魔法戦姫リリカルシンフォギア   作:志樹

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13 前座全力一発

 ユーノ君が話した作戦における私の役割は非常に単純明快。ただ一発、校舎越しに大きいディバインバスターをあの眼に向かって放つ、それだけ。

 

 それだけとは言っても、その一発が全力全開で撃っても足りるかどうかわからないサイズのものを要求されている……というか、レイジングハート曰く恐らく足りないとのことです。もう少し技術が成熟してくればいくらでも方法はあるらしいけど、少なくとも現状では不可能だとか。

 

 まあ、学校より高い塔みたいになっているあの眼の塊全てを包み込むサイズの砲撃なんて、ユーノ君が無理を承知で言っているみたいなんだけどね。私は無理でもともかくそのサイズを目指して魔力を溜めてぶっ放す。ユーノ君は目標サイズに到達しないことを前提として、足りない分を補うための細工をしに別行動中。

 

「響ちゃん大丈夫?」

 

「大丈夫大丈夫、なのはちゃんは何も心配せず魔法の準備してくれていいよー」

 

 幾本もの触手が校舎を貫き私たち襲ってきているけれど、それらは全て私の目の前で響ちゃんが叩き落としている。お兄ちゃんたちが特訓している横で拳法の練習をしていたけれど、今使っているのは多分それなんだろう。手にはめた手甲で、迫りくる触手を逸らし、いなし、勢いを殺した触手から殴り落とし踏みつける。相手には直接的なダメージこそないだろうけれど、ジュエルシード発動者の意思が多少残っているのか意地になっているかのように響ちゃんばかりを狙っているの。……そう言えば、最初に変態さんを見つけて叩き出したのも響ちゃんだし、それも理由の一つかもしれない。

 

 ユーノ君の話した作戦で一つ問題だったのが、私がディバインバスターのチャージ中に障壁を張れないことだった。普通に撃つ分にはともかく、限界近くまで振り絞って放つとなると今の私じゃ障壁張りつつ……なんて器用なことはまだできない。そこをどうしようか、って時に響ちゃんが――。

 

『私に任せて!』

 

 と一言。こんなこともあろうかと――なんてお父さんとお兄ちゃんに頼んで響ちゃんの手に合わせた手甲を買ってもらっていたらしい。女の子がねだるものでなければお父さんとお兄ちゃんも一体なんてものを買っているのと言いたいところだけれど、今回はそのおかげで助かってるんだよね。一応感謝……なのかな?

 

「マスター、意識が散漫になっています。集中してください」

 

「ごめんなさい」

 

 怒られてしまった……。響ちゃんが頑張ってくれてるんだし、私は私の役目を果たさないと。

 

 あいまいな感覚で操作していた魔力の流れを意識し、はっきりとイメージする。胸の中心を起点として流れ出す魔力の流れ。それは全身を巡り、手元を伝い、構えるレイジングハートの先端へと集束していく。巡りくる過程で零れ落ちる魔力を最低限度まで押しとどめ、無意識下で身体に確保しようとする水滴すら残さず集束させる。水源より溢れ出た水が川を作り、滝壺へと墜ち行くように、その水先が当然なのだと、自身の魔力に言い聞かせる。

 

 ――けれど、終着点に行き場はない。

 

 滝壺であれば、水はさらに下へと流れ道を作り川となる。でも魔力にそうなってもらっては困る。

 

溜めて、貯めて、蓄えて――。

 

――私の持ち得る全てを集束させる。

 

――私に流るる全てを終結させる。

 

「51%……64%……73%……87%……」

 

 言うなればそれは堰堤だ。

十分な魔力が集まるまで、決して開かれることのない強固な堰。すでにそこは結界寸前。一点に集められた魔力はうねり、行き場を求めて荒れ狂う。けれど未だ結界は許されない。まだ魔力は集束しきっていない。

 

「89%……91%……94%……97%……」

 

 圧縮しろ――。

 

 圧縮しろ――。

 

 圧縮しろ――。

 

 先端に集束されたうねる魔力が振動し、周囲に大気の渦を作り上げる。私を中心に巻き立つ風がバリアジャケットを靡かせている。体中の魔力が一点に集中させる。それは、同時に体力も一気に奪い去っていき、私は崩れそうになる膝に鞭打ち、崩すまいと力強く地面を踏みしめる。

 

「98%……99%……」

 

『こっちは準備完了、いつでもいいよ』

 

『こっちも……あと、少し……』

 

