魔法戦姫リリカルシンフォギア   作:志樹

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07  不思議な力

 突然鳴り響いた電子音に、滅茶苦茶になっていた思考が停止する。

 

 そしてただ、その音の示す意味だけが思い浮かんだ。

 

「あ、五時だ。」

 

 私の門限は五時半。だから、もうすぐ帰らないといけませんよっていう合図に、いつも夕方の五時には携帯のアラームが鳴るように設定していたんだ。たった今なるまで、すっかり忘れてしまってたの。そっか、もうそんな時間なんだ。

 

 ……帰りたいなぁ。

 

 帰ったらどうしよう。まずはお風呂かな?いっぱい汚れちゃったし。お風呂に入った後は、ご飯をおなかいっぱい食べるの。お母さんのごはんはいつもおいしくて大好き。多分、世界で一番おいしいごはんだと思うの。

 私はまだそんなに気にしたことないけど、お姉ちゃんはいつも食べ過ぎて太ったらどうしようって困ってるの。毎日武術のお稽古してるから、気にすることないと思うんだけどな。お父さんとお兄ちゃんはいつもおなかいっぱい食べてて、気を抜いたら私の分まで食べられちゃいそうになるの。だから、私はいつも自分の食べる分は先に取り分けてからゆっくり食べてるんだ。……なんて、考えてたらおなかすいてきちゃった。

 

 ――よし、帰ろう。

 

「早く帰らなきゃ、門限過ぎたら怒られちゃうもんね。」

 

 気付けば、腕に纏わりついていた気持ち悪いのはなくなってて、何事もなくいつも通りの私の手がそこにあった。掌には、真っ赤な宝石が乗っている。

 黒いのは私から少し離れた場所にいて、なんだか様子を伺っているような感じ。もしかして、アラームの音にびっくりしたのかな?お兄ちゃんも不思議なものは怖がりだって言ってたし。……でも、アレは確かに不思議なものだけど、あの黒いのはおにいちゃんが言ってた不思議なものとは違う気がします。今更だけど。

 

「えっと……」

 

 どうしようかなと考えて、一つの作戦を思いつく。なんて、作戦と言ってもとても単純なもの。

 

「えい!」

 

 とりあえず、思い切り宝石を放り投げた。黒いのがいない方向に。適当に。

 予想通り、私が投げたのに一瞬遅れて黒いのが宝石を追いかけて飛んでいきました。もし本当に私を食べるのが目的だったら、追いかけてくれなくてその時点で終わりでしたけど……とにかくよかったです。そして、同じ方向に 携帯電話もぽい。ただし、5秒後に最大音量で鳴るようにアラームを設定しておいた状態で。

 その後に私は反対方向に全力疾走。逃げます。

 

「お父さんお母さんごめんなさい」

 

 携帯電話投げ捨てちゃいました。帰ったら謝らないと。

 

 体感で約五秒。実際に驚いてくれるかは確認できないけど、さっきみたいに音にびっくり動きが止まってくれたら嬉しいな。少しでも逃げ――。

 

 

 ――ギイいぃィ゛ィ゛ぇエアア゛あ゛ア゛アアアアアぁぁぁ――

 

 

「――――!?」

 

 頭の芯にまで響くような甲高い音に、耐え切れず足を止め耳を塞いだ。

 おおよそ生物の発せられる音とは思えないそれは、だけど感情が含まれているような感じで……もしかしてびっくりした声?さっきまで声なんて全く発しなかったけど……宝石が三つに増えて成長――もとい、進化したとか?ともかく嫌な予感しかしないの。

 

 止めていた足を再び動かし走る。正直もう足はガクガクで、だけど気力を振り絞り走り続ける。背後からはドゴンドゴンとぶつかり壊れる音が何度も聞こえきて不安を誘うけれど、同時にその音が黒いのとの距離を知らせてくれていた。そう言えば、結局人の姿は全く見ないし、塀を壊したり家に突っ込んだりしても誰も出てこないというのはどういうことなんだろう?少なくともこの辺に人がいないことは確かなんだろうけど……ファンタジーでよくある結界の中とかなのかな?ほかの人がいなくなったのか、それとも私がいなくなっているのかはわからないけれど、どちらにせよほかの人に被害が出ていなければいいの。

 

