魔法戦姫リリカルシンフォギア   作:志樹

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02 報告

「以上が今回の調査でのできごとです」

 

「ふむ」

 

 遺跡調査を終え、遺跡の近くに設営しているキャンプに戻ってきていた。

 キャンプ地のテントの一つ、長距離通信用端末が設置されたテント内にて、僕は通信をしている。

 

 通信相手はスクライア一族の村長、通称おじいちゃん。すでに皆無となった頭髪と、それに反比例するように伸びる白髭というおじいちゃん然とした姿から、みんなにそう呼ばれている。

 ……わけでなく、単純にみんなのことを小さいころから見守るおじいちゃん的存在だからだ。年齢は不詳。誰に聞いても、物心ついた時からこの姿だったそうだ。どう考えてもおかしいことのように思えるけど、一族の中ではそういうものだという認識で統一されていて、今更誰も気にしなくなっている。

 

「そうさのぅ……、説教に関しては皆に散々言われとるだろうからな、村に帰ってきてからでよかろう」

 

「はい……」

 

 合流時に叱られ、キャンプに戻ってきても叱られ、散々叱られ倒して遺跡調査以上に疲弊することになったけれど、全ての原因は僕にあるんだから仕方ない。なにより僕のことを心配して叱ってくれているのだから、感謝こそすれ不満などあるわけがない。

 しかしそうは言っても、説教されたいわけでももちろんない。

 

「ともかく、けががなくてよかったわい」

 

 そう言うと、安心したような優しい表情を浮かべた。やっぱり、心配をかけていたんだろう。少し、申し訳なく思う。

 

 話していた内容は、僕が遺跡調査中に体験した出来事――自動扉事件に関してはごまかそうとしたけれど、レイジングハートが余すことなく話してくれました――に関してだ。

 普段であれば、遺跡調査、発掘に関する報告は現場のリーダーに報告し、まとめられた状態でおじいちゃんへと報告されることになる。けれど、何か特別なものを発見した時には、その報告とは別に、発見者自身から直接おじいちゃんに発見した時の状況などを話すことになる。たまに、おじいちゃん自身が現地を見に来ることもあったりもするけれど、そうする判断基準も理由も聞かせてもらえたことはない。

 

「問題は、少女の方じゃの」

 

 それが本題というように、おじいちゃんは雰囲気を一変させた。

 確かに、それが一番の問題だった。普段ロストロギアを発掘したりするのとは異なり、あの女の子は生きているのだから。

 

「ユーノはどうするべきと思うかの?」

 

「え……?僕ですか?」

 

「うむ」

 

 予想外に、唐突に質問され戸惑う。

 いきなり聞かれたこともそうだけど、そもそも、どうするかは既に決まっているものと思っていた。

 

 ともかく、聞かれたことに対する答えを考えてみる。

 多分だけれど、おじいちゃんが今聞いているのはスクライア一族の立場から考えて、ということなのだと思う。

 

 スクライア一族は遺跡からの発掘品を管理局へと受け渡すことで生計を立てている――もちろん、それだけではないけれど――一族だ。とは言っても、管理局へ受け渡すものは発掘品の中でもごく一部、ロストロギアと呼ばれるものに限られる。

ロストロギアは、中には世界を崩壊させるレベルのものも存在し、管理局としては見つけ次第手元に置いておきたいらしい。けれど、万年人員不足の管理局では、あるかどうかわからない不確定な状態で、ロストロギアの発掘に人員は避けない。

そこで、発掘を生業としているスクライア一族が協力し、ロストロギアを発見した際には受け渡し報酬を得ているというわけである。

 それ以前は、管理局からは盗掘者集団のような扱いだったらしいけれど……。元々は発掘が好きで集まった集団だ。長い年月が経ち、一族となるまでに変化しているが、その間の経験と知識はずっと受け継がれてきていることは確かだ。管理局からすれば、単純に排除するよりも利用した方が効率的だと判断したのだろう。

 