 ユーノ君からの合図に辛うじて答える。

あと少し。もう無理だと抗議するかのように暴れる魔力が甲高い振動音を立てている。暴発寸前のを――それでもまだだと押さえつけ、そして最後の一滴を流し込んだ。

 

「――100%、撃てます」

 

「響ちゃん前あけて!」

 

「りょうかいっ!」

 

 ――Divine Buster――

 

 瞬間、レイジングハートの先端から指向性の与えられた魔力が、決壊したダムから流れ出るかの勢いで放出される。響ちゃんが退いた一瞬の隙をついてこっちに迫ってきていた触手は一瞬で消し飛ばされ、眼前は桜色の魔力光で満たされた。

 

『Chain circle〈鎖体魔法陣〉――execution〈施工〉』

 

――Diffusion〈拡散開始〉――

 

 放たれたディバインバスターが校舎を貫く寸前、ユーノ君が仕掛けた魔法が発動される。

 魔法で編まれた鎖、その鎖で描かれた巨大な魔法陣が校舎に張り付く形で構成されていた。私の放ったディバインバスターがその魔法陣を通過した途端、通り抜けたそれは一気に膨張した。――ううん、実際に大きくなったわけじゃない。極限まで集束された魔力の束を拘束を意図的に緩めただけ。

 

『ぐッ――くぅぅ――!』

 

『大丈夫ユーノ君!?』

 

『だい、じょう、ぶ!――気を抜いたら、せっかくの収束砲を弾け飛ばしそうだけれど、ね――!』

 

 むしろ、よくここまで集束させれるよ――と言われた。

 

 集束し、放出するだけという単純のようで故にこそ難しいディバインバスターという魔法は、本来ならかなり行為の魔法らしいの。私は規格外と称されるほどの魔力量と、能力として集束に適性があったからこそ、この短期間で実践レベルにまでできている。けれど、できているだけであって練度は低く応用がきかない。――もとい、融通がきかない。

 

 現在の私は集束させれば極限まで集束させる、させないのであれば全くさせない。0か1か、二択のみで間がなく調整なんてできるほどの練度が備わっていないのです。大がかりな魔法陣を作ってもらったりユーノ君にいろいろしてもらっていたけれど、結局はあの目玉の塔全体をのみ込む大きさへと調整をしてもらっただけだった。

 

 一気に大きくなったそれは目玉の塔と同じくらいのサイズとなり――そのまま、塔を消し去った。

 時間にして数秒。私の魔力全てを使った集束砲は、たったそれだけの時間で放ち終わった。長距離マラソンを完走した後のような疲労感――走ったことなんかないけれど――を感じて、私はお尻から崩れるようにへたり込んだ。

 

「なのはちゃん!」

 

 いつの間にか少し離れたところに避難していた響ちゃんが駆け寄ってきてくれる。差し出してくれた手を掴み、立ち上がろうとして――失敗した。がくがくと足が笑っていて力が全く入らず、正直もう動きたくないくらいの気分なの。

 

「本当の意味で魔力をほぼ使い果たしていますからね。そうなるのも無理はありません」

 

「あらら……お疲れ様です!はいっ!」

 

 そう言って、響ちゃんは私の前に背を向けてしゃがみこむ。

 

「えっと、おんぶ?」

 

「うん」

 

「ありがとうなの」

 

 なんだか少し恥ずかしいけれど……でも、いやではない。

 

「だいじょうぶ?重くない?」

 

「だいじょうぶ軽い軽い!響さんは力持ちなんだよー」

 

 そんな会話を交わしつつ、響ちゃんは私をおぶったまま目玉の塔のあった校庭へと歩いて行く。さっきまで眼前にあった校舎は跡形もなく、校舎の向こう側までとても見通しが良くなっている。もしこれが結界の中じゃなければ大騒ぎになってるの。

 

「お疲れ様、なのは」

 

「あ、ユーノ君!」

 

「ユーノ君もお疲れ様なの」

 

 校舎の影からユーノ君が出てくる。多分、上から降りてきた……のかな?