 ……なんて、人の心配をしている暇すら、あの黒いのは与えてくれないようなの。

 私から見て右側に立ち並ぶ住宅街が、爆弾でも爆発したのかというような音とともに跡形もなく吹き飛んでいった。幸いにも吹き飛ばした瓦礫は私の方には飛んでこなかったけれど、黒いのには見つかってしまったみたい。つい数秒前まで家が建っていた場所には、一本の轍のように黒いのが走った後が残っており、その元凶は20メートルほど前でもぞもぞと動いていた。

 

 三つ目の宝石を手に入れた影響なのでしょうか。黒いのの体はさっきより1回りほど大きくなり真ん丸だったのが少し楕円系になっていて……、さらにさっきまではなかった足が四本生えているの。より闇落ちしたイノシシさんみたいになってきて、非常に不気味です。振り返った顔?には三つの真っ赤な宝石が三角形に輝いています。黒グロさにも磨きがかかっていますし、もしかしたら邪気眼にでも目覚めたのかも。

 

「ひっ……」

 

 カサカサと――実際にはドスンドスンとですが――某家庭の天敵である黒い虫イニシャルGを彷彿とさせる動きで近づいてきて……。

 

 大きささえなければ、ぴょんっとでも表現できそうな感じに飛び掛かってきたの。……飛び掛かってきた?

 

 回避?無理、さっきよりも大きくなっている状態でさらに動きも早くてすでに行動済みな時点で、私の瞬発力では間に合わない。

 迎撃?もっと無理。できるならもっと前の段階でしてるの。

 すでに宝石も携帯もなく、身に着けているものはところどころ破れた服だけで、対処できるようなものなど何もない。むしろここまで頑張ったことを褒めて欲しいくらいなの。そして、ご褒美に誰か助けてくれてもいいんじゃないかと思う。

 

 ううん、実際に助けてもらえなくてもいい。私に戦えるような力を与えてくれたらそれで十分。そうすれば、私は自分が助かるためだけでなく、誰かを助けることができるから。

 

 

 ――なのは!――

 

 

 もう、あの時みたいなことにはなりたくないから。

 

 

 だから――。

 

 

「伏せて!」

 

 言葉の意味を考えるより早く、体は動いていた。

 

 

 ――protection――

 

 

 私ごと周囲を覆う影が、黒いのが頭上に迫っていることを示し――けれど、いつまでも衝撃が来ることはなく――バリバリという火花が散るような音――覆う影が消えて、顔を上げるが正面から迫っていた黒いのはおらず――数瞬後に背後から聞こえてくるドスンという落下音――音につられて振り返ると、少し離れた場所には黒いのが倒れていて――

 

 

 すぐ隣に、一人の女の子が立っていたの。

 

 

 オレンジ色の髪をした、同い年くらいの……学校から帰る途中に公園で人を探していた女の子。

 

「遅れてごめん!助けに来たよ!……と言っても、私もアレどうにかできるわけじゃないんだけれどね」

 

 でも、絶対に守るから。

 ――と、女の子は言う。

 えっと、私には何が何だか理解できていないんだけれど……、とりあえず絶体絶命というわけではなくなったことだけは確かみたいなの。

 

「私に蓄えられた魔力は残りわずかです。ユーノが来ない限りジリ貧になるのは目に見えていますよ」

 

 突然聞こえた、オレンジ髪の女の子とは違う女性の声。ほかに人の姿は見えたいけれど……声は、女の子が手に持っている赤い宝石から聞こえてきているの。公園で会った時には首に下げていたそれは、あの黒いのが集めている?宝石とは違って、吸い込まれるような妖しい雰囲気は感じない。声が出てる?ってことは、通信機とかなのかな?

 

「うん、わかってる。だから節約のためにもさっき話していたあれお願い」

 

「正気ですか……」

 

 女の子の宣言と、宝石から聞こえる呆れたような声。

 理解できないなりに話を聞いてる限り、絶体絶命ではなくなったけれどまた絶体絶命になるのも時間の問題とみたいなの。挙げて落とされたような気分に近いけれど、状況的にはさっきよりは断然マシ。いろいろ聞きたいことはあるんだけれど……。

 

「あの……」

 

「時間がないから、詳しいことは後回し。とりあえず……」

 

 女の子は、私の顔を見て、そして黒いのを見る。

 黒いのはすでに復帰し、こちらを向いていて……。

 

「駆けて!」

 

