本編をどうぞ。
凛祢の行動に動揺と尻込みをした僕は、キャロルさんに連れられて撤退した事で漸く窮地を脱した。
〈勇……なんだあの腑抜けた戦闘態勢は!お前はこの状況を打開する気があるのか?〉
シャナさんが今までで一番冷ややかな声で問いかけて来た。それはそうだろう。あの戦闘において僕はほとんどなにもしていない。撤退すらキャロルさんが僕を連れて逃げたから良かっただけだ。
「正直に言うと凛祢の目的を僕は否定したくない。僕だって全てとは言わなくても救える人々は救い、その人々が幸せであれば良いと思っていた。だから凛祢と戦う事が正しいかよくわからないんだ。」
「シャナ……ならさ、勇には〈あの事〉を話すべきじゃあないかな?」
〈そうだな。ナナ姉の覚悟も含めて話すべきだろうな。〉
「あの事とは……?」
〈それはオレが話そう。ナナ姉はオレがあの世界にたどり着いた時に幾つかのトラブルを抱えていた。ルナ・アタックの際にいた筈の敵や、未知の敵、そして姿を見せない黒幕やネフェリム等対応しなければならない問題が山積みだったのは話したな?〉
「うん。ナナ姉はその中で選択を迫られたんだ。〈キャロルを殺す覚悟をするか〉・〈世界が破壊されるのを受け入れるか〉ね。ナナ姉にとっては世界もキャロルも同じぐらい大切だと言う事だった。だけど現状では片方しか救えない。故に悩んだの。だけどナナ姉は覚悟を決めた。〈キャロルを救い、シャナも救う。そして世界も纏めて救う!〉とね。」
聞いていて七海さんがわからなくなった。確かに可能なら全部救う事が最高だろう。だから全てを救う覚悟をした。そこにはあの人の強い何かがあった筈なんだ。
「ナナ姉の最も根源にある想いは、〈私達キャロル〉を救う事。その為には何が起こったとしても歩みを止めない。何をしてもその罪まで背負う。ナナ姉にはそれがあった。だから勇にもある筈だよ?」
キャロルさんとシャナさんの言葉で僕は漸く目が覚めた。
「そうですね。シャナさんやキャロルさんの言葉で目が覚めました。僕はまだやるべき事を終えていません。だから折れる訳にはいきませんね。」
僕にもある!この場所でも成すべき事が!帰るべき場所が!だからまずは凛祢に会う!そしてキャロルを幸せにするんだ!
〈やっと覚悟を決めたか。だがこれでやるべき事は終わったな?ならば次は戦法を煮詰めるぞ?先程の二の舞は避けねばならないからな?〉
「大丈夫だよ。あの三人の中で一番恐ろしいのは〈六喰さん〉だから。あの扉の天使がかなり厄介だけど、それを封じる手立ても考えてある。そしてこの空間の破壊方法と、奏さんへの未練の絶ち方もね。」
奏さん……貴女を救えなかった事を確かに僕は後悔しています。だけど今は僕にも帰る場所や守りたい女性がいます。なので申し訳ないですが、貴女への想いはここに置いて行きますね。
〈気にするなよ。それよりも翼達を泣かせたらアタシは許さないからな?〉
奏さんの声が聞こえた気がしたけど、きっとそれは本当の彼女からだと思えた。
「凛祢は僕の力を奪ってスマッシュを呼び寄せた。……なら、僕は自分の力を追えば凛祢に会える。そしてスマッシュの力は本人の模倣の筈だ。必ずどこかに弱点や、本人に及ばないところがある。僕だって八年以上かかったんだ……いくら凛祢でも、急拵えならその可能性は高い。」
「つまり勇は、奴等スマッシュの能力には限界があるって言いたいの?」
〈確かに奴等はアルカ・ノイズの出現に驚いていた。全知の力があれば容易に想像できた筈だ。つまりそういう事だろう?〉
「ええ。だから僕がまだ見せていないあの武器が勝負の決め手になります。だからキャロルさんとシャナさんで美九さんの相手をお願いします。彼女一人なら近接に持ち込めば苦戦はしないでしょう。」
ガヴリエルには洗脳の力もある。だけどそれは完全じゃあない。だから今は考慮しない。
〈では行くぞ。反撃の時だ!〉
僕達は再び凛祢のもとへ向かった。
~~凛祢side~~
「もうすぐ……もうすぐだよ。やっと私は使命を果たせる。みんなを幸せにする事が出来る。」
「そうですねぇ。凛祢さんが頑張ってきた証ですからねぇ。是非とも叶えたいですよねぇ。」
「ふむん。しかし奴等は来るのか?恐れをなして逃げるかもしれぬぞ?」
「それは大丈夫だね。アタシのラジエルが言ってるよ。彼等は必ずここに来る。凛祢にもう一度会いに来る為にね。」
