地球連邦軍上層部はいつも多忙です。   作:haniwa17

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再構成第四話 見せられている軌道

 

地球連邦軍最高司令部第1会議室

 

「コロニー再生計画輸送船団、定時通信途絶!」

 

「月遷移軌道外縁にて通信妨害を確認!」

 

「ロンド・ベル哨戒線、複数の高速熱源を捕捉!」

 

「アルビオン隊、遠方より追跡継続中!」

 

報告が飛び交う。

 

観艦式の壊滅から、まだ十分な時間は経っていない。

 

本来なら、宇宙軍総司令部は残存戦力の再編、被害確認、戦死者名簿の作成、補給線の再構築だけで手一杯のはずだ。

 

そこへ、コロニー再生計画輸送船団の消息途絶。

 

まったく、敵は我々の勤務時間を何だと思っているのか。

 

いや、敵に勤務時間を気にしてもらう軍隊など、そもそも終わっている。

 

「閣下、状況整理です」

 

情報局長の中将が、立体戦況図を表示した。

 

月遷移軌道上に複数の光点が浮かび上がる。

 

ロンド・ベル。

 

アルビオン。

 

バスク・オム大佐の独立哨戒部隊。

 

シーマ艦隊。

 

そして、消息を絶ったコロニー再生計画輸送船団。

 

「ロンド・ベルは輸送船団近傍。アルビオンは後方から追跡。バスク大佐の部隊は月面推進剤施設およびフォン・ブラウン周辺警戒へ展開中。シーマ艦隊は……」

 

「デラーズ側として輸送船団に接触、か」

 

「はい。通信妨害の発生源の一つに、シーマ艦隊のものと思われる波形があります」

 

会議室の何人かが私を見る。

 

その視線に、責める色はない。

 

だが、問うている。

 

君の協力者ではなかったのか、と。

 

分かっている。

 

だが、彼女はまだデラーズ側にいる。

 

表向きは従わなければならない。

 

それに、彼女がこの作戦に参加しているからこそ、流血を抑えられる可能性がある。

 

「シーマ艦隊の交戦記録は?」

 

「連邦側護衛艦への直撃は避けています。通信妨害、武装部位への限定攻撃、曳航管制の制圧が中心です。民間作業員への被害は、現時点では確認されていません」

 

「よし」

 

小さく息を吐いた。

 

彼女は約束を守っている。

 

ならば、こちらも彼女を捨てる訳にはいかない。

 

「ロンド・ベルには、シーマ艦隊への攻撃を慎重に行うよう再通達。敵味方識別は混乱している。誤射を避けろ」

 

「了解」

 

「アルビオンは?」

 

「遠方より追跡中。ガンダム試作一号機および試作二号機は既に喪失。コウ・ウラキ少尉は艦内で戦闘記録と追跡データの解析に当たっています」

 

「よろしい。今は無理に前へ出させるな」

 

若者が機体を失った直後に戦場へ出れば、判断が荒れる。

 

まして、相手はアナベル・ガトーだ。

 

怒りと焦りだけで追えば、死ぬ。

 

「それと、アルビオンには伝えろ。コウ少尉の解析結果もこちらへ回せ。現場でガトーを追ってきた者にしか見えないものがある」

 

「了解しました」

 

私は戦況図を見た。

 

輸送船団の周囲で、赤と黄色の光点が入り乱れている。

 

そして、その奥に、二つの大きな質量反応。

 

アイランド・イーズ。

 

アイランド・ブレイド。

 

名称は正式にはまだ確認中だが、実質的にはそれに相当する環境再生用無人コロニー群。

 

それが、デラーズ・フリートの手に落ちようとしていた。

 

「敵の目的は?」

 

少将の一人が問う。

 

「月面衝突では?」

 

別の将官が答える。

 

「現時点では、そう見える」

 

私は言った。

 

「だが、見えることと、真実であることは違う」

 

シーマ艦隊 強奪宙域

 

「通信妨害、維持!」

 

