俺はIS入校組   作:匿名

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紳士協定

 IS学園は、日本にありながら日本ではないという、実に特殊な立ち位置の機関である。

 そこに居る教師たちにも特殊な出自の者は多く、その中でも『ブリュンヒルデ』と呼ばれる女教師は異質中の異質だ。

 だがそんな女教師でも、何事にも動じないかと言えばノーと言える。その証左として、今の彼女は非常に頭を悩ませていた。

 

 彼女はIS学園の職員室で、自分のデスクで紙面を広げて睨む。彼女の読んでいる一面には、大きくこう載っていたのだ。

 

 

『二人目も日本で!国の情報統制「あっぱれ」』

 

 

「はぁ.......」

 

 今朝の新聞を目にして、織斑千冬(おりむらちふゆ)は大きくため息をついた。

 

「こんな時こそ政治家の本領発揮か?よくもまぁ良いように利用するものだな、この状況を」

「あはは.....国も命がけなんでしょうね、こんな前代未聞の事件」

「利用しない手はない、か。はぁぁぁ.......」

 

 いま一度深いため息が、千冬に話しかけてしまった 山田真耶 (やまだまや)を襲う。

 

 ISを動かせた二人目の男性というのは、その男がISを起動させた翌日に知れ渡った。現在ニュースではそればかりである。

 しかし織斑一夏の時とは違い、その男の情報やどの場所で起動させたかは一切報道されなかった。聞くところによれば、現政権である民政党(みんせいとう)が情報統制を徹底指示しているらしい。

 その成果の表れか、IS寄りの人間で影響力のある千冬にさえ、二人目の情報は入ってこない。

 

 現在もIS委員会と情報の共有をし、女性権利団体が騒がぬようコントロールしているのだとか。

 そしてそれは狙い通りだったのか、『有事であれ国民のプライバシー保護を徹底している』と人気低迷中であった武藤内閣には賞賛の声が寄せられた。

 

『我が国から二人目の男性適性者が出たのは喜ぶべきでもあるし、恐るべき事でもあると思う。だからこそ、本人の人権を最大限守り、恐るべき事態を排除しなければならない。このミゾーユー———未曾有(みぞう)の事態に、武藤内閣は全力を尽くしていく所存であります』

 

 先程のニュースで官邸記者会見を開いた、内閣総理大臣・武藤泰山(むとうたいざん)の発言である。

 こんな時であれ支持率アップの可能性を狙う、そんな民政党政権に千冬は思わず感心してしまう程であった。

 

 だがしかし、その一方で千冬は一連の報道にある引っかかりを感じている。

 

「IS委員会主導の検査で二人目は見つかったんだよな?なのに何故IS委員会ではなく、日本政府が表に出るんだ。委員長でも映せばいいものを」

 

 千冬は出来心で率直な疑問...もとい問題を、山田に出題してみた。

 

「さぁ、なんででしょうね?でも良いことじゃないですか、総理がこうして守ると公言してくれてるんですから。きっとIS委員会も二人目の子も、頼もしいと思う筈です」

「.......」

 

 きっと山田先生は、駆け引きとか権力争いとかまったく分からないんだろうな。と、千冬は心中悟った。

 

 普通に考えて、IS委員会の検査で発見されたのならまずIS委員会内で上役に報告がある筈。そしてそれは自然と、IS学園にも伝わってくるのが道理だ。

 なのにそのIS委員会がなにも言わずに、逆に日本政府が我が物顔で『二人目を保護したぞ』とは不自然な話である。

 

 そしてこういう時は大抵、両者で手柄の奪い合いや紛争があったりするものだ。

 故に千冬の中では、IS委員会から強引に日本政府が二人目を奪った。という仮説が成り立っている。

 

 

「あ、そういえば。織斑一夏くんの申請書類、午後届くんでお願いしますね。織斑先生にとっても、特別な生徒になるでしょうし」

 

 と、山田が思索にふける千冬に声をかけた。もう少し考えてみたかった千冬だが、相手を無視するのはいけない。

 それに話してる内容は、他ならぬ彼女自身の弟の事だった。

 

「特別視などせんよ山田先生。ウチに来た以上は全員等しく私の生徒だ、あのバカであってもな」

「ふふ、その言い方だとやっぱり特別に聞こえます」

「.....んん〜」

 

 やはり能天気というべきか、朗らかな笑みで返す山田に千冬は何も言い返せなかった。

 

 

「あ、電話だ」

 

 突如山田のデスクから電子音が鳴り響く。席に戻っていく山田を尻目に、千冬は再び仮説を進めた。

 何故日本政府はこちらに報告してこないのか、それともIS委員長が何も言わないのか。最悪、二人目は反社会的組織に拉致られたのではないか。

 

 ——まぁ、いくら考えても仮説だな。やめとこう。

 

 しばらくしてから視界を広げてみると、電話中の山田が顔を上げた自分をチラチラと見てきていた。

 

「どうした、山田先生」

「あ、はい。相手の方が、織斑先生にかわってほしいと」

「私に?」

 

