一話
毎日、毎日、同じ日の繰り返し。別段面白いこともなければ、楽しいこともない。ただただ、同じ日の繰り返し。
変わらない日々は俺を停滞させた。
つまらない日々は俺を腐敗させた。
どうでも良い日々は俺を意識の谷底へと落とした。
夢を見た。
深くて、何もなくて、真っ暗な闇の中で、燃える炎が九つ。俺の目の前に並んでいる。
振り向けば、そこには屍の山がなされていた。でも、驚きはしなかった。非日常で、実際に見たら吐いてしまうかもしれない。それなのに、心は何所か穏やかだった。
そして、声が聞こえる。
『デーチモ、寝坊するぞ?起きなくて良いのか?』
良いんだ。どうせ変わらない毎日なんだから。
『おいおい、そんなこと言うなよ。』
大体、おじさん誰?
『おじっ!?・・・私の名は・・・』
そこで夢は終わった。そして、何も変わらない一日がまた始まる。
目覚まし時計を見るともうすぐ八時になるところだった。
この時間なら特に問題ない。準備して十分、朝ごはんを食べながらの登校で十五分、自分の席に座るのに五分。ジャスト八時三十分にチャイムが鳴る。
着替えを済ませてから、窓を開け空を見ればそこに広がるのは青空「だと思う」。
俺には色が見えないんだ。景色は全て白か黒の二色しか見えない。例外なく全てがそう見えた。
日々がつまらなくなった「あの日」俺の世界は色を失った。それから、何も変わることはない。自分を含めて、何も・・・
「ツーっ君!早くおりてきなさーい!」
下の階から呼ぶ声が聞こえる。
「うん、今行く!」
大きめの声で返事をして母さんを安心させる。そうじゃないと、母さんは部屋に乗り込んでくるから。
窓を閉めて部屋を出ようした時、「色」が見えた気がした。ほんの一瞬、窓の外に黄色い一線が流れた、そんな気がした。だから、直ぐに窓に近づいて確認した。でも、
「何も、無いか・・・」
外はさっきと同じ白と黒の世界。色なんてどこにも着いていない。俺は見間違えた事にして、荷物を持って一階に向かう。
「ツーっ君、朝はちゃんと食べなきゃダメよー!」
トーストだけを持って家を出ようとする俺に母さんが小言を言う。最近、こう言う小言が増えた気がする。
「・・・」
俺はその小言を無視して玄関へ向かう。
「いってきまーす」
「待ってツーっ君」
靴を履いてパンを咥えた時に後ろから母さんが呼び止めた。
「ツーっ君、これ」
そう言うと母さんは一枚の紙を差し出した。その紙には「お子様を次世代のニューリーダー育てます。学年・教科は問わず リボーン」と書かれていた。
「何、これ?」
「ツーっ君、最近つまらなそうにしてたから・・・私ね、ツーっ君にはもっと楽しく生きて欲しいから・・・家庭教師、頼んじゃった♡」
・・・事後承諾かよ・・・
「・・・はいはい、分かったから。で、いつからなの?」
俺は半分諦めて投げやりな感じで母さんに聞いた。母さんは誰がなんと言おうが決して靡く様な人では無いことをこの十三年間で知っていたから。
「今日からよ♡」
「は?」
「き・ょ・う・か・ら♡だから早く帰ってきてね」
「・・・はー」
俺はため息を吐きながら学校へと向かった。
変わらなかったはずの毎日。つまらなかったはずの毎日。どうでも良かったはずの毎日。
それが、あの赤ん坊との出会いで変わったんだ。
「ツナ ボール行ったぞ!」
俺に向かって飛んでくるバスケットボール。そのボールをキャッチしようとしたが一度は収まった掌から「スルリ」と落ちて場外へと転がって行った。
「・・・ごめん、武」
「いや〜俺の方こそ、強くボール投げすぎちまった」
武は俺の親友だ。野球部に所属しているが、実家が剣道場を開いているため野球と剣道の二足の草鞋を履いているスポーツマンだ。・・・ちなみに、テストは俺の方が高い。(ほんの少しだけ)
「おいおい勘弁してくれよ〜」
他のチームメイトが駆け寄ってきて「困った」と話しかける。
「あとワンゴールで俺たちの勝ちなんだからさ〜」
残り時間はあと十秒。まぁ、余裕だろう。
「大丈夫だって!俺とツナでなんとかするからさ!な?」
武が肩を組んで俺に確認をとる。
「・・・あ、あぁ」
俺は武が大きな声の出したため怯んでしまって生返事をしてしまう。
「頼むぜ!?お前らが本気出せば怖いものなしなんだからさ!」
そう言ってチームメイトはディフェンスの位置に走って行った。
「・・・なぁ、取れるか?」
