魔法戦姫リリカルシンフォギア   作:志樹

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04 襲撃

「魔法の使用に必要なのは、魔力と呪文の二つだ」

 

 飾り気のない貨物船の一室、聞こえるのは静かに響貨物船の駆動音と自分の声。窓の外は暗く、何とも形容しがたい色のもやが渦巻く景色が広がっている。

 

「魔力は魔法を使うために必要な体力のようなものだね。多くの世界では、魔力素という魔力の源が存在しているんだけど、それを体内に取り込むことで魔力に変換しているんだ。この変換機能を持つのがリンカーコア。これがなければ魔法を使うことはできない。リンカーコアは遺伝によるところが多くて、親や先祖が持っていなければ、リンカーコアが生じる可能性はほぼ皆無と言っていいくらいだ。ただ、突発的にリンカーコアを持った人が生まれてくる可能性が全くないわけじゃないし、前例はいくつかあることも確かだね」

 

「ふんふん」

 

 僕の目の前では、響が興味深そうに話を聞いている。彼女の性格上、話を聞いてるだけで理解しているかはまた別の話であるということは、この数日でよく理解した。……まあ、基本的なことだし詳細はともかく、簡単に理解してくれていればそれでいいけど。

 

「リンカーコアの働きは魔力素から魔力への返還だけではなくて、魔力の蓄積と放出も担っている。蓄積量だけが多ければいいってわけでもなくて、例えどれだけ魔力が多くても放出量が小さければ一気に使うことはできないし、逆に放出量が多くても蓄積している量が少なければ、すぐになくなって魔法が使えなくなってしまう。ちなみに、魔力への返還の速さ――変換効率も人によって変わってくるね。変換効率がよければ一日寝れば回復するし、悪ければ回復まで数日かかるって感じだね。それぞれを簡単に言えば、水を入れるタンクの大きさと、蛇口の大きさ、補給口の大きさってところかな」

 

 響が目を覚まして、今日で五日目。

 あれから、響を見つけた施設を見せてみたり、主要都市の写真を見せてみたり、いろいろ話をしてみたりしたけど、記憶を思い出すような様子はない。時々、~が懐かしいというような発言をすることがあったりはしたけど、本人は無意識のようで、聞き返しても聞き返されて初めて気づいたという様子で驚くだけだった。まあ、少なくとも記憶を完全に失っているわけではない証拠だと思えば悪いことではないかなと思う。

 

「次に呪文。これは、魔力をどう使うかっていうプログラムだね。少し違うけど、魔力が電気で呪文が機械と考えればいいかも」

 

「おおっ!それっぽい」

 

 結局、何も進展はないままということだ。期待するとすれば、あの施設から何かデータが出てこないかってことくらい。

 その間にジュエルシードの受け渡しの段取りが決まったようで、昨日近くから出航する貨物船に同乗することとなった。なぜか僕と響はそのジュエルシードの受け渡しメンバー側に入れられていて、おじいちゃんからよろしくななんて言われてしまった。

 

「ただ、僕らが魔法を使うときには、始動キーだけで実際に呪文を唱えることはあまり多くない。というのも、デバイスを使うことでその呪文を短縮してるんだ。僕の場合はレイジングハートだね」

 

「魔法の杖……みたいなもの?」

 

 僕はともかく――経験はともかく、魔法資質だけで言えば一応Aランク近くあるという理由はある――どうして響まで一緒に行かせることにしたのかがわからない。響の世話役?としてついている僕とユディ二人ともが受け渡しメンバー側に入っているからなのかもしれないけど。

 

「まあ、そんな感じだね。デバイスに呪文を記録しておいて、実際に使用するときには始動キーのみで魔法を行使するんだ。この記憶媒体として使用させるデバイスのことをストレージデバイスっていうんだ。ちなみに、デバイスなしでも熟練した人だと2,3個程度の魔法なら始動キーだけで行使できたりするけど、基本的には魔導師はみんな自分用に改造して何かしらの形で持ってることが多いかな」

 

