「やっぱり立花さんとしては大好物であるごはんを使ったケーキを一度食べてみたいと思うわけですよ!」
「ごはんって、お米のケーキってこと?ぱっとイメージできないしおいしそうに思えないんだけど、それ」
「でも一応お米を使ったロールケーキとかあるみたいだよ」
「あ、それ一度お母さんが作ってたことあるの。お米を粉状にしたものを使って作るんだけど、おいしかったよ」
「ほんとう!?それ食べてみたい!」
「私もちょっと気になるわね……」
「じゃあ、今度作るからみんなで食べましょうか」
「いいんですか!?」
「ぜひお願いします!」
「…………」
なんなんだろうこれは。どういう状況なのか。いや状況はわかっているんだけれど……僕はいったいどうすればいいんだろうか。
喫茶店翠の一角で繰り広げられるのは、将来美人になるであろう顔立ちの整ったかわいい少女たちの姦しい女子会。みんなで仲良くしようというなのはの提案で紹介された友達のアリサとすずか。特に問題なく、響に至ってはすっかり打ち解けた様子で楽しそうに会話しているけれど、そんな中に一人男が混ざっているというのはいささか気が引けて……というか、僕はここにいていいのだろうかという気分になってくる。
『よかったじゃないですか、ハーレムですよハーレム』
『いや、ハーレムとはまた違うと思うけど……普通に居心地悪いし』
『大丈夫です、知らない人から見れば男とは思われていません』
『それはそれで複雑だよ』
『まあでも、かわいい子たちに囲まれて嫌な気分にはならないでしょう男的に』
『9歳という年齢の子供がそんな意識を持ってない』
『つまり、客観的に理解できる程度には意識しているということですね、ませガキ』
『レイジングハート、僕の手を離れてさらに容赦なくなってない?』
仕事を士郎さんに任せてきた桃子さんが会話に加わってからは会話はさらにヒートアップ。僕はただ彼女らの勢いに呑まれてただただ呆気にとられるだけである。
もしかしたら桃子さんが仕事を任せてきたというより、士郎さんが仕事を全て請け負って桃子さんを送り出したのかもしれない。自分が巻き込まれないように。……いや、士郎さんならうまく受け答えしそうだけれど。
「ただいまー」
「ただいま」
「「「おかえりなさい」」」
そんな時、恭也さんと美由紀さんが帰って来た。
「あら、楽しそうなことしてるじゃない、私もまーぜて!」
そう言ってテーブルにやってくる美由紀さんとは対照的に、挨拶だけして離れていく恭弥さん。目があった瞬間、「ここはお前に任せた、頑張れよ」とこの場を託された気がした。逃げたともいう。
「そう言えばユーノ君は――」
そして、会話のネタというなの矛先が僕に向いた瞬間。
「ユーノは――」
「ユーノ君って――」
「ユーノ君の――」
猛獣に食い殺される小動物としての覚悟を決めることとなった。
そんな平和な日もあったよという話。
…………………
……………
………
そんな平和な日にあった話の一つ。
「そうだ、みんなで旅行に行かない?」
そう言いだしたのは誰だったか。いつからか朦朧となっていた意識では判別できなかったけれど、誰かがそう言っていたのは確かだ。
「じゃあ、今度の連休にみんなで温泉に行こうか」
「場所はうちの方で確保しておくわ」
「じゃあ車などの手配は私の方で行っておきます」
「今から楽しみだね!」
なんかそんな感じで決まったのが二日前。着々と旅行に向けての準備が整いつつ、勉学と鍛錬と日常を謳歌する日々。僕と響は戸籍的な問題で学校に行ったりはできないけれど、どうやったのか士郎さんが普通に生活する分には支障ない程度に僕らの身辺を整えてくれていた。どうやったのか聞いたけれど、誤魔化されたのは言うまでもない。その他、服だった生活用品も買い揃えてもらうことになり、本当至れり尽くせりだ。スクライアと合流できた後にはしっかりとお礼しないとな……。
鍛錬に関しては、僕の身体も魔力も回復しつつありなのはと響とともにリハビリも兼ねて鍛錬を始めている。まあ、鍛錬と言っても僕は基礎的な体力作りが主で、あとは実戦を考慮した動き方のアドバイスを恭也さんに教えてもらっているくらいだ。響は体力づくりと八極拳、それに恭弥さんや美由紀さんとの組手もしている。僕より体力はあるし、魔法なしだと勝てそうにないしで、正直男としていろいろと負けた気分になってくる。僕も魔法に頼らずにもう少し動けるように頑張ろうかな。
『ところで、能動的なジュエルシード探しがほぼ皆無になってしまっているけれど、このままでいいのかな……』
『なるようになるでしょう。というか、手がかりもなしにどうするつもりだったのかということと、もしかして子供だけでジュエルシード全て回収するつもりで動こうとしていたのですか?』
『もちろんそのつもりだったけど』