 まあ、管理局の裏事情はともかく、おじいちゃんの聞いているのは、少女の処遇をそれにのっとるべきかどうか、ということなのだろう。

――つまり、管理局に引き渡すべきか否か。

 

「……管理局に保護してもらうべきだと思います。単純に遭難していた人を保護したとかならともかく、あの施設を見る限り犯罪に関わってくることは確かだろうし……、少なくとも、スクライアだけでどうこうするわけにはいかないと思います」

 

 管理局で彼女が犯罪者のような扱いを受けるというのであればともかく、現状では無理にスクライアで保護する理由はないのだから。

 

「まあ、それはそうじゃな。その通りじゃ」

 

 もちろん、理由がないだけで、少女をスクライアで保護する、という選択肢は存在する。

管理局と協力関係にあるといっても、言いなりになっているわけではない。隠し事もあるし、発掘品を渡さず隠すこともある。スクライアでデータを取り切ってから受け渡す、なんてことはしょっちゅうだし。

 

 おじいちゃんは答えを反芻するように、ふむと頷いてから、もう一つ質問を投げかけた。

 

「では……そうじゃな、ユーノとしてはどうしたい?」

 

「僕がどうしたいか……」

 

どうすべきか、ではなくどうしたいか。管理局との関係を考慮しない場合、ということだろう。

……正直、そんなこと聞かれてもわからない。偶然僕が見つけたというだけで――例えば、彼女を守りたいみたいなボーイミーツガール的な感情を抱いているわけではないし、そもそも彼女はまだ眠ったままで会話すらしたことない。それに、遺跡やあの施設と彼女の関連性を考えても、僕ではその重要性を理解できていない。どうしたいかと聞かれても困る。

ただ、単純に思ったことが一つ。

 

「僕としては、本人の意思を尊重したいです。あの女の子が起きて、話を聞いてからどうするか決めるとか。特に急いでいるってわけでもないんだし」

 

 今回の問題は、管理局とスクライア一族だけの話でもない。当の本人である少女自身の意思も当たり前にあるのだから。

 ……と、いいように入ってみたけれど、結局のところ僕にはわからないので僕に聞かないでくれってことなんだけど。

 

「……ふむ」

 

 おじいちゃんはそんな僕の言葉を聞き、数秒思案して

 

「じゃあ、そうしようかの」

 

と、笑みを浮かべながら答えた。

 

「……え? いや、そんな簡単でいいの?」

 

 仕事として変えていた言葉遣いが、ついいつも通りに戻ってしまった。

 確かに、僕の意見としてそう答えたけれど、本当にそれでいいのだろうか。

 

「簡単ではないぞ。だから大人だけで決めず、こうやっておぬしの意見も聞いたんじゃからの。もちろん、意見としては皆それぞれにあったのは確かじゃが、結局は本人の意思を聞かんことにはどうしようもないんじゃないかとも言っておってな……。まあ、そういう意味では、ユーノの意見を聞くまでもなくそうなっておったがの」

 

「は、はあ……」

 

 それって、僕に聞いた意味ないんじゃ……いや、僕の意見も取り入れようとしてくれたってことなのか。彼女の意思を聞いたとしてもその通りにするかどうかはまた別の話だろうし、先に意見を聞いておいて判断材料にするってこと?でもそう考えるとあの子と話をして意見が変わる可能性もあるわけだし、後で意見を聞いた方がいいんじゃないのかな。

 というか、結局今は判断できないからまた後で、ってことで、そうなるとやっぱり現時点で僕に意見を聞いた理由がわからない。

 

「ふむ、今の段階で意見を求められた理由がわからんって顔をしとるな」

 

 困惑が顔に出ていたようで、疑問を言い当てられる。

いや、むしろそういう疑問がでることがわかっててこの話をしてるのか。

 

「うん、まあ……。あの子が起きて話をした後でもいいんじゃないかなと思います」

 

「そうじゃろうな。わしもそれでよいと思う」

 

「じゃあどうして?」

 

「さての……、どうしてじゃと思う?」

 

