魔法戦姫リリカルシンフォギア   作:志樹

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プロロ-グ
01 遺跡探索


遺跡探索にて、僕が単独行動を許されるようになって数か月。誰しもが慣れ始め、油断し、危険に遭う時期であり、それは僕にとっても例外ではなかった。

 

 

――ビュン―――

 

 

 という風を切る音とともに、僕の眼前を通り過ぎる弓矢。古臭いと侮るなかれ、魔力反応に頼りすぎたものにとっては予想外のものであり、致命傷になりえるトラップだ。しかし、遺跡の発掘を生業とするスクライア一族にとっては日常茶飯事のものであり、見破れて当然のトラップのはずだった。

 

 

「今のは、危なかったかな……」

 

 

 自然と、冷や汗が流れ、鼓動はうるさいほどに頭に響く。

 自分で言うのもなんだけど、人にはよく冷静だ慎重だと褒められているのは確かだし、僕自身、自分の性格はよく理解していたからこそ、慣れによる慢心なんて縁遠いものだと思っていたのだけど、それこそが慢心だと思い知らされた。

 

 幸い、経年劣化により設定から大きく外れた軌道を辿ることとなった罠は、僕にかすり傷ひとつ負わせることなく(罠が発動した際、レイジングハートが何のアクションも起こさなかったのは当たらないとわかっていたからだと思いたい。)その役目を終えた。

 

 

「おしい」

 

 

 当たらないとわかっていたからだと、思いたい。

 

 

 通り過ぎた矢は、反対側の壁に突き刺さる形で存在していた。遺跡と言っても、それなりの形を残している遺跡だ。壁もそれなりの頑丈さを持っているはずだけど、矢は綺麗に突き刺さったまま落ちる気配を見せない。もし、劣化していなければどうなっていたか想像すると、ぞっとする。

 

 

「気を引き締めないとね」

 

 

「むしろ、探索中に緩んでいたことの方が驚きです。よろしければ私が締め上げてあげましょう」

 

 

「それは意味が変わってるよレイジングハート……確かに、悪いのは僕だけどさ」

 

 

 まあ、自分でも締め上げられても仕方ないレベルのミスだとは思う。どちらにせよ、この探索が終わった後の報告でレイジングハートから家族にして先輩である人たちに怒られることになるんだろうけど。

 

 すでに、遺跡の探索はほとんど終えていた。あとは、この道をまっすぐ行けばほかのルートを辿っていた仲間と合流できる。それゆえに気が抜けていたというのもあるけど、それは言い訳にもならない。帰るまでが遠足とは言うけれど、僕らの場合には命に直結するのだから。

 

 何気なしに(もちろん、トラップには注意しつつ)壁に刺さったままの矢を引き抜く。――と、思い切り刺さっていたにも関わらず、僕の力でも簡単に矢は引き抜かれた。それと同時に、刺さっていた壁の一部がぼろッと崩れる。威力が高かったわけでなく、壁自体が脆くなっていただけみたいだ。

 

 

「マイスター、壁の向こう側に不審な空間があります」

 

 

 その時、今まで僕に茶々を入れるだけだったレイジングハートが反応した。

 

 

「なるほど、壁自体に隠蔽の魔法がかけられていたみたいですね。それが、壁が崩れたことによって無効化されたようです」

 

 

「レイジングハート、壁を破壊することによる遺跡への影響を解析。あと、向こう側がどれくらい深いかわかる?」

 

 

「すでに解析済みです。人ひとりが通れる程度の穴であれば問題ありません。深度はあまり深くありませんね。数十メートル程度の通路と、その先に小部屋があるだけです」

 

 

 さて、どうするべきか。仮にも魔導師、僕一人でも脆い壁に穴を開けることはできる。ただ、ほかのみんなを待つべきかどうかだ。

 

 

「推奨はしません」

 

 

「……まだ何も言ってないけど」

 

 

「言わなくとも考えていることはわかります。もう一度申し上げますが、推奨はしません」

 

 

 ……すべてお見通しである。隠し通路の発見を仲間に連絡し終わりどうすべきかという段階で、当然のことながら、レイジングハートは仲間の到着まで待機することを推奨した。ついさっきのこともあるし、慎重を期すなら報告だけして待機しておくべきなんだろうけど。

 

 

「みんなに隠し通路の場所を報告。僕は先行して探索を続行」

 

 

「知能レベルは高かろうと所詮は9歳の男の子ですね。好奇心は猫をも殺すと言いますが、猫以下の存在が無謀な……駄フェレット」

 

 

「フェレットは擬態時の姿であって僕は人間だ」

 

 

 呆れつつも指示通りにしてはくれるが、言葉は非常に厳しい。というか、ただの暴言でしかない。あとフェレットを猫以下とか言うな、フェレット好きを敵に回す気か。

 

 五分もかからず、人一人通れる程度の穴を開け(正確には9歳児が通れる程度だけど)、向こう側を明かりで照らし、トラップがないことを確認してから穴をくぐる。明かりを照らした時点で気づいていたことだけれど、実際に入って確信した。

 

 

