マブラヴ オルタネイティヴ episode HAGAKURE 作:不屈闘志
ため息を思い切りついた夕呼は、これ以上考えるのは時間の無駄とばかりに、早口で覚悟にこれからのことを説明し始めた。
「あの強化服は、表向きは優しいあたしが戦術機が破壊された時の衛士の生存率の低さに嘆いて以前から計画、作成していた……ということにしておくわ。 そのプロジェクトの名前は、どうしようかしら?『新強化外骨格計画』はありきたりで、何かつまらないし、 87式や89式とは違う新しい概念を持った強化外骨格だから……そうだわ!少し英語読みして『エクゾスカル計画』にしましょう。そして、その強化服は量産される前の試作品、プロトタイプだから、今日から『エクゾスカルゼロ』。元の名前も零だし、丁度いいわ。零式防衛術はあんたの曾祖父が考案した独自の格闘術、零式鉄球も私が考案した。その設定でこれから過ごしてもらうけど、いいわよね?」
「私は、それで問題ありませんが……それで良いか零?」
覚悟は、相棒に了解を得るように問う。
『プロトタイプや試作品という言葉は少し癪に触るが、エクゾスカルという名称は気に入った!』
「気に入ったようです。」
「良かったわ。」
夕呼は、次に霞の隣に立つ月狼を見てさらに続ける。
「月狼は、一応基地内では、只のバイクの振りをして過ごしてもらう。けれど、もし自動で動いてるのが誰かにばれたら、あたしが製作した基地や市街に入り込まれたときに戦車級以下のBETAを自動で対処する兵器ってことでいい?ああ、そういえば、これ何のエネルギーで動いてるの?」
「月狼は、ソーラーシステムで動いています。日が当たらぬ曇り時に、全力で走行すれば三日で行動不能に陥りますが、今回の時と同じくスリープモードなら、1ヶ月は意識を保っていられます。故に日当たりが良い場所に停めておく必要があります。」
「解ったわ。駐車場所は後で考えとく。じゃあ確認よ。オルタネイティブⅣと同時に進行していた『エクゾスカル計画』、その最終段階は、BETAと直接戦闘して戦果を挙げること。元々は、極秘ゆえに山中に逃げた数体のBETAを人知れず、撃破することが目的だった。けれど、待機場所の真上で戦闘が始まってしまい、最初は極秘実験ゆえに静観していたけれど、衛士が殺されかけるのを目の前にして、命令違反を覚悟で飛び出したってことにしといて。実際あんたでもそうするでしょ?もし、捕まえられて拷問や薬射たれても、作戦前にあたしが助けに来るまで絶対に喋るなって命令されていたから、この時まで拘束されていた。わかった?」
その言葉に覚悟は、頭を下げる。
「お気遣い感謝致します。」
「よし!そうと決まれば……」
しかし、早速次の行動に移ろうとする夕呼に覚悟は、ストップをかける。
「すいません。最後に御質問よろしいでしょうか?」
出鼻を挫かれた夕呼は、少し不機嫌そうに、覚悟に問う。
「もう、何?」
「先程、この世界のことを御説明戴きましたが、一つ疑問が浮かびました。単刀直入にお聞きしますが、葉隠一族は存在しているのですか?存在しているのでしたら、今はいずこに?」
その覚悟の質問に夕呼は、しょうがないと言った表情で答える。
「まぁ、あんたのこれからの兵士生活に取って、余計なイザコザを無くすのに今話すのがベストタイミングかしらね?」
そう言うと夕呼は、真剣な顔に変わり、覚悟に向かって喋り始めた。
「結論から言うと葉隠一族は、この世界にも存在していたわ。」
(存在しているのではなく、していた?)