「え、えぇっ!?」

 

 女の子が叫ぶのと、黒いのが体を変形させて幾本もの黒い触手を一斉に伸ばしてきたのはほぼ同時だった。一瞬遅れて、私は黒いのに背を向けて走り始める。少し後ろから触手から私を庇うように女の子が走る。伸ばされた触手が届く寸前、女の子は赤い宝石を持った手をかざすと、光で出来た円状に連なる文字?と模様――アニメに出てくる魔法陣みたいなの――が一瞬だけ小さく展開され触手を防ぐ。でも、当たらないように逸らすだけで、決して正面から受けるようなことはしない。幾本もの触手を捌き切る女の子の姿に驚きながらも、そういえば……と思い出す。昔、お兄ちゃんがお姉ちゃんに剣術を教えているときに、相手の方が力が強い場合には正面から受けず、受け流すべきだなんて話をしていたっけ。多分、あの子がしているのはそれなんだろうと思う。……ただ、剣術ではないようだけれど。

 逸らされた触手は地面や壁に突き刺さり、枝分かれするように新たな触手が伸びてくる。女の子はそれすらも捌き切り……途端、触手の枝分かれが止まった。

 

「斜めに走って!」

 

 それを見た私が足を止めそうになったから……というわけではないだろうけれど、改めて女の子から指示が来た。しかも、斜めにという方向の指定付きで。

 訳も分からず言われた通り向きを斜めに変えて走るけれど今走っているところはただの住宅街で、道幅もそれほど太くはない。すぐに壁に行き当たってしまうし、その後は壁際を走るべきなのかジグザグにはしるべきなのかどうしたらいいんだろう?なんて思って聞こうとしたけれど……どうやら、その必要はないみたいだった。

 

 周囲の触手がに突き刺さった部分がギチギチと音を立ててひび割れている。そして、触手は限界まで引き絞られ――それをバネにするように、黒いのが射出された。さながらスリングショットのように跳び出してきたそれは今までの単なる突進とは比べ物にならない速度で、到底私に反応できるようなものではなかった。……けれど、女の子はしっかりと反応していた。できていた。

 

 黒いのが跳んでくるのとほぼ同時、女の子は私を壁際に押し倒すように跳び出していて、予め指示されていた通り壁に向かって斜めに走っていた私は何の抵抗もなく倒れ込んだ。その瞬間、私の視界の隅――黒いのが迫る後ろ側には、触手を防いでいた魔法陣みたいな――というか多分まさしく魔法陣だと思うの――光のサークルが斜め向きに展開されていた。

 

 ――protection――

 

「くぅ――ッ!!」

 

 ぶつかった瞬間、バチバチという弾けるような音が響き、女の子が小さくうめき声をあげた。

 私と女の子は勢いよく吹き飛ばされたけれど、元から飛んでいたことが幸いして衝撃は最小限にゴロゴロと地面を転がった。対して、黒いのはバンパーにぶつかったピンボールのように、吹き飛ばされ反対側の壁に衝突している。

 

「もう一度来ます!」

 

「しつこい!」

 

 ギランと黒いのの目が光ったかと思うと、再び体勢を立て直せてすらいない私たちの方へ突進。

 

――protection――

 

 魔法陣が壁に立てかけるような形で展開され、魔法陣と衝突した黒いのは上方へと弾かれて――。

 

――刺ッ!――

 

 上方へと弾かれた黒いのは、数本の触手を地面に突き刺しそれを起点として私たちに覆いかぶさってきた。

 

「えっ?」

 

「うそ!?」

 

――circle protection――

 

 寸前、辛うじて展開された半円状の淡い緑色の光が私たちを包み込んだ。

 守ってくれてはいる……けれど、黒いのがバチバチとなるのに構わずへばり付いていて、逃がしてくれそうにない。結界?のような淡い緑色の光の上から触手で覆うように黒いのがへばり付き、てっぺん部分には三角形に並ぶ宝石三つ。籠の中に囚われ監視されているような感覚に陥りそうになって――。

 

「大丈夫?」

 

 女の子の声に、引き戻された。

 

「うん、ありがとう」

 

 覗き込む女の子は、今の一瞬の間で体中に切り傷が出来ていて少し痛々しい。そう思っている私の方が見た目的にはもっとひどい状態なんだろうけれど。

 