 メンバーを伝えられたのが一昨日、貨物船に合流し乗り込んだのが昨日とかなり性急に感じたけれど、どうやら近くを通る貨物船がこれ以降だとかなり期間が空いてしまうために急いだらしい。そもそもなんでそんなに急いでいるのかと思っていたんだけど、聞いてみたところ次の予定に管理局と合同遺跡調査が入っているからだとか。理局との合同が決まってるなら、その人員をこっちの受け取りに回せないのかと思うんだけど、それはそれ。対応する部署が違うからと認められないそうだ。これが役所仕事ですねわかります。

 

「そしてもう一つ、レイジングハートみたいにAIの入ったデバイスをインテリジェントデバイスっていうんだ。このタイプのデバイスは、記憶媒体でしかなかったデバイスに対し、魔法発動時の補助や状況判断とかその他色々サポートをしてくれるんだ」

 

「正確には魔法性能の向上から緊急時の魔法自動発動、デバイス機能の自動調整及び修復ですね。手前みそながら、私の場合はさらに自己改造などできることは通常のインテリジェントデバイスに比べ非常に多いです。たとえば、魔力を蓄えさせておいてもらえれば魔法の使えない人が私を持った状態だったとしても、貯蓄分なら魔法を行使できます。ただ、マイスターはあくまでマイスターであってマスターではないので、私のことを全く使いこなせてはおりませんけれど」

 

「一言余計」

 

「事実です」

 

 警護に入る予定だった管理局員の人たちとは、同じく昨日合流してすでに打ち合わせ済みで、ジュエルシードはほかの荷物を置いてある貨物室とは分けて特別に隔離して敬語についてもらってる。とはいっても、張り付いて警護してるというわけではない。

 

「作った人であって使う人じゃないってこと?」

 

「まあ、そうだね。……といっても、正直作ったと言えるほど何かしたってわけでもないんだけどね。元々遺跡で発掘したレイジングハートの素体を僕ができる範囲で修理して、抜け落ちてたAIプログラムをこれまた遺跡で発掘されたAIプログラムを素体に適合するように構築し直して読み込ませたってだけだし」

 

「実際、現在の状態まで私を組み直したのは私自身ですからね。私が言うのもなんですが、起動初期などエラーばかりでむしろよく起動できたなと思います。……まあ、原案があったと言え構築されたAIが“私”だったからこそ起動したのですし、そういう意味では確かにマイスターなのですけれど」

 

 襲撃を警戒しての警護と言っても、そもそも襲撃される可能性自体が低いと考えてるからこそ、警護についてる管理局の人たちも、スクライアのみんなも比較的緩い。だからこそ、こうして貸してもらった一室でこんな呑気に魔法やデバイスに関する話なんかしてるわけだし。

 

「つまり、ユーノ君もレイジングハートもすごいってことだよね!」

 

「いや、その要約を僕が間違ってないというには気恥ずかしいけど、それはともかく重要なのはそこじゃないからね」

 

 そんな感じで。

 何もすることのない退屈な時間を魔法に関する講義という名の時間潰しで過ごしていた。ほかにも管理局のことや、次元航行に関すること、スクライアのことなんかについても話していたけれど、響は難しい話は苦手なようで、一般的に知っておくべきこと――それこそ常識と言える内容をかいつまんで説明する程度に抑えておいた。

 正確には何もすることがないわけでもないのだけれど、響を一人にしておくわけにもいかないから――一応、監視的な意味もある――ということで、僕は響と一緒に待機ということになっている。

 

 道程としては今で大体半分。明日にはジュエルシードの受け渡し場所に到着し、僕らは一先ず仕事完了。船を乗り換えて僕らはスクライアの村へと帰る予定――だった。

 

 

 ―――輝―――

 

 

 突如、室内を光が覆う。同時に船が大きく揺れ、何が起こったのか考える暇もなく僕は地面に倒れ込んだ。

 

 少し遅れて大きな爆発音――いや、それは爆発音ではなく――雷鳴。

 

次元間を航行するこの船に雷が直撃した音だった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 暫くして、回復した耳に最初に聞こえてきたのは鳴り響く警報だった。

次いで、慌ただしく走り回る足音と飛び交う怒号。

 つい先程までなんの問題もなく航行する一隻の貨物船だったそこは、一瞬にして戦場のような空気を醸し出していた。部屋は薄暗く、先ほどまでついていた電気が消えている。近づいても自動扉が開かないところを見ると、さっきの攻撃で船のメインシステムがダウンしているようだ。――そう、攻撃。

 

