地球連邦軍上層部はいつも多忙です。   作:haniwa17

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実は最終話まで執筆が終わっていたのですが、実際の0083とは流れに乖離がありまして、全体を再構成することにしました。
元々の今から6年前に執筆した第一話は、その場の雰囲気だけ切り取って書いていたこともあり、0083のストーリーに落とし込むと齟齬が多く…。
既に第4話まで投稿しているのですが、物語の雰囲気は壊さずに再構成したので、ご理解いただけましたら幸いです。


再構成第一話 観艦式の後始末は胃に悪い

 

地球連邦軍最高司令部第1会議室

 

観艦式が壊滅した。

 

その報告を受けた時、私は一瞬だけ耳が聞こえなくなったような錯覚を覚えた。

 

いや、正確には聞こえていた。

 

だが、理解したくなかった。

 

「ガンダム試作二号機による核攻撃を確認」

 

「観閲艦隊、壊滅的損害」

 

「ワイアット大将、戦死」

 

「コンペイトウ駐留艦隊、指揮系統混乱」

 

「宇宙軍総司令部、対応協議中」

 

対応協議中。

 

なんと便利で、なんと胃に悪い言葉だろう。

 

現場では艦隊が吹き飛び、将兵が死に、ジオン残党が次の手を打とうとしている。

 

その状況で、上は協議している。

 

もちろん、協議は必要だ。

 

命令系統を確認し、残存戦力を把握し、敵の次の行動を予測する。

 

それは軍の仕事だ。

 

だが、会議が会議のための会議になった瞬間、軍隊は現場を殺す。

 

そして私は今、その会議室にいる。

 

実に嫌な立場だ。

 

会議室には、大将二名、中将五名、少将十二名、准将九名。

 

地球連邦軍の上澄み中の上澄みが顔を揃えている。

 

そして、その全員が似たような顔をしていた。

 

あぁ、また仕事が増えた、と。

 

私も同じ顔をしていたと思う。

 

「コリニー大将は何と?」

 

「宇宙軍総司令部で対処する、とのことです」

 

「つまり、最高司令部の介入は不要ということか」

 

「明言は避けていますが、概ねその認識かと」

 

会議室の空気が重くなる。

 

コリニー大将。

 

宇宙軍総司令官。

 

一年戦争後、最高司令部が戦時指揮権を手放して以降、宇宙軍総司令部は独立性を強めている。

 

それ自体は悪いことではない。

 

現場に近い司令部が迅速に判断する。

 

それは組織として正しい。

 

ただし、その判断が迅速であれば、だ。

 

「情報局。デラーズ・フリートの次の手は?」

 

情報局長の中将が端末を操作する。

 

「現時点で断定はできません。ただし、核攻撃が単独の示威行動で終わる可能性は低いと見ています」

 

「理由は?」

 

「彼らの通信量が減っていません。むしろ、観艦式襲撃後に複数宙域で暗号通信が活発化しています。特に、コロニー再生計画関連の航路、サイド6周辺、月遷移軌道付近に不自然な動きがあります」

 

コロニー。

 

その単語が出た瞬間、会議室の温度が下がった。

 

誰もが思い出す。

 

ブリティッシュ作戦。

 

シドニー湾。

 

一年戦争の開戦直後、人類が初めて知った、コロニーそのものを兵器にするという狂気。

 

「コロニー落としを疑っているのか?」

 

別の将官が低い声で言った。

 

情報局長は慎重に答える。

 

「可能性の一つです。ただし、標的は不明です。ジャブロー、月面都市、北米、あるいは単なる威嚇。現段階では判断材料が不足しています」

 

「月面都市?」

 

「フォン・ブラウン市周辺に向けた偽装軌道を取る可能性もあります。あるいは実際に月を狙う可能性も」

 

「月を?」

 

「はい。連邦軍とアナハイム・エレクトロニクスに対する政治的打撃としては十分です」

 

会議室にざわめきが走る。

 

月面都市へのコロニー衝突。

 

ジャブローへの直撃。

 

北米穀倉地帯への落着。

 

どれも悪夢だ。

 

そして悪夢というものは、だいたい人間が最も油断した方向からやってくる。

 

「ソーラー・システムIIは?」

 

「地球軌道上に展開可能です。ただし、現状では即応状態ではありません。使用には時間が掛かります」

 

「使えれば止められるか?」

 

「照射条件が整えば、可能性はあります」

 

