マブラヴ オルタネイティヴ episode HAGAKURE   作:不屈闘志

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第五話 互いの歴史

覚悟が口を開き日本建国の神話を話し始めると夕呼は、笑顔で表情が固まった。

 

(しまった。日本の歴史の話をしてって質問したら普通なら、古くても邪馬台国くらいから話すのに、まさか国産み神話から話すとは計算外だったわ。こいつの性格上、歴史詳しそうだし、このままだと全部話が終わるまでに明日の朝になる。時間があれば、コーヒー飲みながら合いの手くらいいれながら聞くけど、一番知りたいのは、謎の兵器とか、46文書のことなのよね。曖昧な質問した自分に腹立つ。あ、なんか雄弁と語るこいつにも腹が立ってきたわ。)

 

ピキッ、イラッ……。

 

夕呼は一瞬でご機嫌な状態から、イライラした状態に変わる。しかし、覚悟に自分の心中を悟られぬように表情を崩さず、青筋を髪で隠しながら、笑顔のまま話の修正を測る。

 

「それは、もう少し後で聞くわ。できれば…………1800年代後半からお願い。」

 

「失礼しました。では黒船来航をご存知ですか?知っておられたらその辺りからお話したいのですが?」

 

「知ってるから、そこからお願い。」

 

 

そこから覚悟が話す歴史は、軍事関係の情報が多かったが、白銀武がかつて話した歴史とほぼ一緒であった。

 

しかし、夕呼が監視室でわずかに聞いたある事件から歴史の流れが変わり始め、それに伴い夕呼の顔が生き生きとし、機嫌が直り始めた。

 

「へぇー、1980年に政府が新エネルギー開発に失敗して、東京の一区画が汚染大気と放射能で死の大地になったのね。すぐに除染作業に取りかかるも、ダメ押しするように、三年にも渡る世界規模の震度7強の大地震が発生して連鎖的に世界中の核施設も暴走かぁ。あんたも人類もよく生きてたわね。」

 

普通の者なら、このような災害を語る者の心中を察し気の毒そうに喋るものだが、夕呼は自分を偽らず興味信心で楽しそうに喋る。

 

それを気にせず、覚悟は続ける。

 

「私の出身は、北海道の網走の山奥なので被害は少なかったのです。たまに核汚染異能熊が出没すらくらいでした。核施設から離れた自然豊かな地域程、被害は少なかったと記憶しています。」

 

「その異能熊って普通の熊とどう違うの?」

 

「浴びればケロイドと化す強酸の血液を持ち、太古の恐竜並みの戦闘力を誇る熊です。」

 

「放射能でそんな生物が出来るなんて、興味深いわね。ちなみに日本以外の世界はどうなったの?戦争とかなかったの?」

 

「どこも被害は日本と同じようなものでしたが、中国は特に酷く、地震で地下の核施設が暴走し、ほぼ全土が汚染大気により人の住めない土地と化してしまいました。ちなみに戦争ですが、どの国家も荒れた自国の統治に力をいれており、他の国々に戦争を仕掛ける余力はありませんでした。」

 

(なんかこの世界と大分似てるわね。もしかして、白銀の世界よりもこの世界に近いのかしら?)

 

「ですが、新世紀に入り、ある偉大な科学者が汚染大気除去を目的とした有益な生物を作り出し、全世界で復興が始まります。私が眠ったのはこの辺りです。」

 

覚悟は、あえて自分の出自と散との戦いの話を避けた。自分の世界と違いこの世界は、軍が存在している。ゆえに零の兵器が侵略行為に利用されるのを避けるため、そして夕呼のことをまだ100%信用していなかったためである。

 

(その有益な生物もすごく気になるわね。もし、その生物がいたらAL弾による環境破壊は、少しは押さえられるかもしれない。その生物だけで米国に対する取引に使えるけど、今は…………)

 

「有り難う。じゃあ今度は、こっちの今さら人に聞けない世界史を教えてあげるわ。これを知らないなんて言ったら、即バカ扱いの常識と……」

 

夕呼が再度、妖しげに微笑んだ。

 

「それと、一般人が知らないレベルの話。念のため言っておくけど……他言無用よ?」

 

夕呼は、覚悟があえて自分に隠している歴史があることに薄々気付いていた。それが覚悟が持つ兵器と人を喰らうと言う戦術鬼という言葉に関係があると感づいていたからである。

しかし、夕呼は覚悟に対し、すべて話せと問い詰めはしなかった。会話をしてまだ一時間も経過していないが、自分が考える覚悟の性格からして、この世界のことを知れば絶対に話さざるを得ないと確信を持ったのだ。