 この隠し通路は、今まで探索していた遺跡とは明らかに別物である、ということだ。

 

 

 今までの遺跡は、じめじめとし、草は蔓延り、そこらに虫が這えずりまわっているような、すでに滅びた文明の忘れ去られた遺跡という雰囲気を醸し出していた。しかし、こちらはそれらとは隔絶されており、無機質で、風情も何もない――それはまるで、研究施設を思わせる光景だ。

 

 

 いや、“まるで”ではない。おそらくは研究施設そのものなのだろう。それが、扉の先にある。

 

 

「レイジングハート、もしかして、誰かいたりする?」

 

 

「いいえ、動体反応、魔力反応および生命反応はありません。少なくとも、ここから探知できる限りは、ですが」

 

 

 レイジングハートの返答に安堵することなく、慎重に歩を進める。

 

 

 

 ――ここから――

 

 

 

 つまりは、この通路の先に見える扉の向こう側はどうかわからないということだった。

 

 

「あの扉にも隠蔽魔法がかけられているようですね。いえ、周囲の壁すべてにかけられているようです。なるほど、あの壁が崩れるまで全く探知できないわけです」

 

 

 先ほどの壁に使われていたような、隠蔽魔法を使われていては探知のしようがない。さすがというべきか、レイジングハートはすでに先ほどの隠蔽魔法を解析したのか、破るまではいかなくともかけられているかどうかは探知できるようだった。

 

 レイジングハートを創ったのは僕だけど、中身はすでに最初の頃と全く別物になっており、なにがどうなっているのかさっぱりわからない。それもこれも、ロストロギア関連の遺跡で見つけたAIモデル、ADAとGLaDSによるものだ。テスト的に掛け合わせて組み込んだ結果、非常に口は悪いけれど、管理局のTOPクラスの魔導師が持つインテリジェントデバイスにもないほどの優秀へと、レイジングハート自身が構築し直していった。

 自己進化、自己修復を持つインテリジェントデバイスなんて、おそらくは世界初じゃないだろうか。

 これで自己増殖まで持っていたら人間の手には負えない存在になっていたかもしれないけれど、あくまでデバイスとしての枠組み内だ。そう滅多なことは起きないだろうと思う。

 

 扉の前まで辿り着き、どうするべきか考える。もし扉の向こうにこの場所を作った何者かがいた場合、高い確率で先頭になることが予想される。できれば、それは避けたい。とにかく、物音がしないか確認してみよう。

 

 

 ――と、近づいたその瞬間、扉が開いた。

 

 

 瞬時に扉から離れ、戦闘態勢をとる。それとほぼ同時に、扉がひとりでに閉まる。油断させるためか、ほかに何か思惑があるのか……。

 当然ながら戦闘など最初からするつもりはない。相手の出方次第ではあるけれど、眼くらましだけ仕掛けてすぐに逃げるつもりだ。広い場所でならやりようはあるかもしれないが、基本的に僕は戦闘向きの魔導師ではない。こんな狭いところだと、やられる可能性の方が高い。……情けないけれど。

 

 緊張で手が震える。全身から汗が噴き出てきているが、感覚的にはひどく寒く感じる。

 

 今まで、一族間での戦闘訓練はしたことがあるけれど、実戦経験は皆無だ。頭の中ではシュミレーションできているが、ちゃんと体が動かせる気がしない。もしかするとここで死ぬんじゃないか、という考えが過ぎり、慌てて頭を振る。

 

 

「……マイスター」

 

 

 大丈夫。帰れる。言い聞かせるように繰り返しながら、扉を見据える。

 5秒か、10秒か。恐らくはその程度しか経っていないのだろうが、もう何時間もこうしているような感覚に陥る。これが実戦の感覚なのだろうか。以前、管理局に入るということも考えたことはあったけれど、僕に戦闘員は向いていないのだろう。この感覚には慣れられそうにない。

 

 

「マイスター」

 

 

「どうしたのレイジングハート、相手に何か動きが?」

 

 

 そうだ、僕にはレイジングハートもいたんだ。ほんの数秒のことだけれど、完全にレイジングハートのことを忘れていた。一人じゃないというだけで、とても心強く感じる。大丈夫だ、僕なんかよりよっぽど優秀な彼女がいるんだから。

 

 

「マイスター、あなたはいったい何と戦っているんですか」

 

 

「………えっ?」

 

 

 一瞬の思考停止。レイジングハートは何を言っているんだ?そんなの決まっているじゃないか。扉の向こうに潜んでいる、この場所を作った何者かで……。

 

 

「あれは自動ドアです。電気は生きているようですね、何者かがこの場所を放棄してからあまり時間は経っていないようです。」

 

 

「……じゃあ、敵は?」

 

 

「おおよそ敵と呼べるような存在はありません。施設自体は残っているようですが」

 

 

「…………」

 

 

…………。

 

 

「わあぁぁぁあああぁぁぁあぁぁぁあぁあぁぁぁ……」

 

 

 駄目だ、恥ずかしすぎる。これが中二病か。これが黒歴史か。

 駄目過ぎる恥ずかし過ぎるむしろそのまま戦死してる方がよっぽどましに思えてくるレベルになんていうかもうわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ。

