英雄に鍛えられるのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
片腕を失った。灼熱の激痛が左手首を焼く。
これまでの人生、当たり前だが千切れかけた事はあっても欠損したことはない。ましてや大剣使いのベルにとって、未だ片手で振り回せるだけの膂力を手にしていない致命的な欠損。動きに明らかな支障が出る。
「………あ、あぁ…………」
だというのに、オリヴァスは弱体化したベルに目をくれずワナワナと目玉が零れ落ちそうなほど見開き、震える。女もまた、片手で頭を抑え忌々しげにベルを睨んでいた。
「貴様も捕らえる理由が出来たようだな……面倒なことばかり言ってくれる………そちらはお前に任せ…………おい、どうした」
女がオリヴァスに何かを命じるがオリヴァスは聞こえていないというように反応せず、そして叫びだした。
「ああああありえぬ! ありえるかぁ! 何よりも崇高な『彼女』が、お前のような男に、小僧に会いたいなどと!! そんな事、あって良いはずがない! 『彼女』が! 自らが品を貶めようなどとあってはならぬのだぁぁぁ!」
「っ! 待て! ───ちっ!」
目を見開き、血走らせ、オリヴァスはベルに迫る。
「何をしている!」
「黙れぇレヴィスゥ! 私は、『彼女』の為に! 是正せねばならぬのだああ!」
その瞳に怒りと嫉妬を宿し猛攻を増すオリヴァス。レヴィスと言うらしい女性はそんな相方の様子を忌々しげに睨む。
「───!?」
「ははは! 捕らえた、捕らたぞ! やはり貴様のような男が、彼女に求められる筈がなぶぅ!?」
痛みにより若干動きの鈍った左腕を掴み勝ち誇るオリヴァス。この距離では大剣も振れぬと判断したベルは大剣を捨て椿から貰った短剣で
そのままオリヴァスの鼻を力の限り蹴りつけ後ろに飛ぶ。傷口は電気で焼きながら、白い光を全身に纏い
「があああ! 己、この匹夫がぁぁぁ!」
怒りで頭に血を登らせ迫るオリヴァス。ベルは短剣で攻撃を捌いていく。と、そんなベルに向かって巨大化したモンスターが腕を振り下ろしてくる。
「っ! 粉?」
「駄目、ベル! 逃げて!」
アイズの言葉に咄嗟に煙のように広がった鱗粉から距離を取ると、鱗粉が爆発した。
「アアアアアアアァァァァァ!!」
叫び声を上げ4本の腕を振るう女体型。アイズ達の知る鱗粉攻撃を行うが、ベースであるはずの芋虫が使っていた腐食液は使わない。恐らくは、ベルを溶かさぬ為だろう。あくまで捕らえたいらしい。だが───
「死ねえええ!」
逆にオリヴァスはベルを殺したくて仕方がないらしい。動きが単調で読みやすいが、単純に速い。それだけで厄介だというのに、さらに混沌化は続く。
「ゴアアアアアア!」
「アアアアアアアァァァ!?」
グレンデルがとうとうリヴィラに到達。足元の蠍や食人花を踏みつぶし、女体型を殴り付ける。鱗に覆われた拳はまるで無数の突起を備えたメイス。皮を割き、腐食液が傷口から飛び出す。
高所から飛び散った腐食液は広範囲に振り巻かれる。冒険者達が距離を取る中、さらに追加で階層に住んでいるモンスター達もやってきた。黒い蠍、極彩色のモンスター、18階層のモンスター、冒険者、女体型にグレンデル。場は最早式など無用の混戦と化した。
特に最悪なのが殺す事のみを目的としたモンスター達。仲間の死も気にしないし、仲間が減ることが逃げる理由にもならない。
ただただ一人でも多く殺せれば、叶うなら全滅させればそれでいい。
「────あ」
そして、その光景を見てフィルヴィスの思考が固まる。だって、数多のモンスターが人を襲うその光景は、人の群を飲み込まんとするその光景は、彼女の絶望の始まりの光景と重なるから。
彼女は知っている。数の驚異を、階層主まで混じった絶望を。当事者として、覚えている。無理だ、死者を出さぬなど。最低【ロキ・ファミリア】と、数人が生き残れればそれで奇跡の、そんな最悪な状況。体から力が抜ける。胃の中が競り上がる。
誰もが絶望に心を支配され始める。だが───
ゴォォン
鐘の音が、響く。
ベルが、まだ戦っている。Lv.1の冒険者が、駆け出しの少年が諦めていない。
「食い尽くせ!
オリヴァスの叫びに食人花がベルに殺到する。レヴィスが舌打ちし、オリヴァスがゲタゲタと笑う。
「クラネル!」
グチャグチャと咀嚼音が響き、フィルヴィスの脳裏に蘇る、あの絶望の光景。貪り食われていく仲間の姿が過る。
またか、またなのか。私に関わったばっかりに、そんな黒い感情が心を染め上げていく中、オリヴァスがフィルヴィスを殴り飛ばした。
「諦めろ、女。あの小僧はもはや助からぬ………助かったところで、何が出来る! 聞こえるだろう? 肉を喰らう音が………左腕だけでは済まさぬ。奴の死体はモンスター共の餌に────あ?」
勝利を確信したオリヴァス、少年の死を予想した冒険者達………だけど、鐘の音が止まらない。
「アアアアアアアァァァァァ!」
グレンデルとも連れ合い転がっていく女体型が嬌声の叫びを上げる。オリヴァスの顔が、ますます怒りに染まる。
「何をしている! 速く喰い殺せぇ!」
痺れを切らし、食人花の集まった球体に向かって腕を振り下ろす。第一級を有に超える剛力で、食人花ごとベルを潰そうとする。その拳が、止められた。
「な、なんだと………?」
ブチブチと食人花の身を喰い千切りながらベルがオリヴァスの拳に頭突きを食らわせる。
「お、おのれぇ! 抗ったところで無意味だと何故気付かぬ! 『彼女』が都市を滅ぼす、それは覆らぬ未来だ!」
「滅びが、確定………?」
額から流れる血を拭いながら、ベルはオリヴァスを睨む。
「そうだ、貴様ら如き神の走狗が、傀儡が、彼女の素晴らしさを理解せぬ愚物が、私に、彼女の眷族に勝てる筈がないのだあ!」
「そうですか………なら、それを覆します」
「ああ?」
「僕
鐘の音が、響く。ベルの体を覆っていた光がリヴィラの街を包み込む。一人のドワーフが食人花を斧の一撃を持って吹き飛ばす。一人のエルフの魔法が芋虫型数匹を焼き殺す。一人のアマゾネスの一撃が黒い蠍を砕く。
「【
「ぐぅ!?」
レヴィスが暴風に吹き飛ばされ、さらにティオネとティオナが追撃を食らわせる。
それは、たったの一撃。たったの一瞬。だが──
「【一掃せよ、破邪の
その一瞬は、冒険者達の反撃の狼煙となった。
「【ディオ・テュルソス】!」
「ぐお!?」
オリヴァスの左腕が吹き飛ぶ。隙を晒したオリヴァスの右目を、ベルのナイフが切り裂いた。
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