地球連邦軍最高司令部第1会議室
今日も憂鬱な顔をしたいつもの面子が、いつものように地球連邦の未来を左右する重要な議題について話し合っていた。
さて、ロンド・ベルを動かしたはいいが…。
「ロンド・ベルを動かしたが、それだけでは不安だな」
「いつものように無双するのでは?」
他の将官から楽観的意見が出る。奴らの無双ぶりは空恐ろしいものがあるのは確かだが、連邦市民の命が掛かっているのだ。慎重に動くべきだろう。
「まぁ、その可能性は高いが予防線は張るべきだろう」
上層部高官の意見に他の将官たちから愚痴が噴出した。
「宇宙軍総司令部もコロニーが落ちるのはジャブローだからと手を抜くかもしれんしな」
「最高司令部がなくなれば、宇宙軍の目の上の瘤がなくなるからな」
「どんだけ最高司令部が嫌いなんだ」
「一年戦争で最高司令部が主導権を取りすぎたからだ。分かりきったことだろう」
「うちはいつも内輪揉めばかりだな…」
本当に頭が痛い現実だ…。ここにいる面子は、誰も彼もが地球連邦軍の中では上澄み中の上澄み、連邦軍総員500万人の頂点に立つ将官たちだ。
旧世紀時代。極東の国家で人気を博したドラマで、とある老警察官が言っていた。
「正しいことをしたければ、偉くなれ」と。
偉くなった筈なんだけどなぁ。
巨大組織の最高意思決定機関で待っていたのは、派閥争いと権力闘争、足の引っ張り合いをする軍人どもの間に挟まれ、調整役を担う仕事だった。
正直、「ふざけるな」と言いたい。
だが、簡単に放棄出来る程、安い仕事ではないことも確かだ。
「諸君、無駄話もそれまでだ。我々の頭上にコロニーが落ちてくるかもしれん。そうなれば、我々だけではなく、南米の市民や地球環境にも甚大な被害が出る。それを許す訳にはいかんのだ。」
私の言葉に一気に会議室に緊張感が漲る。この会議室の面子は、不平不満はあれど、連邦軍人の本分は果たす者たちなのだ。
「その通りだ。何か案があるのかね?」
「ちょっとした知り合いが居てね。今はデラーズ・フリートに潜り込んで貰ってる。」
ここで、私の秘策を提示する。彼女とは一年戦争時からの付き合いだから、もう出会って4年になるか…。
「ほう?旧ジオンの人間か。信用出来るのかね?」
「まぁ、私としては信用はしている。とても気が強い人間だが、味方にしたら心強い。身内想いな良いやつではもある。」
普段は非常に不穏な言動も多いが、部下たちの為にあちこち飛び回っている姿は、十分に尊敬に値する人物だ。
…巨大組織に胡坐をかいているバカな軍人どもに、その爪の垢でも煎じて飲ませたい程には。
「君の知り合いか。君の目は信用しているよ。相変わらず抜け目なくやってるね。」
「人材は宝だよ。人脈は広げるべきだからね。取り敢えず、彼女に頑張って貰うさ。」
「彼女」という言葉に居並ぶ将官たちの顔が渋くなる。
「女か。君、またやられるんじゃないか?私はもうフォローせんぞ。」
いつも私のフォローをやってくれる将官が、顔を顰めながら突き放すように言ってくる。
彼は昨年、仲介に入った際に引っぱたかれたことを根に持っているようだ。
セイラ嬢は何を怒っていたのか…。
あのとき私は過労で倒れて入院していたんだから、むしろ被害者は私だったのだが…。
「何を言うのか。皆、一蓮托生だよ。何かあったら是非宥めるのは手伝ってくれよ。」
「君は女の扱いがヘタだからな…。まぁ、取り敢えず健闘を祈るよ。」
諦めたようにいう将官たちを後目に、上層部高官はコロニー落としの阻止に向けて手を打っていく。
そう、すべては連邦市民の安寧の為なのだから。
最高司令部上層部高官執務室
上層部高官は、自分の執務室で極秘回線を開いていた。
多重暗号の高速通信で、量子コンピュータでも解読困難な最新の暗号プロトコルが導入されているものの、この通信回線を使用出来るのは、連邦軍でも極一部の高官のみだ。
おっ、ようやく繋がったようだな。彼女への通信は細心の注意が必要だから、今回は比較的繋がるのが早いほうかな。