 

「ついさっき恭弥さんと美由紀さんに連絡がついたよ。とりあえずすぐこっちにきてくれるってさ」

 

「そっか、じゃああとは封印だけして一安心、かな?」

 

 そう言って目を向けた先――校庭の真ん中には、憑代となっていた男性が気を失って倒れている。その上には赤黒く禍々しく輝く宝石、ジュエルシードが浮いている。あのジュエルシードのせいなのか元々の願いがそうだったのかはわからないけれど――理解したくないけれど――変態さんなことしていた元凶。

 

「……滅ぼせないかな?」

 

「滅ぼっ――!?」

 

「気持ちはわかりますが不可能ですね。とりあえずマイスター、封印をお願いします」

 

「う、うん……」

 

 レイジングハートに言われて、ユーノ君がジュエルシードに近付いていき、封印の準備を始める。

 

「……ああ、そう言えば、暴走前の話に戻るけど、響はなんでそこの男の人があの部屋にいるって気付いたの?」

 

「うん?――ああ、あれのことね。いやぁ、なんとなく……勘というか、中学の時に変質者が出て、更衣室の隣の部屋に潜んでたからもしかしたら……と思ったってだけなんだ」

 

 響ちゃんの学校でもそんなことがあったのか……なんて、変態さんはどこにでもいるのかなとか思いつつ、その言葉に違和感を覚えた。

 

「中学?」

 

「中学って、この国で言う小学校を卒業した後に入る学校だよね?」

 

 ユーノ君も気付いたようで、言葉を確認している。響ちゃんの言っているニュアンス的には自分が中学生の時って感じだけれど……でも、響ちゃんはどう見ても私たちと同い年くらいにしか見えない。大人から見たら、たまにまだ小学生っぽい子がいたりすることもあるっていうけれど、そういう子でも私たち年下から見ればある程度お兄さんお姉さんに見えるの。確かに、響ちゃんは雰囲気こそたまに大人びている感じがするけれど、でも実際年上に見えるかと言われるとそうは見えないの。

 

「うん、そうそう……って、あれ?」

 

 響ちゃん本人も言ってから自分で違和感に気付いたようで、少し困惑している様子。

うーん、なんて考え込んで――。

 

「まあいっか。考えても分からないし」

 

 と、すぐに諦めてしまった。対照的に、ユーノ君は真剣に考え込んでいるみたいなの。

 

「マイスター、まずは封印を優先してください」

 

「うん……そうだね、考えるのは後だ」

 

 そう言って、ユーノ君は再度ジュエルシードに向き直る。

 

 その時、私は何かが割れる音を聞いたような気がした。

 

 ――轟――

 

 刹那の内に視界は真っ白に塗り替えられる。響く轟音は鼓膜が破れなかったことが不思議なほどで――けれど、思考停止に陥るに十分な威力だ。

 

 雷の音のイメージと言えば、一般的にゴロゴロと鳴り響くソレだろうけれど……というか私もそのイメージしかもっていなかったけれど、そのイメージは今回のことで一気に覆された。下手をすればトラウマになるんじゃないか――なんて思うほどに。

 

 雷。語源としては神鳴り。昔は神が鳴らすもの、ということからそう呼ばれていたらしいけれど……、なるほど納得。一閃とともに鳴動し落下地点次第では炎上させるそれは神様が起こしたものと思ってもおかしくない現象だろう。そんな現象を起こすことのできる人がいれば、ともすれば神様と言われていたかもしれない。

 

 ただ、その人は敬われたか、恐れられたか。少なくとも愛されることなどあるわけもなく――なんて、昔の人がどう考えたかはわからないけれど。

 

 ――私は、ただ綺麗だと感じた。

 

 漸く正常な視界を取り戻したその時には、雷の落ちたその場所に一人の女の子が立っていた。金に輝く流麗な髪はツインテールに纏められており、風に靡く様子はさながら天使の翼。彼女を守るように漆黒のマントが翻るその中で、同じく黒いレオタードのようなバリアジャケットが、細く、それでいて均整のとれた身体の線を強調している。

 

 その姿はまるで――。

 

 ――世界の終焉に降り立った救世の女神のようでいて。

 

 ――絶対の最期を宣告しに現れた死神のようだった。

 

「えっ!?なんで……ってユーノ君!?」

 

 見惚れていた私が我に返ったのは、響ちゃんのそんな言葉。金髪の女の子が現れた場所は、寸前までユーノ君が立っていたすぐそばだったはずで、けれどそこにユーノ君はおらず、見回せば少し離れたところに跪いていました。今の今までその寸前までいたはずの場所にユーノ君がいなかったことに全く気付いていませんでした。

 

「ユーノ君大丈夫!?」

 

「僕は大丈夫、それより……」

 

 促された先にあるのは、突然現れた少女の姿。レイジングハートに彼女がユーノ君たちが乗っていた船を襲った相手だと聞いて、納得すると同時にこんな女の子がという驚きを隠せない。当の彼女は、私たちがいることも素知らぬ顔でジュエルシードを封印しようとしていて――って、横取りなの!

