俺はIS入校組   作:匿名

1 / 2
入学戦線

 今年の3月上旬頃から、世間は一気に騒がしくなった。

 インフィニット・ストラトスという、女にしか扱えない機械を、一人の高校受験生が動かしたというのだ。

 なんでも受験高校である藍越学園(あいえつがくえん)と、IS学園(あいえすがくえん)を間違えて試験会場に向かったらしい。

 

 それだけ聞けばただの笑い話で済んだのだが、そうも行かないのが現実らしい。

 

 そのISを動かした男の子、織斑一夏により、『まだISを動かせる男がいるのではないか?』という声が世間からは上がったのだ。

 国際IS委員会という、IS事業のトップである集団もその意見に耳を傾けて、大規模な男子限定の適正検査を行うことにした。

 

 『四月の入学式に間に合うように』というIS委員会の指示は、既に大学や就職が決まっている者さえも強引に動かした。3月の中旬である。

 

 『迷惑甚だしい』と思う者もいれば、『まあ面白そうだな』と見せ物のように捉える者、または『ワンチャンハーレム』と未来に何かを見出す者もいた。

 

 

 そんな中でも半沢直樹(はんざわなおき)は、『まあ面白そうだな』と思う類の者であった。

 

 つい一ヶ月前に、慶應の経済学部を受け、その二週間後に合格内定をいただいたばかりだ。

 アパートの内見を一通り終えて、荷物の整理をしてる頃合いにその招集はやってきた。

 

 『半沢直樹様、国際IS委員会より、3月27日に東京都〇〇区においてIS適正検査を致しますので、指定の時間に集合してください。場所の詳細については同封された資料に記されているのでご確認ください』

 

 と、ご丁寧に封筒が家に送られてきた。父は既に受けていたらしく、『旅行だと思って行けばいい』と後押しした。

 資料を読み進めると、交通費等々は全部IS委員会が持ってくれるらしい。なるほど、確かに旅行のようなものだと半沢は納得した。

 

 

 『お次の方、どうぞ』

 

 見れば、外でも誘導係があくせく働いている。

 3日後、半沢は新幹線を乗り継いで東京へと到着していた。そしてスマホの地図で確認しながら、目的へと到着する。

 

 適正検査は至る場所でやっており、半沢の受ける場所は『伊勢島ホテル』という巨大ホテルを貸し切っての検査であった。

 由緒正しきホテルという事で、急なIS検査でもすぐさまホテル中を整備して見せたらしい。

 

 全国各地でやるということは、こんなホテルをあと数十以上も貸し切るという事なのだ。IS委員会の権勢が窺い知れる。実際アメリカでは、大手ホテルチェーンであるフォスターが全面協力すると先日のニュースでやっていた。

 

 中に入りロビー内をぐるぐると見渡す半沢、周りは男ばかりでがやがやと盛り上がっている状態である。

 

「いらっしゃいませ、IS検査を受けに来た方ですね?」

 

 内部を見渡していたら、男性らしき声が飛んできた。振り向けば、名札をつけた男が笑顔でいる。おそらくホテルマンなのだろう、しかしその顔はかなり若いように見えた。

 名札を見れば、そこには『湯浅』と書いてある。

 

「ええ。ホテルの方ですよね?」

 

 念の為、IS委員会の人だったら困るので聞いておく半沢。

 

「はい、湯浅と申します。まだ見習いではありますが。待機場所へご案内致しますよ」

 

 湯浅と名乗る若いホテルマンは、紳士的な笑みで案内する方へ手をやった。

 半沢も一礼し、それについていく。

 

「湯浅さんは、もう検査したのですか?」

「はい。ウチは一昨日から検査しているのですが、その第一号でしたね。まあ何の反応もありませんでしたが」

 

 おそらくこのホテルの者だから、融通して貰えたのだろう。しかしそこから接客業をこなすその精神には恐れ入る。

 

「ただでさえ大変なのに、凄いですね」

「そんな事は無いですよ。ホテルを継ぐにはこれぐらいしないと」

「もしかして、社長の息子さんだったり?」

「ええ、まあ。あまり自慢という形は好ましく無いのですが」

 

 どうやら自分は、伊勢島の未来の社長と会ってしまったらしい。と、半沢は内心驚愕した。おそらく自分と歳はあまり変わらないだろう。

 だというのに既に、未来に向けて頑張っている。

 

「そういうお客様の方こそ、こんな時期に大変なんじゃないですか?もしかして受験生だとか」

「はい。しかしありがたい事に内定を貰えたので、ほっとひと息ついていた頃ですよ。それよりも、こんな大規模に貸し切られてホテルは大変なんじゃ無いですか?」

「最初は驚きましたが、思いの外なんとかなりそうですよ。IS委員会がかなりの特別手当てを出してくれるみたいで、ウチの羽根専務も喜んでいましたし」

 

 どうやら、金をばら撒いて全てを解決する方針らしい。金さえあれば何でもできるのか?と言いたい半沢だが、実際それでどうにかなってるので何とも言えない。

 

 そうこう言っているウチに、待機場所に着いたらしい。「ありがとうございました」と一礼すると、湯浅も紳士的な笑みで返し、ホテルのロビーに戻って行った。

 

