英雄に鍛えられるのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
神々の会合、
主に行うのはガネーシャだ。今回も入るのに勇気がいる『アイアム・ガネーシャ』と言う巨大なガネーシャの姿をした建物の中で行われる。入り口? 股間だけど?
これを気にしない者など面白がる神かとあるほんわかした女冒険者ぐらいだ。
「いやあ、悪いねヘファイストス。ドレスなんて買ってもらって」
「折角の機会だもの。綺麗よ、ヘスティア」
「ヘファイストスありがとう! 愛してるぜ!」
と、嬉しそうに、無垢な笑みを浮かべるヘスティア。こういう所があるから放っておけないのだ。
【ガネーシャ・ファミリア】が用意した料理に舌鼓を打ちながら、ヘファイストスはクスリと微笑んだ。
「所で、これ残ったのはどうするんだろう? 残飯として捨てるのは勿体ないなあ」
「残ったのは私達で食べるんですよ、女神様」
と、一人の団員が話しかけてくる。仮面で顔の上半分を隠しているがそれでも可愛らしいとわかる顔立ちと声。
「ガネーシャ様は無駄にテンションが高いけど、無駄遣いは嫌いますからね」
「そうなのかい。いや良かった、僕もガネーシャと同じ意見だからね。もし廃棄するようならベル君でも呼んで食べてもらおうかと思ったよ」
「…………ベル? ああ、じゃあ貴方がベル君の主神なんですね」
「おや、知り合いかい?」
「はい。兎みたいで可愛いですよね…………もう少し話していたいですけど、お姉ちゃんに見つかったら怒られそうなので、また………」
「ああ、仕事の邪魔をしてしまったね。またね〜」
「は〜い、また……」
何となく、ベルと相性が良さそうな子だな〜と去っていく背中を見つめる。ベル君も何時か誰かと恋愛をするのだろうか? 取り敢えず滅茶苦茶にしたいなんて言う非常識な子でないなら良いが。
「フフ、可愛い子よね、あの子………」
と、ヘスティアの背後から一柱の女神がやってきた。容姿の優れた女神の中でも抜きん出て美しい容姿をした女神が立っていた。
「うぇ、フレイヤ……」
「あら、貴方が来るなんて珍しいわね」
「ええ、ちょっと探しものがね。でも、それはもうすんだの」
「? ふーん、それは良かったね。時に、あの子を知ってるのかい?」
「ええ、澄んだ湖のような、蒼い綺麗な色………出来ればそばに置きたいのだけれどフられてしまったわ」
無理矢理魅了してしまうのは簡単だがそれではあの魂は手に入らない。彼女自身が心から惹かれる相手でないとあの澄んだ魂は直ぐに色を変えてしまうだろう。そういう意味では、見つけたばかりの
「まあ、そういう訳だから私は帰るわ。もう収穫はないもの」
そう言って去っていくフレイヤ。収穫がないとは、この場にいる男神とは全員関係を持ったということだろうか?