『違うの?』
『いや、常識的に考えて無理でしょう。私たちに出来るのは、基本的に暴走した時の被害拡大を防ぐことです。後手に回ることが前提で、本格的に回収作業を行うのは本隊と合流できてから。ジュエルシードを奪っているものがいますが、出会ったときの対応次第で戦闘になったとしても、目的が分からない以上深入りは禁物。ぶっちゃけそこら辺への対応は管理局に任せるべきです』
『いや、でも……』
『もっと私たちに出来ることがあるならやった方が……』
『無理です、無茶です、無謀です。どれだけ力と知力があったとしてもあなた達は子供です。ジュエルシードの存在だけでもかなり負担は大きいのに、勢力規模のわからない相手と真っ向から敵対関係築いてどうするんですか。……と、ブレーキをかけておくのが現在の私の役目です。当然ながら、最終的な決定は私にはなく、マスターの意向に従います。ただ、あなた達二人が主体となって動くと、無茶をしてジュエルシードを回収しつつ相手と敵対して面倒なことを起こしつつ本当に完膚なきまでに完結させる方向に動こうとしてしまう可能性がありますからね。結果できたとしても、想定した時のリスクが大きすぎるのでブレーキをかけておきます。というか、釘を刺しておきます』
そこまで言ってしまうと意味がなくなってしまうような気がするけれど……、僕となのはだからこそ、そこまで言ってしまった方が理解してくれるだろうと考えてのことなのだろう。……その通りだよチクショウ。
『うぅ~、レイジングハートすごく卑怯なの!』
『そういうことを覚えて大人になっていくのです』
できればあと数年は純粋なままで居させて欲しいなぁ……。
『ところで、ユーノ君まだかかりそう?』
『ごめん、今探してるところだからもう少しだけ辛抱して』
能動的にジュエルシード探しはできていないけれど、受動的に向こうから勝手にきてくれるみたい。ただし発動済み。
現在、なのはの学校にてジュエルシードが発動中。平日の昼間で学生も多いし、最初に話を聞いた時には周りに被害がないか心配だったけれど、幸か不幸か、その発動の仕方は周囲に被害を与えるようなものではなく、ただ観察するだけという僕個人にはよく理解しがたいものだった。なのはによれば、学校のいたるところに目が出現し、彼女たち小学生を凝視しているらしい。こちらも幸か不幸か、いたるところにある目が見えているのはなのはだけ――つまり魔力を持っている人だけのようで、ほかの学生たちには見えていないようだ。そのため、大きな混乱は起こっていない。せいぜい、感性の鋭い子が視線による居心地の悪さを感じている程度だとか。
『同じ見られてる感じでも前に襲われた時は狙われてるって感じだったけど、今回のは本当に見てるだけだけどすんごく見てるって感じで、なんかねっとりしてて……、とにかく早くしてね!次の授業プールなの!絶対にそれまでになんとかしてね!』
『は、はい!』
切実だった。いや、そりゃあ切実にもなるだろうけれど。なのは自身はこの見られている意味は理解していないようだけれど、少女としての感覚が危険信号を発しているようだった。
『ジュエルシードって基本的には願いを叶える宝石なんだよね?これって元はどんな願いなのかな?』
『仲良くなりたいけど勇気がなくて行動が起こせないからせめて遠くから見ていたいという願いかと推測します。それが屈折した形で叶えられてこのような状態になっているのでしょう』
『友達がいない人ってこと?それはなんだかかわいそうだけれど……、でもこういうのはなんだかストーカーさんみたいだし駄目だよね。ちゃんと止めさせないと!』
一応、間違ってはいない……かな?かなり分厚いオブラートに包んで擦りガラスのようなフィルターをかけてはいるけれど。
個人的には理屈はわからないでもないけれど、やっぱり理解はできない。というかしたくない。僕はそういう大人にはなりたくないです。
そんな会話を聞きつつ、僕は探査魔法を展開して元凶の場所を探し続ける。発動範囲から考えてなのはの通う小学校からそう離れていないはず、ということもあり僕と響は小学校近辺まで訪れている。響はいつの間にか勝手に学校内に入って行ってしまったけれど……どこに行ったんだろうあの子は。
『ああ、そうだ。恭弥さんと美由紀さんは授業中で連絡取れず。多分、今日テストがあるって話してたから、ちょうど真っ最中かも』
『そっか……じゃあ私たちだけでなんとかしないとね』
『なんとかするために、まず僕が基点を見つけないとなんだけれどね』
しかしその作業はあまり芳しくない。学校周辺含めての探査結果、元凶がいるであろう場所は学校内なのは確かなんだけれど、学校全体が発動範囲になっているせいでジュエルシードの気配ばかりになってしまい本体の位置を特定するのが非常に難しくなっている。