可能性。

 

また便利で胃に悪い言葉だ。

 

一年戦争で使われたソーラー・システムは確かに強力だった。

 

だが、あれは万能兵器ではない。

 

巨大なミラーを並べ、射線を整え、目標がそこにいる瞬間を狙う。

 

外せば終わりだ。

 

味方が射線に入っていれば、味方ごと焼く。

 

そんなものに地球の命運を預けるのは、最後の最後にすべきことだ。

 

「ソーラー・システムIIは準備だけ進めろ。ただし、現段階では使用前提で動くな」

 

「では?」

 

私は端末に表示された宙域図を見た。

 

コンペイトウ。

 

サイド6。

 

月遷移軌道。

 

フォン・ブラウン。

 

地球。

 

点と線が、まだ意味を結んでいない。

 

だが、嫌な予感だけは強い。

 

「ロンド・ベルを動かす」

 

会議室の視線が集まった。

 

「ロンド・ベルは最高司令部直轄の即応部隊だ。任務はデラーズ・フリートの追跡、コロニー再生計画関連宙域の監視、月遷移軌道上の異常確認。必要ならアルビオン隊とも連携させる」

 

「宇宙軍総司令部は反発します」

 

「するだろうな」

 

私は即答した。

 

「だが、観艦式は壊滅した。核は使われた。次にコロニーが動けば、反発がどうこう言っている暇はない」

 

「コリニー大将には?」

 

「最高司令部も独自に情報収集と即応体制を取る、と伝えろ。宇宙軍総司令部の指揮権を否定するものではない。ただし、地球防衛上の危機が発生した場合、最高司令部は独自判断で動く」

 

「了解しました」

 

本当は、もっと穏やかに済ませたい。

 

派閥争いなど平時だけで十分だ。

 

いや、平時でもやめてほしい。

 

私は、窓の外に見える青い空を思い浮かべた。

 

その下には、軍人ではない人々が暮らしている。

 

朝起きて、仕事へ行き、家族と食事をし、子供を寝かしつける。

 

そういう当たり前が、軍の怠慢や面子で消えていいはずがない。

 

「コーウェン中将は?」

 

「あ、はい。アルビオンを動かして追撃に当たらせているようです」

 

「アルビオン単艦でか?」

 

「現状では」

 

会議室の何人かが頭を抱えた。

 

私も抱えたかった。

 

「……あの男、悪人ではないんだがな」

 

本当に悪人ではない。

 

むしろ、連邦軍人としては理想もある。

 

技術の未来を信じ、ジオン残党に対抗する力を整えようとした。

 

だが、理想と技術信仰と派閥抗争が混ざると、大抵ろくなことにならない。

 

核装備のガンダムを作らせ、奪われ、観艦式で使われ、今度はペガサス級一隻で追わせる。

 

これで胃が痛くならない方がおかしい。

 

「アルビオン隊には直接命令は?」

 

「出しますか?」

 

「今は出すな。彼らは現場で動いている。変に縛ると逆に遅れる。ただし、ロンド・ベルとの識別コードを共有。友軍誤認だけは絶対に避けろ」

 

「了解」

 

「それと、コウ・ウラキ少尉の戦闘データを回してくれ」

 

「少尉ですか?」

 

「ああ。試作一号機でガトーを追っている若いパイロットだろう。無茶をしているようだが、伸びている。ああいう若者を使い潰すな」

 

一年戦争では、若者たちが次々に戦場へ放り込まれた。

 

アムロ・レイも、カイ・シデンも、ハヤト・コバヤシも、セイラ・マスも。

 

本来なら、もっと別の人生があったはずだ。

 

だが、戦争は若者に選択肢を与えない。

 

だからせめて、我々大人は彼らを使い潰さない責任を負わねばならない。

 

「閣下、顔色が悪いです」

 

副官が小声で言った。

 

「元からだ」

 

「医務室から、会議中の胃薬服用は一日三回までと」

 

「医務室は戦略状況を理解していない」

 

「胃粘膜にも戦略限界があります」

 

正論だった。

 

嫌な正論ほど胃に悪いものはない。

 

「……水だけくれ」

 

「はい」

 

私は水を飲み、端末を見つめた。

 

コロニー再生計画。

 

月面都市。

 

サイド6。

 

デラーズ・フリート。

 

アナハイム。

 

まだ線は繋がらない。

 

だが、繋がる前に動かなければならない時もある。

 