超長距離時空転移魔法。

単純想定でもSランク以上であることが間違いないその攻撃は、警戒していた僕たちですら予想外のものだ。

 ジュエルシードというロストロギアを運搬する危険性は理解していたつもりだし、それを運搬する上で必要な護衛も不十分であることは確かだ。それでも、Aランク程度の犯罪者くらいなら充分に対応できる準備は行っていたはずだったし、いくつかの想定と対処法は相談していた。

 それもこれも、犯罪者が船に乗り込み襲ってくるということが前提であり。

  例え貨物船と言えど、次元航行船ごと撃ち落そうとするような攻撃は想定していなかった。

 

 ともかく、焦りと混乱はあるけど無理やりにでも思考を切り替える。まずはスクライアのみんなと連絡をとって、状況確認を……と思ったけれど、聞こえてくるのはノイズのみ。

 

「通信、および念話妨害がかけられていますね。おそらくは船全体が同じような状況でしょう」

 

 どうしよう。どうするべきなんだろうか。敵の目的は何か。そんなものはわかり切っている、ジュエルシードだ。敵の数は?わからない。少なくともSランクの魔法を扱える魔導師がいることは確かだ。そして、その魔導師はまだこの船に乗り込んでいるわけではなさそうだ。最初の攻撃を受けてからまだ1分も経っていない。なら別働隊がいたと仮定しても、まだ船内にはいないか、今乗り込もうとしているかのどちらかだろう。

 

「……ユーノ君、今のって攻撃だったの?」

 

 響が不安そうにこちらを向いていた。魔法に関して全くの素人の響にはさっきの衝撃がどういうものかなんてわかってはいないんだろう。ただ、僕の雰囲気から察したようで、いつもの明るさは鳴りを潜め、緊張感を醸し出している。

 

「……うん、多分」

 

 そうだ、響はどうするべきなんだろうか。一緒にここに隠れてるべき?それとも連れて部屋を出る?おいて僕だけ部屋を出る?みんなと合流しようと動くなら連れて行くべきだろうけど、ジュエルシードを守るために動くならおいて行くべきだ。

 

――そんなとき、激しい雷鳴とともに再び船体が大きく揺れた。

 

 窓の外で光の束が弾け飛び散り、部屋を明るく照らす。先ほどと同様の攻撃だけど、直撃したわけではなかった。おそらくは、誰かが船外に出て障壁を張ったのだろう。そうなければ、今の攻撃で船は航行不能なレベルになっていたかもしれない。

 

「ユーノ!響ちゃん!」

 

 扉が開いたかと思うと、ユディが部屋に入ってきた。

 

「よかった、けがはないね?」

 

 心配して急いできてくれたようで、少し息を切らしている。無事な僕らの姿を見て安心したのか、安どの表情を見せるけれど……、そんなユディの頭は、赤い血でぬれていた。

 

「ユディさん大丈夫ですか!?」

 

「ユディ!頭が……」

 

「さっきの揺れで壁にぶつけておでこを切っただけよ」

 

 そう言いながら髪をかきあげ、ハンカチで血を拭う。傷口を見た感じでは、そこまで深いものではなさそうだ。少なくとも、直接攻撃されてできたものじゃないってだけでも少し安心した。……でも、現状はそんなに悠長なことを言っていられる余裕はなさそうだった。

 

 ―-―鈍――-

 

 と、再び船全体が揺れる。障壁越しの余波によるものだけど、それでもかなりの振動が伝わってきている。

 

 

「私は船外に出て船の防御に回るわ。ユーノ、あなたはジュエルシードの回収に向かってくれる?」

 

「やっぱり、相手の目的はジュエルシードなんだね。……わかった」

 

 戦いなんて訓練でしたくらいだ。もし相手が非殺傷設定にしていなければ死ぬかもしれない。それでも、今はぼくがむかわなくちゃならない。

 

「私もいってきます!」

 

「――って、響!?」

 

 決意を決めた僕の横で、響がやる気満々に宣言していた。いやいや、響は魔法使えないんだし、ここに残ってもらった方がいいんじゃ……。

 

「ユーノが無茶しないようにお願いね」

 

「はい!」

 

「ユディ!?」

 

 僕は魔法を使えるしレイジングハートもいるけど、響には魔法は使えない。身を守るすべはないし、響には悪いけどどう考えても連れて行った方が危険だろうに……ユディも反対すると思ったけれど、まるで予想していたかのようにあっさり認めちゃうしどうして……?

