三話
「心配すんな。もし何かあったら、俺が「守る」から」
私の頭に乗せていた手を差し出してくれた。彼の手はすごく暖かかった。
彼の世界が白黒なら私の体はどちらの色で見えているのだろ?
白いのだろうか?それとも、黒いのだろうか?
彼は私をどう言う風に見てくれているのだろう?
「・・・ねぇ、ツナくん」
気が付くと私は彼の裾を掴んで名前を呼んでいた。
「?どうかした?」
彼は振り返って私を見る。
あれ?
私は彼の瞳の色が変わった様に感じた。さっきまでは「オレンジ色」の瞳をしていたと思ったのに、今の彼の瞳は「茶色」だった。
その時は、それが光の加減の起こしたことだと思っていた。
「うんん、何でも、ない」
「?」
彼は首を傾げると少しだけ口角を上げてもう一度歩き出した。
数十分もしない内に辿り着いた彼の家の前で私は立ち止まった。
「本当に、私がいて、良いの・・・?」
私は彼に返せるものもないし、望みを叶えられるほどの力もない。
彼は私に良くしてくれた。だから、彼に迷惑だけはかけたくない。
「何立ち止まってるの?さぁ、入ろう!」
彼は私の手を掴んで勢いよくドアを開けた。
そして、玄関先に立っていたのは・・・
「・・・ツナ お前良い度胸してるじゃねーか。俺の授業を寝てサボったくせに朝帰りな上に女連れとは 一発打っとくか?」
そう言って銃口を彼に向ける「黄色いおしゃぶり」を胸から下げた赤ちゃんがそこには居た。
彼は両手を上げて降伏を示した。
この子がリボーンくん?
「・・・まぁ、今はそん時じゃねぇか」
リボーンくん?は銃を下ろして私を見た。
「おめぇ、何者だ?」
「わ、わわわ、私は・・・凪、って言います・・・」
私は彼の背中に隠れながら答える。
「おっと、怖がらせっちまったな。俺はリボーン。そこのツナの家庭教師してんるんだぜ」
リボーンくんは帽子を取って挨拶してくれた。まるでその年に似つかわしくない紳士の様な対応だった。
「ご、ご丁寧に、どうも・・・」
私はいつの間にか赤ちゃんに対して会釈していた。
凄い子だなぁ
私の中にはそんな平凡な感想しか出てこなかった。
「おい ツナ、コイツどうしたんだ?」
「あぁ、実は・・・」
彼が何かを話し始めようとした時、奥からもう一人出てきた。
「ん〜 朝早くからどうしたの〜」
その人はすごく若い女性でツナくんよりも明るい茶色の髪だ。
私は彼の服を引っ張って「お姉さん?」と聞いた。結構小さい声で話したはずなのにその女性は勢いよく反応した。
「あら〜♡何この良い子〜?」
!?!?!?
女性は数メートル離れていたはずなのに一瞬で近づいて私に抱きついたかと思うと頬擦りされて、頭をワシャワシャ撫でられて、私の頭は混乱していった。
何が起こったのか分からなくて混乱しているとツナくんが私と彼女の間に入って私を守ってくれた。
「フレンドリー過ぎるんだよ「母さん」は。もう少し自重しろよ」
お、お母さん!?
「も〜、ケチケチしないの♡で!?で!?彼女はどこの誰さんで、ツーっ君の何なの〜♡」
興奮が冷め止まないツナくんのお母さんはツナくんに詰め寄って私の事を根掘り葉掘り聞いていた。
するとツナくんのお母さんの足元にリボーンくんが近づいて行った。
「ママ〜ン 俺お腹空いちまったぜ」
「あら残念 あとでた〜っぷり聞くからね?」
ツナくんのお母さんはリボーンくんを連れてドアの向こうへと消えていった。
去り際にウィンクをされて、何をされてしまうのか怖くなってしまった。
私はツナくんの背中をキュッと掴んで怖くなった気持ちを紛らわせた。
「大丈夫?ごめん うちの親はあんな感じだから、疲れたでしょ?」
「・・・ううん 確かに、怖かったけど、私は好き」
あの家に比べたら、雲泥の差、月と鼈だ。
「そうだ お風呂入ってきなよ、シャワーだけでも浴びた方が良いよ。しばらく入ってないんでしょ?」
そう言われて私はドキッっとしてしまう。
「やっぱり・・・臭い?・・・」
私はつい涙目になってしまう。異性の、それも同い年の男の子にそんな風に思われることは耐えられない。彼だけにはそう思って欲しくなくて、ちょっと悲しくなってしまう。
「いや・・・女の子だから、お風呂とか、やっぱりちゃんと入りたいのかなぁ、って思ったんだけど・・・」
ツナくんは、私のことを思ってくれてたんだ。
私は顔から火が出る様な思いで、顔全体が赤くなっていく。
・・・恥か死ぬ・・・
私は今 ツナくんの家のお風呂でシャワーを浴びています。
あの火が出る様な思いをした私は数分その場で悶えたが、ツナくんに言われてお風呂に入ることにした。
二日振りのお風呂は、体に染み渡る様でまさに「極楽」という言葉が合うと思った。
服もだいぶ汚れていたから洗濯してもらった。そして私が今着ているのは、
「乾くまでそれで我慢してくれ」
そう言われて渡されたツナくんのお母さんの物と思われる白いワンピースを着ている。
あまり着ない様な服だったからかソワソワして落ち着かない。
何も変わらない風景の様に私は自然に四人で朝食を食べる席についていた。
白いご飯に少し濃い味噌汁、だし巻き卵と焼鮭・・・美味しい・・・
「・・・ごちそうさま、でした」
「はい、お粗末様でした♡」
ツナくんのお母さんはそう言って食器を流しへ持って行き洗い始める。ものの数分で洗い終わったのか自分の前掛けで手を拭きながらもう一度席についた。
「で、ツーっ君 この子は誰?」
「あぁ、この子は」
私は彼の服を引っ張って話の腰を折る。
「・・・良い。自分で、説明する」
何もかも彼に背負わせたくない。
一呼吸。吸って、吐く。
心が落ち着いた私はツナくんのお母さんの目を真っ直ぐ見て、話す。
「私、凪って言います。」
「あら、そういえば名乗ってなかったわね。私はツーっ君の母で沢田奈々って言います」
私がお辞儀をすれば彼女もお辞儀をしてくれた。
そして、意を決して言う。
「わ、私を、ここに、置いてください!私はもう・・・腫れ物に、なりたくない、から・・・」
私に出せる精一杯の声でツナくんのお母さんにお願いをした。
「どういう、ことかな?」
私はツナくんのお母さんに包み隠さず話した。
両親に受けた暴力。家を出てきたこと。ツナくんに言われたこと。
ツナくんは顔を赤くしていたけど私の言葉は止まらない。
「私は、あの家に居たくない!あの家で、もう、暴力を受けたくない!」
言い終わると私は息切れを起こした様にハァ、ハァと呼吸していた。
胸の内にしまっていたものを吐き出す様に綺麗さっぱり言い終わった。
ギュッ!
私は強く引き寄せられ、彼女に体を包まれていた。
「よく・・・よく頑張ったわね!あとは私に任せなさい!そんな親、私がどうとでもしてあげるわよ!」
その言葉を聞いて、私は涙を流した。悲しかったからじゃない。ずっと誰かに言って欲しかった言葉を言ってもらえて、嬉しかったから。
そしてその日の内に、私は奈々さんの娘になりました。