マブラヴ オルタネイティヴ episode HAGAKURE   作:不屈闘志

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第六話 異世界の兵器達

夕呼が覚悟を連れて入ったその部屋は 、薄暗かったが、中央の光るシリンダーで辛うじて全体が見渡せた。

その薄暗い灯りの中で覚悟は、シリンダーの横に停めてある月狼と零を確認し安心する。

しかし、すぐに二日ぶりに再会した相棒から、二つのものに目を移した。それは光るシリンダーの中に浮かぶ脳と脊髄、そして、その近くに佇むうさみみのリボンを着けたどう見ても日本人ではない白髪の少女。

 

「君は?」

 

覚悟は、そういいながらゆっくりと近づく。しかし、少女は覚悟から逃げるようにシリンダーの後ろに隠れ、数秒後こちらの様子を窺うようにひょっこりと顔だけを出した。

 

それを見た覚悟は、こちらの世界に来てまた人を怯えさせてしまったと勘違いしてしまった。

 

(また、私は同じ過ちを繰り返したのか。着替える暇がないとはいえ、こんなだらしない服のうえ、傷だらけでやつれた顔や体、せめて頬や唇に紅をさすべきであった。)

 

そう覚悟が考えた時、その少女は首をかしげて、不思議そうな顔をした。

 

「安心して、怯えているわけではないわ。霞、隠れてないで挨拶なさい。」

 

そう夕呼から声をかけられた少女は、とてとてと夕呼の隣に立つと、無表情な顔で覚悟に名乗った。

 

「……霞です」

 

その名前を聞いた覚悟は、かつて同じ名を持つ鎧と激闘を繰り広げたことが頭によぎるがそれをすぐに頭から振り払った。

 

「霞さんというのですか?」

 

「そうよ、彼女の名前は社霞。一応は、あんたより先に軍に入っているけど、仰々しい敬語は使わないであげてね。」

 

「了解。社さん、葉隠覚悟と申します。本日からよろしく御願い致します。」

 

「霞でいいです。」

 

霞と名乗る少女は無表情なまま答えた。

 

覚悟は、心の奥底を除かれているような感覚を味わいながら、霞の年齢の低さに驚いていた。

 

(このような女児も徴兵されているのか。む?)

 

覚悟は、この世界の厳しさを確認すると同時にAlternative Ⅳと書かれたマークを見つける。

 

「香月博士、霞さんの肩に書いてあるオルタネイティブⅣとは何ですか?」

 

質問された夕呼は、キッパリと答える。

 

「これは、衛士になる前のあんたには教えることができないわ。意地悪してるわけじゃあないのよ。階級ごとに開示される情報のレベルが違うのは、あんたでも理解できるでしょ?まぁ、簡単に言えばBETAを殲滅させる作戦の一つで、霞もその作戦の中で重要な役職に就いている。それと、さっき話した平行世界のことを知る四人の内の一人だから、何も隠さなくても大丈夫よ。」

 

「了解しました。もう一つご質問よろしいですか?」

 

「何よ、早くして。」

 

覚悟は、シリンダーの中に浮かぶ脳と脊髄を見ながら言う。

 

「この脳と脊髄の標本も、その計画に関係あるのですか?」

 

「これも同じく詳しくは、まだ言えないわ。今言えることは、オルタネイティブⅣの内の一つと言うことだけよ。」

 

「了解。献体してくれた人物に敬礼!」

 

覚悟は、シリンダーに浮かぶ脳と脊髄に見事な敬礼をした。

 

この時の覚悟は、シリンダーに浮かぶ脳と脊髄は生前に契約書を書き、医学発展の為に献体してくれた人物のものと考えていた。そして、その勘違いを理解した夕呼もそれ以上は、説明をしなかった。もし、この脳と脊髄を説明すれば、覚悟は階級など関係なく、夕呼に説明せよと詰めよることが容易に想像できたからである。それと同じく社霞の出自も今は説明をしない。

 

(今まで見聞きしたこいつの性格、死生観を考慮すると人体実験は絶対にタブーだわ。少なくとも今は、説明ができない。話すとしたら、強化外骨格の武装と自立型AIの情報をすべて引き出してからね。その時が来ても悪く思わないでね。)

 

そう企む夕呼は、違う話題に素早く移すように覚悟に言う。

 

「いちいち敬礼はやめて。そうしたら葉隠、まずはその零を起動させてくれないかしら?」

 

「了解。」

 