 

「行こう!ユーノ君!」

 

 腕を引かれ、なし崩し的に一緒に部屋を飛び出す。振り向くと、ユディが反対方向へ走っていく姿が見えた。外の援護に向かったんだろう。

 

「いやいや、ちょっと待って……、僕はまだ魔法を使えるけど、響は身を守る術はないんだよ?もちろん響のことは守るけど、僕自身戦うのは初めてだし、ちゃんと守れないかもしれない」

 

「ううん、大丈夫」

 

 ――絶対に大丈夫。

 

 と、何の根拠もないのに、響は力強く言い切った。

 

「ユーノ君とレイジングハートが守ってくれるなら大丈夫だよ」

 

 この前と同じだ。僕や、ユディを信じると言ったときと同じ。

 何の根拠もないのに、信じ切って、断言できる強さ。

 僕が持っていないもの。

 

「……わかったよ。でも前に出ないほしいのと、あと極力僕から離れないように、守れないからね。レイジングハートは常に周囲への警戒を怠らず、咄嗟の場合には自動での障壁展開をお願い」

 

「すでに行っています。敵が潜伏している可能性もありますが、どうせそこまで広い船ではないですからね、警戒しつつも最短ルートで向かいます」

 

 潜伏?

 

「まだ敵は外で攻撃してるんじゃ?」

 

 少し時間を開けつつではあるけど、攻撃は続いている。どれほど高ランクの魔導師であろうと、一人ではそう何度もSランク魔法を打ち続けるのは不可能だろうし、数人で代わる代わる攻撃しているんだと思っていたんだけど……。

 

「この攻撃はあくまでも囮です。囮にしてはかなり大規模ですが、それも相手の狙いでしょうね」

 

「いったいどういう……。いや、そうか」

 

 管理局職員数人と戦闘経験のあるスクライアの大人達が船外に出て障壁を張っていなければ、今頃この船はすでに落ちていただろう。 幸いにも船への攻撃自体は連続的なものではないため、多少実力としてはランクの落ちる彼らでも充分に耐えられている。

 しかし、それも時間の問題だ。そもそも相手の方がランクが高い上に、相手がどれだけの人数で攻撃しているのかはわからない。長期戦に持ち込まれても先に瓦解するのはこちらだし、疲弊した後に強襲されれば手も足も出ない。

 

……なんて、最初は考えていた。

 

 焦っていたからか気付かなかったけれど、少し考えればわかることだ。派手な攻撃をして意識を集中させ、その隙に目的を達成する。いつの時代もどの場所でも誰であろうといつでも使われてきた常套手段。ただ、知っていても思い至らなかったのは、その攻撃が船ごと沈めるような強力なものだったということ。

 

「相手こそ持久戦など求めていません。例え実力が勝っていようと相手の目的が強奪である以上、その場に留まれば留まるほど不利になるのは相手なのです、証拠も記録も極力残したくないでしょうからね。証拠も纏めて跡形もなく消し去るというのなら別ですが」

 

「でも、ユディやみんなは……特に、管理局の人たちなんかは気付いてないのかな?」

 

「気付いてはいるでしょう。しかし、気付いている人たちこそ身動きが取れない。そこが相手の上手いところですね」

 

 初撃による輸送艦のシステムダウン。その後警戒させてからの攻撃で輸送艦の防衛に貼り付かせ、目的に気付いた人達――少なくとも、実力者たちの身動きをとれなくする。

 

しかしそう考えると、ますます危険性が上がって響を連れて行かせた意味が分からなくなってくるな……いや、その辺については後で考えよう。

 

「そして念話妨害、ですね」

 

 おそらくは輸送船全体を覆う広範囲のジャミング。ジャミングだけならともかく、これほど広範囲になると難易度が高くなってくるけれど……。

 

「っ――!?」

 

「ユーノ君!」

 

 もうすぐジュエルシードを保管している部屋に着くというところで、廊下の壁にもたれるように人が倒れていた。

 

「大丈夫ですか!?」

 

 声をかけて走り寄る。倒れていたのは、ジュエルシードの護衛に加わってくれていた管理局の嘱託魔導師だ。見たところは外傷はないようだけれど、かと言って動けそうな状態でもなさそうだ。

