英雄に鍛えられるのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
レヴィスはアイズへと迫る。
理由は不明だがアイズ……否、アリアを狙っている。厳密には、アイズはアリアの縁者だが。
「鬱陶しい風だ」
「───っ!」
攻防一体の
「私と同じ髪や目なのに強さ全然違うのね、嫌になっちゃう!」
「今は巫山戯る暇……いや、軽口でも叩かんとやってられぬか」
アリーゼ達も手伝ってくれているが、勝ち目は薄い。
「怪物め!」
リューが忌々しげに叫ぶ中、レヴィスはベルとグレンデル、女性型ヴィルガを見る。ヴィルガは、『彼女』の分身の器。まだ成ってはいないはいえ、その性質を強く引き継ぎベルを溶かそうとはしていないが、グレンデルの猛攻で各所から腐食液が溢れている。何時ベルに当たるか………。
「っ!」
ライラがその首にカルニボアを叩きつけるも、薄皮を僅かに斬っただけ。
「くそ! 不意もつけねえのかよ!」
異常なまでの『耐久』。冒険者などは恩恵による耐久値から最低限の鎧しか纏わないが、鎧すら纏っていないレヴィスはそれを優に超える。Lv.2のライラでは血の一滴流すことすら出来ない。
「まったく何時の時代も、お前達冒険者は煩わしい。地上で満足していれば良いものを………わざわざ地の底に潜らずとも、屍を晒したいなら己の首を掻き毟れ」
「生憎だけど、死ぬつもりで来たわけじゃないんでね」
「っ!」
背後から響く声に反射的に振り返りながら蹴りを放つが思ったよりも低い相手に、しゃがんだだけで回避され隙だらけの緑の片足に短剣が振るわれる。
「チィ!」
他の箇所に比べ脆い部分を傷つけられ、苛立ったように伸ばした足を振り下ろそうとすれば杖の石突が頬にめり込む。
「っ!!」
「やはり大してきかんな……」
「だが、十分だ」
片足を振り上げた状態で、軸足も斬られた状態では後衛の一撃とはいえLv.5を喰らいバランスを保つなど不可能。体制が崩れたレヴィスの顔に拳がめり込む。
「リヴェリア様!」
「団長!」
エルフ達やティオネに活力が戻る。
「さっきふっ飛ばされてたけど大丈夫なの、【
「それは君も同じだろう、【
「私は大丈夫よ! 内臓が潰れただけだもの! 回復したけど」
「僕も顎が砕かれただけだよ、回復もしたしね」
お互い軽口を叩き合いながらレヴィスにそれぞれの獲物を構える。フィンは槍が折られたので短剣だが。
「お前達がどれだけ束になろうと、この街に勝ち目などない」
数は減ってきたとはいえ
「生憎と、部下のはずの少女に発破をかけられてね」
「今も弟が頑張ってるもの、お姉ちゃんもかっこいいところ見せなきゃね!」
「団長と息合わせやがって殺す殺す殺す殺す!」
「後ろから殺気が!?」
「こんな時にまで発情しきった雌の脳とは流石はLv.5でございますねえ」
「ティオネのせいであたしも変わってると思われちゃってるじゃん!」
「軽口叩いてんじゃねえ」
二級、一級冒険者様方は気楽で羨ましい、と戯けるライラ。そんな彼女達にレヴィスが迫り、フィンが素早く懐に入り込み腹に短剣を振るう。
年最大派閥の一級装備にLv.5の膂力にて放たれる斬撃はレヴィスの腹に傷をつけ、隙きを逃さぬと前衛達が迫る。
「レフィーヤ、立てるか?」
リヴェリアは肩で息をするレフィーヤに声をかける。溜めた時間に対して力が増し、発動した力に応じて体力も精神力も持っていくベルの
それを一番強い威力で使ったレフィーヤは当然一番疲労が深い。それでも……
「……………」
鐘の音が聞こえる。
女性型の嬌声と巨人竜の咆哮。それに負けぬ、階層に響く大鐘楼。
「やれ、ます………やって、やります!」
レフィーヤは杖を付きながら体を無理やり起こす。リヴェリアは微笑み、レヴィスに目を向けた。
「【疾風】、私達の炎を助ける風を貸してくれ」
「は、はい!」
リヴェリアの言葉にリューは頷き3人のエルフが詠唱を開始する。
「【誇り高き戦士よ、森の射手隊よ】」
「【間もなく焔は放たれる】」
「【今は遠き森の空、無窮の夜天に鏤む無限の星々】」
「チッ」
「させない!」
「大人しくしてなさい!」
詠唱の邪魔をしようと駆け出すレヴィスをティオナの
「【押し寄せる略奪者を前に弓を取れ】」