私達は敢えて勇君との戦闘場所から動かずに待ち続けた。勇君は必ず戻ってくる……そして私に話をする。以前の私にはある筈がない思考だけど、人はそれを〈心〉と呼ぶのだろう。だけど私の目的の為には必要はない。使命を果たす為には不要なモノだ。故に勇君と最後の話をしたらここに置いて行こう。
「ラジエル……〈天羽 奏〉に擬態して。もう一度勇君を揺さぶるよ。」
「おお……凛祢も抜かりないねぇ。了解したよ。アタシの力に変装機能はないけど、対象の認識をズラす事は出来るからな。」
そう言うとラジエルは姿(周囲の認識)を変えた。
「勇君……早く来ないと間に合わないよ?」
私は呟きながら勇君の到着を待つ事にした。私の目的を必ず果たす為に。
~~凛祢sideout~~
~~勇side~~
「凛祢……僕を待っていてくれたんだね。ありがとう……僕は君の誘いの答えを持って来たよ。」
僕は凛祢のもとへたどり着いた。そしてそこには奏さん・美九さん・六喰さんもいた。
「私は勇君と話がしたいな。だからキャロルちゃんは席を外してくれない?」
「……かまわないよ。なら〈誘宵 美九〉……着いて来なよ。暇潰しの相手がほしいからね。」
「へぇ。……随分私の事を舐めてますねぇ。良いですよ~。そんなに余裕ならすぐに化けの皮を剥いで上げますから。」
キャロルさんと美九さんはそう言うと僕達から離れて行った……これで良い。
「良いの?勇君はさっき彼女に救われた。手品の道具すら後僅かじゃない?仮に私を倒してもまだブラッドがいるんだよ?」
「それにアタシの事をまた見捨てるのか?それはそれで辛いなぁ。アタシだってまだやりたい事が……」
「それ以上はもういいですよ奏さん……いや〈二亜さん〉。」
僕は敢えて二亜さんの言葉を遮った。心にもう迷いはない。だけど奏さんの姿でこれ以上語らせるべきではないと判断した。だから彼女の言葉を止めた。
「まずは天使を回収します。来てくれ〈ケルビエル〉。」
僕が纏うのは裁きの天使〈ケルビエル〉。以前は十の天使を合わせて纏う形だったけど、凛祢に天使を奪われた事で本来の雷の天使〈ケルビエル〉を纏う事になった。
「……万由里さん……ありがとうございます!」
僕が顕現させたケルビエルの力は、十の球体が浮遊していた。恐らくこの球体がそれぞれ〈鷲〉〈牛〉〈獅子〉〈人〉を形成するのだろう。
「まずは〈鷲〉の力だ!」
「おっと!流石に出力の高そうなな天使だな!直撃はゴメンだな!」
「しかし遠距離攻撃とはうぬも学習せぬよな?」
六喰さんは〈開〉を、二亜さんは回避をする事で逃れるつもりみたいだ。だけど僕にはその行動が読めている!
「僕の背後からの攻撃のつもりなら無駄ですよ!ここで貴女方を道連れにします!」
「ッ!六喰やめろ!ここで勇を失えば計画が!」
「ッ!致し方なしか!」
どうやら僕は重要な要素で間違いないみたいだ!なら貴女方には負けない!ここで沈める!
「行くぞサンダルフォン!〈最後の剣〉だ!」
動揺する二人に僕は最大級の一撃を浴びせる事にした。凛祢が僕達の体力や体を戻した以上全力を出せる!
「あちゃ~油断したなぁ。この深傷なら戦闘はやめた方が良さそうだな。〈ミカエル〉も撤退するぞ!」
「ふむん。〈ガヴリエル〉も撤退していたらしいな。ならば頃合いであろう。行くぞ〈ラジエル〉。」
「なっ!待て!」
僕は撤退する二人に驚いてしまった。まさか時間稼ぎが目的か!?すると拍手が聞こえた。……どうやら彼女は見ていたらしいね。
「まさか捨て身とはねぇ……だけど勇君それはダメだよ。私達の計画には君が必要だ。だからそんな事で台無しにされたら困るんだよ?」
「生憎だけど捨て身は僕の常套手段だ。目的を成す為ならば自己犠牲は厭わない。」
「うん。やっぱり勇君はそう言ってくれると信じていたよ?「だけどそれは昔の話だ!」え……どういう意味?」
凛祢は驚いていた……当然だろう。自己犠牲を昰とした人物がいきなり協力を拒んだんだから。
「確かに僕は救いたい人や、救えなかった人がいる。だけどその結果を受け止めると僕は決めた!だから奏さんの死を受け止めるし、キャロルを幸せにすると決めたんだ!」
「ならキャロルちゃんともここで過ごせば良い!必要なら他の……勇君の世界の人全てを「それは許さない!」なんで!!」
僕は凛祢の言葉に、一つの可能性を見た気がした。だからこのやり取りには意味がある!僕が折れる事がなければ確信も得られる!
