マブラヴ オルタネイティヴ episode HAGAKURE 作:不屈闘志
両方共に大好きな作品なので、両方のファンが楽しめるように頑張ります。
一九四四年亡月亡日 帝国軍哈爾(ハルピン)収容所
通称血涙島
「陛下が講和条約を受け入れる方針で意思を固めただと!あり得ぬっ!後、ほんの少しで我が研究は完成し、日本帝国は米英撃滅を果たすどころか、世界を支配できるのだ!日本民族こそ、他の民族を優越せる民族。牽いては世界を支配すべく運命を有す!それを何ゆえっ。」
一人の痩せた中年の将校が、悪鬼のような目をさらに血走らせ、短いナマズ髭を生やした口で無線機に必死で叫ぶ。
「せめて後三ヶ月は待てぬのか!研究内容だと?それは何度も言ったように超軍事機密故に明かすことはできぬ!それにこの回線は、傍受されている可能性が非常に高い。他国に研究内容を一片たりとも知られてはならぬのだ。おいっ。聞こえているのか?くそっ!」
悪鬼の目を持った将校は無線器を勢いよく叩きつけた。
「本国のすくたれどもめ!この譜代武家の筆頭である葉隠家が当主、葉隠四郎の研究を信じられぬのかっ!」
通信を一方的に切られて数分後、葉隠四郎と名乗る将校は余程怒髪にきているのか、平常時にも絶対に立てぬ足音をカツカツと、わざと響かせるように廊下を歩き、実験室に急いでいた。
「後少しだったのだ。先の三つの研究が完成し、最後にあれを着装できさえすれば、戦術神風を米国で炸裂させ、戦況は一気に日本帝国に傾いたものを。この譜代武家の当主である四郎がわざわざこの研究のために材料が手に入りやすい哈爾に三年も出向いたというのに!」
吐き捨てるように叫びながら薄暗い長い廊下を抜け、自らの研究室の扉を勢いよく開けると、そこはまさに地獄であった。
最新の機器に囲まれた実験室、そこにはすべての尊厳を奪われ、手術台に縛られている血涙を流す虚ろな目をした大量の人間達、彼らを番号で呼び地獄の鬼が如く生きたまま解剖している白衣の研究者達の姿があった。
これら実験に使われているのは、すべて捕虜となった他国籍の軍人達である。
この哈爾捕虜収容所は、収容所とは名ばかりの日本帝国も知らぬ葉隠四郎だけの極秘兵器実験施設なのだ。
総責任者である葉隠四郎が入室し研究者達は敬礼する。
「傾聴せよ!これより、最重要事項を申し付ける!」
葉隠四郎は、先程の本国からの無線の内容を隊員達に伝えた。
それは日本帝国は講和条約を受諾し敗北を受け入れること、すべての日本人は満州をはじめとした中国大陸から引き上げること、そしてこの研究は打ち切られることである。
「我が陸軍葉隠瞬殺無音部隊は、研究成果をすべて収容した後に実験施設に火を放ち証拠を焼却し、本国に帰還する。
誇り高き帝国の歴史に生体実験の事実は無用である!
そして、諸君!敗北と言ってもうちひしがれるなかれ。なぁに、武家は解体されずにそのまま残るのだ。
四郎の予想ならば大戦はまた近年に起こりうる。そのときまで暫しの辛抱なり。皆のもの、早急にとりかか…ぐわっ!!」
喋り終わらないうちに爆発音が響き、地下の研究室が大きく揺れた。
それは間違いなく上空からの爆撃であった。
(おかしい。先程の通信、傍受されていたとしてもこれ程早くの爆撃はあり得ぬ。ま、まさか)
四郎は研究機器をつかみ体を支えながら、何かに気付いた顔で憎々しげに呟いた。
「まさか…先日、この血涙島から唯一逃走できた余命二時間の虫けら、あの実験材料208号が生きて他国の軍にたどり着き、この捕虜収容所の内幕を伝えたのか…」
爆撃が一時収まったその瞬間に周りの兵士、研究者達に激を飛ばす。
「不肖葉隠四郎、どんな虫けらにも五分の魂という言葉を忘れていたわ!瞬殺無音部隊、迎撃準備にかかれぇい!」
その後、連合軍主観の戦闘記録によれば、血涙島は連合軍と葉隠瞬殺無音部隊の戦闘により地獄の戦場と化した。
当初は謎の格闘術を駆使し連合軍の人海戦術を意に介さず有利に立っていた瞬殺無音部隊だが、昼夜を問わない空からの爆撃には対抗手段を持たず、体を粉々にされ、徐々に数を減らしていった。
一週間後、連合軍は予想を大きく越えた五倍の被害を出しながらも葉隠四郎以外、すべての隊員を殲滅、四郎を生きたまま捕虜とすることに成功する。
そして、戦後の連合国主導の弾劾裁判では、葉隠四郎の悪行は唯一実験から免れた実験材料208号の証言と爆撃からわずかに免れた人道から外れた実験をされていたことが解る数千体の遺体、それらが決定的な証拠となり証明された。
葉隠四郎は、亜細亜最凶の悪鬼と評され、葉隠の家名とともに他国や日本帝国からも忌み嫌われながら、A級戦犯として刑を下されこの世を去った。
しかし、ある重大な謎が残った。
それは、葉隠四郎が何を研究し、瞬殺無音部隊は何のために存在していたのかである。実験材料208号も、周りの兵士や自分が、実験台として材木同然に切り刻まれたことは理解出来たのだが、何のための実験なのかは、知るべくもなかったのだ。
