地球連邦軍上層部はいつも多忙です。   作:はにわはにわ

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暫くは会議での制度設計の話ばかりが続きます。大将の仕事は地味なのです。


第二話 直轄即応部隊

 

◆地球連邦軍最高司令部第1会議室

 

U.C.0083年11月下旬。

 

会議卓に、赤い落着予測線は表示されていなかった。

 

代わりに並んでいるのは、数値と記録である。

 

・救難完了率

・デラーズ座乗艦拿捕記録

・エギーユ・デラーズ遺体確認報告

・アクシズ方面接触阻止報告

・ガトー捕虜収容艦移送後記録

・シーマ艦隊証言保全状況

・民間作業船団補償窓口設置状況

・退役者台帳更新状況

 

そして、ロンド・ベル拡充案。

 

数日前に命じた案件が、それぞれ別の顔をして戻ってきていた。

 

戦闘が終わったあと、軍は勝利を語りたがる。

 

だが最高司令部の机に戻ってくるのは、勝利ではなく、処理状況と次の失敗を防ぐための資料だった。

 

私は、会議卓の端に置かれた予定表を見た。

 

・午前、宇宙軍総司令部進捗確認

・午前、ロンド・ベル拡充案

・午後、ロンド・ベル司令人事

・午後、国防総省補償説明案

・午後、退役者台帳更新方針

・夜、アナハイム監査資料確認

 

「副官」

 

「はい」

 

「午後が三つある」

 

「はい」

 

「夜もある」

 

「はい」

 

「一日は何時間だったか」

 

「閣下が会議を増やす前は、二十四時間でした」

 

私は予定表を閉じた。

 

「始める」

 

「記録を開始します」

 

副官の入力音が、会議室に響いた。

 

出席者は、作戦局、監察部、人事局、法務局、情報局、宇宙軍総司令部連絡官、国防総省の官僚。

 

前回より人数は絞っている。

 

今回はここ数日分の進捗を確認し、その上で、次に同じ危機が起きた時、最高司令部が毎回前線へ手を突っ込まなくて済む仕組みを作るための会議だった。

 

 

◆同会議室 宇宙軍総司令部進捗報告

 

宇宙軍総司令部連絡官が、最初の資料を開いた。

 

「デラーズ座乗艦と推定されていた艦は、追撃部隊により大破、拿捕されました。艦内捜索の結果、エギーユ・デラーズ本人は自害。遺体は生体照合中ですが、本人である可能性が極めて高いとの報告です」

 

会議卓に、航跡記録、交信記録、交戦経過、艦内捜索図が表示された。

 

「艦内記録は」

 

「一部焼損。指揮卓ログと通信記録は技術班が復旧中です」

 

「監察部にも回せ。遺体確認、艦内記録、通信記録、航跡記録。所在確定を最優先にする」

 

「了解しました」

 

デラーズは死んだ。

 

それ自体に喜ぶ気はない。

 

ただ、生死不明という余地が消える意味は大きい。

 

死者を使って演説する者は出る。

 

だが、行方不明の指導者ほど、残党に都合のよい偶像はない。

 

「アクシズ方面は」

 

連絡官が次の資料に移る。

 

「デラーズ残存勢力の直接接触は阻止しました。アクシズ艦隊による収容、補給、修理、護衛は確認されていません」

 

「通信中継疑惑は残るか」

 

「残ります。外縁宙域で、発信源不明の短時間通信が複数確認されています。ただし、アクシズ側関与を断定できる段階ではありません」

 

「断定できないものを、断定するな。だが記録から外すな」

 

「了解しました」

 

宇宙軍総司令部は遅れた。

 

星の屑作戦の初動で後手に回り、最高司令部が直接動く場面を生んだ。

 

その事実は消えない。

 

だが、救難・残敵整理の実務を戻した後、追撃と接触阻止を果たしたことも事実だった。

 

「宇宙軍総司令部は、初動で遅れた」

 

私は言った。

 

宇宙軍総司令部連絡官の表情が硬くなる。

 

「だが、今回の追撃とアクシズ接触阻止は実務として果たした。検証と評価は分ける。働いた部分まで消せば、次に動く者がいなくなる」

 

連絡官は、深く頭を下げた。

 

「ありがとうございます」

 

「礼を言う場ではない。次に遅れない仕組みを出せ」

 

「了解しました」

 

 