 

「まず貴方の世界とこの世界と比べて違うところは……」

 

夕呼は、まず日本の首都がかつて京都であったことから歴史を語り始めた。次に第二次世界大戦で日本は、条件付き降伏を受け入れて1944年に戦争が終わったこと。変わりにまだ戦争を続けていたドイツに原爆が落とされたこと。日本は、甘んじて米国の属国になり国力回復に努めたことなどを話した。

 

ここまで聞いた覚悟は、多少目を見開いたのみで、まだ冷静で無表情であった。

 

その無表情な顔を見た夕呼は、次の歴史を話す前に世間話をするかの如く覚悟に問うた。

 

「葉隠、貴方が二日前に戦闘行為をした怪物、BETAって名前なんだけど、あの生物の出自ってなんだと思う?」

 

「あのような生物は、私が知る限りは地球上に存在しておりませぬ。故に世界征服を企む悪の組織か、末法思想を持つカルト宗教団体などが既存の生物を改造して人類を襲わせていると見受けられます。」

 

「ふぅん。もしかしたら、あいつらは宇宙人で地球を征服する為に攻めて来たかもしれないわよぉ?」

 

「あり得ませぬ、そんな夢物語。私の世界では未だ地球以外の生物は、発見されていませんし、存在する確率も天文学的に低かったと記憶しております。」

 

そんな覚悟の主張を覆すかのように、 夕呼は告げる。

 

「それは残念ね。ここはその夢物語で天文学的な確率を引いた大当たりの世界だわ。」

 

「!?」

 

その言葉を聞いた覚悟は、この部屋に入ってから一番の驚愕した表情になる。

 

「BETAの正式名称はね、Beings of the Extra Terrestrial origin which is Adversary of human raceていうの。これは、日本語に訳すと『人類に敵対的な地球外起源生命』て意味よ。」

 

そう言い終わると夕呼は、端末のキーボードを叩きモニターに火星の映像を映した。

 

「ここからは、貴方の言う夢物語の世界になると思うけど、黙って聞きなさい。すべて本当の話だから。」

 

夕呼は、改めて順を追って話し始めた。

 

1958年米国の探査衛星ヴァイキング1号が火星で生物を発見した事件。

1967年国際恒久月面基地『プラトー1』の地質探査チームが、火星の生命体と同種の存在に殺害されるサクロボスコ事件。そこから始まった月面戦争。

1973年中国の喀什(カシュガル)にBETAの着陸ユニットが落下、そこから世界にハイブが次々と作られたこと。

1999年に日本の半分が領土侵略されたこと。

最後に横浜ハイブにG弾という新型爆弾が落とされたところで話は終わった。

 

ここまで驚愕した顔で話を聞いていた覚悟は、話が終わると同時に遂に我慢できずに夕呼に叫んだ。

 

「有り得ぬ!虫や小動物ならまだしも、あのような巨大生物、各国の軍が残存しているなら、あらゆる兵器を用いれば初期に殲滅できたはず。ここまで人類が、追い詰められるはずは……」

 

覚悟の言葉を途中で遮り、夕呼が喋る。

 

「飛行機による爆撃は最初は有効だったのよ。けれど、約19日でBETAからレーザーを放つ新種が現れた。奴等は、空を飛ぶものを瞬時に打ち落とす。それが音速で迫るミサイルでもね。制空権がモノを言う時代は30年以上も前に終わりを告げたわ。」

 

夕呼の言葉に負けじと覚悟は、地雷、艦砲射撃、毒ガスとあらゆる殲滅手段を叫んだ。しかし、夕呼に効かない、または効果はあるが殲滅までには至らないとあっさりと返答される。

 

自分が唱えるすべての殲滅手段を否定された覚悟は、これで最後とばかりに夕呼に問う。

 

「では、この世界の正義を行う者はどこに行ったのですか?人類の勇将たるライやボルト、黒須京馬はいないのですか?」

 

「その勇将達?は、いるかどうか知らないけど、いたらいたで多分死んでるわね。今までの話を聞いてたら解ると思うけど、BETAに対しては、個人レベルの兵器では、もうどうこうできるレベルじゃないのよ。貴方も例外じゃないわ、葉隠。貴方は100体以上のBETAを倒したらしいけど、それはこの地球上のBETAの総数からしたら、一万分の一にも満たないわ。」

 

かつて、四千匹の戦術鬼に必死になっていた覚悟に取っては、絶望的な情報であった。だが、それよりも覚悟はあることに気が付いた。

 