夕呼の命令に返事をした覚悟は、床に置いてある鋼鉄の学生鞄に近づいて声をかけた。

 

「起きてくれ、零。」

 

覚悟の声に、数秒間をおいた後生ける鎧が二日振りに目を覚ます。

 

カタカタカタカタ……

 

『……少し見ないうちに随分男前になったな、覚悟。』

 

覚悟の声に鋼鉄の学生鞄に収納されている零が応えた瞬間、霞は驚いた顔になり、夕呼の後ろに隠れ、ブルブル震え始めた。

 

「どうしたの?霞?」

 

「驚いた。霞さん、貴女は零の声が聞こえるのか。私の世界では、私以外に零の声を聞ける者は数える程しかいなかった。」

 

覚悟は、しゃがみ鋼鉄の学生鞄を撫でながら夕呼に答える。

 

「この鞄に入っているのは、零という強化外骨格。瞬殺無音部隊に殺害された三千人の軍人の英霊が宿った鎧です。」

 

それを聞いた霞は、さらに震え出した。

 

「幽霊の声……」

 

夕呼の後ろで震える社に覚悟は優しげに言う。

 

「安心してくれ、霞さん。確かに零は、侵略行為を怨む怨霊だが、人間を怨んだことは一度もない。」

 

『女児よ、怯えなくてもいい。我々は、覚悟とともに数えきれないほど牙なきもの達を守って来た。もちろん、我々の存在をかけて女児のことも守る。』

 

「ほんと?」

 

『強化外骨格に嘘を操る機能はない!』

 

零にそう宣言され、霞は夕呼の背中から全身を出し、ゆっくりと零に近づき、しゃがんで恐る恐る鋼鉄の学生鞄を撫でた。

 

「霞です。よろしく。」

 

『この世界の霞は随分可憐だな!こちらこそ、よろしく頼む。』

 

霞が零を撫でるのが終わるのと同時に夕呼が叫ぶ。

 

「ちょっと!私だけ置いてけぼりなんだけど!葉隠、本当にこの中に英霊が宿る強化外骨格が入っているの?私には何にも聞こえないから、少し動かしてみせてよ。」

 

この場で一人だけ零の言葉が聞こえない夕呼は、早く幽霊という自分が研究する物理学と正反対の存在を確認したく、覚悟に零の起動をせがんだ。

 

「了解。零、今までのことを口で説明するのは時間がかかるゆえ、私の記憶を今すぐに読んでくれ。それが零に宿る英霊の証明にもなる。」

 

『了解だ。覚悟。』

 

次の瞬間。

 

ガバラッ!

 

鞄が自動で開き、中から数本のミミズのような高分子筋繊維が、現れ覚悟の頭にその先端が取り付く。

 

「「!!!!!」」

 

夕呼と霞は、その様子を見て目を見開き驚いたが、夕呼の方は、すぐさま研究者らしく零を観察し始める

 

(よく見ると鞄の中の鉄甲にミミズのような筋繊維が、取りついてる。生きている鎧って霊が取り付いているだけかと思ったけど、生物的な意味合いも含んでいるのね。多分、あれは着装者のショック吸収的な役割があって衛士強化装備の特殊保護皮膜みたいなものなのかも。)

 

夕呼と霞が注目するなか、零は覚悟の記憶から、覚悟の三日間の監禁生活と先程夕呼から説明されたことを読み取り始める。この世界の歴史、日本の現状、そして零が何よりも憎み怨んでいる侵略行為を地球上のすべてに行っているBETAという地球外起源種。数秒後、すべての記憶を読み込んだ零は、激しく震え始めた。

 

ヴヴヴヴヴヴヴヴヴ!!!!!

 

「ひっ」

 

「な、なに?」

 

その震えに再度驚く夕呼と霞。

 

『絶対に許せぬ!!今だかつてない地球のすべてを標的とした侵略行為!覚悟よ。今すぐに甲21号ハイブに進軍し、戦術神風を炸裂させるぞ!!』

 

「落ち着け零!お前らしくないぞ!香月博士が仰られたことを思い出せ!我々の武装の多くはBETAに対して、有効なものとそうでないものにはっきり別れる!恐らくは、点滅ストロボ、非致死性麻酔液、さらに戦術神風は、全く効果がないだろう!特に戦術神風が効かぬのであれば、巨大戦術鬼級のBETAが何万と占めるハイブに進軍すれば討ち死に必死だ!」

 