 湯浅の背中が遠くなったので、半沢は振り返る。待機場所には、様々な人種が入り乱れていた。

 緊張している者、早く帰らせろとくたびれた顔をする者、中には『IS学園に入ったら何をしよう』と入る前提の者さえいる。

 

 そんな入り乱れる中から、一人の男がやってくる。

 

「やっほー、調子はどうだい半沢くん?」

 

 青のスーツに洒落たポケットチーフ、若いのに気取ってると思われても仕方ないであろう。そのメガネの男は、手を振りながらこっちへ来た。

 渡真利忍(とまりしのぶ)。半沢と同じく慶應入学生で、オープンスクールの時に一緒に回ってから付き合いが始まった。

 同じ高校ではないにも関わらず、なにかと半沢にちょっかいをかけてくる男だ。

 だがそのお陰で、受験の情報や人付き合いもやりやすくなったという。幅広い人脈を持つ、半沢にとって憎めない存在である。

 

「まずまずだな。お前は相変わらずそうだな」

「まあな。あ、近藤もそろそろ来ると思うぞ」

 

 近藤直弼(こんどうなおすけ)は、同じく慶應入学生で剣道の大会で半沢と知り合った。そこから渡真利も交えて仲良くなった男である。

 

「お前はもうやったのか?」

「まあな、当然反応なしだけど。けど女の子たちがあちこち触ってくれるぞ」

「やめとけ」

 

 苦笑いを浮かべる半沢、この如何にもモテそうな男にそんなのは必要あるのかどうか。

 

「今のところ、だーれも受かってないらしいぜ。そりゃそうだよな?男には動かせないが専売特許だったんだから」

「ま、これで世間が変わるとも思えんしな。むしろ邪魔な男が出現したと権利団体が騒ぐかもしれない」

「かもな。けれど、これでもし男がもっと見つかったら、世の男性としては嬉しいんじゃないの?」

「確かに、心のゆとりはできるかもな」

 

 今の女尊男卑という世間の風潮だが、実際そこまで騒がれてる程に表立ってはいない。

 日本の国務大臣も半分は女性になったが、総理大臣は未だに歴代全員男性だ。官僚に至っては変わらず男性社会である。体力面の問題もあるだろうが。

 

 目立った点で言えば女性が社長の企業が増えたり、女性のサービスが増えたことくらいで、男性は奴隷と言った意見は少ない。言うのはISを盾に威張る女性権利団体くらいだ。

 まあただ、男は女より上という常識は無くなったのかもしれない。女性だって多少の優越感は感じるだろう。

 代わりに男性は、何処か劣等感を感じるかもしれない。

 

 表面化での女尊男卑は少なくとも、心の中で『女は凄い』という常識が刷り込まれているからである。

 

「頼みますよ〜半沢くん。これでお前が動かせれば、世の男性の活力にもなるだろうしな。経済も良くなるかも」

「何で俺が動かせる前提なんだよ」

「ん?いやほら、お前って何だかんだ、何でも可能にしそうじゃない」

「だからって受かるわけではないだろ、それに大学はどうする」

「そこはほら、IS委員会サマのご処置でさぁ。色々調整してくれるんじゃないの?」

「気楽だなぁお前は」

「もう落ちてますからね」

 

 ニコニコしながら喋る渡真利に半沢は呆れた。もしこれで動かせようものなら一生のネタである。

 

「半沢直樹様ー、検査の準備に移って下さい」

 

 と、名簿をめくりながらホテルマンの女性がマイクで呼びかけた。

 ついに順番が回ってくる。

 

「近藤にも会いたかったんだけどな。じゃ、行ってくる。あとで3人で飯食いに行くぞ」

「おう、後で伝えとくよ。ファイト」

 

 そんな応援する事か?と内心笑いながら、「おう」と半沢も返し検査室へ向かって行った。

 前には10人程並んでおり、三者三様の表情をしている。

 

 すると突如、列の一番前から大声が聞こえた。

 「お願いします!もう一回だけ!女性の楽園へと!」と40代の男が叫んでいたのだ。

 いい年したおじさんが、プライドも見栄もかなぐり捨てて検査員に懇願している。検査官の女性はゴミでも見る目で、「連れ出してください」と屈強な男たちに命じた。

 同時に、『絶対ああはならないようにしよう』と半沢は肝に命じた。

 

 前の列の人々はおじさんを反面教師としたのか、何にも言わずにスムーズに検査を終えていく。

 そして遂に、半沢の番がやってきた。

 

「半沢直樹さんですね?今からコアに触れていただきますので、リラックスして臨んでください」

 

 検査官は敬語口調で喋っていたが、既に言葉に抑揚は無かった。同じ作業の繰り返しで、精気を失っているらしい。

 

 内心呆れながらも、半沢は「はい」と一言コアの前に立った。

 不思議な物体だった。ひと昔前に社会現象を起こした、『新世紀エヴァンゲリオン』のやつに似ている。

 

「では、触れてください」

 

 精気のない検査官に言われ、半沢はコアに触れた。「どうせ何もないだろう」と、半沢も検査官も思っていた。

 

 が。

 

 周囲は突如光に包まれ、室内の人間は眩しさで目を瞑った。

 そしてしばらくしてまぶたを開け、光の中心地に目を据える。そして、誰もが瞠目した。

 

 そこにあったのは、女にしか動かせない機械に身を包んだ、一人の青年の姿であった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。