◆同会議室 ロンド・ベル拡充案

 

作戦局長が、次の資料を開いた。

 

件名は、最高司令部直轄即応部隊ロンド・ベル拡充・再編案。

 

ロンド・ベルは、前作戦以前から存在している最高司令部直轄即応部隊である。

 

ルナツー要塞には、正式なロンド・ベル駐留基地がある。

 

今回行うのは、その既存部隊を、星の屑作戦後の現実に合わせて組み直すことだった。

 

「現ロンド・ベルは、ガトー捕虜回収、救難初動、現場連絡、監察支援において有効に機能しました」

 

作戦局長が説明する。

 

「ただし、現状の規模では複数宙域同時発生型の危機、外縁宙域での初期追跡、コロニー・月面間の連絡支援を同時に担うには不足があります」

 

宇宙軍総司令部連絡官が、慎重に口を開いた。

 

「最高司令部直轄部隊の拡充は、宇宙軍総司令部の権限を侵すとの見方が出る可能性があります」

 

「出るだろうな」

 

私は答えた。

 

「その見方は一部正しい。だから、任務を限定する」

 

会議卓に、任務範囲表を表示させる。

 

・突発的危機への初動即応

・救難初動

・残敵・逃走勢力の初期追跡支援

・監察任務支援

・コロニー、月、外縁宙域における限定軍事行動

・最高司令部命令の現場執行

・アクシズや残党対応における初動・連絡・情報支援

 

その下には、除外任務が並んでいた。

 

・全面作戦

・長期追跡

・宙域封鎖

・平時のコロニー住民監視

・恒常治安任務

・コロニー駐留軍の代替任務

 

「全面作戦、長期追跡、宙域封鎖は宇宙軍総司令部が担う。ロンド・ベルは初動と監察支援、限定軍事行動に絞る」

 

法務局の将校が資料へ追記した。

 

「コロニーには既に駐留軍がある。暴動や残党蜂起への一次対応は駐留軍の任務だ。ロンド・ベルを常駐させれば、駐留軍の権限を壊し、住民からは監視部隊に見える。そんなものは、治安の名で別の不満を育てる」

 

国防総省の官僚が、予算資料を見ながら言った。

 

「議会説明上、最高司令部直轄部隊の拡大は『最高司令部の私兵化』と受け取られる恐れがあります」

 

「なら、監察条件を前面に出せ」

 

監察部長が顔を上げる。

 

「任務記録、戦闘記録、救難記録、交戦判断、捕虜処遇、民間人対応、生ログ。全部、最高司令部監察部に提出させる」

 

「半年ごとの編制見直しも付けますか」

 

「付けろ。当面十二隻。将来拡張しても十六隻まで。一個機動群は五から六隻規模」

 

作戦局長が、編制表へ印を付けた。

 

「第1機動群は初期五隻、追加候補一隻。第2機動群は候補欄空欄」

 

「空欄のままでよい」

 

会議卓の一角に、空白の欄が残る。

 

そこへ安易に名を入れれば、あとで制度が人事に引きずられる。

 

「人事局」

 

「はい」

 

「ロンド・ベルへの配置案を」

 

人事局の将校が資料を切り替えた。

 

U.C.0080年以降人材配置見直し。

 

・ロンド・ベル

・監察部

・作戦局

・法務局

・教導隊

・ルナツー要塞工廠

 

その横には、退役者台帳更新状況、予備役登録者、嘱託顧問、危機対応協力者の一覧が添付されていた。

 

「現役残留希望者のうち、救難、艦隊管制、航法、MS整備、民間対応記録に適性のある者を優先します。加えて、監察部、作戦局、法務局、教導隊との人事交流枠を設定します」

 

「他部隊から反発は」

 

「あります。特に艦隊運用経験者と整備士について、宇宙軍総司令部側から再考を求める照会が来ています」

 

宇宙軍総司令部連絡官が、申し訳なさそうに視線を落とした。

 

「反発するなとは言わん」

 

私は資料を見た。

 

戦後、民間でも通用する者ほど軍を去っている。

 

技術、補給、法務、行政、管制、医務。

 

そういう人材が抜けた穴を、怒りと行き場のなさで埋めるわけにはいかない。

 

「連邦軍全体を一晩で立て直すことはできない。だが、腐らせてはならない場所に、残せる人材を置くことはできる」

 

人事局の将校が、黙って頷いた。

 