「あっちの部屋で話したことは、主にBETAがキモだったからあえて触れなかったけど、あんたのこれからのために今から詳しく説明するわ。まずね、この世界の日本は、あんたの世界と違って明治以前から続いている武家が現在も強い権力を持っていて軍部の要所に就いているのよ。その武家は、代々将軍を輩出する煌武院・斑鳩・斉御司・九條・崇宰の五摂家を筆頭にそれに近い有力武家、そして、譜代、一般、外様と続いている。その中でも葉隠家は、譜代武家の筆頭格だった。けれど、二次大戦中に貴方の曾祖父、葉隠家当主である葉隠四郎が指揮した瞬殺無音部隊が、この世界でも敵国の兵相手に人体実験をしていたわ。」
四郎の名を聞き、覚悟がわずかに居たたまれない顔になる。
「この世界でも四郎が……」
「あんたの世界と違うところは、瞬殺無音部隊は、連合国の集中爆撃で血涙島の研究施設もろとも全員消し炭、葉隠四郎も捕縛されて、戦犯として確実に処刑されてるってところね。」
「そうですか、それは不幸中の幸いです。」
「はぁ~~。けれど、その後が問題なのよね。」
覚悟の安心したような言葉を聞いて、夕呼は溜め息混じりに続ける。
「瞬殺部隊の人体実験を知った連合国は戦後、葉隠家だけじゃなく日本帝国自体を槍玉に挙げ非難したのよ。まず間違いなく、戦後の連合国主導に寄る日本に対する弾劾裁判、敗戦国への扱いは、この部隊さえいなかったらもっと待遇が良かったはずよ。当時の日本人も一部隊が秘密裏で勝手にやったことなのに、日本人自体が残酷集団みたいな扱いを受けて、日本の品位を汚したって相当怨んだらしいわ。特にプライドが高く、体裁を重んじる武家からの怨み辛みは、想像を絶するほどだったと言われているし。」
「そう……ですか……」
「それで日本含めた世界から非難された当の葉隠一族は、当時の将軍殿下から御家解体の勅礼が出される前にほとんどが自殺したわ。自殺した原因は、他の武家からも悪鬼の一族って言われて相当な扱いをされて、耐えられなくなったことと譜代武家の筆頭って意識が相当高かったから。男子や年配の者は、一死大罪を謝すという言葉とともに服毒や切腹して、死んでいった。残った人達は、葉隠の苗字を捨てて野に下ったわ。けれど、四郎の実子だけは、何故か野に下っても葉隠の名を捨てずに国力回復に努めた。『他の一族は、皆誇り高い自決を遂げているのに何故、実子であるお前が生きているんだ』ってかんじで国民の怨みを一身に受けながらね。そして、一向に治まらない葉隠に対する扱いに耐えていたものの、子供が生まれると同時に遂に逐電した。おそらく、子供の安全を第一に考えたんでしようね。その後、葉隠はこの世界からすべて消え去って恨みの対象がいなくなり、おまけにBETAっていう四郎よりもヤバい生物も来襲して、葉隠の名は、人々から忘れ去られた。今でも一般人で知っているやつは、極度の歴史好きくらいね。良かったわね。え?!」
夕呼は驚いた声を挙げた。何故なら、今までどれだけ痛め付けても表情を変えなかった覚悟の顔から流れる一筋の涙を見たからである。
覚悟は、名も知らない自分の祖父に気持ちを重ねていた。
(俺は零式防衛術や零式鉄球、強化外骨格など人類に貢献できる物を最初から持っている。しかし、この世界の祖父は、それを持ってはいなかった。それなのに同じ日本人に恨まれながらも自決を選ばず、人のために尽くす道を選んだ。それがどれだけ辛く苦しいものであったか想像もつかない。父の贖罪のためか、家名回復のためか、俺にはわからない。けれど、どちらにしても俺はそれを誇りに思う。)
その涙を見た夕呼は、訝しげに覚悟に問う。
「あんたどうしたの?そんなに一族が嫌われているのが悲しかった?」
覚悟は涙を拭いながら、夕呼に答える。
「いえ、ただ目にゴミが入っただけなり、ちなみに香月博士は、何故葉隠一族にこんなにお詳しいのですか?」
「私は、四郎がどんな研究していたか一時興味があったのよ。曲がりなりにもあいつも私と同じ研究職だし。まぁ後詳しいのは、武家の一族、政府と軍の上層部くらいね。そうそう、あんたはこう見えて幸運なのよ。もしあんたを捕えたのが、国連軍じゃなくて斯衛軍だったら、悪鬼の曾孫と名乗った時点で例え人命を救助していても一日目から、自白剤と拷問の嵐だわ。武家、軍、政府の中で今も結構怨んでるのが武家だからね。たまに戦争中に起こった狂気の代表として教えてるらしいし。」