覚悟の叫びに零は、震えるのをやめ、いつもの冷静な口調に戻った。

 

『そうだな……見苦しいところを見せた。すまぬ覚悟。』

 

その様子を見ていた夕呼が覚悟に問う。

 

「その触手で人の考えが読めるなら、何で色々言って私に対して使用しなかったの?」

 

覚悟は、夕呼の問いに嘘偽りなく答える。

 

「この能力は、人の心に対する侵略行為にあたります。故にどんな敵にも使用してはならぬと零に言い聞かせております。」

 

その答えに夕呼は、覚悟の内面を少し理解した。

 

(こいつは荒廃した世界から来たけど白銀と同じく、心の中にこの世界では通用しない甘さがある。最前線でBETAと戦う兵士としては、優秀かもしれないけど、政治関連の駆け引きができないタイプだわ。)

 

夕呼は、その考えが悟られまいと次の質問に移る。

 

「ねぇ葉隠?怨霊が存在しているってことは、この世界なんかそこら辺にウヨウヨ怨霊がいるってことじゃない?特にここ横浜基地も、G弾が落とされて何千人と兵士が死んだところだからさ。」

 

その言葉で再度、携帯のバイブ機能が作動したかように霞が震え始める。

 

「いえ、零は一時期成仏しかけた時、霊のほとんどは死亡すれば、余程の思いがない限り、光輝く暖かい違う別次元に行くのが解ったらしいのです。そして、怨霊も石碑などがあれば、そこに眠っています。私自身、聞こえるのは零の声のみなので不確定なことしか言えません。どうだ零?」

 

『ここ横浜基地には、おそらく怨霊は一人もいない。怨霊は、多分石碑などに眠っているか、怨みの根元である米軍基地かハイブのところにいるのであろう。』

 

覚悟は、零の言葉を夕呼に伝える。

 

その言葉を聞くと霞の震えは止まった。

 

「そうしたら、その幽霊から情報を得ることできないの?ハイブの構造が解れば、人類に取って有利になるわ。」

 

『霊になれば、生きていた時のように意識鮮明とはいかぬ。我々や朧も鎧の細胞維持装置に取り付くことによって鮮明な意識を保っていた。故に他の霊と会話は不可能だ。念のためにいうが、取り殺すこともできぬぞ。我々でさえ鎧から離れれば、大滅霊『犬飼冥』や武鬼『白田玄兵衛』クラスでもない限り、人に危害を与えるどころか、石ころ一つ動かせぬ。』

 

覚悟は、再度零が言ったことを夕呼に伝える。

 

「そう、残念。まぁ死んで無にならないって解っただけでもいいか。」

 

(まぁ、怨霊が祟り殺すことが可能なら、BETAなんてこんなに増えてないでしょうし。けれど……ほんの少し、救いのある情報だわ。)

 

そう考えた夕呼は、何か感慨に更けるかのように一瞬憂いを帯びた目になった。

 

「!」

 

(今まで私の命令で死んでいったやつらも、安らかなところにいる可能性があるってことだし。)

 

夕呼がそんな表情をしたのは、ほんの僅かな時間だった。しかし覚悟は、それを見逃さず、夕呼が誰か自分以外の者のことを思ったのが解った。

 

(この人は、四郎とは違う。少し似た面もあるが、自分のためじゃなく誰かの為に研究をしている。)

 

覚悟は、そう確信した。

 

「零のことは、概ね確認できたわ。次はこの機械化軍用犬モーントヴォルフだっけ、起動させて頂戴。」

 

「了解。覚醒せよ。月狼!」

 

ブルブルブルブル!

 

アォーーーン!

 

覚悟の声紋を認識した月狼は、三日ぶりに覚醒した。そして、覚醒の雄叫びを上げた後、月狼は覚悟にすり寄って、バイク先端部を覚悟の胸に押し付け甘える声を出し始めた。

 

キュゥゥゥン。

 

「驚いたわ。本当に自動で動いてる。」

 

「心配をかけたな月狼。自爆命令はもう解除せよ。」

 

自爆という物騒な単語が覚悟の口から飛び出し、夕呼は覚悟に問う。

 

「……葉隠?自爆とか、物騒な単語が聞こえたけど?どういうこと?」

 

「私が一週間起動しなければ、私が死亡したと判断し、軍事機密を守るため、敵を巻き込んで自爆せよと別れる前に命令を下していました。」

 

「もし私達があんたを解放しなかったら、どういうつもりだったの?」

 