米国は葉隠四郎に対して、裁判にかけるまでにあらゆる拷問を与え、研究内容をすべて渡せば、無罪とする裏取引を何度も持ちかけた。
しかし、悪鬼は薄ら笑いを浮かべながら「貴様ら、劣等民族に私の研究が使われること、死んでも私の魂が承知せぬ。捕虜達はあくまでも帝国のため丁重に有意義に使用したまでのこと」と宣うのみで、 膨大な人体実験を行って何を研究していたのか最後まで、口を割ることはなかった。
さらに謎を迷宮入りさせた要因は、肝心の研究施設に対して、念入りの爆撃を繰り返したゆえに実験機器とともにすべての瞬殺無音部隊の死体も原型を留めぬほど残らず破損、書類も一片にわたって灰と化し、運良く爆撃を逃れたのは実験材料の死体のみだったこと。
本国にも極秘にしていた研究ゆえに、内容を知っているものは、軍の上層部や同じ武家である五摂家から外様に至るまで皆無であったこと。
さらに誇り高い侍の魂を持つ譜代武家である葉隠一族は、将軍から取り潰しの命が下る前に当主の悪行を恥じ、栄えある葉隠の家名が残酷な悪鬼の一族として泥にまみれたことに絶望し、ほとんどの者が自ら切腹、または服毒自殺したことである。
そして、生き残った者も葉隠という家名を捨て、連関して取り潰しになった葉隠家に代々仕える兵藤家をはじめとした御三家とともに野に下ってしまった。
その後、特に研究結果を我が物としたい米国、ソ連、中国は、他の武家や一般市民から忌み嫌われながらも、父親の罪を背負うため一人葉隠を名乗る四郎の息子を国連の名のもとに拉致しきつく尋問した。
さらに米軍は、帝国に残存する葉隠家に関する書類をすべて暗号化も考慮にいれ、血眼になり調べあげた。
だが、これだけ調査したのにも関わらず、判明したのは「未知の技術であるこの四つの研究が完成すれば、日本は世界を支配できる」といった表面的なことのみであった。
数年が経ち、四郎の研究内容を探していた世界各国だが、一国足りとも手がかりさえ手に入れられず、捜索を打ち切った。それゆえに四郎の研究は、近いうちに世界から風化するはずだった。
しかし、亜細亜最凶の悪鬼の悪名の高さから、その謎は忘れ去られることは許されず、やがて世界中で独り歩きし始めた。
それは人々に伝わるにつれて「葉隠四郎は、血涙島陥落前に自分の研究内容をすべて記した文書を作成し、日本のどこかに隠した。未知の技術を記すそれが発見されればどんな小国でも世界を支配できる」という都市伝説と化す。
存在自体疑わしい秘文書は、誰ともなく四郎の名前から、46(ヨンロク)文書といわれるようになった。
そして、時は流れ46文書も古いオカルト雑誌の隅に記載される程度に収まった。
皮肉にも、平和になったからではなく、人類は一九六七年のサクロボスコ事件から始まったBETAとの月面戦争により、地球上のあらゆる情報は、BETA関連で持ちきりとなったからである。
戦いは長引き、人類は一九七三年に中国新疆ウイグル自治区喀什(カシュガル)にBETAの着陸ユニット落下を許してしまう。
ついに地球上で人類とBETAの戦争が始まったのだ。
人類は戦術機を始め、あらゆる戦闘技術を開発し、BETAに対抗した。
だが、人類はそれでも一丸となることができず徐々に戦況は悪化の一途を辿っていった。
この頃からである、沈静化した46文書という都市伝説が復活し、主に世界中の軍の間で細々と、語り継がれるようになったのは。
「もしかしたら、どんな小国でも世界を支配できる技術が記された46文書が見つかれば、BETAを倒せる足掛かりとなるのではないか?」と…
しかし、国連の尋問から開放された葉隠四郎の息子も、子供が生まれるとともに行方不明となったうえ、そんな眉唾物を調べる人的、物的そして何より心的余裕がもはや人類にはなかった。
二〇〇一年、BETAとの戦争が始まり三十年以上が経過した。
悪しき血涙島もユーラシア大陸がBETAの支配下となり消滅し、世界人口も十億となってしまった世界。
46文書は日本を含めた世界各国の軍の上層部においては、未だに根強く信じている者も多数存在した。
しかし、武家や政府に連なる者以外の一般市民からは、葉隠の名はほぼ忘れ去られていた。
そして、その人類自体が十年以内に地球からBETAによって消え去ろうとしていたその時、因果の果てから二人の少年がこの絶望の世界に降り立とうとしていた。
一人は、何度でも絶望する世界に抗う為に戦う、果てしない愛と勇気を持った少年、白銀武。
もう一人は、牙なき人の剣となり戦う、悪鬼から受け継いだ人殺しの技を極めた少年、葉隠覚悟。
この二人から生じる因果の螺旋は、様々な人物、戦闘、そして人類救済の手段であるオルタナティブⅣ、00ユニット、46文書をも巻き込み、絶望する世界に希望の光を与えることになる。
これを書くのに5日ほどかかっているので、仕事の関係上、次の投稿は1ヶ月後くらいになるかもです。
気長に待ってください。