「斯衛軍とは?この世界の日本軍とは違うのですか?」
「斯衛軍は、同じ日本の軍だけど帝国軍とは少し違うわ。将軍家と帝都守護の任を命じられた主に武家で構成された軍よ。」
(つまり、この世界の『衛府』ということか……。)
『衛府』とは、覚悟の世界に存在した組織。元来帝直属の近衛兵団であったが、新たな時代を迎え国難発生の折りには、神獣や神器を用いて牙なき民の明日を守る特務機関である。
「ここから、私からの提案なんだけど、入校したら、偽名を名乗らない?私の部隊であるA-01は、みな葉隠一族のことを知らなかったけど、横浜基地には斯衛軍が数名いるし、今は総合評価演習でいないけど同じ訓練生で確実に知っていると思われるのが四名程いる。そうだ、いっそ死んだ市民の戸籍を使わない?あなたが来ることを見越して少し調べたけど、ここ最近BETAに殺されたと思われる成り代わっても怪しまれない市民の、えーとこの三人、『岩本源之助』、『由比正雪』と『神風零』、これらの戸籍だったら今すぐにでも用意できるわよ。」
そう言いながら覚悟によく似た顔が映る三枚の書類を見せる夕呼。それに覚悟は、間髪いれずに答える。
「いえ、変える気はありません。」
「あら、どうして?」
「私が葉隠一族の一人だからです。この世界で私の祖父が葉隠として怨まれながらも人に尽力したのなら、私はそれを受け継ぎたい。」
夕呼が呆れたよう覚悟に問う。
「家名が回復したって、100%武家には戻れないし、葉隠一族は、あなた以外もう一人もいないのよ。」
「だからこそです。私が他の名前に変えれば、葉隠の名は永遠に悪鬼の一族として、定着してしまう。それでは死んでいった者達が浮かばれない。どうか、お願い致します。」
覚悟は、頭を大きく下げて夕呼に懇願した。
それを見た夕呼は、今日幾度とついた溜め息をもう一度つき、覚悟に答える。
「しょうがないわね。わかったわ。けれど、その葉隠の名のせいでオルタネイティブⅣに不利益が生じたり、私の部隊の作戦遂行の邪魔になったりしたら、例えあなたが衛士になったとしても戦術機に乗る権利を容赦なく剥奪するからね。もし、そうなったらどうしようかしら?そうだ!私専属のボディガードにでもなってもらうわ。私って実は日本帝国にあんまり好かれてないのよ。変なあだ名もついてるし。」
夕呼は、覚悟の顔に指を突きつけた。
「じゃあ、葉隠四郎の直系のあんたは、葉隠の悪名故に祖父の代から山奥に政府から隠れ住んでいて戸籍がないから、どこの軍にも行けなかった。そんなあんたをあたしが偶然拾って、陸軍予備校に一年通わせて、16から、エクゾスカル計画の為だけに徴兵を免除され、独自に訓練された兵士よ。これ以上は譲らないわ。」
その夕呼の言葉に敬礼で答える覚悟。
「了解。私の我が儘を聞いてくださり、有り難うございます。」
敬礼する覚悟に夕呼は、告げる。
「お礼を言うのはまだ早いわ。葉隠、あんたを戦術機を駆る衛士にするとは言ったけど、はい明日からって訳にはいかない。衛士になるには、この世界の普通の志願兵なら、しっかりとしたカリキュラムに沿った授業を受けて、一週間に渡る総合実戦闘技術評価習に合格してやっと搭乗する資格を得るのよ。しかもチャンスは二回のみで、一回不合格になれば再試験は半年後になる。衛士は、死亡率が高い危険な仕事で常に人手不足よ。けれど、BETAをより多く殺せるから、男女関係なく衛士を希望する者が後を絶たない。それでも数が少ないのは、この戦時下の人口のせいでもあるけど、演習や適正試験がとても厳しいからなのよ。」
「では、私がその演習を受けるのはカリキュラムをこなした半年後ということですか?」
その問いに夕呼は、半笑いで呆れたようにように両手をオーバーに広げ答える。