「【忍び寄る戦火 免れぬ破滅】」
「【愚かな我が声に応じ 今一度星火の加護を】」
「邪魔だあ!」
「【
「【
「【同胞の声に応え矢を番えよ】」
「【開戦の角笛は高らかに鳴り響き 暴虐なる争乱が全てを包み込む】」
「【汝を見捨てし者に光の慈悲を】」
「このまま、押し切る!」
「ああああ!!」
アイズとアリーゼの猛攻にレヴィスが顔を顰める。
バキンッと剣が半ばで砕け、その破片を掴みアリーゼに投げつける。
「っ!?」
「後ろが留守だ、ぶぁ〜かめ!」
「油断してんじゃねえよ!」
背後から輝夜の斬撃。浅いが小さくない傷にライラが小瓶と短刀を投げつける。
砕け、飛び散った液体が空気に反応し燃え上がり、空気が膨張し熱波がレヴィスを包む。第一級冒険者でもただではすまぬ連携。しかし、怪物は止まらない。
猛火の中から飛び出した手が、ライラの首を掴む。
「【帯びよ炎 森の灯火】」
「【至れ紅蓮の炎 無慈悲の猛火】」
「【来たれさすらう風流浪の
冒険者の首など軽く握りつぶせるもその馬鹿げた握力がミシリと音を立てると同時に、ライラが折れた槍をレヴィスの腕に突き刺した。
「っ!?」
傷口を狙ったとはいえライラの武器では本来傷つけることは不可能。だが、それは第一級冒険者であるフィンの装備。深く深く食い込み、レヴィスの握力を奪う。
それでも首を圧迫する力は強く、抜け出せない。レヴィスはライラを地面に叩きつけようとして……
「【打ち放て 妖精の火矢】」
「【汝は業火の化身なり ことごとくを一掃し 大いなる戦乱に幕引きを】」
「【空を渡り荒野を駆け何者よりも疾く奔れ】」
「あああ!」
「ぐ!」
フィルヴィスの蹴りが折れた槍に当たり更に深く食い込ませ、握力がなくなりライラがレヴィスの頭を蹴りつけ距離を取る。
忌々しげに睨んだレヴィスが地面を蹴ると大地がひび割れアリーゼ達がバランスを崩しレヴィスが襲いかかる。
「【魔槍よ、血を捧げし我が額を穿て】」
「【ヘル・フィネガス】!!」
フィンも判断能力を無くした獣と化して怪物に迎え撃つ。間もなく詠唱は完了する。今必要なのは指揮官ではない。
目の前の怪物を、致死の暴虐を相手に一秒でも時間を稼ぐ。限界を、超えて!
「がああああああああ!!」
「おおおおお!!」
「ぐぅ!」
【アストレア・ファミリア】が、フィンが、アイズが、
傷は冒険者達の方が多い。数で勝ってこようと、総合的な強さは自分が上の筈。なのに、押しきれないどころか、押されている。
「────!?」
と、一際巨大な鐘の音が階層を包み込んだ。続いて轟音。階層が震える程の衝撃に、思わず固まるレヴィス。壁に叩きつけられるような形で吹き飛ばされた巨人竜の姿が一瞬映り、直ぐに視線を戻した冒険者達に目を向ければ、笑みを浮かべていた。
「【雨の如く降り注ぎ 蛮族共を焼き払え】」
「【焼き尽くせ、スルトの剣 我が名はアールヴ】」
「【星屑の光を宿して敵を討て】」
ここに来て、速度が、威力が増す。まるであの光景に負けてられぬというように。
フィンが己の足をも砕くほどの力でレヴィスの急造の足を蹴りつける。急造では耐久力も劣り、折れるどころが爆ぜる。片足が折れたフィンをライラが抱き抱え駆ける。
「【
「【
業火の暴風がレヴィスを地面に叩きつける。リヴィラの一角が吹き飛ぶ衝撃に、怪物も動きを止める。
妖精達の
「づ、あああ!!」
冒険者達が一定の距離にいる間は放てない。その僅かな猶予に、レヴィスは瓦礫をリヴェリアに投げつける。
「ぐっ!?」
腹に走る衝撃。ブチブチとうちから聞こえる悍ましい音。腹の中に熱した鉄球でも入れられたかのような灼熱の鈍痛。
リヴェリアが魔力操作を手放せば、暴走した魔力は距離を取って詠唱していたとはいえ同時に魔法を放つためにある程度の位置関係にいた二人を巻き込む大爆発を起こす。そうなれば、誰も魔法を放てない。
「──────!!」
だからこそ、耐える。先程魔力の手綱を手放す事となった一撃以上の激痛を無視して、
「【ヒュゼライド・ファラーリカ】!!」
「【レア・ラーヴァテイン】!!」
「【ルミノス・ウィンド】!!」
放たれる火矢。立ち上る炎柱。その炎を巻き込む、風を纏った星光の流星。
即座に退避を選択したレヴィスを飲み込まんと迫るはかいの奔流。リヴィラの街の一部が、文字通り消し飛んだ。