「凛祢の言う幸せは本当に〈幸せ〉なのか?人の〈幸せ〉ってのは自分で掴むから〈幸せ〉って言うんだよ!確かに凛祢には物質的な幸せは提供はできるし、助かる人も多いと思う!」
「ならそれは良いことじゃないの!」
「それだけじゃあダメなんだ!!!!!」
僕は凛祢の言葉を遮った。
「人の心は物だけじゃあ満たされない!だからブラッド……いや〈フィーネ〉の世界は滅びたんだ!」
「だから私達は勇君の……天使の力が必要なの!」
「それは人々を力で支配する事になる!そんな事じゃあ人々は本当の幸せを掴めない!」
「ならどうするの!そんな簡単に人々が幸せになる手段なんて!」
同じだ……。嘗ての了子さんはそれをみんながわかる物にする為に統一言語を復活させようと企んだ。そしてそれは響達……いや、僕達によって防がれた。だから僕もこの言葉を凛祢に贈ろう。彼女の……〈立花 響〉が心の底から伝えた胸の内から来る言葉を!
「この世界には歌がある!そしてそれを届ける手段と能力が僕達にはある!」
「そんな呑気な事を言ってたら世界は!」
「変わる!……いや、僕達が変える!」
「そんな偽善は聞きたくない!」
凛祢は動揺したのかエネルギーを放って来た。だけど僕は凛祢に向き合うと決めたんだ!だから避けない!
「馬鹿な事をしないでよ……。お前が倒れたら誰がその世界の私を救うの?自分のやるべき事を履き違えないで!」
その攻撃は美九さんを下したキャロルさん(シャナさんも)が身を挺して庇ってくれた。しかしダメージが大きいのか、変身が解除されてしまった!
「キャロルさん!すみません〈やるべき事をしろ!それがお前の決めた道だ!〉ごめんなさいシャナさん!目が覚めました!」
だから僕はまずこの空間を壊す!だからあの剣を顕現させる!
「来い!〈ダイン=スレイフ〉!」
僕は顕現を済ませると直ぐに自分の足元に突き刺した。幸せを提供すると言っても根底は魔剣の呪いと同種の物だ。だからこそこの空間は〈ダイン=スレイフ〉の力で相殺出来る。
「嘘……私が作り出した空間が……。いや、あり得ない!私が諦めるなんて絶対にあり得ない!だから勇君!続きは後で聞いてあげるから!だからもう一度よく考えて!」
凛祢はそう言い残して僕達のもとを去った。恐らくブラッドと合流する事になるんだろう。
〈勇……気づいたか?あの女には……〉
「うん。確実に自我が芽生えてる。
嘗ての〈十香さん〉……サンダルフォンの前任者と同じだよ。何かの一部だったモノから自我が芽生える事は僕も知っている。だから凛祢は僕が傷つく事に動揺もした。目的の達成の為なら僕の手足を切り落とせば済むのにそれをしなかったんだから。」
「そうだね。シャナ!勇!ナナ姉達のもとへ急ぐよ!結界が壊れた今ならきっと合流出来る!」
〈もちろんだ!オレもブラッドに仮を返すし、何よりもナナ姉に会いたい!〉
「なら僕がナビゲートします!僕とキャロルは今や魂まで溶け合えてる!だからキャロルと僕は必ず惹かれ合う!」
僕達はお互いのパートナーとの合流を果たすべく動き出した。待っていてくれ!キャロル!
理想卿との決別は果たした。そしてお互いのパートナーと合流するために二人は動きだす。しかしその足取りは重々しい。
次回の更新をお待ちください。
そしてこちらから神咲さんの作品へジャンプできます。
https://syosetu.org/novel/222283/
〈錬金術師と心火を燃やしてみよっか?〉
是非七海さん視点でもお楽しみください。
一話の長さはどちらの方が好きですか?
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一話を濃密にして話数を少なく
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このまま切りの良い範囲で
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どちらでも良し