僕が士道さんと邂逅している間にキャロルが現場で戦ってくれた。そして南極での初戦を無事に終えたと本部より報告が入った。
「遅くなり申し訳ありません。」
「気にするなよ。君の昏睡状態はキャロル君を始め複数のスタッフから仮説を得ている。恐らくは君の力に関連する何かの現象が起きているのだろう?」
流石司令だ……隠し事はできないな。
「そうですね。前任者の……いえ、偉大なる先輩との邂逅をしていました。そこで僕が戦っていた魔術師その後の行方を聞きました。」
「成る程な。確かにその情報はオレ達では手に入らないだろうな。良ければ教えてくれないか?」
隠す理由が無くなったので僕は司令に全てを打ち明けた。
「エレンさん達は元々の世界へと送り返せました。しかし生け贄にされた真那さんだけは救えなかった事を僕は士道さんに告げました。」
「そうだな。生け贄の少女の身柄はオレ達も周知していない人物だった。彼女達の世界の魔術師とやらなのだろう?」
「はい。真那さんは士道さんの生き別れた実妹です。しかし、僕は彼女が祭壇にくべられた時に止められませんでした。」
それは僕の後悔だ。そしてそれを士道さんに謝罪できた事は僕のせめてもの償いだろう。
「では此方も二つの報告に入ろう。まずは厳しい報告から入るとするか。
一つ目はこれから発見された先史文明の遺産を調査する事になる。敵の襲撃を考慮して君にも協力を頼みたい。大丈夫か?」
「問題ありませんので、キャロルや凛祢達と当たります。なので現場組は帰還をお願いします。」
「良いだろう。切歌君と調君に後の護衛を引き受けて貰うつもりだったが彼女達も帰還させるか?」
「お願いします。ですが二つだけ頼みがあります。」
「〈お願い〉だと?一体何をするつもりだ?」
ここからが僕達の戦いの仕込みだ。うまくいって欲しいな。
「一つ目ですが、〈風鳴 訃堂〉の動きに警戒をお願いします。具体的には八絋さんとの連携の強化をお願いします。」
「八絋の兄貴………か。わかった要請しておこう。親父殿の動きは確かに危険な気配がするな……神の力の降臨となればそれは特に……か。」
「ええ。先に手を打たなければ彼は何をするかわかりません。確か犠牲を是とする考え方の持ち主ではありませんか?」
「そうだな……すぐに対応協議を行う事は難しいが、後手に回る事態には恐怖を感じるな。」
「お願いします。そして次は司令のもう一つの報告をお願いします。」
「ああ……翼達のチャリティライブのチケットが確保できたぞ!存分に楽しんで欲しい……と言うつもりだったのだがな。」
「あ~そうなりますよね。でもその事なら心配無いですよ。今回は彼女達に動いて貰いましょう?」
「彼女達……おぉ!そうかファラ君達〈自動人形〉達がオレ達にはついていたな!頼もしい戦力じゃないか!」
「ええ。それが僕の二つ目のお願いですよ。」
僕は本当にこの世界のライブが厄ネタである事を知っている。だけど今回はやるべき事の為に切り捨てる命がある事をまだ司令には隠せないし、ミラアルクさんにも接触する必要があるからね。
「現場でライブを楽しめるのは司令の好意のおかげです!だから彼女達にも協力して貰います!」
「うむ!確かに彼女達ならば一晩くらいならば余裕で凌げるだろうな。しかしそれはオレ達も同じだ。ならば皆で協力しよう!」
「はい!ありがとうございます!」
僕はこうしてライブ会場の悲劇をただの犠牲で終わらせない為の準備を始めた。本当は起こらない事が当たり前なんだ。だけどあの妖怪は必ず命令を下すだろう。だから洗脳される翼さんの分まで僕が頑張らないとね?
俺は勇君の忠告に対して考える事にした。確かに親父殿ならば〈神の力〉程のモノを見逃す事はあり得ないな。ここは少年の勘を信じるとしよう!
「八絋の兄貴……俺だ。一つ確認したい事がある。」
『奇遇だな弦。私もお前に話すべき事がある。』
兄貴が俺に?何の為だ?
「すまないが先に兄貴の話を聞きたい。構わないか?」
『そうだな。では遠慮無く話させて貰おう。あの妖怪がキナ臭い動きをしている。まるで私兵を手に入れた様に動いている様に感じるのだ。』
「親父殿が新たな私兵?兄貴は冗談らしい冗談を言わない事を考えればその可能性は高いな。そしてその私兵の詳細はわかっているのか?」
確かにあり得なくはない話だと思っている。しかしそんなリスクを犯す程あの男が動くのか?
『だが先日瓦解した組織があるだろう?恐らく訃堂はその残党に接触した筈だ。目下行方を調査中だが、もし予想通りならば最悪の組み合わせになりかねないぞ?』
「パヴァリア程の組織に所属していた奴らを親父殿が飼い慣らす……か。恐ろしい話だな。せめて次の一手が解ればな」
『いや、その必要はないだろう。実はサンジェルマン殿から私に直接連絡が届いてな。訃堂に接触されたと思われる三人の女性のデータが送られて来ている。私の勘が外れてなければこの三人こそが奴の私兵だ。しかし今は証拠がない。』
「わかった。もし現場に現れた場合は兄貴と情報を共有したい。その三人の写真を貰いたい。」
『良いだろう。そして勇君に伝えてくれないか?
〈奴がついに行動に移す。本当に救いたいモノは間違えないで欲しい〉
とな。頼んだぞ弦……。』
「ありがとう兄貴。すぐに勇君に伝えるさ。」
俺は通話を終了させて写真の到着を待った。そして兄貴はすぐに準備を始めたのか五分程で到着した。
「〈ヴァネッサ・ディオダティ〉・〈ミラアルク・クランシュトウン〉・〈エルザ・ベート〉か。彼女達が親父殿の新しい私兵かもしれない訳で、俺達の敵であり勇君の嘗ての仲間かもしれない者達か。」
俺は複雑な心境で勇君に連絡した。
『どうしましたか司令?定時報告には少し早いと思いますが?』
「勇君……俺達はまだ確信を得ていない情報を君に伝える。しかし君が知らない内に遭遇する事態は避けたい。この情報が杞憂であればすぐに忘れてくれ。」
『……??……わかりました。まずはお願いします。』
「では単刀直入に伝えるぞ。〈ヴァネッサ・ディオダティ〉・〈ミラアルク・クランシュトウン〉・〈エルザ・ベート〉この三人の名前に聞き覚えはあるか?」
『………パヴァリア時代の同期です。彼女達に何が?』
「君の忠告通りに親父殿の動向を探る為に俺は八絋の兄貴に連絡をした。するとサンジェルマン君からその三名が行方をくらましていると報告を受けたそうだ。もし最悪の可能性ならば………」
『彼女達が訃堂の手先であり僕達の敵という事ですね?わかりました。まずはその心配が杞憂である事に賭けます。しかしそれが本当になった時には改めて協議しましょう。』
勇君はそう言って通話を終了させた。
「俺達は若い世代になんて無茶を頼んでいるのだろうな……。」
その呟きを聞いた司令室の雰囲気は重くなってしまった。ここで通話をしたのは間違いだったな。
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