「ロンド・ベル、監察部、作戦局、法務局、教導隊。そこを失えば、次に残るのは怒りだけで動く軍だ」

 

国防総省の官僚が、少し眉を動かす。

 

議会では、その怒りを利用したがる者が出る。

 

私は、その兆候をもう資料の上に見ていた。

 

地球圏治安維持特別部隊構想。

 

まだ資料段階。

 

だが、恐怖を軍制に変えようとする流れは始まっている。

 

「ロンド・ベルは、後に出てくる治安部隊構想への対抗材料にもなる」

 

私は言った。

 

「ただし、ロンド・ベル自体を治安監視部隊にしたら意味がない。記録と監察に縛られた即応部隊だからこそ、連邦軍内部に置く意味がある」

 

法務局と監察部が、同時に資料へ印を付けた。

 

副官が、会議予定表を小さく更新した。

 

「閣下、ロンド・ベル拡充案の文案確認は、本日夜に入っています」

 

「夜は既にアナハイム監査資料ではなかったか」

 

「その後です」

 

「医務室には言うな」

 

「この予定表を見れば、言わなくても伝わります」

 

私は返答を諦めた。

 

 

◆地球連邦軍最高司令部第1会議室 隣接控室

 

司令人事は、会議室を移して行った。

 

表向きには、作戦局と人事局による候補者確認である。

 

実際には、すでに絞られていた。

 

候補者名簿の最上段にあるのは、少将。

 

私の旧部下だった。

 

U.C.0063年の難民支援・平和維持活動。

 

当時中佐だった私は、前線に残るつもりでいた。

 

現場を見捨てる気はなかった。

 

責任を取るつもりでもいた。

 

だが、その少将は、命令違反覚悟で私を後送した。

 

責任を取るには、生きて戻って報告しなければならない。

 

彼はその時、階級差を承知でそう言った。

 

副官が端末を確認する。

 

「少将、到着しました」

 

「通せ」

 

扉が開き、少将が入室した。

 

敬礼に余計な力はない。

 

昔からそうだった。

 

「閣下」

 

「座れ」

 

「失礼します」

 

彼が席に着くと、会議卓にロンド・ベル司令任命案が表示された。

 

「ロンド・ベル司令を命じる」

 

少将は、資料ではなく私を見た。

 

「拝命します」

 

早い。

 

断るつもりは、最初からなかった顔だった。

 

「ブライトは戦場を動かせる。だが、二十三歳の中佐を政治と制度の矢面に一人で立たせる気はない」

 

「ブライト中佐は、若すぎます」

 

少将は静かに言った。

 

「ただし、若さだけで退けるには、戦場を知りすぎている。支える司令が必要です」

 

「君にそれをやらせる」

 

「承知しました」

 

「それと、私の無茶も止めろ」

 

少将の眉が、わずかに動いた。

 

「閣下の無茶も職務範囲ですか」

 

「昔、君はそれをやった」

 

「では、今回も必要ならやります」

 

副官が、議事録とは別の人事補足欄に何かを入力しようとした。

 

私は視線だけで止めた。

 

「副官」

 

「辞令には入れません」

 

「当然だ」

 

「ただ、引き継ぎ事項としては重要です」

 

「それも入れるな」

 

少将は、表情を崩さなかった。

 

だが、目だけは少し笑っていた。

 

「ロンド・ベルは英雄を作る部隊ではない」

 

私は続けた。

 

「市民を救い、兵を帰し、撃った理由も救った理由も記録する部隊だ」

 

「部隊を壊さないことを、最初の規律にします」

 

「退避路を曖昧にするな。救う順番を決めろ。追跡部隊まで帰れなくなる作戦は組むな」

 

「了解しました」

 

「アクシズを睨むなら、睨み返される位置に味方を置くな」

 

少将は、そこで初めて口元を少し緩めた。

 

「閣下がそれを仰るのは、少し意外です」

 

「私も学習する」

 

「記録に残します」

 

「残すな」

 

副官が端末を閉じた。

 

珍しく、少しだけ味方をした。

 

 

◆ルナツー要塞 ロンド・ベル駐留基地 補給ドック

 

救難艇の外装パネルが外されていた。

 

焼け焦げた外板。

歪んだ係留アーム。

応急補修材の白い帯。

 

その横で、整備兵が推進剤配管を交換している。

 

