英雄に鍛えられるのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
アイズ・ヴァレンシュタインは整備中の剣の代わりに借り受けていた剣を、何時もの
ティオナも『
そしてフィンが行くならティオネが、アイズが行くならレフィーヤがとなり、この面々。
そして18階層に到着してみれば
すぐ様レフィーヤが魔法で道を作り、平行詠唱しながらその道を進んだリヴェリアによる殲滅。
だというのに壁の外には50を超える
中には斬ればこちらの武器が破壊される芋虫型の新種までいる。
「無駄死には避けてえのか硬直状態だが、モンスター共が集まればそれも覆る。数で押せるからな………しかし何だこの数のモンスターは………」
唯一モンスターを世話する派閥である【ガネーシャ・ファミリア】のハシャーナはありえない数のモンスターに顔をしかめる。
これだけの強さの、これだけの数、一体何をどうすれば集められるというのか。現状の数なら【ロキ・ファミリア】ならば突破できる。リヴィラの住人を見捨てれば、だが。ならば【
「現状判明しているのは、あのモンスター達が魔法や魔石に反応するということと、植物型は打撃に強く芋虫型は傷つければ傷口から腐食液を放ち、死ねば破裂し撒き散らす………近付くのは得策とは言えないね。
だとすれば彼女を芋虫型に当てるべきなのだろうが、白兵戦を得意とする第一級冒険者はできる事なら赤髪の女と白髪の男に当てたい。
「しかし、聞いたことがないね、そんな第一級冒険者………」
オラリオでは強くなれば嫌でも有名になる。例え正式にギルドに加入していない
レベルはそう簡単に上がらない。第一級と同等なら猛威を奮っていた全盛期の時点でも有名になってそうなものだが………。
「一人はオリヴァス・アクトだ………」
と、簡易的な会議室の中に凛とした声が響く。振り返ると入り口に黒髪のエルフが居た。その赤緋の瞳がリヴェリアをとらえると明らかに居心地が悪そうな顔になる。
「オリヴァス・アクト? まさか、【
「いいえ。あれは、間違いありません。私が彼奴を、間違えるわけがない!」
食いちぎられた下半身が発見され、死亡したと断定された
部屋の空気が悪くなったのを感じたのか、黒髪のエルフはリヴェリアに「お目汚しを……」と呟き去っていった。
「…………………」
「クルル」
レフィーヤは現在、グリフォンと睨み合っていた。
『
フィンの予想ではここに
ハシャーナが色のついた煙を上げ、これを見た【ガネーシャ・ファミリア】の関係者が応援要請をしてくれるはずと言っていたが【ガネーシャ・ファミリア】が潜ることは少ないのであくまで希望的観測。現状、戦況は硬直状態。
その間に彼にお礼を、と思ったのだが眠る主人を起こしてなるものかとベルが寄りかかっているグリーはレフィーヤを威嚇する。
「う、うむむ………」
潔癖なエルフの部分が、というかだいたいの人類はモンスターに気を許すベルに良い感情を抱かない。とはいえそのモンスターに助けられたリヴィラの住人は複雑そうに見ている。エルフは違うが。
レフィーヤはしかしこんな時でも無いと礼は言えそうに無いと諦めきれない。だって『アイアム・ガネーシャ』に近付くなんて無理だ。それ以前に、お礼に行く勇気が出ない。
「何をしている」
「ひゃわ!?」
後ろからかけられた声にビクリと震える。恐る恐る振り返ると、黒髪のエルフ。何処かで見覚えが、と記憶を探り思い出す。
「あ、貴方は………あの時の……」
「? ああ、お前は………あの時は、急に手を払って済まなかったな」
思い出した。『
「い、いえ! 私こそ、突然触ろうとしてしまい申し訳ありませんてした………同胞とはいえ、知らない人に触られるのは嫌ですよね」
レフィーヤは良く言えば柔軟な、悪く言えばお気楽な部分を持つエルフだ。ぶつかり、差し伸べられた手は普通に握るだろう。だがエルフの里の中でも排他的な里の出のエルフはそうでない者が多い。彼女もそういったエルフなのだろう。同胞間では珍しいが。
「違う。そうではない………私に触れれば、お前を汚してしまうから………」
「…………え?」
その言葉に戸惑うレフィーヤ。そんなレフィーヤの横を通り過ぎベルに近づいて行く黒髪のエルフ。