 いたずらを企む悪ガキ――どちらかと言えば僕の方がガキだろうけど、――のような表情でおじいちゃんは言う。……でも、目は笑ってない?ような気がする。冗談っぽく入ってるけど、実は真剣なのだろうか。おじいちゃんは、基本的には優しいけれど、全てを語ってくれることはない。答え合わせはしてくれるけれど、答えを教えてくれることはない。優しいけれど、厳しい。というか、結構スパルタだ。

 

 だから、つまりちゃんと理由があるから自分で考えてみろということなのだろう。

 

「……少なくとも、意味のないことじゃないってことは確かなんだよね」

 

素直にそのままの意味に受け取っても意味はない。ということは、別のところに意味があるのだろう。

遺跡に施設、スクライアに管理局、少女にロストロギア、関連するところはいくつかあるけれど……。

 

「答えは今すぐ出さんでもよい。そうさの……、こちらの村に帰ってきたら聞かせてもらうことにしようか。それまでの宿題じゃ」

 

 思考に没入しそうになって、引き留められる。そういうことなら、急いで考えることもないか。村に戻るまで少なく見積もっても数日はかかるだろうし、その間に考える時間もあるだろう。

 

「わかりました、そういうことならそれまでに考えておきます。……と、帰るまで言えば、遺跡内で見つかったロストロギアに関してはどうなったんですか?」

 

 女の子に関する話にばかり気を取られてすっかり忘れていたけれど、本来の目的である遺跡ではしっかりロストロギアが見つかっている。遺跡探索が終わって半分は終わったつもりでいるけれど、そのロストロギアの処理を終えなければ仕事は完了したとは言えない。

 

「そういやいっておらんかったか。今回見つかったロストロギア――ジュエルシードは、いつも通り管理局に渡すことになる。ただ、すぐには向こうの予定がつかんらしくての、途中まではおぬし等現地の者たちに運んでもらうことになる」

 

「え……?それで大丈夫なんですか?」

 

普段であれば、管理局の職員が遺跡まで来て現場にて引き渡している。その理由としては、ロストロギアの危険性を考慮してということと、実際に発見された遺跡を管理局の方でも調査することになるため、発見した場所や状態などの情報共有をしながら引継ぎが行われることになるためということがある。

そしてもう一つ、ロストロギアを狙った犯罪者に襲われる危険性があるためだ。

 

「うむ……、確かに心配ではあるのじゃがな。それぞれ対策は考えておるよ。まずロストロギア自体に関しては、ジュエルシードの性質上扱いを間違えなければ暴走はないと考えておるんじゃ」

 

「そう言えばまだ聞いてませんでしたけど、ジュエルシードってどういうものなんですか?」

 

「ジュエルシードは近くの者の願望を感知して、それを実現しようとして発動するロストロギアじゃ。ただし、感受性は高いくせに方向性をちゃんと定めてやらんと思いがけぬ方法で願いを叶えようとする欠陥品での、下手な使い方をすると暴走しよる。じゃがまあ、その性質ゆえに封印しておいてやれば勝手に発動することもないし、安全は確保できるよ」

 

 封印――つまり、外界の干渉を受けないようにするわけか。確かに、発動条件が願望を検知してということなら、それさえなくしてやれば発動することはないだろう。問題点としては定期的に封印をかけ直さないといけないことだけど、どちらにせよ誰かが張り付くことにはなるだろうしそこは大丈夫だと思う。

 

「遺跡などの情報の引継ぎについては、単純に残るメンバーと先に帰るメンバーに分かれてもらうことになるの。それぞれメンバーについてはこれから相談する予定じゃ」

 

 それについてもまあ大丈夫だろう。今回探索参加者は僕を入れて19人、内半分は経験を積んでいる人たちだし、二手に分かれたとしてもそれなりの人数は確保できる。それに、封印処理自体は全員行えるし、そもそもレイジングハートがいれば魔力さえあれば勝手にしてくれるくらいだ。

 

「問題は……襲われた場合、ですよね?」

 

「……うむ」

 