「やぁ、やっと話せるね。どうだい、そっちは?」
「あぁ、コッチは景気よくやってるよ。あんたはどうなのさ?」
今日も彼女はご機嫌だな。一年戦争時代のような不機嫌そうな顔は最近めっきり見なくなったし、色々と落ち着いたのかもしれんな。
「私は相変わらずさ。先週の人間ドックも要精密検査の通知が着たよ」
「あんた、私よりも先に戦死しそうだね。病院は行ったのかい?」
「いや、忙しくて中々…。って、それは良いんだよ。そっちはコロニー落とそうとしてるんだろ?どのコロニーを落とそうとしてるか分かるかな?」
いかんな。どうも最近、雑談ですぐに人間ドックの結果や健康管理面の話題が出てしまう…。
正直、同僚とも雑談の話題が、サプリや健康に良い食材の話ばかりだからな……。妙齢の女性に話すことではない。
彼女も心配そうにしているし、話を本題に戻さないと…。
「サイド6の廃棄コロニーを使う予定さね。今のところは、83年の7月に動かす予定さ。陽動もやるけど、本命はこのコロニー落としで間違いないよ。」
「なるほど、サイド6か。ロンド・ベルを向かわせる。逃げるタイミングは任せるよ。ロンド・ベルの司令官には伝えておくから、上手く逃げてくれよ。」
さすが仕事においても的確で有能だ。ジオンもこんな人材を何故適切に使わなかったのか…。
「分かってるよ。それより、今回の報酬も大丈夫だろうね?」
「あぁ、勿論。いつも通り、報酬は約束するよ。むしろ、私としてはそろそろ君たちを連邦軍に編入したいと考えているんだ。」
もう、戦争が終わって3年経っているし、旧ジオン将兵の一部も連邦軍に編入された人材も居る。頃合いだろう。
「…私たちを連邦軍に編入したら、またあんたの過労とストレスの原因になるんじゃないかい?」
「私としては、むしろ君たちを今のままで居させるほうが問題だと考えているよ。というか、出来れば今回の件が終われば、もう編入させたいと考えているんだ。」
「…はぁ、私も年貢の納め時かもね。編入については部下に話しておくから、あんたの側で準備が出来たら教えてくれれば良いさ。」
おっ、編入の提案にあっさり乗ってくれたな。有難いが、もっと条件交渉があると思ったんだが…。
「おや?条件について交渉しないのかい?」
「ふん。勿論、その条件も事前に提示して貰うさ。ただ、あんたの事だから、悪いようにはしないとも思ってるよ。」
何だろう…、この信頼感…。私は彼女に結構無茶ぶりもしてきたんだが…。勿論、作戦の安全性や報酬などは、しっかりと精査したが…。
「その信頼には是非応えさせて貰うとするよ。じゃあ、今回の任務、無理しない程度に宜しく頼むよ。」
「あぁ、任せな。あんたの期待は裏切らないと誓ったんだ。期待してもらおうか」
さて、これでデラーズ・フリート内部からも取り崩すことが出来るな。
…だが、やはり念は入れておかんとな…。
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コロニー落としを画策するデラーズ・フリート。
己の正義と武人の名誉を全うせんとする男達。
しかし、その正義と名誉の為に犠牲なる市民の何と多いことか。
最高司令部上層部高官たちも、連邦が正しい事をしてきたとは思っていないものの、無辜の市民が多数犠牲になることは許容出来なかった。
そして、一年戦争を避けられなかったという負い目もあった。
だからこそ、今回は絶対に犠牲は少なくする。
その為に動かす二本の矢。
ロンド・ベルとジオンの裏切り者たち。
最高司令部の実力部隊と内通者には手を打った。
しかし、連邦宇宙軍内部にも手は打っておくべきだろう。
「さてさて。彼にも念押ししておくかな。」
「やぁ、大佐。そっちの作戦は順調かい?」
「うぉ!?か、閣下!?」
上層部高官の暗躍は続く。全ては連邦市民の安寧のために。
無造作に書きかけている話として、上層部高官の過去話があるぐらい…。