グリーは一度主を助け、その後主と共に運んだ事を覚えていたのか警戒しつつも唸る事はしない。だが、触れようとすると主を起こさぬ程度に唸る。
「時間はあまりない。仮眠よりも、ポーションの方が確実なんだ。悪いが、起こさせてくれ」
そう言ってグリーの嘴に手を添える黒髪のエルフ。グリーは鳴き止むと暫し黙りこみ、クルルと鳴き体を揺らしベルを起こそうとする。
「モンスターに、触れるんですね………」
「主の為に、人の為に動けるような奴だ………私の方が、よほど醜い………」
黒髪のエルフは、自嘲するように笑った。
ああ、これは夢だ。
その景色を見ながらベルは思う。懐かしい祖父の家。少し古く………なってないな。何度も作り直したし。
壁に立てかけられているのは義母の絵だ。我ながら上手くなったものだ。初めて義母を絵で描こうとし、上手くかけなかったと落ち込むベルに義母が懇切丁寧に泣き言を言おうと上手な絵の描き方を教えてくれたっけ。ちなみに下手くそな方の絵は、旅の時もずっと持っててくれたのを師がこっそり教えてくれた。そして師は吹き飛んだ。
「どうした、ベル………」
その声に振り返ると、ベッドに眠る母が居た。絵の母よりも若干痩せ、肌も青白い。薄っすらと開いた目は、もはや目に頼らねば周囲の状況を把握できぬほどに感覚が衰えたらから。
足音を立てぬように近付き、ベッドに乗ると母の頬に触れる。視界もぼんやりとしか映らなくなってきた彼女に自分はここに居ると伝えるためだ。
「………ああ、お前の手は、温かいなあ」
そう言って微笑んでくれる義母に、嬉しくなる。義母は優しい手付きでベルの白い髪をなでた。
「………私は、もう長くない。もう、お前を守ってやれることも出来ない」
「………………」
「お前に呪いを残して逝く事を、どうか恨んでくれ」
「のろ、い?」
その言葉の意味が分からず首を傾げるベルを、義母は優しく、それでも力強く抱きしめた。
「英雄になると、お前は言った。英雄が生まれぬことを己の罪とした私の為に、お前は言った………私はそれに安心してしまった。お前は、そんな私を見て安心してしまった………それが、どれだけ過酷な道のりかも知らずに」
「しゅぎょうより?」
「そうとも……困難がある。苦痛がある。全てを救いたいと願っても、救えぬ事もある。英雄たらんと力を付け多くを救っても、たった一度の挫折すら許されぬ事もある………茨の道だ。導いてしまったのは私。お前は何時か、あの時の約束を呪うかもしれない。私を………恨むかもしれない」
「そんな事!」
「良いんだ。恨まれても………私は、私達は世界の命運より、お前と過ごす僅かな時間を選んだ………己の願いを優先した。この灰色の髪と同じ、醜い人間なんだ、私は………」
「そんな事、無い!」
その言葉に、涙が出て来る。他でもない彼女が、彼女を醜いということが許せなくて。
「お義母さんは、厳しいけど優しくて………冷たいようで、暖かくて………ぼくを、何度も守ってくれて、助けてくれて………嬉しかった。守られることが………だから、ぼくもそうなりたい………約束、だけじゃない。世界を、見てきた…から………それでもぼくは、英雄になりたい。あの人達が笑える、あの時のお義母さんみたいに、笑ってくれる世界が良い」
「…それは、とても辛い道だ」
「知ってる」
「……何度も何度も死にかけるかもしれない」
「体験した」
「………お前が、誰よりも苦しむ事になる」
「ぼくには、お義母さんとの約束があるから、大丈夫………」
「…………そうか………ああ、そうか」
抱きしめる力が強くなる。ポタリと頬に水滴が垂れる。
「それでも、苦しかったら逃げても良いんだ。世界中の誰もがお前に戦えと言っても、辛かったら逃げても良いんだ…………だから、英雄になっても、英雄という装置になるな」
「それが、お義母さんを悲しませることになるなら……」
「お前は、本当に………何処までも。ああ、安心した………お前は何度でも、私を救ってくれるのだな。ありがとう、愛しい愛しい私の
病人特有の、乾いた匂い。この匂いに包まれるのは嫌いではない。むしろ好きだ。抱きしめられ、彼女自身が醜いという灰色に囲まれるのも、大好きだ。それを伝えたくて、もう一度彼女の頬に手を添える。
「…………お義母さん………大丈夫、綺麗だよ?」
「あいた!?」