救難艇の側面には、識別塗装の上から細かな破片傷が残っていた。

 

第1機動群の艦艇は、補給と修理を受けている。

 

損傷そのものは致命的ではない。

 

だが、救難、追跡、警戒、捕虜移送を短期間に続けた負荷は、艦にも人にも残っていた。

 

ブライトは、ドック端末の前で稼働率一覧を見ていた。

 

二十三歳。

 

階級章だけを見れば、異様な若さだった。

 

だが、ロンド・ベルの者たちは、その若さだけで彼を見てはいない。

 

ホワイトベースを生き延び、戦時昇任を受け、終戦後も押し込められず、任務と教育を与えられた士官。

 

その積み重ねが、今の彼の顔を作っていた。

 

「三番艇の復帰予定は」

 

「明日中です。ただ、外装は応急のままです」

 

「救難任務には出せるか」

 

「近距離なら」

 

「なら近距離用に回せ。遠距離索敵には使うな」

 

「了解しました」

 

ドックの端で、若い士官が救難記録を見ていた。

 

・民間作業船員の回収記録

・デラーズ残党兵の脱出ポッド回収記録

・抗戦を続けた残党艦の撃沈記録

 

それらが同じ画面に並んでいる。

 

ブライトが、その横に立った。

 

「納得できないか」

 

若い士官は慌てて姿勢を正した。

 

「いえ。ただ、敵兵を救った記録の隣に、撃沈記録があります。頭では理解していますが、現場で同じ判断ができるかどうか」

 

「迷うなら、基準を見ろ」

 

ブライトは端末を指した。

 

「救える者を救うのは、戦場を閉じるためでもある。降伏しても殺されると思えば、敵は最後まで撃ってくる」

 

「はい」

 

「逆に、救難艇を撃つ艦を放置すれば、こちらの救難が止まる。だから撃つ。迷うな。ただし、撃った理由は残せ」

 

「救った理由も、ですか」

 

「当然だ。救った理由と撃った理由、その両方が残って、次の現場が判断できる」

 

若い士官は、端末を見直した。

 

ブライトの言葉は、政治ではない。

 

現場で次に生き残るための手順だった。

 

 

◆ルナツー要塞 ロンド・ベル駐留基地 MS整備区画

 

NT-1アレックスは、固定架に載せられていた。

 

右腕部装甲は外され、脚部推進器は焼け、胴体には応急封止材が残っている。

 

機体状態表示には、赤いタグが付いていた。

 

実戦復帰不可。

 

アムロは、その表示を黙って見ていた。

 

整備班長が、申し訳なさそうに説明する。

 

「フレームの歪みが大きすぎます。研究用に残すか、部品取りですね」

 

「新型機は」

 

「手配中です。ただ、いつ来るかは分かりません」

 

整備班長は、隣の区画を示した。

 

ジム・カスタム。

 

予備機として整備されている機体が、固定具に繋がれている。

 

「しばらくはジム・カスタムですね」

 

アムロは、短く答えた。

 

「しかたないな」

 

整備班長が、少しだけ安堵した顔をした。

 

「最高司令部からは、新型機の手配も進めると」

 

「あの方なら、そうするだろうね」

 

アムロは、アレックスの損傷表示を見た。

 

一年戦争が終わった後、自分たちを軍の奥へ押し込めなかった人。

 

便利な英雄として使い捨てにもせず、ロンド・ベルという厄介な場所へ置き、任務と教育を与えた人。

 

優しい人だとは、アムロは思っていない。

 

ただ、あの方は少なくとも、自分たちを見なかったことにはしなかった。

 

「使える機体で出るよ。新型が来るまで待てる状況じゃないんだろう」

 

「調整します」

 

整備班長は頷いた。

 

アムロは、それ以上言わなかった。

 

政治の話は、彼の仕事ではない。

 

目の前にある機体で、次に出る準備をする。

 

今はそれでよかった。

 

 

◆地球連邦軍最高司令部第1会議室

 

ルナツー要塞ロンド・ベル駐留基地から、第1機動群稼働率報告と整備進捗が届いた。

 

作戦局が、会議卓へ資料を表示する。

 

・ブライト・ノア中佐、第1機動群司令

・初期五隻、追加候補一隻

・救難初動、即応展開、宙域追跡、現場統制、監察任務支援

・アムロ・レイ少佐、アレックス実戦復帰不可、当面ジム・カスタム運用、新型機手配中

 

