それでは本編へどうぞ
ミカちゃんの撃退から少し時系列では遡り、僕とマリアさんと翼さんの三人で風鳴邸への訪問をした。
「ここが風鳴邸………。日本政府の重役が住む屋敷か。そして翼さんの実家なんですね。」
「私達の〈SONG〉加入を後押ししてくださった恩人の家なのね。私は直接会えていないけど、その人のお陰で私は愛しい勇といられるの。是非ともお会いして直接感謝したいものね。」
「お父様………十年振りの帰宅か………なんと声を掛ければ良いのか………」
翼さんの表情は未だに暗かったが、緒川さんが門を開けて、既に八紘さん達本家の方々が出迎えてくれた。
「慎二よ。報告書は読ませてもらった。本部の方への礼は必ずすると伝えてくれ。」
「わかりました。必ず司令に伝えます。」
「君がマリア・カデンツァヴナ・イヴだな。活躍は聞いているし、人柄も良いらしいな。流石最年長の装者ということか。」
「ありがとうございます。貴方のお陰で私は、この身を捧げたいと思える彼の側にいることが出来ます。貴方の働きなくしては、実現は大幅に遅れていたでしょう。この恩は今回の滞在中に返させていただきます。」
「そして君が〈精霊〉と呼ばれた少年の、雪音勇君だね?活躍もさることながら女性との付き合い方に変化があったそうだな?だが君は真摯に向き合い続けているとも聞く。これからの動向が非常に気になるものだ。」
そう言って八紘さんは屋敷に戻ろうとした。しかし翼さんには一言もかけてはいない。
「お父様!私は!………いえ。十年も連絡を怠り申し訳ありません。」
「お前の務めは聞いている。私は私のなすべきことをしてお前もなすべきことをする。それだけのことだ。」
その言葉を最後に八紘さんは屋敷へ入って行った。
「翼!貴女はあの言われようになんとも思わないの!?貴女達は父娘なのよ!なのにこんなやり取りなんて!」
「マリア………良いんだ。勝手をした私の行いの結果………それだけのことなんだ。」
やはり翼さんは過去に囚われているな。だけど僕は知っている。八紘さんの不器用な優しさが二人の壁を壊すことを妨げていることを。
「緒川さんは二人の事情をご存知ですよね?」
「はい。僕も翼さん達のことを支援する人間なので、お二人の関係等は充分に理解しています。」
「なら緒川さんに頼みたいことがあります。マリアさんと翼さんを嘗ての翼さんの部屋に案内してもらえますか?もし僕の予想通りなら八紘さんの不器用な愛情の痕跡がある筈ですから。」
「………なるほど。勇さんの考えはわかりました。僕も今の状況は本意ではありませんからね。協力しますよ。」
「ありがとうございます緒川さん。よろしくお願いします。」
そう言って緒川さんは二人を部屋に案内した。さて、僕はこちらの対応からしようかな。
「ファラさんがそこにいるんでしょう?翼さんをテストするために。だけど今は間が悪いからさ。少し待ってくれない?」
するとファラさんは蜃気楼がとけるように姿を現した。
「やはり旦那様を欺くことは不可能でしたか。しかし何故私にお声を?必要があるとは思えませんでしたが?」
流石はファラさんだ。状況把握能力と戦闘力・諜報能力まで含めれば彼女程厄介な相手はいないだろうね。
「僕もここでやりたいことがあるんだ。だからそれを果たすまで行動を待って欲しいんだ。だってそうしないと翼さんは今、自分を見失っている。そこが解決しない限りイグナイトは使えないからね。それじゃテストにならないでしょう?」
「なるほど。旦那様の話通りであれば今の彼女は相手する価値はありませんわ。であれば旦那様の言葉に従いましょう。合図を下さい。その時に私は行動を開始致します。」
ファラさんの理解の早さはシャトーでも助かったからね。これで僕もやりたいことができる。
「じゃあ僕が要石に左腕を当てた時にお願いね?」
「かしこまりました。それでは次の合図をお待ちしています。」
そう言ってファラさんは再び景色に溶け込んだ。
「ようやく本命と対面かな。」
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「なるほど。故に君は一人で私に会いに来たのだな?」
僕はあの後一人で八紘さんの部屋に向かい、話し合いの場を作ることに成功した。
「ええ。僕はつい先日、幼馴染みの立花響の父親と再会しました。正直に言うと〈大人とは何か〉を考えざるを得ない話し合いになりました。自らの責任から目を背け、他者の力をあてにした言動が目立ちましたから。」
「なるほど。確かに父親とは何かを考えられる出来事だな。しかしそれが私にどう関係するというのだね?」
やはりそこには気付いてくれたな。この人も不器用なだけで確実に翼さんへの愛情は確かにあるんだ。
「貴方の場合はある意味では彼と逆なんですよ。自分の立場上、家族という繋がりがかえって危険に巻き込んでしまうことを恐れていませんか?」
淡々と話していた八紘さんの空気がここで変わった。
「君は〈風鳴〉の役割を知っているのか?」
「貴方もご存知の通り僕は嘗て〈結社〉の序列五位でした。当然表にない情報もそれなりには知っていましたし、僕自身の能力も報告が来ているのではないですか?」
「そうだったな。君は全知の力すら備えていたのだったな。であれば今の質問の答えも自ずと知っているのだろう?」
「ええ。この国を守る要にて、翼さんは次期後継者だという意味ですね?もちろん知っています。そして貴方が翼さんを巻き込まない為に敢えて突き放していることも。」
「なるほど。私の内面までお見通しか。ならば隠す必要はないな。私は現当主の風鳴訃堂の在り方を危険視しているし、嫌悪もしている。願わくは奴の代で終わらせられればとさえ………な。」
だろうな。あの妖怪は心さえ人ではない。だからそんな環境から翼さんを守る為の手段がこれしかなかったんだな。
「でも今は違いますよ。僕達は既に日本の枷から外れています。それは貴方の努力の証でもあります。だからもう、翼さんを抱きしめてあげることはできないんですか?」
「いや。翼はそれを望まんだろうな。私に対して良い感情など持つはずがないだろうな。」
その言葉を聞いて僕は思わず彼に拳を振るっていた。手加減はしていたがほぼ不意打ちのようなものだ。
「すみません。頭に血がのぼった短絡的な行動をしたことは謝罪します。しかし僕はその言葉を受け止めることはできません。ご存知ですよね?僕の旧姓と九年前の悲劇を。僕は親とぶつかる機会さえありませんでした。なのに貴方は!娘を守る為とはいえ!翼さんと壁を作り!わかり合う努力を怠った!それが僕は許せないんですよ!」
言ってしまった。そう後悔する間もなく、マリアさん達が部屋に突撃して来た。
「勇!今の音は何なの!?」
「お父様!何があったのですか!?」
二人の表情は焦りと不安だった。
「勇………貴方泣いて………」
マリアさんの声に耳を傾けずに僕は横を抜けて……
「すみません八紘さん。無礼を働き申し訳ありませんでした。ですがもし、翼さんのことを想っているのならもう一度向き合っていただけませんか?」
僕はそう言って部屋を立ち去った。
父親と娘(息子)のあり方は人各々と言います。勇君の価値観の根底にあるものの解説は四期で必ず明かします。
次回〈抜剣!イグナイトモジュール④〉
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