来てないタケミカヅチやミアハは真面目だから一夜の関係など持たないだろうがこの場の男神達ならあり得る。
「うーん、やっぱり苦手だなあフレイヤ。まあ
「そうね。フレイヤ達美や愛の神は、それらを司るものだから仕方ないといえば仕方ないのだけど………まあ、秩序を守護するはずなのにだらしないお父様に比べれば、マシに見えるけど」
「あ、アストレア! 久しぶりじゃないか!」
ヘスティアがその声に振り返り笑顔を浮かべる。
美の神には劣るがそれでも神の中でも美しい女神がそこにいた。彼女こそ正義を司る女神、アストレアだ。
「ええ、久し振りね。下界に来たって聞いてたのに、会いに来てくれないから寂しかったのよヘスティア伯母様」
「うぐ……お、伯母様はやめてくれよ………」
彼女の父と呼べる神は、ヘスティアの弟だ。故に伯母というのは間違いではないがそのような呼ばれ方を喜ぶ女は、神であろうと居ない。
「どうせならお義母さんが良いぜ僕は」
「そう? じゃあ、ヘスティア母さん」
「ごめん、あの
そんな事はないんじゃ、とは誰も言えなかった。
なんとも言えない空気に、ヘスティアは空気を変えるべく話題を変えることにした。
「そ、そういえばアストレアの子達は皆良い子なんだってね。聞いてるよ、皆が皆正義の行いをする正義のファミリアなんだろう?」
「ええ、皆いい子よ………ガネーシャやロキの子達と仲が良いの」
「へえ〜。まあ大手ファミリアはそれだけ街の警護に参加するもんね。僕の眷属は一人だけだけど、君と僕の誼だ。力を貸して欲しい時は言ってくれ。まあ、ミノタウロスに苦戦しているから大した力にはならないけど」
「いいえ、その心意気だけでも嬉しいわ。うちの子達と貴方の子、仲良くできるといいわね」
「へへっ、いただき!」
「俺の全財産666ヴァリスがぁぁぁぁ! 誰か取り返してくれえぇぇぇぇぇ!!」
一人の男が男神から財布を盗み取り街中を走る。と、そんな彼の前に人影。邪魔をする気だろうか。
「どけぇガキ! ぶっ刺されててえか!」
短剣を取り出し滅茶苦茶に振り回す男。一般人達はそれだけで男から距離を取り──
「シッ!」
滅茶苦茶に振り回されたそのナイフに対し、正確に短剣の腹に爪先が放たれる。蹴り飛ばさたナイフはクルクル吹き飛びながら誰もいない場所にガシャーンと落ちる。
「な………っ、あぁ───!?」
「………………」
ナイフを弾かれ痺れる腕を見て呆然とする男の腕と襟を掴み、地面に押し付けられた。
「うぐえ!?」
肺の中の空気を吐き出しゲホゲホ咳き込む男から財布を奪い取るベル。
「駄目ですよ、人から物を盗んだら。いえ、人ではないけど」
「くっ、くそ! なんだよ畜生! 冒険者がこんな時間に! 地下に潜って仕事してろ!」
「えっと………なら貴方も仕事して稼いでください」
男の激高にド正論で返すベル。そんなベルを男は忌々しげに睨む。
「るせぇ! こんな年になって、雇ってくれるところなんてあるかよ! てめぇ等冒険者が悪党を追い払わねえから、ちょっとでも仕事にありつけねえ期間がありゃすぐ疑われる………」
未だ
オラリオに来たばかりとか、まだ子供などなら雇うところもあるが何をしていたか不明な期間があるともしかしたら、と疑い雇わない店も少なくない。
「てめぇ見てえに容姿や才能に恵まれてりゃ冒険者になって稼げるだろうよ! 俺等みたいな浮浪者ばかりが苦労する! あ〜、不公平だよな人生ってのわよ!」
「いやあ、そんな。容姿に恵まれてるなんて事ないですよ。滅茶苦茶門前払いされましたもん」
「はん! だとしても今は冒険者になって稼いでるのは事実だろうが!」
「……………じゃあ、ウチのファミリアに入ります?」
「………は?」
と、ベルは良いことを思いついた! と家様な顔をして男を立たせる。男は当然困惑した顔を浮かべた。
「お金があれば他人から奪わないんですよね? なら、一緒にお金を稼ぎましょう!」
「ふ、ふざけんな! ダンジョンなんて、危険なところ………!」
「神様が持ってるお金って、大半がそういった危険なところに向かった眷属が神様のために用意したお金ですよ?」
「っ! だ、だけど………奪わなきゃやってけねえんだよ! 俺だって奪われてんだ、いいじゃねえか、少しぐらい!」
「奪われる苦しみを知ってるなら、それを誰かにやっちゃ駄目です」
「─────っ!」
その言葉に言葉をつまらせる男を見て、ベルはこれには開き直らないのかと頷く。
「ところで、お腹すきません?」
「…………あ?」