「何甘いこと言ってるの?今日を入れて七日後よ。今日が11月13日だから、11月19日ね。この国連軍の訓練学校には、同じく衛士を目指す207訓練B分隊が所属していているわ。タイミングがいいのか悪いのか、その隊は、今日から無人島でその演習を受けてる真っ最中なの。その連中が帰るのが七日後だから、それまでにあんたは、六日で演習が受けれるレベルのスキルを身に付けて、私が用意した総合実技演習より、難関な試験を受けてもらうわ。時間がないからしょうがないわよね。もちろん、その試験までにスキルが身に付かなかったり、試験に落ちたら、その時点で私の専属のボディガード決定よ。理解した?」
ガタガタガタガタ……
『覚悟よ、この条件は厳しすぎる!断れ!せめてボディガードではなく、歩兵にせよと頼め。』
「それは間違いなり零!私には香月博士のお心遣いが解る。私が早く戦場に出て牙なき者の剣となって戦いたいという気持ちを汲んで無理して早急な予定を組んで下さったのだ。ボディガードになれということは、恐らく私が最終試験に受かることを信じて発破をかけている。その期待に応えなければ、衛士にはなれぬ!」
零は、あきれながらも叫ぶ。
『少しは味方も疑え!覚悟!』
「よし、決まったようね。それじゃあ、あんたを指導する予定の伊隅みちる大尉を呼ぶわ。本当は、正式な指導教官が一番なんだけど、さっきも言った207小隊の演習について行ってるから、臨時の教官として指導させる。けれど、あっちもいきなりだから、指導要領を作成しなければならないし、本格的な指導は、明日からね。だから、今日はこの施設の案内とあんたの健康診断と懲罰房で受けた傷の治療。まぁ四時間もあれば終わるでしょう。それが終わったら再度あたしのところに来なさい。実際に月狼と強化外骨格零、もといエクゾスカルゼロの兵器の起動するところを直接見せてもらうわ。」
そう言いながら、夕呼は、館内用の電話機に手を伸ばすが、思い出したように手を止めた。
「ああ、それと忘れてた。これからの軍生活で注意することを教えておくわ。」
「注意ですか? 」
「ひとつ、自分が別世界の人間だとは口が裂けても言わないこと。ふたつ、今後私みたいな前の世界の知り合いを見つけても、相手はあなたのことを知らないから、初対面のふりをすること。みっつ、ややこしくなるから、私と霞以外の人の前では、零としゃべらないこと。最後に誰に聞かれても、今、あたしと話したことを漏らしてはならないこと。」
「それは今から来られる伊隅大尉にもですか?」
「私の部隊だけには、私が考えたあなたの生い立ちとエクゾスカル計画、零式鉄球と零式防御術、月狼は話していいわ。けど、平行世界関連のことは駄目よ。後、オルタネイティブⅣも自分から質問しては駄目。わかった?」
「了解。」
「後、あんたにはあたしに近いレベルのセキュリティパスを与えるわ。そのパスさえあれば、たいていの場所には行けるようになる。この部屋にもね。じゃないとあんたをこれから内緒で呼ぶとき、困るでしょ?もっとも厨房と女子トイレは別だけど。あ、機密の閲覧権は低いから期待しないでね。」
「ご配慮感謝致します」
「最後に、この世界の私の立ち位置は博士ではないわ。そう呼ばれることもあるけど。正確な役職名は、国連軍太平洋方面第十一軍横浜基地副指令。形式上の基地指令がいるけど、私がここの実質的最高責任者。だから、これからは、人前では博士ではなく、香月副指令と呼びなさい。わかった?」
「了解!」
話終わると夕呼は、先程の電話機で連絡を取り始める。
「もしもし?ピアティフ?伊隅はどこにいるか調べて、え、今は会議室で新しい小隊編成を考えてるの?丁度良いわ。ああ、呼び出しはいいわ。私が直接出向くから。」
夕呼は、電話を切り覚悟に問う、
「葉隠、着替えは持ってるの?」
「月狼の荷物入れに私の服も収納されています。」
「だったら、一時間以内に伊隅大尉を連れて隣の執務室に戻るから、それまでに着替えて待っていて頂戴。ちなみに、私の書類に触れば、その時点でスパイとして銃殺刑だから、よろしくね。」
「了解!」
生死に関わることをあっさりと覚悟に伝え、夕呼は部屋から出て伊隅みちるがいる会議室に向かった。
それを敬礼で見送った覚悟は、素早く霞から見えないように、脳と脊椎が浮かぶシリンダーの裏で着替え始めた。覚悟が装着しているのは、元いた世界でも常に着こなしていた旧日本軍の海軍の服にも似た白ランである。最後に爆芯付きのブーツを履き、覚悟の着替えは終わった。