『ね、ねえ……なんか、少し前から私のことを特によく見てるような気がするんだけれど、気のせいかなぁ?』
『気のせいではありませんね』
『な、なんでなのかなぁ……?』
『おそらく、見られていることに気が付いている、ということに気が付いたのかもしれません。何の反応もない相手を見ているより、見ている自分に反応している相手に興味を示すというのはわからなくもありませんからね』
『うぅ……』
……なるほど、探査魔法でもわかりやすくなのはの周辺の反応が強くなっているのが分かる。周辺に反応が集まっている分、ほかの場所での反応少なくなっていることを考えると、目の上限数は決まっているのかもしれない。
『うにゃぁ、なんで今日に限って質問当てられるの~』
『我慢です、マスター』
そんな声に合わせて反応が少し動いて止まり、数秒でまたもとの位置に戻る。動き的に、黒板に答えを書きに行って戻ったのかな。
『あ、前の子消しゴム落としてる……拾ってあげなきゃだよね』
反応が少し動いて、すぐに戻る。
『ひっ!?机にも目が出てきたよぉ……あ、消えた』
『あまり範囲は広げられませんが防壁を張りました。攻撃性のあるものではないのと、相手が厳密には魔法によって発動されたものではないので効果はあまりありませんが、多少はましになるはずです』
なのは周辺にさらに反応が密集してきたかと思ったら、周囲1メートルくらいの範囲の反応が一気に消えた。それでもその範囲外に反応が多く集まっているけれど、なのはからすればまだましだろう。
『ありがとう、レイジングハート』
『マイスター、早く見つけてくださいね』
『ごめんなさい』
なんだか僕が悪いことをしているような気分になってきた。別になのはの周辺を意識してみているわけではないけれど、やっぱり直接話を聞いている分気にはなってしまう。それに、本人は無意識なんだろうけれど、念話越しになのはのつぶやきが聞こえてくるのが特にそれを助長させている。
『こんなのやっぱり友達になりたい感じじゃないよね……』
『さっきの絶対見ようとしてた……』
『一緒に足元で動いてたし――』
『追いかけて見てるの女の子ばかりだし――』
そうして、授業中に見つかることなくチャイムが鳴り響いた。
『ユーノくーん』
泣きそうななのはの声を聞きながら、必死になって探索を続ける。探索魔法に引っかかる特別大きな反応は、やはりなのは周辺に纏わりついているものだ。着替えのために移動を始めたようで、纏わりつく反応が一斉に動き始める。なのはの周辺以外にも、ほかの対象を観察――あくまで観察ということにしておこう――しているようで、いくつもの反応が引っかかっているけれど、どれも反応の大小に違いはない。ただ、さっきまでほとんど動いていなかったそれらは、休み時間に入って対象が移動しているのか動きが盛んになっている。
『うう……この目やっぱり変態さんだよ……』
……そう言えば、なのはは次の授業がプールだって言ってたっけ。ということは、この目の行動原理的にあの場所に反応が集まるはず。理解したくはないけれど理解できてしまうのは同じ男だから?いや、そういうわけじゃないよね。あくまでも行動原理から推測した結果であって、理解はするけど共感しているわけじゃないから……ともかく、その集まった時なら、本体の反応が判別しやすくなるかもしれない。
『あれ、響ちゃん?』
『え、響?』
あ、確かになのはの近くに響の反応がある。向かっている先は……なのはたちが向かう更衣室――の横の部屋?
『更衣室の横の部屋って何の部屋なの?』
『確か、あの部屋は今は使われてなかったはずだけど……』
使われていない部屋?でもそこにも目の反応があるけど……。
『そうか!その部屋に犯人がいるかもしれない!』
人間の姿ではまずいと思い、フェレットの姿になってから校内に侵入、学校内を疾走する。どうしてそんな場所にいるのかは理解できないけれど、とにかく今はそこに向かうのが先決だ。
『きゃ!扉ごと中から男の人が吹き飛ばされてきた!?』
『マスター、反応確認しました。あれが元凶です』
吹き飛ばされてきたって……、響が何かやったのか!?それにどうして響は犯人の場所が分かったんだろうか。まあ、それも後で聞けばいい。
「――見えた!」
廊下の壁に背を預ける20後半くらいの、学校には場違いな男の姿がそこにあった。その正面には仁王立ちする響。そんな光景を挟んで僕の反対側になのはやすずか、アリサの姿が見える。
でも、間に合ったわけではなかった。
「響!なのは!」
急に強まるジュエルシードの反応。
学校全体に散らばっていた反応が一点に集束したそれは強大な力の塊と成り--そして、一気に膨張し学校全体を包み込んだ。
なぜか何気ない日常会話が書けない