英雄に鍛えられるのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
ベル・クラネルの朝は早い。その日は何時にもまして早かった。何せ憧れの師と形だけとはいえ同じ形の大剣を手にし、テンションが上がって速攻でダンジョンに向かった。
狭い通路で器用に大剣を振るい敵を切り裂いていく。
「むぐむぐ。やっぱりこの辺のモンスターじゃ、効果は薄いかあ」
モンスターの死骸を食いながら、昨日のミノタウロスを食った時の高揚感を思い出し呟くベル。
再びモンスターの気配がしたので、大剣、『暴裂の大災塊』を構える。師の剣の模造品。ヴェルフは『
「さてと、夕飯もあるし、奢りだし……もう少し、喰らわせてもらおう」
「グギャ!?」
ベルの、捕食者の視線に、ビクリと震えるモンスター達。次の瞬間ベルはモンスター達に向かって駆け出した。
哀れ犠牲になったモンスター達の魔石やドロップアイテムを換金し、ホームに戻ったベルはヴェルフ、ヘファイストス、ヘスティアと共に飲食店を目指す。ヘファイストス曰く美味しい料理が食える場所のようだ。
「おお、ここかいヘファイストス」
「ええ。『豊穣の女主人』………可愛い子が多いけど、手を出しちゃ駄目よベル」
「だ、出しませんよ!」
神であり整った容姿を持つヘファイストスが認めるということは、本当に美人が集まった店なのだろう。僅かな期待で赤くなるベルを見て、ヴェルフがからかうように笑う。
「おいおい何恥ずかしがってんだ、男だもんな。仕方ねえさ」
「そ、そういうヴェルフはどうなのさ」
「俺はヘファイストス様一筋だからな」
「っ! も、もうヴェルフ! こんな時に何を言ってるのよ!」
「どんな時だって言いますよ。俺にとって、あんたより良い女は居ないんですから」
「…………馬鹿」
「なんで唐突にいちゃつき始めるんだい君達は」
突然桃色空間を展開した神とその眷属にヘスティアは呆れ、周囲の恋人のいない者達が「これみよがしにイチャイチャしやがって」と嫉妬の視線を飛ばす。
ヘスティアはさっさとこの場から離れようと二人の背を押し歩き出し、ベルもそれに続こうとして、不意に視線を感じた。
「───っ!?」
無遠慮にこちらを覗き込む視線。こちらの事情などお構いなしに、全てを見せよと言ってくるこの視線は、間違いない、神だ。ヘスティア達のような良識のある神と違い、己の欲求を優先する神らしい神からの視線。どこから、と周囲を警戒するベルだったが唐突に視線は消える。そして…………
「あの〜、どうかしました?」
店の前で立ち止まるベルを不審に思ったのだろう、店員らしき女性が話しかけてきた。鈍色の髪を持つ、美しい女性。
「あ、すいませ────っ」
謝罪しようとしたベルは、唐突に固まりその女性を真っ直ぐ見つめる。
「? どうかしました?」
「………貴方は………
「………………………………」
捉え方によっては失礼なその質問に、女性は固まり、しかしすぐに笑い出した。
「ふふっ、あはははははははははっ! そんな事言われたの、二度目です。私、モンスターなんかに見えますか?」
「あ、いや…………すいません。何となく………」
神、には見えない。モンスターにだって当然見えない。なのにベルは、その女性が人間であるか疑問に思った。何故だろうか。
「僕はベル・クラネルと言います。貴方は?」
「シル・フローヴァです。よろしくお願いしますね、ベルさん」
先程の発言は気にしていないのかニッコリ微笑むシル。店の中からベルを呼ぶヘスティア達の声が聞こえ、ベルはシルに頭を下げると店の中に入っていった。
店の店員強すぎない?