武が小声で俺に確認する。
「・・・余裕」
俺は汗を拭うと武に今度ははっきりと返事をした。
「相変わらずなのな・・・シュートは俺に任せろ。」
武は俺の肩を叩いてディフェンスの位置へと向かった。
相手がボールを場内に向けてパスをする。そのボールは相手の一番上手い選手へと投げられたものだった。
しかし、俺はその間に「スッ」と手を伸ばしてボールを掠め取る。相手は驚いた様子で一瞬反応に遅れる。俺はそのままドリブルを突いて行き、スリーポイントラインで止まるとそのボール宙に向けて放出した。残り五秒。
でも、ボールはどう見てもリングから逸れて行く。後ろからは相手チームの歓喜の声と味方の絶望の声が入り混じっていた。
「・・・ナイスパス、ツナ!」
そう言って武は相手ゴール前まで全速力で走って行った。そして、俺が放った「パス」を空中で受け取りそのままダンクした。
勝負は見事、俺たちの勝ちだった。
武と何かをするとこのつまらない日常のことを少しだけ忘れられた。
一人で退屈な日々を過ごしていた俺に無邪気な笑顔で「野球やらないか!?」って聞いてくれて、それからも俺を頻繁に誘ってくれてよく遊ぶ様になった。それが小学校五年生の頃の話だ。・・・まぁ、その話はまた別の機会に
「ツナ、今日俺ん家の道場寄って行かないか?親父が久々に会いたいって言っててさ」
「だいじょ・・・悪い、今日はやめとくわ。母さんに「これ」やられた」
俺は帰り道の中、武に母さんから貰った紙を武に見せて気を少し落とした。
「ヘぇ〜家庭教師かぁ。ならしょうがないか・・・まっ、頑張れよな!」
そう言って武は俺の肩を一頻り叩いて、腕を振りながら帰って行った。
俺も一人、家へと帰っていく。が、その時に見えたんだ。すれ違う赤ん坊の胸に下がっている「おしゃぶり」が「黄色く」見えたんだ。
俺は振り返ってその赤ん坊を探すが、その姿はどこにもなかった。
確かに見えたんだ。色が、色が見えたんだ。諦められない想いを胸に俺はもう一度帰路についた。
道中、いろんな人とすれ違った。
見た目は「不良」を想起させる未成年なのにタバコを吸っている人。
ランニング中に「極限」と叫んでいるうるさい人。
ソフトクリームを食べながら歩いている「牛」の格好をした幼稚園児。
学ランの制服を羽織って腕に「風紀委員長」の腕章をつけた人。
この辺では珍しい「黒曜の制服」を着ているの人。
そして数十分もしない内に家へと着いた。
玄関で靴を脱いだ時に違和感に気がついた。
二人暮らしのこの家の玄関には母さんと俺の靴の二足があれば良いはず。なのに、一足多い。それも、子供用の革靴。
「・・・ただいま」
俺が帰ったことを母さんに伝えるために少し大きな声で言う。
すると母さんはリビングへと続くドアから出てくる。
「あら、ツーっ君お帰りなさい♡先生、来てるわよ」
そう言って母さんの後ろから黒く長い影が廊下に伸びる。
でも、出てきたのはあの時見た「黄色いおしゃぶり」を胸に下げたスーツを羽織った黒い帽子の赤ん坊。
「チャオっす 俺はリボーン。お前の家庭教師になった「ヒットマン」だぞ」
は?
俺は疑問の多さのあまりだらしない声が出てしまう。
この赤ん坊が家庭教師?それに、ヒットマンって、幼稚園児の妄想か
そんなことを思っていると、頭と背中に強い衝撃が伝わる。
「小さいからって、油断してると「死ぬぞ」?」
いつの間にか足元に近づいていた赤ん坊は俺を張っ倒して額に銃口を突きつけていた。
「痛ぇ!?」
悲鳴をあげた俺とは裏腹に母さんは嬉々としていた。
「あら〜リボーン君って強いのね!」
「ヒットマンだからな いつまで寝てんだツナ、さっさと起きろ」
リボーンは俺を蹴り飛ばして早く起きろと催促してくる。
それでも痛みのせいで立ち上がれない。するとリボーンは俺を引きずり出した。
階段でも例外なく引きずられた俺は自分の部屋に着く頃には頭に数個のタンコブが出来ていた。
部屋に放り込まれた俺は痛みに喘ぎながらリボーンに文句を言う。
「何なんだよ!?お前!!」
「俺はリボーン 家庭教師だぞ?」
俺が怒っているのに対して、リボーンは首を傾げて不思議そうに俺を見る。
「そんなの信じれるわけないだろ!?」
「たく、だらしねーな そんなんじゃ「ボンゴレX世《デーチモ》」は継げねぇーぞ」
「ぼ、ボンゴレ?」
それは、今までの日常を一歩飛び出した、少年、少女のお話。