 

「ちょっと君!」

 

「はい、そこでストップだよ小動物」

 

 止めに入ろうとしたユーノ君に立ち塞がるように、もう一人女の人が現れた。

 橙色の髪は夕焼けのように輝いていて、少し釣り目の気の強そうな表情も相まって格好いい女性。歳は10代真ん中くらい、だと思う。不思議なことに頭の上には狼さんの耳がぴょこぴょこと動いていて、よく見ればお尻からはふさふさのしっぽがわさわさと揺れている。この人が、ユーノ君が話していたあの女の子の使い魔さん?って人なのかな。

 

「……っ!あんたは――!?」

 

「前にも言っただろ?ジュエルシードは貰っていくって」

 

「……今度は、前みたいにいかないよ」

 

「本気かい?焦れちまってタイミングずれちまったけれど、それでもさっきのアレを至近距離で受けたんだ、ダメージがないってわけじゃあないと思うけどねぇ」

 

「焦れてくれて助かったよ、しっかり避けれたからね」

 

 そう言うユーノ君は平気そうな顔をしているけれど……でも、何となく無理をしているような気がする。避けたなんて言っているけれど――今はともかく――避けた寸前の時は、少し辛そうな表情をしていたし。

 

「それに、守らなきゃあならない娘っこが二人もいるんだ。二対一でかばいながら戦うなんてできるのかい?」

 

「…………」

 

 そんな言い合いに気を取られているうちに、女の子はジュエルシードの封印を終えていた。女の子はふとこちらを振り向いて……なんとなく、目が在ったような気がした。

 

「さあ、痛い目を見たくなけりゃジュエルシードを――」

 

「アルフ、行くよ」

 

「えっ、いいのかい?」

 

 少し身構えようとして――響ちゃんの背中の上だけれど――思った以上にあっさりしていて拍子抜けして。どうして?と疑問に思って、その答えはすぐにわかりました。

 

「三人とも大丈夫か!?」

 

「みんな無事!?」

 

そう言ってやってきたのは、お兄ちゃんとお姉ちゃん。そっか、ユーノ君が連絡取れたって言ってたっけ。

 

「ちょっと疲れたけど、怪我とかはないよ」

 

「同じく!でもユーノ君が少し……」

 

 私たちのことを気遣ってくれつつ、お兄ちゃんは女の子と狼耳の人に対しての警戒を怠らない。それでも少し戸惑っているみたいで、本当に小さな女の子なんだな、なんて呟いている。お姉ちゃんはうっわ、かわいい……なんて見惚れているけれど。気持ちはとてもわかるかも。

 

「ちっ、仲間か……」

 

 狼の人はお兄ちゃんとお姉ちゃんを値踏みするように見る。多分、実力を測っているんだろうと思う。数秒見つめて、分が悪いと判断したのか――

 

「仕方ないね」

 

 小さく、そう呟いた。

 飛び去ろうとする二人に対し、お兄ちゃんとお姉ちゃんは一瞬仕掛けるべきかどうか悩んだようだけれど、私たちの安全を優先することにしたようだった。ジュエルシード回収を目的としているユーノ君やそれを手伝う私と違って、二人はあくまでも私たちのお目付け役だからそれは仕方ないだろう。

 

 でも、ジュエルシードとか関係なく、私は、あの女の子のことが気になった。理由なんてわからないけれど、無性に気になって、声をかけたくて――けれど、言葉は浮かばない。そんなやきもきした気持ちを抱いて飛び去る姿を見送ろうとしていた時。

 

「待って!」

 

 響ちゃんが叫んだ。

 

「……あなたは、どうしてジュエルシードを集めるの!?事情さえ話してくれれば、もしかしたら争わなくても――戦わなくてもいいかもしれないし……」

 

 響ちゃんの言葉は、二人がジュエルシードを狙う理由だった。ただ、そこには理不尽に襲われる怒りはなく、意図のわからないその行為に対する困惑もなく、純粋に、相手のことを知りたいという想いが在った。

 それを聞いて、私はさっきまでの正体のわからない気持ちがなんだったかわかったような気がした。

 

 ……多分、私もあの子のことが知りたいんだ。

 

 一瞬動きを止めた二人。それを見た響ちゃんはさらに言葉を続けようとして――。

 

 けれど、二人は響ちゃんの言葉に耳を貸すことはなかった。

 狼耳の人は怒っているような表情で何か言おうとしていたけれど、女の子は結局振り返ることすらなく、響ちゃんの言葉を最後まで聞くことなく飛び去って行ってしまった。

 

 

 




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