「連邦護衛艦、主砲沈黙!」

 

「民間作業艇、退避信号に従っています!」

 

シーマ・ガラハウは艦橋で戦況を見ていた。

 

強奪作戦は、予定通りに進んでいる。

 

いや、予定より少しだけ穏やかに進んでいる。

 

連邦側護衛は混乱しているが、壊滅はしていない。

 

作業員も逃がした。

 

管制室は押さえた。

 

曳航制御も奪った。

 

デラーズ側から見れば、十分な成果だ。

 

だが、シーマに言わせれば、これは強奪というより救急処置に近い。

 

最悪の惨事を避けるため、殺しすぎず、壊しすぎず、奪う。

 

何とも器用な汚れ仕事だ。

 

「中佐、デラーズ本隊より督促です。制圧が遅い、と」

 

「遅い?」

 

シーマは鼻で笑った。

 

「民間人を焼き殺して、護衛艦を沈めれば早いだろうね。でも、後で連邦に高く売る情報と恩を減らす気はないよ」

 

「そのまま返信しますか?」

 

「するんじゃないよ。『管制系統保全のため慎重に制圧中』とでも送っておきな」

 

「了解」

 

副官が苦笑しながら通信を打つ。

 

「第一コロニー、曳航制御確保!」

 

「第二コロニー、接合準備開始!」

 

「デラーズ側技術班、接合軌道データを送ってきました」

 

「見せな」

 

シーマは端末を覗き込んだ。

 

月面、フォン・ブラウン方面への衝突軌道。

 

そう見える。

 

見事なほどに、そう見える。

 

だが、あまりにも綺麗だった。

 

「……やっぱり月だけじゃないね」

 

「中佐?」

 

「この軌道、フォン・ブラウンに向かってるように見える。でも月の重力井戸に入り込みすぎてる。あとから向きを変える余地を残してる」

 

「地球へ?」

 

「さあね。デラーズの爺さんがどこまで話してるかは知らないけど、少なくとも全部は言ってない」

 

シーマは口元を歪めた。

 

「連邦の大将に渡す土産が増えた」

 

「通信しますか?」

 

「短くな。長く繋げば気取られる」

 

シーマは暗号端末に、最小限の文を入力した。

 

月だけを見るな。

 

それだけだった。

 

ロンド・ベル 強襲揚陸艦トロイホース

 

「輸送船団、制圧されつつあります!」

 

「シーマ艦隊、管制区画を押さえた模様!」

 

「デラーズ側妨害部隊、こちらへ接近!」

 

ブライト・ノアは艦橋中央で指示を飛ばしていた。

 

「全艦、迎撃用意。ただし、コロニー本体へは撃つな。護衛艦と民間作業艇を巻き込むな」

 

「了解!」

 

「アムロ、出られるか」

 

『既に出ている』

 

通信に、アムロの声が入る。

 

アレックスは、すでに前方宙域へ展開していた。

 

「敵MS、三機接近。識別、ゲルググ系およびザク改系」

 

「撃墜は避けられるか」

 

『やってみる』

 

「無理はするな」

 

『あの方みたいなことを言う』

 

「私も言われ慣れている」

 

短いやり取りの後、アレックスが加速する。

 

敵MSがビームを放つ。

 

アムロはそれを紙一重でかわし、相手の武装腕を撃ち抜いた。

 

一機。

 

続けて脚部スラスター。

 

二機。

 

三機目は接近戦に持ち込もうとするが、アレックスのシールドがその突撃を受け流し、ビームライフルがライフルだけを正確に破壊した。

 

「敵機、戦闘不能!」

 

「撃墜なし!」

 

艦橋にどよめきが走る。

 

ブライトは頷いた。

 

「よし。救難信号を送れ。戦闘不能機にも退避を促す」

 

副長が振り返る。

 

「敵にもですか?」

 

「今の任務はコロニー強奪の被害抑制だ。敵の死体を増やしてもコロニーは止まらん」

 

「了解」

 

ブライトは戦況図を見た。

 