みんなそこらの冒険者より強いのだけどどうなっているのだろうか。豪快に笑う店主など明らかにヴェルフより強い。
「それじゃあ好きなだけ頼みなさい」
「あ、はい。じゃあこのページのメニュー全部」
「……………はい?」
「あ、大丈夫です。今日は1ページ分で大丈夫なようにお腹ためてきましたから」
「ためてきた………?」
「ベルは結構食うんすよ」
この中で唯一ベルと食事に行った事があるヴェルフは俺も最初は驚きましたよ、と笑う。ベルは運ばれてきた料理を次々平らげていった。
「おお、ベルさんってば大食漢なんですね」
「あ、シルさん」
「むっ。誰だいベル君、この女は」
「はじめまして女神様。シル・フローヴァと言います。ベルさんとの出会いは………ちょっと人には言えません」
いたずらっぽく微笑むシル。そりゃ確かに初対面の相手に人間か疑問に思われたなんて言いふらしたくないだろうけど言い方あ! とベルはシルを見る。シルはペロ、と舌を出した。まさか仕返しのつもりだろうか。
「ほっほ〜う。ベル君、話を聞かせてもらおうか」
「ち、違うんです神様ぁ!?」
「団体様ご到着にゃ!」
と、ベルが慌てて弁明しようとする中
予め予約していたのか、そういえば店の一角が空いていた。
「…………おい、みろよ」
「ああ、えれぇ上玉」
「馬鹿、エンブレムを見ろ」
「っ! 【ロキ・ファミリア】! 巨人殺しのファミリアか………」
入ってきた一団はそちらに向かう。美男美女の集団だ。中には特徴がないのが特徴とも言えそうな平凡な容姿の男も居たが、基本的には顔立ちは整っている。主神の趣味だろう。そんな彼等の登場に、店の中がざわつく。
「よっしゃあ、ダンジョン遠征みんなごくろうさん! ギルドからのペナルティはあるが、取り敢えず死者はいなかったらしいし今日は宴や! 飲めぇ!」
おそらく主神であろう女神、つまりロキが音頭を取るとヘスティアが明らかに不機嫌そうな顔をする。死者こそいないが被害者はいる。
それも自分の眷属だ。
しかも最初の眷属だ!
いくら事前にベルから気にしてないと言われてもはいそうですかとあっさり受け入れられるものでは無い。しかし、ベルは許した。【ロキ・ファミリア】との敵対は、世話になっている神友のヘファイストスにも迷惑がかかる。ここは我慢。我慢だ、落ち着けと自分に言い聞かせる。
「そうだアイズ! お前あの話を聞かせてやれよ!」
と、不意に獣人の男が叫ぶ。アイズは首を傾げた。 ベルは運ばれてきた料理を食べていく。皿の塔が築かれていた。
「あれだって、帰る途中で何匹か逃したミノタウロス! 最後の1匹、お前が5階層で始末したんだろ!? そんで、ほれ、そん時いた兎野郎!」
兎と聞き、ヘファイストス、ヘスティア、シル、ヴェルフはモキュモキュと最初と変わらぬペースで注文した料理を8割ほど食べているベルを見る。
「べ、ベルさん。これも食べてみませんか? はい、あーん」
もはや獣人の言葉などそっちのけでベルの食事シーンを見たくなったシルが料理を差し出す。母親にやられなれたベルは躊躇いなくパクリと食べる。
「たかが5階層の、コボルト如きにボコボコにされててよぉ!」
コボルトにボコボコにされたならベルじゃないな、と2柱の女神と一人の男は話から興味を無くす。
「5階層でちゅーなら、よく居る恩恵得たてで調子乗ってもうた駆け出しか? なんでうさぎなん、
「いやぁ、兎みてえに真っ白な髪と赤い目をしてたんだよ」
あれ、やっぱりベルの事だろうか?
「抱腹もんだったぜ、アイズに助けられて、逃げ出してやんの! コボルト殺せる程度の女も怖いらしい!」
「………くっ」
「アハハハハハッ! そりゃ傑作やぁー! 冒険者怖がらせてまうアイズたんマジ萌えー!!」
「ふ、ふふっ………ご、ごめんなさい、アイズっ、流石に我慢できない……!」
どっと周囲が笑いの声に包まれる。エルフの少女、主神、長髪のアマゾネスが、堪えきれず笑う中アイズだけはまるで自分だけ一人、遠いところに取り残されたかのような疎外感を感じているような顔を浮かべ、ベルが食事の手を止め立ち上がる。
「まったくあんな雑魚がいるから、俺達の品位が下がるってのによ。力もねえなら引っ込んでりゃいいんだ。なあ、アイズ?」
「私は───」
「あの、大丈夫ですか?」
「…………え」
同意を求めるような獣人の声に、アイズが何か言う前に声がかけられる。その声に振り返れば、ベルが立っていた。ちょうど今、アイズの脳裏に浮かんでいた少年。ヘスティアが「ベル君!?」と叫ぶ。
「えっと、よくわからないけど。そんな泣きそうな顔、しないでください。僕は平気ですから」
「泣き、そう? 私、が………?」
「はい、泣きそうな顔をしてますよ。だから来ました。女の子が泣きそうになってたら、そばにいてやれっておじいちゃんに言われたので」
それが、ベル・クラネルとアイズ・ヴァレンシュタイン、ダンジョンで出会いすぐに別れた男女の早い再会であった。
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