コツンと頭に衝撃が走る。グリーの嘴で小突かれたようだ。少し寝すぎていたか。状況は? とまだ靄のかかった思考で現状を把握しようとする。
「……………………」
「あ、えっと………」
寝ぼけていたのか、目の前の黒髪のエルフの頬に手を添えているベル。エルフは何故か顔を真っ赤にして固まっていた。
「その………ごめんなさい、寝ぼけてて」
「あ、ああ………そうだな。そうだよな………いや、すまん………起きれるか?」
少し変な体勢で寝たからか、体を伸ばせばゴキゴキ音がなる。
「えっと………そういえば、自己紹介がまだでしたね。僕はベル・クラネルです」
「フィルヴィス・シャリアだ………クラネル、寝るよりポーションを飲め」
「いやあ、ここのポーション、高くて」
「やる………お前の力は、起死回生の一助になる」
フィルヴィスと名乗ったエルフはそう言ってポーションを渡す。ベルがお礼を言おうとすると直ぐにその場を去ってしまう。
「え、あ……フィ、フィルヴィスさん!?」
その顔に見覚えがあった。その
あわてて後を追うベル。もう一人その場にいたエルフ、レフィーヤも付いて来た。
「お、英雄じゃねえか、起きたのか」
「あ、えっと………ボーズさん?」
「ボールスな。丁度良かった、フィンの予想ならそろそろ攻めてくるってよ。起こしに行こうと思ってたんだ………お前の配置は………」
「あの、フィルヴィスさん見ませんでしたか!?」
と、途中であった眼帯の大男にフィルヴィスの行き先を尋ねると大男、ボールスは何とも言えない顔をする。
「あんま、彼奴と関わらんほうがいいぞ。特にこんな状況じゃなあ………」
「? どういう事ですか………」
そう訪ねたのは、ベルではなくレフィーヤだった。ボールスは少し考え込みながらも教えてくれた。
フィルヴィス・シャリアは『27階層の悪夢』と呼ばれる
27階層各所を赤黒い灰、モンスターの死骸と人の血が汚し、人だった物を咀嚼するモンスター達。敵も味方も巻き込んだ悍しいその事件の数少ない生き残りがフィルヴィスだ。
しかしその日以来、フィルヴィスと組んだパーティーは全滅した。判断を誤ったり、事故だったり、仲間割れを起こしたり。都合4度。彼女に関わると死ぬ、そんな噂が流れるには時間が要らなかった。
パーティー殺しの妖精、『
「お前はすげえよ。まだLv.1なのにな………嫉妬する奴も多いし、疑う奴も居るがフィン達と同じぐらいお前を頼りにしてる奴等もいる。そんなお前が彼奴と近づくのは、いっちゃ悪いが不安を煽る………」
「…………フィルヴィスさんは、何処ですか?」
「…………あっちだ。あまり時間をかけるなよ」
「ありがとうございます!」
ベルはそう言って再び走り出した。レフィーヤもその後に続く。
暫く走ると人気のない場所で、フィルヴィスを見つける。
「フィルヴィスさん!」
「………お前達」
呼びかけられ振り返るフィルヴィス。その目に宿るのは困惑。
「………戻りましょう。そろそろ相手も動くそうです」
「…………私の話を、聞いたのか?」
ベル達の目に宿る感情を見て察したのか、やはり自嘲したように笑う。
「ならば、近づくな。私は今度は、お前達を殺すかもしれんぞ?」
「………その目………またその目だ」
「…………何?」
「嫌だな。ああ、嫌だ………そんなのは、許せない。僕の周りには、何で笑ってくれない女の人が現れるんだ」
何処か怒ったようなベルの言葉に困惑するフィルヴィス。レフィーヤもどう声をかけるかオロオロしだす。
「その目………僕はその目が嫌いです」
「……私の、目?」
「自分が醜いと思っている目。自分は罪人だから、どんな不幸も自分の責任だと思ってるその目………僕は、お義母さんが大好きでしたけど、あの目は嫌いでした………貴方も、お義母さんも、せっかく綺麗な目をしてるのに」
ベル・クラネルは母の目を綺麗だと思っている。だからこそ、濁らせる色が嫌いだ。目の前の女性の目も、同じ。
「………だが、事実だ。私は罪人だ………私は汚れている。私に関わるな………英雄を、同胞を、汚したくはないんだ」
「そんな事無い!」
「貴方は汚れてなんかいません!」
自虐するフィルヴィスの言葉に、レフィーヤとベルの二人は行動で己の心情を示す。
ほぼ同時に、それぞれが左右の手を掴む。打ち合わせなしで、同じ手を握らない。何だこいつ等息ぴったりだな姉弟か何か?