その姿を見て零は嬉しそうに呟く。
『やはり、覚悟の服装はこうでなくてはな。』
そして、着替え終わった覚悟は月狼の荷物入れから、おもむろに化粧セットを取出し、急いで自分の顔に化粧を施し始めた。
(まだ、時間があるが急がねば)
その様子を驚いた顔で見つめる霞と狼狽える零。
『な、何をしている覚悟?』
霞も我慢できずに覚悟に問う。
「なんで……男の人なのに化粧をするのですか?」
覚悟は、霞の尤もな疑問に化粧する動きを止め真剣な顔で霞に答える。
「霞さん、古来から戦士と化粧には切っても切れない縁があるのです。昔の侍は、戦地に赴くかんとする前に、自らの首を取られたとき、その首が土気色では、首を取った相手に申し訳ないとし、顔に化粧をしたと言います。今は、戦場に赴くときではありませんが、これから私のために嘆願書まで書き、なおかつ本日から、御指導を頂く上官が来られます。普通でしたら、こちらから足を運ぶのが常識なのですが、それを曲げてあちらからご足労頂くのです。そんな相手に対して、こんな傷だらけで痩せこけた顔では、申し訳ない上に失礼に当たる。故に少しでもそれを隠すために、男であろうと頬や唇に紅を指すのです。」
霞は、その覚悟の心の底からの嘘偽りない言葉を聞き衝撃を受けたようにさらに目を見開いた。
「……そうなんですね。」
『霞よ、真似してはいかんぞ……』
やがて、覚悟の化粧をする動きが止まる。覚悟の顔は、口紅に塗られた赤い唇、やつれた顔や傷を隠した白粉で彩られていた。最後に対閃光用の眼鏡をかけて覚悟の化粧は終了した。
そして、覚悟はまだ覚悟をじっと見ている霞に声をかける。
「霞さんにお願いがあります。」
「?」
霞が不思議そうに覚悟を見る。
その視線を背に覚悟は、月狼の後部座席の荷物入れから、ある冊子とメモリーチップを取り出し霞に渡す。
「……これは?」
「これは、私の曾祖父が率いていた瞬殺無音部隊の研究のすべてが記されている冊子とメモリーチップなり。平行世界の資料ゆえ、伊隅大尉の前では渡しにくい。故に霞さんから、渡してくれませんか?」
「……わかりました。」
(私が直接話すよりも、このデータを見ていただければ零や零式鉄球のことをより理解して下さるであろう。無論、瞬殺無音部隊の血塗られた実験も……だが、G・ガランの核融合エンジン、月狼の人工AI、物体転送装置などが記された兄上の文書を渡すのは、オルタネイティブⅣというものの全貌が明らかになってからだ。故に観察眼が鋭い香月副指令の目の前で瞬殺無音部隊の文書と兄上の文書が共に入った荷物入れを開ける分けにはいかなかった。)
そう考えた覚悟を、霞は文書とメモリーチップを受け取りながら再度、心の中を見透かすような目で見ていた。
十数分後、オルタネイティブⅣ直属部隊であるA-01部隊の隊長伊隅みちる大尉は、夕呼に連れられて執務室に向かっていた。
「ごめんなさいね。伊隅、面倒臭いことを頼んじゃって。」
「いえ、お気になさらず、副指令の命令であれば。しかし、驚きました。あの少年が私達とはまた違う副指令直属の極秘計画のメンバーの一人だとは思いませんでした。」
「オルタネイティブⅣ程の規模じゃないけど、エクゾスカル計画も極秘で進めていた計画だったから。ちなみにあいつ、葉隠覚悟は兵士としての戦闘力は、申し分ないけど、特殊な環境と独特な訓練に身を置き過ぎて、知識と常識が妙な方向に偏ってるから厳しく指導して頂戴。特に一昨日みたいなことのないように。」
その言葉を聞き、みちるは一昨日の覚悟の例の行為を思い出し少し顔を赤くする。
(確かに……初めて応対した時、性格は真面目そうな印象を受けたが、まさかあのような時、場所であんな行為に及ぶとは、思わなかった。勘違いからの銃殺刑に、及ばぬように嘆願書を作成したが、二度とあのようなことがないように厳しく指導せねば。)
「了解しました。」
そんな会話を交わしながら、二人はやがて執務室前に着いた。
「葉隠訓練兵!あなたの教官を連れてきたわよ。」
そう叫び、夕呼は扉を開ける。
ガチャリ!