「自爆する二日前には、警告をするつもりでしたので、安心して下さい。」

 

「もう一つ聞くけど、その爆発ってどれくらい?」

 

「一施設を吹き飛ばすくらいは。」

 

(もし、白銀じゃなくてこいつが先にこの世界に来ていたら、あの時の私の性格上、多分平行世界から来たって解らずに、信用せず拷問や自白剤で一週間は監禁していた。そうなると、もしかしたら、あたしや霞の命も多分なかったかも。それどころか、この部屋が破壊されたら、オルタネイティブⅣは頓挫し人類自体も危なかった……。)

 

顔には出さなかったが、夕呼は久しぶりに背中に冷や汗をかいた。

 

「月狼、この人達は味方だ。声紋登録せよ。霞さん、何か声を出してくれ。」

 

「霞です。よろ…しく。」

 

クゥン……

 

甘える声を出した月狼は、犬が飼い主に甘えるようにバイクの先端部を霞の小さな胸に優しくこすり付けた。霞は、最初は目を見開いたが、すぐに慣れ優しく月狼の前部を撫でる。

 

「よしよし」

 

「へぇ~本当の犬見たいね。あたしは、香月夕呼よ。よろしくね。」

 

夕呼も霞に習い月狼を撫でようとしたが……

 

・・・・・

 

月狼は、なにも叫ばずにゆっくりとバックでその手を避けて夕呼から離れた。そして、夕呼の手が届かない位置で再び霞にグイグイと頭を押し付けまた甘え始めた。

 

「わぁ……」

 

「このポンコツ……」

 

ピキ……

 

夕呼は、この日また血管を浮かび上がらせた。

 

その様子を見た覚悟は、フォローするように夕呼に言う。

 

「香月博士。どうか、お気を悪くしないで下さい。月狼の性格は、兄上の遊び心がふんだんに散りばめられているブラックボックスなのです。半年以上暮らして性格関連で解ったことは、年若く優しげな声を発する女性に特に甘える傾向があるということです。故に香月博士自体が嫌いなわけでは……」

 

『馬鹿者っ覚悟!』

 

ビキビキッ!

 

「フォローしてるつもりでも、あたしはあんたの言葉でよりお気を悪くしたわよ……悪かったわねぇ。年増で怖い声で」

 

クゥーん……

 

夕呼の言葉を裏付けるように、月狼は怯えた声を出し、霞の後ろに隠れた。

 

その月狼の行動を目に映した夕呼は、表情は笑いながらも、さらに目が血走り始めた。そんな夕呼を見た覚悟は、この場の打開策を急いで零に問う。

 

(零!このような時、私はどうしたら!)

 

『任せておけ!覚悟よ、次は香月女史にこう言え×××××と!この言葉で香月女史の心の器のひびは塞がる!』

 

(了解!)

 

無表情なまま覚悟は、怒りで目が血走り始めた夕呼に向かい、言い淀むことなく零が考え付いた慰めの言葉をかけた。

 

「香月博士、月狼は確かに香月博士より、霞さんになついていますが、零の方は声や年齢だけではなく、容姿その他も香月博士の方が断然好みだと言っております。故にどうか怒りをお納めください。」

 

カタカタカタカタ……

 

その覚悟の言葉に呼応するかのごとく、学生鞄が軽く震える。

 

夕呼は覚悟の言葉と零の反応で、確かに怒りは消えさった。しかし、代わりに先程の怒り以上の虚しさが胸に去来する。

 

(自立型AIの行動にムカついて、それを怨霊に慰められるあたしって一体……)

 

そんな夕呼に気付かず覚悟は続ける。

 

「それに月狼は人物の好みはあれど、味方と声紋登録したからには、例え戦う相手が要塞級であろうとも、己の存在すべてをかけて貴女方を全力でお守りいたします。」

 

ガウガウ!

 

月狼もその通りと言わんばかりに、吠える。

 

「はぁ~~!もういいわ。武装も見せてもらったし、さっさと私が考えたこの世界の誰も怪しまない零と月狼の設定を伝えるわ。」




月狼が自決を命じられたら、絶対に自爆するだろうなと思い自爆機能を追加しました。それと少しネタバレですが、月狼は横浜基地防衛戦まで戦闘しません。
マブラヴファンの方は、この文章だけで展開が読めるかも。
年末に連れて忙しくなり、投稿が遅れてしまいました。
三月まで月一投稿になると思います。
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