 

 

 orz

 

 

「飛び下がったところまではまだしも、そこから全く動かないのでむしろマイスターがおかしくなってしまったんじゃないかと割と真面目に心配したくらいですけれど。非常に哀れですね」

 

 

「真面目に心配しないでむしろ笑いのネタにしてくれた方がまだ気持ち的にましなぐらいだから」

 

 

「大丈夫です。しっかり映像として記録してあるので笑いのネタにもできます。帰ったらしっかり皆さんにも公開しましょう」

 

 

「ごめんなさい前言撤回します笑いのネタにもしないで下さいお願いします」

 

 

 そんなことをされたら僕はもう生きていけない。精神的に。

 

 

「さあ、そんなことより先に行きましょう。何があるのか気になるのでしょう?」

 

 

「いや、今の僕にはそんなことの方がとても大切だよ。僕が今一番気になるのは君が映像をどうするのかだよ。やめてくれるよね?やめてくれるんだよね?ね?」

 

 

「もし私に表情があれば、私は今とてもいい表情をしていることでしょうね」

 

 

 

 ………………。

 

 

 …………。

 

 

 

 ……。

 

 

 

 よし、気を取り直していこう。

 悲しい事件はあったものの、敵はいないということが分かったんだ。あとはトラップにだけ注意していればいい。まあ、ここを拠点として使用していたのなら、さすがに自分たちのいる場所にトラップの類は仕掛けないから大丈夫だろうとは思うけど、注意するに越したことはない。気を取り直して行こう。

 

 

 そして、僕は扉を通り。

 

 

 部屋の中で倒れている女の子を見つけた。

 

 

 扉の先にあったのは、誰が見ても研究施設としかいいようのない光景。

 並べられている機械類は多少の古くなっているものの、動かすには問題はなさそうだ。しかし、あいにくというか当然だけれど、研究に使うような機械に関して詳しくはないので、ほとんどのものが何に使うものかはわからない。

 

 ただ、そんな僕にでも“それ”が何かは察しがついた。

 

 人一人が入れそうな円柱状のガラスと、その内部に浸された水。その上下にはコード類が伸びており、隣のコンピュータへと繋がっている。

 そして、そのすぐ近くに、おそらくは僕とそう変わらない年齢の少女が、一糸纏わぬ姿で眠っていた。

 

「……培養ポット、だよね?」

 

「おそらくは」

 

「……誰もいないって言ってなかったっけ?」

 

「『おおよそ敵と呼べるような存在はいない』と言ったのです。誰もいないなんて私は一言も言っていません」

 

 癖の強そうなオレンジ色の髪は、裾野が広がるように肩まで伸びている。眠る表情はまだ幼く、どう見積もっても10歳程度にしか見えない。

 確かに、敵かどうかと言われたら違うかもしれないけど。眠ってるし。

 

「というか、大丈夫なの?」

 

「詳細な身体データは測定しかねますが、心音および呼吸から判断するに健康状態は良好なようです。ちなみに、先ほども申しあげましたが周辺にはこの少女以外の生体反応はありません」

 

 主語の抜けていた僕の質問に対して、レイジングハートは如才なく答える。改めて、不安を募らせる僕を落ち着かせるというおまけつきで。

 しかし、警戒心は解かない。忘れ去られた遺跡の奥にある研究施設。すでに引き払った後。だけれど、残された少女。積もったほこりの厚さ、恐らくは、何か月も経ってはいないだろう。せいぜい一か月か、短くて1週間。それでも、その期間、この少女は取り残されていたことになる。今目の前で眠っている少女は、いったい何者なのか。研究員の子供?いや、そんなわけがない。研究対象だったのか、それとも……いやな方向に思考が流れ、振り払うように頭を振る。

 

「今はそんなことを考えている場合じゃないか。ひとまず、みんなに連絡かな?」

 

「はい、聞くまでもなく。そもそも現状が先行し過ぎですからね、少なくとも合流してから説教は確定です」

 

 あっ、忘れてた……。

 

「隠し部屋発見したんだしそれと帳消しにならないかな?」

 

「寝ているのは目の前の少女だけだと思っていたのですが勘違いだったようですね」

 

「寝言は寝て言えとでも言いたいのか」

 

「本当に寝言ならよかったんですけどね」

 

「……うん、ごめん」

 

 言い返してみたけれど、悪いのは圧倒的に僕だった。

 

「じゃあ、みんなへ現状報告と応援要請をお願い。あと、ユディに通信つないでもらえるかな。今回来てるメンバーで一番医療関係に詳しいし、この子の診断をしてもらいたい」

 

「了解しました、マイスター。しかし一つ進言するなら、通信をつなぐ前に彼女にあなたのマントでもかけてあげるべきですね。性に興味が出てくる年頃なのはわかりますが」

 

「そんな理解はいらない。あと、さっきまで辛辣な物言いだったのに急に優しくいうのやめて」

 

ともかく、僕はマントをかけてあげてから通信することにした。

このあとめちゃくちゃ怒られたことは言うまでもない。

 

 

 

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