シーマ艦隊はコロニーを奪っている。

 

だが、殺しすぎてはいない。

 

アムロは敵を止めている。

 

だが、撃ち落としてはいない。

 

あの方が繋いだ線は、かろうじて機能している。

 

問題は、その先だ。

 

「司令、コロニー二基の接合反応を確認!」

 

「軌道は?」

 

「月方面。フォン・ブラウン市方向へ見えます!」

 

ブライトは眉を寄せた。

 

見える。

 

見えすぎる。

 

「あの方が疑う訳だ」

 

「司令?」

 

「敵は、こちらにそう見せているのかもしれん」

 

月面近傍 バスク艦隊

 

バスク・オム大佐は、指揮艦の艦橋で月面施設の監視報告を聞いていた。

 

「フォン・ブラウン周辺、防衛態勢強化中」

 

「月面推進剤貯蔵施設、第七区画に不審な搬出記録」

 

「搬出許可は?」

 

「アナハイム系列の民間補給会社名義です。ただし、許可番号が月面管制局の記録と一致しません」

 

艦橋の空気が硬くなる。

 

バスクは腕を組んだまま、低く言った。

 

「偽装か」

 

「可能性があります」

 

「押収しろ」

 

「民間施設です。月面自治政府との調整が」

 

「最高司令部から権限は得ている」

 

バスクの声に迷いはない。

 

だが、次の瞬間、彼はわずかに口を閉じた。

 

最高司令部高官の言葉が、頭を過ったのだろう。

 

敵を憎むなとは言わん。

 

だが、憎しみで命令を出すな。

 

「……施設を封鎖しろ。ただし、職員の拘束は最小限に留める。記録を押さえ、燃料の流出を止めろ。抵抗があれば武装解除。発砲は許可制だ」

 

部下が一瞬だけ驚いたように顔を上げる。

 

「了解しました」

 

バスクは戦況図を見た。

 

月へ向かうコロニー。

 

その周辺で動くデラーズ・フリート。

 

そして、月面の推進剤施設に伸びる民間会社名義の不審な記録。

 

アナハイム。

 

月面側協力者。

 

全容はまだ見えない。

 

だが、臭いはする。

 

「閣下の疑念は、的外れではなさそうだな」

 

バスクは小さく呟いた。

 

アルビオン艦内

 

コウ・ウラキは、アルビオンのブリーフィングルームで戦況データを見ていた。

 

ガンダムはない。

 

試作一号機は失われた。

 

試作二号機も失われたはずだ。

 

だが、ガトーは生きている。

 

そして、デラーズ・フリートはまだ動いている。

 

「コウ、これを見て」

 

ニナ・パープルトンが軌道データを示した。

 

「コロニー二基が接合される。月面衝突コース……に見えるけど、これ、少し変なの」

 

「変?」

 

「月に落とすなら、姿勢制御の余白が大きすぎる。推進剤の残量も、衝突直前の補正には多い」

 

コウは端末を覗き込んだ。

 

彼は軌道計算の専門家ではない。

 

だが、ガトーを追ってきた。

 

ガトーの戦い方を見た。

 

真っ直ぐなようで、必要な時は大胆に裏をかく男だ。

 

「ガトーなら……」

 

コウは呟いた。

 

「ただ月に落とすだけで終わらせない」

 

「コウ?」

 

「月を狙ってるように見せて、本当に狙う場所は別かもしれない」

 

ニナの表情が強張る。

 

「地球?」

 

「分からない。でも、最高司令部も同じことを疑ってるんだろう」

 

そこへシナプス艦長が入ってきた。

 

「ウラキ少尉、解析結果を最高司令部とロンド・ベルへ送れ」

 

「自分の分析を、ですか?」

 

「そうだ。今の君は出撃できん。なら、出撃していた者にしか分からん情報を使いたまえ」

 

その言葉は厳しかった。

 

だが、突き放すものではなかった。

 

コウは拳を握り、頷いた。

 

「了解しました」

 