 ついに分かったのか、二人目の詳細が。IS委員会の重役からの電話だろうとすぐさま立ち上がる千冬だった、が。

 山田からは予想外の役職を口にされる。

 

「公設秘書の方だそうです。貝原(かいばら)さんという名前なんですが......」

「ふむ」

 

 知らない名前だ、故に千冬は確信する。

 公設秘書とは、ざっくり言えば国会議員の秘書の事だ。

 いくら天下の織斑千冬でも、千冬が深く関係を持つのはIS委員会くらいであり、政界にはそれ程の接点もない。

 

 そんな政界絡みの者からの電話だ。今の時期、内容はおそらく二人目の男性についてだろう。

 であれば電話主は民政党の誰かの秘書、それも閣僚か党三役レベルの秘書に違いない。

 

「繋いでくれ」

 

 結論付けた千冬は、すぐさま山田に指示を出した。

 千冬は自分のデスクの受話器を取り上げ、相手に繋がるのを待つ。そして。

 

「お電話かわりました、織斑です」

「織斑さん、初めまして。わたくし、民政党議員・武藤泰山の公設秘書を務めております、貝原と申します」

「むとっ————」

 

 防衛大臣か、はたまた官房長官か幹事長か。そんな千冬の予想など意に介さずかのように。相手方は、千冬の想像を大きく上回るビッグネームを出してきた。

 

 

 

 

 

 織斑千冬が電話を貰う2日前の事。

 

 伊勢島ホテルにて半沢直樹がISを起動させて、それは瞬く間に大騒ぎになった—————訳ではなかった。

 見に纏う装甲に驚愕せし半沢に、不思議と野次馬は寄ってこない。数秒経って我に返り、周りを見渡してみると、ドアも窓も全て締まり密閉されていた。しかし。

 

「どういう事だ」

 

 半沢が愕然としたのは、すぐさまドアが閉められた事ではない。IS委員会から来た検査官や、ホテルの従業員らがほとんど気絶している事にあった。

 二、三名を除き、その他は地に突っ伏している。

 

 ———目でもやられたのか。

 

 そう勘ぐった半沢だったが、失明とかなら騒いで助けを求めるだろうと否定した。

 そうして考えを巡らせる半沢に、一人の男性検査官が近づいてくる。女性ばかりだったIS検査官にしては珍しい。

 

「半沢直樹くんで、間違いないね」

「...はい」

 

 今さら違いますなどと言えないので、首を縦にふる。何故俺なのだ、渡真利で良かったじゃないかと神を恨むしか出来ない。

 

「貴方は」

「公安の、新田です。いま車を手配しました、裏から出ましょう」

「に、新田さん」

「にっ↑たです」

「....にっ↑たさん、今からどこへ?」

 

 『公安』を名乗り、イントネーションにこだわる謎の男に半沢は問うた。

 

「ひとまず誰にも見つからない場所に移動します。話はそれからです」

「しかし」

「これは総理命令です」

 

 国のトップのご意向だと、新田は半沢に言い聞かせた。そんな事勝手に言われても、こっちは分からないと半沢は言い返したくなる。

 しかし、ここから半沢一人でどうこうできる状況ではない。

 

 外に出れば大量の野次馬がいて、逃げる隙などない。それにこんな大規模な検査、逃げれば捜索されて捕まるのがオチだ。

 反対に、目の前の男は総理大臣という強力な後ろ盾があると言う。

 

「....分かりました」

「ありがとうございます、ではこちらへ」

 

 他にどうしようもない。半沢はおとなしく、新田と名乗る男に従った。

 

 

 というのが昼間の出来事である。

 

 現在は夜九時をまわり、窓の外では東京の街のネオンが眩く主張していた。

 その眩さに、今の自分の気持ちとは正反対だと黄昏れて笑う。そうして半沢はソファーに座り込んだ。

 

 都内のとあるホテル、伊勢島ホテルからバレないように移ったその場所は、既に政府直属のSPが紛れ込んでいた。

 ホテル内の一室にてネットでの情報をある程度目にし、まだ自分の事がニュースになってないことを確認する。その後今からの予定に目を通していると、部屋のドアがトントントンと叩かれた。

 「どうぞ」と言って入らせると、半沢は入ってきたSPに確認を取った。

 

「時間ですか?」

「ええ。まもなく武藤総理と、狩屋官房長官らがいらっしゃいます」

 

 そう、なんと総理みずからがお出ましである。しかも官房長官を添えて。

 

 夢であって欲しかったけどな。

 

 覚悟を決めた半沢は、ソファーから立ち上がりドアの方に体を向ける。しばらくすればコツコツと、革靴を鳴らす音が近づいてきた。

 

 SPによって開けられたままの扉、そして来た。国を統べり、半沢の情報を漏らさぬように指示した張本人達。『民の王』が。

 

「初めまして、半沢くん」

 

 武藤泰山。ワニ顔でコワモテなその男は、笑みを浮かべながら手を差し出してきた。

 ただ元々コワモテなので、笑っても少し怖い。

 

「どうも、半沢直樹です。お会いできて光栄です」

 

 緊張もあったのか、半沢はかしこまり、張り詰めた表情で握手を交わした。

 

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