「ありがとうレイジングハート。今のは私じゃ反応できなかったよ」

 

「お礼は結構です。魔力は残りわずか、どちらにせよこの状態もあまり持ちません」

 

 体を起こすと、それに合わせて私たちを包む淡い緑色の光が少し縮む。良い宝石さんが魔力が残りわずかって言ってるから、多分その節約のためなのかな。魔力って言うと……アニメでは魔法を使うための力だって言ってたよね。ということは、これは魔法のバリアーみたいなものなのかも。

 

「もってどれくらい?」

 

「あと2分46秒です」

 

「あんまり時間無いね……なんとかならないかな?」

 

「現状ではなんともなりませんね。ここまで力をつけられると残りの魔力では封印もできませんし、せめてマイスターと連絡が取れれば……」

 

 一瞬救われた絶体絶命から再度突き落とされたこの状況で、頭の中ではこれ以上巻き込みたくないとか、逃げて欲しいとか、私のために誰かが犠牲になるところなんて見たくないとか、そんなネガティブなことばかり考えている。

 でも、この子は全然諦めてない。強く輝く目の光は失われていない。宝石さんが言うにはあと2分ちょっとしか持たないこの状況で、助けてくれようとしている女の子が諦めてないのに、助けられている私が諦めてちゃいけないよね。

 

「あのお話し中すみません」

 

「ん?どうしたの?」

 

「私にもできること、ありませんか?」

 

 私に出来ることなんてたかが知れてる。むしろ、できないことの方が断然多いくらい。

 でも、だからって何もしないで見ているだけなんてイヤだから。

 

「うーん……できることかぁ……」

 

「残念ですが、現状では――」

 

『レイジングハート!響!』

 

 そんな時、直接頭に響くような声が聞こえてきた。

 

「ユーノ君!?」

 

 その声は昨日、フェレットさんを見つける少し前に聞こえてきた声と同じものだった。男の子の声。そっか、女の子――響ちゃんって言うみたい、かっこいい名前なの――が公園で探してた男の子――ユーノ君って名前らしい、外人さん?――って、この声の人のことだったんだ。

 

「遅すぎますマイスター。あと2分以内に来てください」

 

『無茶言わないでよ!急いではいくけど、ただでさえボロボロなのに2分じゃ……って、そんなに切迫した状況?』

 

「絶体絶命です」

 

 ……ん?昨日公園で聞いた声は響ちゃんが探してた男の子……なんだよね?そして、私がフェレットさんを見つけたのは公園で、響ちゃんが男の子を探していたのも公園。フェレットさんの近くにあった赤い宝石は不思議な黒いの――宝石は魔法のアイテムで、黒いのは妖怪さん?――が集めていたもので、響ちゃんと良い宝石さんは不思議な力――多分、話を聞く限り魔法だと思う――で対抗してて、しかも黒いののことを知ってるみたいなんだよね。

 

「……もしかして、ユーノ君って男の子ってフェレットさん?」

 

『正確には魔法でフェレットに変身してた人間だけどね。……って、今の声昨日僕を助けてくれた女の子?』

 

 そっか、フェレットさんは男の子が変身してたフェレットさんだったんだ。……でもなんでフェレットさん?

 

「はい、多分そうです」

 

『そうだったのか、昨日はありがとう。――って、念話が聞こえてるというか受け答えできてる?……レイジングハート?』

 

「私は何もしていませんよ、マイスター。……なるほど、優先順位的に考察を後回しにしていましたが、ジュエルシードを手放した後もアレがあなたを追い回していたのはそういうことですか」

 

『ちょっと待って、どういうこと?ジュエルシードを手放した後もって……』

 

 そう言うフェレットさん、改め人間のユーノ君に、良い宝石のレイジングハートさん――こっちの宝石は黒いのの宝石とは違うけれど、魔法のアイテム的な何かなのかも――が簡単に経緯を説明する。なぜか私があの宝石を投げたことを知ってるみたいだけれど……どうして?