「やった、のか?」
「少なくとも、この場には居ないね。そして、それで今は十分だ」
最強戦力を飲み込んだ破壊を見て同様した
「行けるな、みんな」
「はい団長!」
「もちろん!」
「行ける」
【ロキ・ファミリア】が残党狩りにかける。
「私達も行くわよ! あははは! 今なら何でもできる気がする!?」
「おいこいつ血ぃ流しすぎてハイになってるぞ」
「仕方のない団長様ですねえ。とはいえ、冒険者の士気が上がり奴等に動揺が走った。畳み掛ける」
「わかっています」
【アストレア・ファミリア】も駆け出す。
「…………都市最強に、都市最良か……まさか私のような者が一時でも轡を並べるとは………」
フィルヴィスは一人残り、何処か皮肉げに呟く。巨人竜が吹き飛ばされた方向を見れば、丁度灰に還る姿が見えた。
「って、クラネル!?」
巨人竜を撃退したであろう冒険者を思い出し慌てて森へと走るフィルヴィス。すぐに見つけた。
グリーに覆いかぶされ、守られているベル・クラネル。片腕を失い血と泥に塗れた皮膚の一部は焼け焦げ、腐食している。肩で息をするベルはフィルヴィスの気配に気づいたのかゆっくり顔を上げた。
「っ………あ、フィル……ヴィスさん………よか、った……無事なんです、ね」
「っ……お前…………お前は、そんな状態で何故私を、私なんかを心配する……!」
その笑みにフィルヴィスは目を逸らし叫ぶ。その視線が、その思いが、執拗なまでに己の胸を抉る。
「………お前は、自分が大切じゃないのか?」
「大切、ですよ………お母さんが、産んでくれて、お父さんが、守ってくれて……お祖父ちゃんと、おじさんと…お義母さんが、育ててくれた。死んだら、泣かせしまう人も、居ます………」
「ならば……!」
「だから、助けに来てくれて………ありがとう、ございます」
「────!」
ベルの礼にフィルヴィスは目を見費焼き息を呑む。
「………助けに来て、意味があるのか?」
「フィルヴィスさん?」
「私などが、助けにいって……それで、何が救える。何が出来る。何も出来るものか! 私は、私には何も………!!」
胸の内を吐露するように叫ぶフィルヴィスの姿に、ベルは無理やり体を起こそうとし、グリーが手伝う。グリーの頭を撫でてやってからフィルヴィスの元まで歩いた。
「フィルヴィスさんは、やっぱり優しい人ですね…」
「………は?」
手を優しく包み、微笑むベルにフィルヴィスは何を言ってるんだと言うような視線を向ける。
「僕も、似たような経験がありますから。助けたくて、守りたくて、何も出来なかった………ずっとずっと、弱いことを恨まれてるんじゃ、救えなかったことを怒ってるじゃと、思ってたこともあります」
「………………」
「実際そうかもしれませんよね」
あはは、と笑うベルにフィルヴィスは思わず惚ける。
「でも、それは生きてる僕達にはわからないことです。僕達ができるのは、忘れないことと、思いを引き継ぐことだけです」
「忘れない……思いを、引き継ぐ? だが、もしその思いを引き継げなかったら」
「…………えっと、別に良いんじゃ」
「…………は?」
「僕は、お義母さんの願いを、引き継いだつもりです。でも……それを、誰よりも望まないのはお義母さんだから………」
ベルはそう言って、どこか悲しそうな遠い目をする。
「人は、最後には自分で決めるしかないんです。生きている限り、死んでしまった人を救うなんて、できるわけがない。だから、フィルヴィスさんが死なせてしまった、救えなかったと嘆くなら……どうか、前を向いて歩いてください。生きて、生きて、生き続けて、その果にきっと救いがあるなんて言えませんけど………えっと、だから…………」
「…………お前は、向いてないな」
「…うぅ。で、でも……フィルヴィスさんは、噂されてるような人じゃ、ありませんから。今だって、心配して助けに、きて……」
「…………クラネル?」
「…………………」
寝息が聞こえる。気絶したのだろう。相当頑張っていたし。
「…………ありがとう」
その小さな呟きは、グリーだけが聞いていた。
次回はベルくんサイドのバトルシーン!
ベル君は今後も何度も大怪我します。
関係ないけど某聖女がうさぎ用の首輪を買う姿が目撃される未来も近い