四話
「よく・・・よく頑張ったわね!あとは私に任せなさい!そんな親、私がどうとでもしてあげるわよ!」
奈々さんは私にそう言ってくれた。
「心配すんな。もし何かあったら、俺が「守る」から」
ツナくんは私にそう言ってくれた。
じゃあ、私は?私は、何を言えるのだろう?私には何ができるのだろう?
誰も、教えてはくれない。
ツナくんは言った。色が見えないのだと。なら、私は彼の「色を見る目」になりたい。彼が困っていたら一番に力になりたい。
もう、弱かった私に戻りたくない。
力が欲しい。
「どうかしたの?・・・凪?」
いつの間にか私の前で呼びかけていたツナくんは反応がなかったからか私の肩を掴んで揺さぶった。
「!?ど、どうかしたの?」
「いや、何回呼んでも反応なかったからさ」
そうか、私は誰かに呼ばれる環境にいるんだった。つい、あの家での生活習慣に戻ってしまっていた様だ。忘れたいのに、忘れられない。
あの家のことを思ったからか私の表情に影が落ちた。
ツナくんはその変化に鋭く反応して聞いてくる。
「大丈夫?どうする?また今度にしようか?」
私は頭を勢いよく横に振った。
「大丈夫、だから 行こ」
そう言って私は立ち上がって外に出る。
ツナくんと二人で買い物、楽しみ
時は数刻前に戻る
私を解放した奈々さんは電話で一報を入れた。
「もしもし・・・えぇ、久しぶり 実は・・・」
どこに入れたのか誰に入れたのかは分からない。でも、
「本当ですか?・・・はい。はい。いつもありがとう、「愛」してるわ」
その言葉で誰に電話しているのかわかった。
「もしかして、親父?」
ツナくんが奈々さんにそう聞くと奈々さんはコクっと頷いた。
「さぁ、あとは一発ガツーン!と大きいの打ち上げに行くわよ!」
そう言って奈々さんは私とツナくんとリボーンくんを連れてある場所へと向かった。
段々、段々と見慣れた風景が増えてくる。
私はある一抹の不安を胸に、顔を青くして行く。
それに気付いてくれたのかツナくんが私の手を握ってくれた。
「着いたわよ!」
それは、私の住んでいた、あの家だった。
冷や汗が止まらない。顔は一層青く、白くなって行く。
そして、奈々さんはインターホンを押した。
その場にチャイム音が響く。
数分して、中から出てきたのは、昼間からお酒を飲んで、顔が赤くなり、目が座っていない女性・・・お母さんだった。
私はとっさにツナくんの影に隠れた。
チッ
そして聞こえてきた舌打ちの音。私は尚更怯えてしまう。
体は小刻みに震え、ツナくんの存在を感じられなくなって行く。さっきまで傍にいてくれていたはずなのに、まるで私を取り巻く環境が彼を飲み込んでしまったかの様だった。
私は地べたに座り込んでしまった。
「ねぇ、あんたたち何?」
高圧的なその言葉は私から体温を奪って行く。私の顔はもう、死体のそれに等しかった。
「・・・この子の、お母さんですか?」
奈々さんはお母さんを真っ直ぐ見据えたまま話す。
チッ!
さっきよりも大きい舌打ちだった。お母さんの舌打ちは私の心臓を蝕んでいく。お母さんが一回舌打ちをすれば私の心臓の鼓動は弱まって行く。やがて、止まってしまうかの如く。
「・・・そうだよ。で、何?説教でもしに来たってわけ?」
「いいえ」
奈々さんはお母さんの言葉に対して強く答えた。
「ならさぁ、マジでなんなの?私、こう見えて忙しいんだけど」
お母さんは段々と怒りを募らせて行く。
「その子が何言ったか知らないけど私には関係ないのよ!」
まるで、その言葉を待っていたかの様に奈々さんは言う。
「・・・この子を、育てる気はないんですよね?」
そこで言葉を区切り、語気を一段強めた。
「なら、この子は家で育てます。そのために譲り受けにきたんです。もう貴女方に育ててもらう必要はありません。」
奈々さんはそう言うと深く一礼した。
「ふっ、何かと思えば・・・良いわよ。そんな子、貴女にあげるわよ」
お母さんは一笑してから、私を手放した。
奈々さんは面をあげて、笑顔で言った。
「ありがとうございます でも、ちゃ〜んと「罪」は償ってくださいね♡」
「・・・・・・は?」
お母さんはその言葉を聞いて唖然としてしまった。でも、奈々さんの言葉は止まらない。
「知ってます?虐待って、一年以下の懲役、または100万円以下の罰金が科せられてるんですよ」