 

 その説明を聞いて、ユーノ君はより真剣な感じの声になって、レイジングハートさんとなんだかよくわからない話――どうやら私のことみたいだけれど――をし始めているの。隣を見ると、響ちゃんも私と同じくよくわかっていない様子。

 

「マイスター、あと1分です。ご決断を」

 

 そう言って促されたユーノ君は、少しの沈黙の後、口を開いた。

 

『……響、レイジングハートをその子に渡してもらえる?君も、受け取ってもらっていいかな?』

 

「う、うん」

 

「はいレイジングハート、どうぞ」

 

 突然のことに戸惑いつつも、とりあえず差し出されるレイジングハートさんを受け取ろうと左手を伸ばして――。

 

「えっ?」

 

「おお!?」

 

 受け取った瞬間、今まで淡い緑色だった光が綺麗な桜色へと変色した。

 

「……素晴らしい」

 

 そう言ったのは、私の掌にいるレイジングハートさん。

 何が素晴らしいのかはわからないけれど、ただ、それが私に向けられた言葉だということは何となく理解できた。

 

『……君の名前を聞いてもいいかな?』

 

「高町なのはです」

 

 頭に響くように聞こえるユーノ君の声を聞きながら、私は虚空を見つめていた。……ううん。見ているのは、綺麗に輝く桜色の光。この光を見ていると、とても気持ちが落ち着いて……とても、興奮してくる。

 

 

『僕の名前はユーノ・スクライア。なのは、君に協力してほしいことがあるんだけれど――』

 

「いいよ、何をすればいいのかな?」

 

 相反する二つの感情。だけど、今の私には確かに同居している二つの感情。

 

「ええ!?いや、今から僕たちのこととか魔法のこととか、協力してほしいことについて話すから、それを聞いて協力するか判断してほしいって言おうとしたんだけど……」

 

「私、事情とか、この状況についてもなにもわかってないけど……でも、自分のことはなんとなくわかるよ。レイジングハートさんを持ってから、私の中から何かが流れ出てくるような感じがするの。私にも不思議な――魔法の力があるんだよね?そして多分、ユーノ君も響ちゃんもレイジングハートさんも、この黒いののこととかで困っているんだよね?」

 

『ま、まあ……そうなんだけど』

 

 それなら、答えは決まってる。

 

「じゃあ、手伝わせて。困ってる人がいて、助けてあげられる力が自分にあるなら、その時は迷っちゃいけない。って、お父さんの教えなんだ」

 

 お父さんが今まで実践してきたこと。

 お兄ちゃんもお姉ちゃんも今現在実践していること。

 そして、私が今まで、力がなくて実践できなかったこと。

 

『……わかった、それならよろしくお願いするよ。……ありがとう』

 

「うん!」

 

 そうして、ユーノ君との会話――念話って言ってたっけ――は切れた。ともかくこちらにはむかっているみたいなの。あとのことはレイジングハート――さんはいらないと言われたの――が教えてくれるみたいで、とにかくへばり付いてる黒いのをどうにかしようということだった。さっきまで襲われていた立場だったこともあって少し怖いけれど、レイジングハートが、少なくとも私が指一本触れさせませんと言ってくれたから、信じるの。

 響ちゃんは、頑張って、でも無理はしないでね、と応援してくれた。

 

「では、始めましょうか。」

 

 立ち上がり、それに合わせて桜色の障壁が変形する。先ほどまでは感じられなかった力強さで、覆い押さえつけるようにへばりつく触手を押し上げる。

 

「セットアップのための詠唱を行いますので、私の言葉を復唱してください。ただし、私が言うのは最初のフレーズのみです。あとのフレーズは……自然に心に浮か部でしょう。」

 

 深呼吸し、少し緊張した気持ちを落ち着かせて、静かに、生徒に教える先生のように話すレイジングハートの声に耳を傾ける。

 

「風は空に」

 

「風は空に」

 

 

 目を瞑り、言われた通りレイジングハートの言葉を復唱する。

 

 

「星は天に」

 

「星は天に」

 

 

 レイジングハートを握る左手を胸の前に添える。

 私の心はここにある。

 不屈の心。

 

 

「不屈の心はこの胸に」

 

 

 その名を冠するだけの器が自分にあるのかはわからないけれど。

 ゆえに、その名にふさわしい心であろうと誓う。

 ほかの誰でもない、自分に。

 

 

「この手に魔法を」

 

 

 何のために?

 誰かのために。

 助けを必要としている誰かのために。

 

 

「レイジングハート、セットアップ」

 

 

 そして、私の胸から溢れ出した桜色の光が奔流となり、私の体を包み込んだ。

 

 

 




高町なのはの物語ではないとは言ったが、主人公でないとは言っていない。
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