二話
「ぼ、ボンゴレって何だよ?」
俺はリボーンの言った「ボンゴレ」と言う言葉に反応した。その言葉はどこかで聞いたことのある様な気がした。
でも、そんなはずはなかった。だって、
「ボンゴレって言うのは、イタリアで最大のマフィアのことだぞ。」
「ま、マフィア!?」
マフィアの名前なんて、この平和な日本で暮らしていたら普通聞く事はない。それも、イタリアなんて・・・
「そうだぞ?何も聞いてないのか?」
リボーンは俺の驚きようが不思議だった様で、そう聞いてきた。
やっぱり、親父が関わってるのかよ・・・イタリア行ったきりもう五年も帰ってこない親だからな。顔もうろ覚えで、写真を見ないと思い出せない。
「・・・何も、聞いてない・・・」
俺が頭を落とすと、リボーンは何かを感じた様でどこに隠していたのか分からないが紙芝居を出した。
「何も知らないお前のために俺が詳しく教えてやる。ありがたく思えよな?」
上から目線が気に食わないが、この何が起こっているのか分からない状況で教えてもらえることは教えてもらっておこう。
「あぁ・・・ありがとう」
「素直なのはいいことだな。それじゃあ、『ボンゴレの成り立ち』始めていくぞ?
まず第一に、ボンゴレは元々は自警団だったんだ。
第二に、初代ボスは二代目に座を譲った後に日本に渡って余生を過ごしたと言われている。それがお前のひいひいひいじいさんって訳だ。
第三に、二代目になってからはどんどん勢力が増えていって結果ボンゴレは自警団からマフィアになって行った。
ツナ、お前は十代目になる資格があるんだ。
お前以外の十代目候補は皆んな謎の突然死を遂げてお前しか候補が残らなかったからな。」
えっ?それが理由?てか、怖!?
「・・・まぁそれだけでもないんだけどな・・・」
リボーンは紙芝居を仕舞いながら小さくそんなことを言った。
「それって、どう言う・・・」
「ツナ、お前には力があるし、才能もある。資質だってもちろんある。」
リボーンは取り止めなく俺を煽てる。
「なっ、何だよ?」
取り止めなく褒めるもんだから警戒してしまう。
「でもな、一番大事なのはそこじゃねぇ。お前に足りてなくて一番大事な物、それは・・・」
リボーンはそこで言葉を切った。いきなり切るもんだからこっちはむず痒くなってくる。するとリボーンもう一度口を開いた。
「一週間やる。その間にお前にとって一番大事なものを見つけろ。それが俺からの宿題だ。」
そう言うとリボーンは部屋を出て行こうとする。扉を開けるとこちらを振り向いた。
「ツナ、お前はボスになりたいか?」
それは唐突な質問だった。
その言葉は今までの暴力的な行動と違い、どこか優しさを感じる。
俺は何て言えば良いだろう?
何て答えれば正解なんだろう?
リボーンは、その答えを知っているのだろうか?
頭の中には整理しきれない情報が駆け巡る。
ボンゴレ。十代目。初代。親父。マフィア。
知らなければいけないことが沢山ある。
正直、先が見えない。この何も見えない真っ暗な景色は、夢で見た谷底に似ている。
あの時見た炎と屍。
炎は力だ。
屍は結果だ。
炎を手にし、数多の屍を超えていく人間に、俺はなりたくない。
それなら、俺の答えは決まった。いや、決まっていた。
「・・・あぁ、なりたい。ボスに、なりたい だから、見つけるよ。一番大事なもの」
俺がそう言うとリボーンは笑顔で一階へと降りていった。
俺は部屋で一人。周りを見渡せば銃やら爆弾やらトラップやら大量に転がっていた。その中に、手紙が入った封筒と貝の装飾が施された小箱があった。
手紙は親父からのものだった。
『ツナ、元気にしてるか?
あまりそっちに帰れなくてごめんな。
お前には、辛い役目を押し付けてしまったかもしれない。
もしも。もしも、本当に辛かったら逃げても良い。でも、後悔だけはするな。
リボーンなら、お前を必ず導いてくれる。
母さんに、よろしくな
P.S 守りたい人ができたら言えよ!俺はお前の親父だからな!』
「何だよ、最後の・・・」
手紙を読んで短い文章に込められた親父の思いを感じた。
親父は親父なりに家族のことを思ってくれていたんだと思うと嬉しい様な気もしてくる。
親父からの手紙を置いて俺はもう一つ置いてあった小箱に手を差し伸べた。そして、それに触れた瞬間に俺は夢の谷底に立っていた。
燃える炎が九つあって、後ろには屍が山になっている。相変わらず心は穏やかだった。
そして九つの炎の内、一つが俺に近づいてくる。
そして、聞こえてくるのはあの声だった。
『デーチモ、やっと会えたな。』
顔は見えないのに、朧げな輪郭と炎だけが俺には見えている。
『どうした?嬉しくないのか?』
声の主は不安そうに俺に問いかける。
アンタは、誰だ?
『あぁ、私の名か?私は「プリーモ」 お前の「炎」だよ』
俺の、炎?
『力、と言った方が良いかな?』
力・・・プリーモは、知ってるの?俺に足りない大事なものを・・・
『あぁ、知ってるよ。』
なら!