「情報局は、コロニー再生計画関連の全航路を洗え。アナハイム関連の通信も確認しろ。月面施設、特に推進剤貯蔵施設の警戒を強化。フォン・ブラウン市には表向き警備強化の勧告だけ出せ。騒ぎを大きくするな」

 

「了解」

 

「それと、例の協力者との回線を準備しておけ」

 

情報局長がわずかに眉を上げた。

 

「彼女ですか」

 

「ああ。こういう時、現場の裏側にいる者の方が正確なことを知っている」

 

「信用できますか?」

 

「信用するしかない相手と、信用した方が得な相手がいる。彼女は後者だ」

 

会議室の何人かが微妙な顔をした。

 

どうも私は、女性関係では妙な誤解を受けている。

 

心外である。

 

私はただ、人材を大事にしているだけだ。

 

確かに以前、セイラ嬢にひどく怒られた件はあるが、あれは私が悪いというより、過労で倒れていたのに説明を後回しにしたのが悪かっただけである。

 

……結局、私が悪いのかもしれない。

 

「とにかく、全員動け」

 

私は会議室を見渡した。

 

「デラーズ・フリートは核を使った。次に何をしてもおかしくない。月を狙うのか、地球を狙うのか、あるいはその両方を使った欺瞞か。現時点で断定するな。だが、最悪を想定して動け」

 

将官たちが一斉に頷く。

 

「我々の仕事は、敵の大義を論破することではない。連邦市民を守ることだ」

 

私は端末に命令承認を入力した。

 

「ロンド・ベル、出撃」

 

ルナツー要塞 ロンド・ベル駐留基地

 

「レイ少佐! 最高司令部より命令です」

 

整備中のアレックスを見上げていたアムロ・レイは、振り返った。

 

「やはり来たか」

 

その声には驚きはなかった。

 

観艦式壊滅の報は、既にルナツーにも届いている。

 

ガンダム試作二号機。

 

核攻撃。

 

連邦艦隊の壊滅。

 

そしてデラーズ・フリート。

 

一年戦争が終わって三年。

 

それでも、戦争は終わったふりをしていただけなのかもしれない。

 

「任務内容は?」

 

「デラーズ・フリートの追跡。コロニー再生計画関連宙域の監視。月遷移軌道上の異常確認。必要に応じてアルビオン隊と連携」

 

「コロニー?」

 

アムロの表情が変わる。

 

「最高司令部はコロニー落としを疑っているのか」

 

「断定はしていないようです。ただし、最悪を想定せよ、と」

 

「……あの方らしいな」

 

アムロは小さく呟いた。

 

最高司令部の大将。

 

いつも無茶を言う人だ。

 

だが、その無茶の裏にあるものを、アムロは知っている。

 

一年戦争後、アムロたち旧ホワイトベース隊が危険視され、政治的に扱いづらい存在になった時、彼らをロンド・ベルへ引き上げたのが、あの方だった。

 

士官教育は地獄だった。

 

特にブライトは、睡眠学習用のバイザーとヘッドホンを付けられ、眠っている間も指揮幕僚課程を叩き込まれていた。

 

あれを見た時、アムロは自分のカリキュラムがまだましだと思った。

 

思わされた、と言うべきかもしれない。

 

「ブライト司令は?」

 

「トロイホースへ向かっています。十五分後にブリーフィングです」

 

「アレックスは出せるか?」

 

「武装換装中。チョバム・アーマーは一部調整中ですが、出撃には間に合います」

 

「急がせてくれ」

 

「了解」

 

アムロは格納庫の外へ向かった。

 

途中、モニターに表示された宙域図を見る。

 

月。

 

サイド6。

 

地球。

 

その間を走る複数の航路。

 

どこに敵がいるのか。

 

何を狙っているのか。

 

まだ見えない。

 

だが、胸の奥に嫌な感覚があった。

 

コロニー。

 

一年戦争の記憶。

 

落ちてくる空。

 

「また同じことを繰り返すつもりなら……」

 

アムロは拳を握った。

 

「今度は止める」

 

強襲揚陸艦トロイホース 艦橋

 

ブライト・ノアは、最高司令部から送られてきた命令文を読んでいた。

 

「月遷移軌道の警戒、コロニー再生計画関連宙域の監視、アルビオン隊との識別共有……相変わらず、面倒な線を全部こちらに回してくる」

 

副長が苦笑する。

 