機体がない。

 

それでも、何もできない訳ではない。

 

今は情報を繋ぐ。

 

次に出る時のために。

 

そして、コロニーを止めるために。

 

地球連邦軍最高司令部第1会議室

 

「コロニー二基、接合確認!」

 

「軌道、月面方面へ移行!」

 

「予測衝突点、フォン・ブラウン市近傍!」

 

会議室がざわめく。

 

「月が本命か」

 

「フォン・ブラウンを狙うなら政治的効果は大きい」

 

「アナハイムへの打撃にもなる」

 

誰もが月を見始めている。

 

当然だ。

 

実際、コロニーは月へ向かっている。

 

フォン・ブラウン市に落ちるように見える。

 

ならば、月を守るべきだ。

 

それは間違っていない。

 

だが、それだけでよいのか。

 

「軌道図を拡大しろ」

 

私は言った。

 

立体図が拡大される。

 

月へ向かう軌道。

 

フォン・ブラウンへの予測線。

 

だが、その線は月の重力圏に深く入り込みすぎている。

 

軌道計算班の士官がこちらを見る。

 

「閣下」

 

「ああ」

 

綺麗すぎる。

 

あまりにも、こちらに月を見ろと言っているような軌道だ。

 

「これは見せられている軌道だ」

 

会議室が静まった。

 

「ですが、実際にフォン・ブラウンへ向かっています」

 

「その通りだ。だから月防衛は続ける。だが、地球防衛を緩めるな」

 

「二正面対応になります」

 

「敵が二つの可能性を作っているなら、こちらも二つを見るしかない」

 

私は端末を叩いた。

 

「地球軌道迎撃予備戦力を前進させろ。作業船団の準備を始める。曳航艦、推進剤タンク、作業ポッドを集めろ」

 

「作業船団ですか?」

 

「コロニーは砲撃だけでは止まらん。軌道をずらす手段を用意する」

 

「ソーラー・システムIIは?」

 

「準備は継続」

 

私は短く言った。

 

「ただし、まだ使用前提にするな」

 

将官の一人が口を開く。

 

「しかし、もし月面衝突が確定すれば、照射準備を急ぐべきでは」

 

「味方、民間船、月面施設、コロニーの姿勢、全てが不確定だ。強力な兵器を前提にすれば、判断が雑になる」

 

「ですが」

 

「最後の手段として準備する。だが、それを最初の答えにするな」

 

会議室に沈黙が落ちた。

 

重い沈黙だった。

 

その時、通信士が振り向く。

 

「閣下、極短暗号通信です。発信元、推定シーマ艦隊」

 

「内容は?」

 

通信士が読み上げる。

 

「……『月だけを見るな』」

 

会議室の空気が変わった。

 

私は目を閉じ、ゆっくり息を吐いた。

 

やはりか。

 

彼女も同じ違和感を見ている。

 

「全局に通達」

 

私は言った。

 

「月面衝突コースへの対処を継続。同時に、月重力圏通過後の地球方向転進を最重要警戒項目に引き上げる」

 

「了解!」

 

「ロンド・ベルには、コロニーの進路を追わせろ。バスク大佐には月面推進剤施設の監視を続けさせる。アルビオンには解析結果を継続送信させろ。シーマ艦隊との通信経路は維持。ただし、露見させるな」

 

「了解!」

 

私は戦況図を見た。

 

月へ向かう巨大な質量。

 

その先にある青い地球。

 

まだ、敵の本命は見えきっていない。

 

だが、見えた時には遅い。

 

だからこそ、今から備える。

 

「月は標的かもしれない」

 

私は呟いた。

 

「だが、踏み台かもしれない」

 

誰も笑わなかった。

 

当然だ。

 

笑うには、あまりにも巨大なものが動き出していた。

 

次に歯車が噛み合う時、コロニーは月の重力を掴む。

 

その時こそ、星の屑作戦の本当の姿が現れる。

 

地球連邦軍上層部は、いつも多忙です。

 

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