と爆発性を持つ。
殊更巨大なそれらを幾つも連なった数珠のように巻きつけた
「アイリ! いま貴方の下へ!」
「ああ、ヨシア!」
魔石製品生産工場の襲撃はあの自爆用の撃鉄装置を手に入れる為だったのだろう。恐怖を感じながらも喜々として死を受け入れる狂人達。死への恐怖と、期待の味にまじるこれは、再会への渇望。
………………
「ふざ、けるなあ!」
殆どの冒険者が逃げ出す中、ベルは彼等に突っ込む。
「言うわけ無いだろ…………罪を犯して、他人を殺して、そんなお前等に、また会えて嬉しいなんて、私の為に人を殺してまで死んでくれてありがとうなんて、言うわけ無いだろ!!」
彼等が望むのは、おそらく死後の再会。
魂を管理する神なら、転生先をなるほど確かに死した大切な者のそばに送ることも可能だろう。
だが、死後の再会を望むだけならともかく、そのために命を捨て、他者を巻き込むというなら、ベル・クラネルはそれを許さない。彼もまた、再会を望む死した愛する家族が、師が居る少年なのだから。
彼女が、彼が、再会の為に命を捨てる行為も奪う行為も認めぬと知っているから。
「お前達の家族を、友を、大切な人を、お前達が侮辱するなァァァァ!」
怒りがあった。
憎悪があった。
嫌悪があった。
否定があった。
悲しみがあった。
哀れみがあった。
理解があった。
ベル・クラネルは彼等の目的を理解し、その思いも理解してしまった。故にその叫びに、
思い出したのだろう。自分達の家族を。他人を殺しても会いたい大切な誰かを。大切だからこそ、再会の折にお前の為に私は多くを殺したよなどと言えない存在であったことを。
だが………
「惑わされるな同士達よ! 我等が死の先にこそ、敬愛すべき神の願う世界がある!」
再会を神に誓ったのとは別に、ただただ神に忠誠を誓った者、ただ誰かが死ぬ世界を作りたい者など外れた人間には意味がない。
そして、一人が行動すれば曲がりにも仲間意識がある者達は動く。
この集団に恩恵を与えているのは一柱だけではない。恐らく死後の再会を約束した者の他に、誰かいる。と───
「貴様の言葉は、多少邪魔だな」
「────!?」
『
「はは!」
「っ!?」
前より、遥かに速い。大剣を盾のように構える事しかできなかった。逸らすタイミングを掴む事すら出来ずに、その膂力が大剣から腕に伝わり体が吹き飛ぶ。
放物線は描かず、一直線に吹き飛びテントを幾つか巻き込み巨大な水晶の柱に激突する。
「ありえ、ない………昨日今日、だぞ……!」
自分が言えた義理ではないが、ステイタスの伸びが異常すぎる。まさか溜まっていた『
それ以前に、切り落とした腕が復活している。どうなっている!?
「ふん。都市を落とす、その確実性のためだ。
「神の恩恵の、復活?」
なんだそれは。先日までは、神の恩恵を得ていなかったとでも?
混乱しながらも立ち上がり剣を構えるベルだが、その身体がふらつく。思った以上のダメージ。男は唯一見える口を優越感で歪める。
「っ!!」
「ただでは殺さん。貴様は今やオラリオの希望の一つらしいからなぁ? 四肢を千切り、目を刳り、歯を砕きその死体を晒してやれば、さぞ混乱が生まれる事だろう………」
喜悦、愉悦。己が他者を苦しめている事に悦びを感じているであろう男はベルの首を掴み持ち上げる。ものすごい力で、ベルの力ではビクともしない。白い光を纏い鐘の音を響かせるベルに目を細め、地面に叩きつける。
「がぁ!?」
何度も何度も叩きつけ、嘲るように笑う。
「まずは、右腕だ───」
「【一掃せよ、破邪の
詠唱が響き、魔力の波動を感じる。男が漸く反応した瞬間には、もはや遅い。
「【ディオ・テュルソス】!!」
男の顔に純白の雷が落ちる。腕から力が抜け、落下したベルを白い影が攫う。
「っ! おの、れぇ! 何者だぁ!」
「無傷だと!? 化物め!」
ベルを抱え走る襲撃者、黒髪に赤緋の瞳のエルフは振り返り毒づき、目を見開く。
顔にかかっかた煙が晴れ、先程の魔法で骨兜が砕けたのかその顔が顕になる。
「………オリヴァス・アクト………?」
くすんだ白髪を持つ男に、エルフの女は目を見開く。無意識に指に力が入りベルの肩に食い込む。
「やれ……
と、男の叫びにどこから現れたのか芋虫型のモンスターが現れる口から液体を吐き出す。ボタボタ垂れたそれは地面を溶かす、強力な酸性を帯びていた。
だが、当たらない。エルフの女の真横に避けるように落ちる。
「…………あ?」
「………何故、お前が………何故死者が、ここにいる!」
ビリビリと空気を震わせる怒気。だが、明らかに彼より彼女の方が弱い。ベルがヒュイ! と指を鳴らすとグリーが飛んでくる。
ベルは彼女の手から抜け出ると逆に彼女を抱え腕を伸ばす。その腕にグリーが前足を伸ばし、掴む。グン、と体が浮き上がり壁に囲まれたリヴィラの中心に向かいエルフの女性を下ろす。
鐘の音は、まだ止まらない。
「グリー!」
「クルアア!」
「皆さん! 大技を放ちます、その隙に避難してください!」
その言葉にすぐさま避難するリヴィラの住人。後を追おうとする
芋虫型には触れない。衝撃波だけで吹き飛ばす。吹き飛ばされた芋虫型は破裂し腐食液をばら撒く。
「お前ら! 矢と魔剣をありったけ持ってこい! 自爆兵を近づけんな!」
と、眼帯の大男が叫ぶ中リヴィラの中心地にグリーとベルが落ちる。
一先ずは、そう、一先ずは硬直状態に持っていけた。だが、街の周りには芋虫型や食人花。そして
質より量のこの時代に置いて量で押せる
と、その時だった。18階層入り口から膨大な魔力の気配。リヴィラの街の真横を全てを凍てつかせる吹雪が通り過ぎ、火炎石や腐食液は本来の用途を果たすことなく凍り付く。
「やあボールス、随分厄介なことになってるね」
と、気楽な声が響く。長槍を携えた小柄な冒険者が、そう言ってリヴィラの街の代表に笑いかけた。
「【焼きつくせスルトの剣。我が名はアールヴ】!」
更に、凛とした声がく加わる。現れたるはエルフの王族。先程の吹雪の全長に感じた魔力より更に膨大な魔力を纏い、杖を振るう。
「【レア・ラーヴァテイン】!」
リヴィラの街を中心に放射状に広がる炎の柱。火炎石に引火し連続して爆発音が響く。モンスターは尽く焼き尽くされた。
「状況を、説明してくれないかい?」
都市最強派閥が一つ【ロキ・ファミリア】。アマゾネスの双子の姉妹に、金髪の剣士とエルフの師弟。その5人と止めに現れた【
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