「僕、この街に来たばかりなんです。美味しいお店知りませんか? 教えてくれたら、一食ぐらいは奢りますから………」
「…………み、見逃すっていうのかよ」
「もう二度としないと、誓ってくれるなら」
困惑する男は、ベルの瞳にたじろぐ。真っ直ぐな瞳。このご時世、早々見ることのできない目。と、その時
「それは駄目だ。彼は罪を犯した。然るべき報いを受けさせなければ………」
「…………貴方は?」
「彼は【ガネーシャ・ファミリア】に引き渡す。見逃すなど、許されない」
覆面で顔を隠したエルフの女性だ。キッ、と男を睨んでいる。
「甘さと正義は両立しない。貴方のそれは、罪人を逃しさらなる被害を増やすだけだ」
「それは、まあ………そうかもしれません。でも、僕とこの人はあったばかりだ」
「それが、何だというのですか」
「僕は、その悪事が人殺しや人の尊厳を奪う類などではない限り、一度目はまず信じてみようと思ってます」
「それで彼が、新たな被害を出したら」
「その被害者の方には僕からお詫びします」
「それでは、貴方はそのものを援助するようなものだ! このご時世、そのような優しさを持てるのはいい事なのかもしれない。だが、そのような悪事は見逃せない!」
そう叫ぶエルフに対して、しかしベルは引き下がる気は無い。
「優しさじゃ、ありません。単なる、偽善です。人にこうあって欲しいと願う、僕の我儘。だから、子供の我儘だけど、責任はきちんと持ちます」
「それは───!」
「はいはい、そこまでよリオン」
なおも食ってかかるエルフだったが、彼女の隣にいた赤髪の女性が止める。
「いいんじゃないかしら。そこの兎君が、きちんと償うって言ってるんだし」
「な、あ、アリーゼ! 貴方まで!」
「ほらあれよ、極東の。なんだっけ? 亀は無知?」
「飴と鞭です」
何も知らない亀がなんだというのか。
訂正したベルに対してアリーゼと呼ばれた女性はそうそれ、と返す。
「私達が鞭なら兎君は飴………後一人ぐらい飴になりそうな子が居るけど、とりあえずそういう事でいいんじゃない? 鞭でビシバシ叩き続けても喜ぶのは一部の男神様ぐらいよ」
「その理屈はよくわかりません」
「それにこの後一緒にご飯食べるんでしょ? ならそんなふうに仲良くなった子供に責任を取らせるようなことをする大人なんてあんまり居ないわ!」
「少しは居るのではないですか」
「でも兎君はそんな彼を信じた。だからおじさん、裏切っちゃわないようにね。というかこんな純粋そうな子を裏切ったら人間性疑うわ!」
「う、うるせえ! バーカ! バーーカ!」
なんてありきたりな捨て台詞!? と驚くアリーゼの前で男は走って逃げていく。
「彼はもう大丈夫ね。あんなありきたりな台詞しか言えないならきっと改心できるわ!」
「なんですかその理屈は………しかし、これでは秩序が………」
「リオンってば頭硬いわね。もっとお尻やお胸のように柔らかくなりないさい!」
「胸やお尻は関係ないでしょう!? な、何故抱きつこうとしてるのですか。揉むのですか? 公衆の面前で揉む気ですか!?」
己の体を抱きながら警戒するように距離を取るリオンというらしいエルフ。場の空気はすっかり和んだ。
「さてと、はじめまして兎君。私はアリーゼ………【アストレア・ファミリア】団長、アリーゼ・ローヴェルよ!」
「…………リオンと名乗らせて頂いています」
「はじめまして………アストレア? って、確かおじいちゃんの………あ、すいません。僕はベル・クラネル。【ヘスティア・ファミリア】の………まあ、団長ですかね?」
と、改めて自己紹介する3人。と、ベルは思い出したようにそうだ、と呟く。
「すいません、僕はこれで。とりあえずこの財布を返してこなきゃ」
「その必要ならないよ。追いついた」
「あ、先程の神様」
と、踵を返そうとしたベルに声をかける人影。漆黒の髪の一部だけが灰色という変わった髪を持つ、神らしく整った顔立ちの男神。しかし何処にでもあるような服はその存在を霞ませる。
「さすが、正義の冒険者達だね。助かったよ………ん、あれ? なんだろう、君俺と何処かで会ったこと無い? なーんか既視感というか親近感が湧くなあ」
「………同じく。なんでしょう、この既視感は」
「……ああ〜…………フッフーン。私、解っちゃったわ!」
と、男神とベルが何やら不思議そうな顔でお互いを見つめ合っているとアリーゼが叫ぶ。
「二人は声がそっくりなのよ! デッデーン!」
「「ああ、それか」」
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