「この世界に正義を行う者がいないなら、葉隠一族自体どこに…………いや、そうすると『俺』自身はどこに?」

 

(こいつ、地の性格が出ると口調が俺になるのね。)

 

困惑の表情を浮かべる覚悟に対して、夕呼は、笑みを消し真剣な顔で覚悟に問うた。

 

「葉隠、最後の交換条件よ。貴方の隠していることを全部話して。あのバイク、武装、その鉄球の情報、そして、貴方自身のこと。」

 

夕呼の問いに現実に引き戻された覚悟は、再度無表情に戻り逆に夕呼に質問する。

 

「香月博士が提示する、それに見合うだけの条件はなんですか?」

 

「あの巨大な機体、戦術機に乗る衛士として訓練を施してBETAと戦わせてあげるわ。」

 

「私には零、BETAと戦闘していた時に武装していた鎧があります。あのような巨大な機体に乗ることなく戦えます。」

 

「そうね、貴方の武装も単体相手なら60mの要塞級よりも強いと思うし、赤い蜘蛛みたいな戦車級なら、結構な数を殺せるでしょうね。けれど、さっきも言った通りBETAの驚異は数なのよ。一番数が多い巨大さそりの要擊級相手なら、正直言って貴方が戦うよりも戦術機の87式突撃銃による36mm弾の方が素早く多く殺せる。それに貴方の武装はこの世界では修理も交換も効かないわよ。」

 

覚悟は、押し黙った。

昇華は、どんな生物でも蒸発せしめる威力があるが連射が効かず、再充電には時間が掛かる。

超脱水鱗粉は、高度、風向き、天候、遮蔽物などが弱点となる。あの時に100体の戦車級を倒せたのはそれが揃っていたからだ。

零式防衛術も戦術鬼レベルの戦車級なら零なしでも100匹は倒せるが、毒魔愚朗級の要擊級が相手なら、零を着装していても連戦して100体は難しい。

さらに零や月狼は、軽い破損なら直せるが、散と戦闘した時並の破損をすれば何のバックアップもない覚悟にはどうすることもできない。それに曳月や残月の銃弾補給も、この世界では絶望的である。

 

「別にあの武装は、必要が無いわけではないわ。戦術機が破壊された時、普通の衛士なら、高い確率で死ぬだけだけど、あれならBETAに囲まれていても生き残ることができるしね。」

 

そう答えた夕呼は、真剣な顔からまた妖しい笑顔に戻る。

 

「それにどうせ行くところないんでしょ?そんな行く当てもないあなたに、居場所を作ってあげようって言ってるんだけど?」

 

覚悟は、深く考えるかのように目を閉じた。そして、約十秒後に開眼し神妙な表情でゆっくりと夕呼に答えた。

 

「わかりました。衛士の件よろしくお願いします。けれど、約束して下さい。私の武装兵器を決して侵略行為に使わぬと。」

 

「侵略何てしないわ。侵略された物を取り戻すために使うだけよ。それに人類も食料や難民の受け入れ先とか細かいいざこざはあるけど、国をあげて、同じ人類相手に戦争をしている馬鹿な国はもういないわ。」

 

(本当は、表だった行動はしていないだけで、水面下で各国は色々やってるんだけどね。特にオルタネイティブⅤは、米国の地球覇権の計画でもあるし。)

 

「では、すべてお話しします。しかし、すべてを理解するには、まず最初に私の曾祖父である『葉隠四郎』、そして、四郎が指揮した『瞬殺無音部隊』のことから話さねばなりません。」

 

その二つの単語を聞き、夕呼の心臓が興奮で跳ね上がった。

 

(驚きだわ。悪鬼の一族どころじゃなくて、まさか悪鬼の直系の血筋、曾孫だったなんてね。それだけじゃない、かつて世界を席巻し、今は都市伝説扱いの46文書の謎が、この世界で私だけに開示される。)

 

夕呼は、平静を装うのに必死になった。

 

そんな夕呼に気付くことなく覚悟は、話し始めた。

 

「1944年、私の世界で日本がまだ帝国と名乗っていた時代。葉隠四郎率いる瞬殺無音部隊は、人間そのものを強力な兵器と化す四つの研究をしていました。一つ目は人類の潜在能力を極限まで引き出し、一触必殺を可能にする最終格闘技『零式防衛術』。二つ目は人間の皮膚を鉄と化し、弾丸を跳ね返す特殊金属『零式鉄球』。三つ目は改造手術により悪しき認識を持つ人間の戦闘能力を高めた生物兵器『戦術鬼』。そして、最後にあらゆる兵器を内蔵した耐熱防弾防毒鎧、着装すれば一体で一国を堕とすことができる戦略兵器、『強化外骨格』です。ここまではよろしいですか?」