「だ、だからなんだって言うのよ!?警察でも呼ぼうって言うの!?」
お母さんは目に見えて動揺していた。
「もう呼んじゃいました♡」
奈々さんは何の悪ぶれもなくお母さんに言い放った。その言葉に、お母さんの動揺は最高潮に達した。
「な、何勝手なことしてんのよ!?」
「でもよかったですね たった児童虐待「だけ」の罪で」
奈々さんはお母さんに近づいて行って耳打ちで少し話した様だった。私たちには聞こえない声で。
すると不思議なことにさっきまで赤かったお母さんの顔が青白くなって行った。
最後に、私たちでも聞こえる様な声で
「子供は、大切にしましょうね♡」
そう言って身を翻し、私が座り込んでいるところにしゃがんで話す。
「今日から よろしくね♡」
差し出された手を、私は強く握った。失った体温を取り戻すかの様だった。
私の目にはもう片方の手を強く握るツナくんの姿が映った。
私たちは、まるで何もなかった様に帰路についた。
私の気分は落ち着いていたし、奈々さんがしてくれたことは怖かったけど凄く嬉しかった。これでもう、私はあの家の子じゃないんだ、と思えるとまるで羽が生えた様だった。
でも一つだけ、予想外の出来事が起こった。
お母さんが包丁を持って追ってきたのだ。その包丁を私に向けられていた。
「あんたの・・・あんたのせいよ!!」
その目は血走り、手に持った包丁はカタカタと震えている。
そして、向けられた包丁は真っ直ぐに私の胸を貫くかに見えた。
でも、そうはならなかった。
「・・・あんた、親なんだよな?」
ツナくんが包丁を掴み、お母さんの進行を遮って私を守ってくれたから。
「黙れ黙れ!!お前らがいなければ、私は!!」
お母さんは掴まれたままの包丁を引き抜こうとしたり押し込んだりしていたが、ツナくんの持った包丁が動くことはなかった。
「子供にこんなもん向けて、恥ずかしくないの?」
ツナくんは掴んだ包丁を破壊した。
よく見ると、彼の瞳は「オレンジ色」になっていて、額には薄らと炎が灯っている様に見えた。
「ひっ!?」
お母さんは包丁を破壊されたことに怯えてその場に座り込む。
ツナくんはそんなお母さんを見て、何を思ったのか手をあげようとした。
私は恐る恐るツナくんの裾を引っ張る。
彼は私を見ると驚いた顔をしてその手を下ろした。
「・・・良いの?」
「うん」
私は彼に短く答えてお母さんの前に立った。そして、礼をした。
頭を下げて、もうお母さんでもない女性に言葉をかける。
「・・・今まで、私を育ててくれて、ありがとう。・・・いっぱい、痛い思いはしたけど、生きてこれたのは、貴女達のおかげだから。」
言い終わって私は顔を上げた。振り返れば、彼は笑っていてくれた。
私たちはもう一度歩き始める。
「ねぇツナくん、聞いても良い?」
私はツナくんの隣を歩きながら問いかける。
「何?」
彼の瞳はいつの間にか「茶色」に戻っていて、炎も消えていた。
きっと、疲れすぎた私の見間違えなのだろう。
「ツナくんにはこの街も人もあの空も白と黒に見えるんだよね?」
「うん そうだよ」
「・・・私の体って、何色に見える?」
そう聞くとツナくんは立ち止まって呆けた顔をしていた。そして、次第に笑い始めた。
「ど、どうして笑うの!?」
私はつい柄にもなく大声で怒ってしまった。それでも彼には関係なかった様で、ひとしきり笑い切った後に、俺には、と続けた。
「俺には、凪の体は「白く」見えるよ」
白く、見えてるんだ・・・ふふ
私は笑顔でスキップしながらツナくんよりも前を進む。
こんな思いはいつぶりだろうか
そして、振り返ってツナくんに伝える。
「私ね、やりたいことができたんだ!」
ツナくんは首を傾げて、それが、何なのかを聞いてきた。
でも私は頑なに口を破らない。
ツナくんは当てずっぽで色々答えてくれた。
お花屋さん ケーキ屋さん 保育園の先生 看護師 アイドル
・・・最後のは私には似合わないと思う・・・
「う〜ん? 分からん、一体何がやりたいんだよ?」
ツナくんは諦めた様で私に答えを求めてきた。
「・・・秘密 もしも、言う時が来たら言うね」
そして、私たちは帰って来た。私の新しい家に。
『ただいま』
『おかえり』
皆が皆、同じ様に帰宅を報告し、同じ様に帰宅を了解した。
ツナくんが居て、奈々さんが居て、リボーンくんが居るこの場所が、私の居るべき場所なんだ。