『でも、教えられない』
何で!?
『自分で気付かなきゃいけないんだ。何のために力を振るうのか、誰のために力を振るいたいのか』
何のため、誰のため・・・
『俺が出せるのはヒントだけだ。』
そして、俺は目を覚ました。時計を見ればもう二十四時を回っていた。
俺は夜風に当たりたくて誰にも気付かれない様に家を出て行った。
街は静かだった。
微かに響く虫の音と、車が走る駆動音。後は、啜り泣く声。
公園に差し掛かった時のことだ。公園の中から泣き声が聞こえた気がしたのは。
俺は何かに惹かれる様に公園の中へと足を向けた。
ブランコが揺れていた。人が乗っていたのだ。
きっと、泣いているのはこの人だろう。そう思って駆け寄ると、ブランコに座っていたのは俺と同じくらいの女の子だった。
「どうして、泣いてるの?」
俺は女の子の前でしゃがみ込むと顔を覗き込んでそう問いかけた。
「・・・誰?・・・」
女の子は怯えた様子で自分の体を抱いて防御の姿勢をとっている。不安がらせてしまった様だ。
「ごめんね、怖がらせたよね 俺は綱吉。沢田綱吉 この近所に住んでるんだ。気軽にツナって呼んでくれ」
彼女に笑顔を向けると警戒を解いてくれたみたいで名前を教えてくれた。
「・・・凪 です・・・」
「そっか、綺麗な名前だね?」
俺がそう言うと、彼女は頭を横に振った。
「全然、綺麗じゃ、ない」
俺は困ってしまった。本心からの言葉だったのだが、本人に否定されてしまってはどうしようもない。
「綺麗だと思ったんだけどな・・・ごめんね、困らせちゃって」
「ち、違うの!違くて・・・私が、この名前に相応しく、ないから」
そう言って、彼女は顔を逸らした。
「良かったら 聞かせてくれない? 何があったのか。何をされたのか。何をしてたのか。」
俺が言うと、彼女は何回か生唾を飲んだ。
そして語り出す。
「私がね 家にいると、お父さんもお母さんも私を叩くの。
蹴ったり、ものを投げたり、まるで、腫れ物を扱うみたいに・・・
それで、もう二日間、家に帰ってない。
私、何も悪いこと、してないのに・・・」
片言で話す彼女も最後には泣き出してしまう。
俺には、彼女の境遇に共感できるほど度量はない。
俺が彼女にできることは何だろう?そう思った時に話せることが一つあった。
俺の話だ。
「・・・俺さ、色が見えないんだ。」
「えっ?」
唐突に話だした俺に彼女は反応を示してくれた。
「凪がさ、辛い目にあったことを話してくれたのに「俺は何も話しません」じゃ格好悪いだろ?」
本心だった。久しぶりな気がする。誰かのために何かをしたいと思ったのは。
俺は今、彼女のために何かがしたい。
「さっきも言ったけど、俺は色が見えないんだ。どうしてなのかとか、全然分からなくてさ・・・四年前くらいからかな。それから俺が見てるのは白と黒の世界。」
「・・・」
「でもね!今日 色が見えたんだ!」
「・・・見えたの?」
「あぁ!「黄色のおしゃぶり」が!」
俺はまるで道化師の様に振る舞う。
「お、おしゃぶり???」
彼女は頭の上に疑問符を浮かべていた。
「そう!赤ん坊が持ってたんだけど、その赤ん坊がまたすごい奴でさ!自分のこと「ヒットマン」て言ってるんだぜ!笑えるだろ?」
「う、うん・・・すごい赤ちゃんだね?」
「でもな、あいつの事格好良いって思ったんだ。」
「どうして?」
いつの間にか、俺の話は会話へと変わっていた。
彼女の顔には「知りたい」と書いてある様な、そんな顔をしていた。(私、気になります!)なんて声が聞こえてきこそうだ。
「ふふ、凪って面白いんだね?」
「そ、そう?」
武とは違う。でも似たような、凪と一緒にいると自分が変わってる様な、退屈な世界が色付く様な、そんな気がしてくる。だから、普段笑うことのない俺でも心から笑える。
「そうだよ!あった時より良い顔してる そっちの方が・・・」
「・・・?そっちの方が、何?」
そっちの方が可愛いと思う。
首を傾げる仕草でさえ「可愛らし」かった。
「いや、何でもない」
俺は言葉を切って彼女を真っ直ぐ見つめる。
「?どうか、したの?」
「よかったらさ、家に来る?」
その言葉はごく自然に出てきた。
「良いの?」
「あぁ だって、行くとこないんだろ?」
「でも・・・迷惑に、なる」
何だ、そんなこと気にしてるのか・・・
「人てさ、誰かに頼った方がうまく行く時だってあるんだよ?俺は、凪にとってそれが今だと思うよ」
本当に、何となく「そんな感」がしたんだ。
凪をこのまま一人にしちゃいけない。それくらいなら・・・
俺は立ち上がって凪の頭に手を乗せて撫でる。
「心配すんな。もし何かあったら、俺が「守る」から」
俺は凪と一緒に白くなり始めた街の中を歩いていた。
俺はこの日のことを「一生」忘れない。