「最高司令部からは、かなり強い危機感が伝わってきます」

 

「だろうな。あの方がここまで早く動く時は、大抵ろくでもないことが起きる」

 

「信頼されているということでは?」

 

「便利に使われているとも言う」

 

ブライトはそう言いながらも、表情は険しかった。

 

観艦式壊滅。

 

核。

 

ジオン残党。

 

そしてコロニー。

 

どれ一つ取っても、軽い事態ではない。

 

「アルビオン隊との連絡は?」

 

「識別コード共有完了。ただし、アルビオンはデラーズ・フリートを追撃中で、こちらとの合流には時間が掛かります」

 

「構わん。追撃を止めさせるな。彼らには彼らの位置で見えるものがある」

 

「了解」

 

「アムロは?」

 

「出撃準備中です」

 

ブライトは頷いた。

 

一年戦争の頃、アムロはただの少年だった。

 

今は少佐。

 

ロンド・ベルの主力パイロットであり、指揮官としても育てられている。

 

それでも、彼の背中を見るたびに、ブライトは思う。

 

自分たちは、また若者を戦場へ出しているのだと。

 

「全艦、出撃準備」

 

ブライトは命じた。

 

「目標は月遷移軌道。デラーズ・フリートの意図を探る。コロニーが動くなら、動き出す前に見つけるぞ」

 

「了解!」

 

トロイホースの艦内が慌ただしく動き始める。

 

ブライトは一瞬だけ、最高司令部の命令文を見た。

 

最後に短い追記があった。

 

『無理は承知で頼む。だが、今回は間に合わせたい』

 

ブライトは小さく息を吐いた。

 

「あの方らしい」

 

そして、艦橋正面のモニターへ視線を戻す。

 

「トロイホース、出るぞ」

 

地球連邦軍最高司令部第1会議室

 

ロンド・ベル出撃の報告が入った。

 

アルビオン隊との識別共有も完了。

 

情報局はコロニー再生計画の航路を洗い始めている。

 

月面側にも警戒は出した。

 

宇宙軍総司令部は不機嫌だろう。

 

コリニー大将は怒るだろう。

 

だが、怒りでコロニーは止まらない。

 

「閣下、例の極秘回線、準備できました」

 

副官が言った。

 

「彼女に繋がるか?」

 

「現在、接続待機中です。暗号経路を三重に迂回しています」

 

「よろしい」

 

シーマ・ガラハウ。

 

旧ジオンの汚れ仕事を押し付けられ、それでも部下を抱えて生き残ってきた女。

 

味方にすれば心強い。

 

敵に回せば厄介。

 

そして何より、現場の匂いを知っている。

 

「閣下、医務室からも通信が」

 

「切れ」

 

「胃薬の服用確認です」

 

「後にしろ」

 

「医務室は後にしないようです」

 

私は天井を仰いだ。

 

デラーズ・フリート。

 

宇宙軍総司令部。

 

アナハイム。

 

コロニー再生計画。

 

ロンド・ベル。

 

アルビオン。

 

シーマ。

 

そして医務室。

 

敵が多い。

 

味方も多い。

 

どちらも胃に悪い。

 

「……やはり、温泉に行きたいな」

 

「閣下?」

 

「何でもない」

 

私は戦況図を見た。

 

まだコロニーは動いていない。

 

まだ敵の真意は見えていない。

 

だが、歯車は回り始めた。

 

ここから先、一つ噛み合わなければ、地球に巨大な質量が落ちる。

 

私は端末に手を置いた。

 

「全局、警戒を継続。情報を一点に集めろ。断片で構わん。違和感を見逃すな」

 

「了解!」

 

青い地球が、戦況図の端に浮かんでいる。

 

静かで、美しく、脆い星。

 

私は誰にも聞こえない声で呟いた。

 

「今度こそ、落とさせん」

 

その言葉は命令ではない。

 

祈りに近かった。

 

だが、祈るだけで済む立場ではない。

 

地球連邦軍最高司令部高官。

 

階級、大将。

 

任務、地球連邦市民の安寧を守ること。

 

そして今日もまた、仕事が増える。

 

まったく。

 

地球連邦軍上層部は、いつも多忙です。




取り敢えず、再構成第2話までは本日中に投稿してしまい、その後の再構成第3話以降は毎日投稿で最終話まで進めます。
あと、コメントは拝見してます。楽しんでいただけているようで有り難いです。
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