 スクライア一族は、一般人の括りではそれなりに魔法は使えるほうだけど、その魔法は遺跡探索用のものがほとんどだ。遺跡探索以外で使うものでも補助系が9割、戦闘向きのものはごく一部で使える人も限られてくるし、実際に戦闘を経験したことのある人なんて一族の中でも両手で数える程度しかいない。

 

 もちろん、どちらかと言えば襲われる可能性の方が低いけれど、想定すべきは最悪の可能性だ。犯罪者に襲われた場合のことを考えると、一族の仲間だけというのはあまりにも心もとない。

 

「じゃが、それについても管理局と相談して対策は打っておる。ちょうど近くの管理世界で任務を終えた管理局員と嘱託魔導師がおるそうでな、そちらと連絡を取って同じ船にて受け渡し場所まで行くことになっておる。いつもの受け渡し時に比べると人数的には少し少ないが、それでもA級以上の魔導師でもない限りそうそう後れを取ることはないということじゃよ」

 

A級以上の実力を持った魔導師なんて管理局内でもなかなかいるレベルではない。それほどの実力を持った犯罪者になると、指名手配を受けているものがほとんどになり、管理局の目が異常に厳しくなって世界間の移動に一般の航路なんて実質使用不可能だ。となると、逆に僕らとしては船に乗ってしまった方が安全ということになってくる。

 

「それなら大丈夫そうですね。注意するに越したことはないだろうけど、少なくとも僕らだけで運ぶのに比べたらよほど安全だし」

 

「そういうことじゃ、一応は安心してもらって構わんよ。……さて、結構長い間話してしもうたな。ほかに聞いておきたいことがなければ通信を終わろうと思うが?」

 

 ほかに聞いておきたいこと……、何かあるような気がするけどぱっと出てこないな。まあ、最悪帰ってから聞いてもいいてもいいし……。

 ――と、ないと答えようとしたその時、今まで何も言わなかったレイジングハートが口を開いた。

 

「マイスター、グランドファザー、私から一つ質問してもよろしいでしょうか?」

 

「レイジングハートさんか、なんじゃ?」

 

 おじいちゃんはなぜかレイジングハートのことをさん付けで呼んでいる。以前どうしてか聞いた時には何となくと言っていたけれど、未だに違和感がある。二人(?)はあまり話す機会がないようでいて、実際には話をしていることが多い。内容は大概僕のこと。まあつまり、育ての親と現在のお目付け役みたいなものなんだろう、……僕としてはあまり面白くないことだけれど。

 

「遺跡――というより、その内部で見つかった研究施設に関することなのですが――」

 

「失礼します。」

 

 レイジングハートが話し始めようとしたその時、遮るように、テント内に一人の女性が入ってきた。

 

「ごめんなさい、まだお話し中でしたか」

 

 入ってきたのは、ユディティ・スクライア。僕と同じ薄茶の髪をポニーテールにした女性だ。現在17歳、探索をしつつも、医療関係の仕事に就こうと勉強中。小さい頃からよく面倒を見てくれていて、僕のお姉さん的な存在だったりする。

 

「いや、構わんよ。どうしたんじゃ?」

 

「例の女の子が目を覚ました。再度診察はしましたが、やはり体調に関しては異常なし。多少体のだるさはあるようですが、本人も問題はないと言っています。あと、少し話をした程度ですが、日常会話も問題なくこなせていますね。」

 

「そっか……とりあえずはよかった、のかな」

 

「うむ」

 

 一応は一安心でいいのだろう。レイジングハートからも聞いていた通り体調も問題ないということだったけれど、かといって目を覚ますまでは安心しきれるものではなかったし、最悪の場合には目を覚まさない可能性も考えていたくらいだったのだから。

 ともかく、目を覚ましてくれてよかったと思う。……でも、内容に反してユディの表情は明るいものではなく、むしろ深刻そうに見える。

 

「……もしかして、ほかのところで何か問題があったの?」

 

 女の子の出自とかあの場所にいた理由とか、思い当たることはいくつもある。

 

「ええ、問題が一つ」

 

 

 でも、その深刻さは予想の斜め上を超えていった。

 

 

「彼女、記憶喪失のようです」

 

 

 

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