 

「スクライアの坊主か……。悪いが動けそうにない、ロストロギア……任せられるか?」

 

「そのために来ました」

 

「正式な管理局員なら死守しろとでも言うんだろうけどな……、まあ、無茶はするな。ロストロギア持ってった奴は一人だが、かなり強い。勝てないと思ったら逃げちまえ」

 

「任せてください!」

 

 横で元気よく返事をする響。そこの返事は僕がするところだけどね。

 にっ、と笑って励ましてくれる嘱託魔導師の人。この人も結構場慣れしているとは聞いてたけど、そんな人が強いっていうなら相当なんだろう。……僕に何とかできるだろうか。

 

「えっと、あなたは……?」

 

「動けるようになったら追いかける。間に合えばだけどな。……行け、敵はこの先をまっすぐ行った」

 

「ありがとうございます」

 

 それだけ声をかけて再び走り出す。

 かすかに残る魔法行使の残滓が、ジュエルシードを奪った敵は近いことを教えてくれる。背後に響の走る気配を感じつつ、いつ攻撃があっても反応できるように、障壁魔法の発動を待機状態にしておく。

 

 そして、突き当り。

角を曲がり、後部ハッチが見えたと同時。

 

ハッチから出ようとする黒い影を捉えた。

 

 

―――protection―――

 

 

 一瞬遅れて、障壁に衝撃を受ける。レイジングハートがサポートしてくれていなければ完全に間に合っていなかっただろう。

 

「――えっ?」

 

 そこにいたのは、自分と同い年くらいの少女だった。

 まず目に入ったのは、綺麗な金髪の長いツインテールだった。次に、その美しさを覆い隠すような黒いマント。手に持つデバイスも黒く武骨な斧型で、少女には不釣り合いに見える。マント下に見えるバリアジャケットの装甲は薄く、彼女のスタイルがスピード型であることが見て取れた。そして右手には、ジュエルシードの入った封印処理の施されたケースを持っている。

 

「女の子……?」

 

「ユーノ君!」

 

「マイスター!」

 

 予想外の相手に、呆けてしまっていた。その隙を相手が逃すわけもなく、一瞬にして距離を詰められる。

 相手の攻撃による衝撃に備え――瞬間、視界が光で埋め尽くされた。

 

「うわっ――!?」

 

 眼晦まし!?なんて気付いた時にはもう遅かった。

すでに目は見えず、とにかく障壁を張ろうとレイジングハートを前に突出し――横を通り過ぎる人の気配を感じた。

 

「待って!」

 

 この状況で待てと言って待ってくれるわけないだろう、なんて思うのと、横を通り過ぎたのが響であり、通り過ぎる時にレイジングハートを持っていかれたと気付いたのは、どちらが早かっただろうか。

 

「何を――!?――理解しました」

 

 聞こえてきたレイジングハートの声は困惑の色が見えたけれど、すぐに響がどうしたいのか理解したようだった。

 

「どうしてこんなことをするの!?」

 

「――ッ!離して!」

 

 もみ合う気配と、言い争う声。

 ただ、目の見えない僕には何もできず。

 

 

 ―――閃―――

 

 

 雷が、直撃した。

 

 そこからの全ては、数瞬がとても長く感じられた。

 

「――――ッ!?」

 

響の小さな悲鳴と、金髪の少女の驚きの声。

 

 大きく傾いた船では立っていられず、そのまま前に滑り落ちそうなのを堪えようとして――。

 

『駆けなさい――!ユーノ!』

 

 逆らわず、落ちるように走り出した。

 ノイズ交じりに聞こえてきたレイジングハートの声は今までに聞いたことのないようなもので……、それだけで、とにかく言う通りにすべきだと感じた。

 

 走り出して数歩。

 足裏に感じていた固い地面の感触がなくなり、全身を包む浮遊感。

 そして、永遠に思えた盲目が回復し、わずかながらの光景を捉えた。

 

 船外に放り出された響と、金髪の少女。

 ケースが開き、周囲に散らばる20個のジュエルシード。

 

 そして、僕自身も船外にいることを理解し――。

 

「ユーノ君っ――!!」

 

 響を守らなければと、思った。

 

 

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