私は、ブライトの人事資料を見た。

 

二十三歳の中佐。

 

数字だけなら無理がある。

 

だが、あの年齢でホワイトベースを動かし、終戦後に腐らず、ロンド・ベルで任務と教育を受け、今回の初動でも艦と人を動かした。

 

使わない理由を探す方が難しい。

 

ただし、一人で背負わせるには重すぎる。

 

「第1機動群司令はブライト中佐で確定する」

 

作戦局長が確認する。

 

「ロンド・ベル司令の下に置く形でよろしいですね」

 

「そうだ。若い中佐を、政治と制度の矢面に一人で立たせるな」

 

人事局が、辞令案へ印を付けた。

 

「ブライト中佐の昇任は」

 

「今は不要だ」

 

私は答えた。

 

「階級を上げれば良いというものでもない。第1機動群司令として経験を積ませろ。必要な時に階級を与える」

 

「了解しました」

 

その時、副官が別の資料を差し込んだ。

 

「アルビオン隊より、正式報告書第一便が届きました」

 

会議卓に、新しい資料が表示される。

 

・強襲揚陸艦アルビオン

・エイパー・シナプス大佐

・コウ・ウラキ少尉

・ニナ・パープルトン

・試作三号機運用記録

・ガンダム開発計画関連資料

・アナハイム技術支援記録

 

第2機動群候補欄は、まだ空欄だった。

 

作戦局の視線が、自然とその欄へ向いた。

 

私は、すぐには何も言わなかった。

 

アルビオン隊は処分対象ではない。

 

試作三号機投入は最高司令部承認事項。

 

二号機追撃はコーウェン中将の命令。

 

問題は、アルビオン隊の独断ではなく、ガンダム開発計画そのものにある。

 

だが、処分対象でないことと、無条件で任せることは違う。

 

ロンド・ベル司令となった少将が、報告書の冒頭だけを読んで言った。

 

「第2機動群には、艦を壊さず若い兵を帰せる指揮官が必要です」

 

「候補はいる」

 

私は、シナプス大佐の名を見た。

 

「ただし、記録を開いてからだ」

 

副官が、第3会議室の予定表を開く。

 

「アルビオン隊正式監査を設定します」

 

「表彰式ではなく、監査だ。だが、処分ありきの場にもするな」

 

「了解しました」

 

会議卓の第2機動群候補欄は、まだ空欄のままだった。

 

その空欄の横に、アルビオンの艦影と、シナプス大佐の報告書が並ぶ。

 

 

◆同会議室 ロンド・ベル司令席

 

ロンド・ベル司令となった少将は、会議卓の光を見ていた。

 

・ロンド・ベル拡充案

・第1機動群編制

・第2機動群候補欄

・アルビオン隊正式監査予定

 

それらは、単なる人事ではなかった。

 

最高司令部の大将は、ロンド・ベルを便利な直轄部隊にしようとしていない。

 

むしろ、早く動かすために、記録と監察で縛ろうとしている。

 

奇妙な発想だった。

 

普通なら、即応部隊には自由を与えたがる。

 

あの大将は、自由よりも責任の経路を先に作る。

 

それでいて、決断は速い。

 

会議一つで、人員、艦艇、監察、法務、議会説明、宇宙軍総司令部との分界まで同時に裁いていく。

 

凄まじい人だとは思う。

 

ただし、あれは人間の仕事量ではない。

 

少将は、U.C.0063年のことを思い出した。

 

あの時も、あの人は前線に残ろうとした。

 

責任を取ると言いながら、自分が倒れる計算だけを後回しにしていた。

 

今も変わっていない。

 

階級は上がった。

 

権限も増えた。

 

背負うものも、比べものにならないほど増えた。

 

だが、根は同じだった。

 

ならば、自分の任務も変わらない。

 

ロンド・ベルを壊さない。

 

若い指揮官を使い潰さない。

 

兵を帰す。

 

記録を残す。

 

そして必要なら、あの大将自身の無茶も止める。

 

少将は、辞令の表示を閉じた。

 

最高司令部の大将が作ろうとしているものは、勝利のための部隊ではない。

 

次の失敗を減らすための部隊だった。

 

その役目を引き受けた以上、ロンド・ベルもまた、休める組織ではなくなる。

 

地球連邦軍上層部は、まだ多忙だった。

 

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