 

夕呼は、確認するように答えた。

 

「一つ目の零式防衛術は、貴方がBETAを倒した時に使った格闘術。二つ目の零式鉄球は、尋問室でマシンガンを防いだあの鉄の皮膚でいい?」

 

「間違っておりません。」

 

「三つ目の戦術鬼っていう改造人間は、どういうものなの?」

 

「こちらの世界で例えれば、人間を改造し、戦闘能力を戦車級や要擊級まで引き上げる技術です。」

 

「すごいじゃない。」

 

「しかし、成功するのは先程言った通り、悪しき認識を持つ人間のみで、その他の人間は肉虫と言う地を這うだけの生物になります。その上成功しても正気をほとんど失い、主食は生きた人間の骨髄液となってしまいます。」

 

「前言撤回……使えないわね。人間が餌で、悪人しか改造が成功しない生物兵器なんて。BETAじゃ相手にならないし、心で決まるなんてそんなの改造しなきゃわからないじゃない。まぁとにかく私みたい奴は失敗して肉虫になってしまうってことね。怖いわね。葉隠?」

 

「…………」

 

(こいつっ!!)

 

覚悟は、いくら頭で否定しようとも何故か、戦術鬼夕呼を容易く想像できてしまった。

 

夕呼は、上がった血圧を下げるように思考を切り替える。

 

(まあ、とにかく50年前にこれだけの研究を成功させてたなんて、葉隠四郎は間違いなく天才だったのは確かだったようね。けれど、人間相手の戦争なら、かなりの戦果は挙げられそうだけどBETAに対してはほぼ無力だわ。まぁ、さすがの悪鬼も20年後に宇宙人が攻めてくる何て思いも寄らなかったでしょうし。やっぱり本命は四つ目ね。話を聞くと根本的にこの世界の87式機械化歩兵装甲とは違うらしいし。)

 

46文書の全容を改めて考え、いくらか冷静になった夕呼は、今の現実に照らし合わせて評価した。

 

「色々言いたいことはあるけど、続けて頂戴。」

 

覚悟は、その後自分の生涯を語った。

 

生まれてすぐ、零式防衛術の訓練の毎日だったこと。零を着装したその日に兄に父を殺されたこと。兄を探し四年間全国を回ってやっと新東京で兄を見つけたこと。兄率いる不退転戦鬼軍団と激闘を繰り広げ、兄と和解したこと。管理局に従い友と永遠に別れ冷凍睡眠装置に入ったこと。

 

「…………そして私は、BETAの地響きと共に地下で目覚めました。後は知っての通りです。」

 

夕呼は、最初は笑みを浮かべて興味深そうに覚悟の人生を聞いていたが最後の方は、軽く絶句していた。

 

「なんか…色々と規格外な話が多いわね。霊が宿る鎧に全長何㎞もあるG・ガラン、極め付きは、葉隠四郎がまだ生きていたか…………貴方、二十歳にもなっていないのに随分波瀾万丈の人生送ってきたのね。そりゃ、今みたいな性格も納得だわ。」

 

「お心遣い。痛み入ります。」

 

覚悟は、軽く頭を下げた。

 

そんな頭を下げる覚悟を見る夕呼の目に、憐憫の情が浮かぶ。

 

(本人は、気づいてないけど生まれたときからの環境のせいなのか、中々狂った性格してるわね。普通に貴方の年だったら戦いを終わらせて、恋愛したいとか平和に暮らしたいとかいう願望を持つものなのに。自分のやるべきことは、牙なき人を守ることって、手段が目的になってるわ。その目的のために友も恋人も平和な日常まで捨てて、目覚めるかわからない眠りにつくなんてほぼ狂人の類いね。)

 

夕呼は、お辞儀が終わるのを見届けるとゆっくりと立ち上がり、覚悟に告げる。

 

「やっぱり実物を見たいわね。その三千の英霊が宿る『零』と機械化軍用犬『月狼』が起動するところを見せて頂戴。貴方の持ち物は、隣の部屋にあるし、紹介したい奴もいるしね。」




キャラクターの会話は、考えさせられますね。
早く覚悟を207小隊と合流させたいです。
後、覚悟は宇宙人と驚いてますが、覚悟のススメと同じ世界である『開花のススメ』の最終回では、異星侵略者(ビジター)という「地球人も高が知れる」とか喋る、結構知能が高い宇宙人が攻めてきます。
覚悟のファンの方はよかったら、そちらも読んで下さいね。
結構面白いですよ。
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