「貴方は汚れてなんかいない! 私なんかよりずっと美しくて優しい人です!」
レフィーヤの言葉は、本心だ。同情でもなく慰めでもなく、気休めなんかでもない本心。
「だって貴方は、あの時子供を助けてくたじゃないですか。それに、多くの冒険者が逃げようとする中、僕と一緒に戦ってくれました。僕を、助けてくれた」
レフィーヤとベルの思いは一緒だ。なにせ二人は共にフィルヴィスと共闘し巨大花を打ち破った。その時フィルヴィスが少女を助けていたのを見たし、共に戦ってくれた。
「そ、それだけだろう。お前達が知ってるのは、それだけだ………」
「なら、これからどんどん知っていきます!」
「だから、笑ってください」
レフィーヤと言葉に続けるように、ベルが言う。
「貴方もきっと………いいえ、絶対。笑えば、とても綺麗ですから…………その、えっと………僕は、そんな貴方の笑顔を見たいと、思ってます」
歯の浮くような台詞だが、下心は一切感じない。だから潔癖なエルフ達も黙って聞いている。
「貴方は呪われてなんかいない。それを今から証明します」
「ど、どうやって………」
「貴方が居るから冒険者が死ぬというのなら、これ以上、この場の冒険者を死なせない。殺させない………貴方がいても、皆生き残れるんだって証明します」
「わ、私だって頑張ります!」
「だから、その時は…………笑ってください」
「…………………」
「………あ、あの………フィルヴィスさん?」
反応のないフィルヴィスにベルが恐る恐る声をかけると、フィルヴィスは何やら赤くなっていた。
「お前達は、変わった奴等だ………」
そう、苦笑する。と、その時だった………
カンカンと鉄を打つ音が響く。
「新種が来たぞ! 黒い蠍みてぇのも増えてる! 能力は不明、気をつけろ!」
しかも新種の種類まで増えているらしい。すぐに向かおうとする3人。と、不意にベルが足を止め振り返る。
ベルの視力では見えぬ遠く。18階層の端。そこから、視線を感じたような気がしたからだ。
──さあ、踏ん張りどきだ、英雄候補
「────!?」
聞こえる筈のない声が聞こえた気がした。ドス黒い、深い深い奈落の底の闇のように黒い光が柱となって立ち上り、ダンジョンの壁に亀裂が生じる。
そして、足場が揺れた。ダンジョンが、震える。
怯えるように、苛立つように、憤慨するように。
続いて次の変化。周囲が薄暗くなる。『夜』となった今、暗いのは当然だが更に暗くなった………。
光源たる頭上の水晶を見上げた者は数人。直ぐに後悔する。中央部の巨大な白水晶の中で、何かが蠢いていた。一際大きな振動が起こり、バキリと水晶に亀裂が走る。
「
「ありえん! ここは
だが、その叫びを嘲笑うかのように、
耳まで避けた巨大な口には鋭い牙が生え、鱗に覆われた体が水晶から落ちる。
ズゥン! と地面を揺らし新種のモンスター達を踏み潰す。長い尾を動かせば芋虫型が飛び散った破片だけで爆ぜる。
「グオオオオオオオオオッ!!」
ただでさえ混沌と化した18階層の現状。ここに新たに
「くそったれ! 何だありゃ!? ああ、くそ! 頼むぜリド。フェルズに連絡しててくれよ!」
ハシャーナの叫びは誰に聞かれることもなく混乱に飲まれた。
「知ってるか? ダンジョンの中では、神は完全に天界から切り離される。死ねば取り込まれる代わりに、神の力も使いたい放題」
混沌と化した戦場を見ながら邪神は硬いものでも叩いたのか少し赤くなった手をプラプラしながら己の眷属に語りかける。
「まあ使いたい放題ってのは嘘だ。使いすぎればダンジョンの抵抗が激しくなる。ダンジョンは神の力を無効化するモンスターを産めるからな。直に殺される」
「あれもそうなのですか?」
「そうだな。だからちゃっちゃっと退散するぞ。直ぐに見つかる……」
そう言って
「さしずめ
「大丈夫でしょう」
「ほう? 何故そう思う」
「あの
「やれやれ、どっちの味方なんだお前は」
「私は彼のファンで、貴方の眷属ですよ………それは両立する。あの光が世界を包んでくれるには、世界は闇に沈まなければならない。誰もが光を求めれば、あの光はそれに応えるでしょう」
男の言葉には、信頼があった。
信仰があった。
狂信があった。
確信があった。
今まさに境地に追いやった相手に、確かな信頼と好感をもっていた。
「かの光に包まれた世界なら。ああ、きっと私はそんな世界なら愛することが出来る」
「難儀な奴だ。だが、そうだな………たかが18階層………この程度、乗り越えてくる『正義』がなきゃ『悪』を成す意味がない。ただ蹂躙して終わる、つまらない虐殺にしかならない………信じるとするか、次代の英雄………お前の光を」
2つの影は『扉』の奥の闇へと消える。扉はそんな彼らを呑み込むように、音を立て閉まった。
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