部屋の中央には、敬礼をする覚悟。
「大尉殿、先日は誠に失礼致しました!そして、本日からご指導ご鞭撻の方、よろしくお願い致します!」
そんな覚悟の挨拶に嬉しそうに敬礼して返すみちるだが……
「ああ。こちらこそ先日は、感謝する。だが、それとは関係なく…本日から…しっかりと……しっかりと……」
二日前覚悟と初めて出会った日のごとく、再度頭がフリーズした。
「は、は、は…………」
それを見た夕呼は、目を閉じ指先を額にあてて首をふる。
「どうしました?大尉殿?」
「葉隠訓練兵ぃぃぃ!何故、この様なときに化粧をしているぅぅぅ!」
執務室から、廊下に漏れるほどのみちるの怒声が響きわたった。
その反応に零と夕呼が心の中で同時に呟く。
『「これは、前途多難だわ(だな)。」』
11月13日
覚悟が夕呼と出会う数時間前
日本帝国領南島の海岸線
武達、第207衞士訓練分隊は、眼鏡を掛けた少女の指示にしたがって砂浜を突き進み、時間通りに集合ポイントへと到着した。重装備を外し、軽装に着替えたものの、武達は照りつける太陽と南島独特の多湿により全員汗だくであった。
「よし、時間通りに到着できたな。」
そこには、その207小隊の指導教官である神宮寺まりもがいた。
その姿を見た武だけが、不思議そうな表情を見せる。
(あれ、おかしいな?前の世界では確か、夕呼先生が際どいビキニを着てトロピカルドリンク片手に命令書を手渡すはずなのに。)
そんな武の表情に気付かないまりもは、武達に任務を言い渡す。
「早速、演習を始める!これが今回の貴様らの任務だ。これは副指令、自ら御考案下さったものだから、有り難く受けりなさい。」
分隊の隊長である眼鏡の少女が、任務内容が記された書類を受けとる。
「いざという時は、荷物の中の通信機を使いなさい。だけど、それを使用する時は当然、試験は失敗よ。だから、使うのは各々の判断に任せる。」
「「「「「「了解!」」」」」」
(もしかして、先日のBETA侵攻の後処理か?それとも、研究が進んでいるから、息抜きする暇がなくなったのか?どっちにしろ俺には良い方向に未来が変わっていると信じるしかない。とにかく、今は全員でこの試験を突破することが先決だ。幸い任務内容自体は、前の世界と同じく夕呼先生が考えたものと変わらないんだし。けど、貴重なビキニ姿の夕呼先生を拝めないのは、残念だったな……。)
「何を変な顔をしているのだ?タケル?早く支給されている装備を受けとるがよい。」
そんな、邪な考えを抱いている武にサムライポニーの古風なしゃべり方をする少女が、不思議そうに声を掛けた。
とにもかくにも白銀武、葉隠覚悟、異世界に召喚された二人の最初の試練の一週間が始まった。
マブラヴオルタネイティブのアニメ化が決まりました!一年後ですがとても嬉しいです。
けれど、衛府の七忍の連載が終了してしまいました。
とても悲しいです。世の中上手くできてますね。
感想欄の方は、いつも楽しく読ませて頂いています。短い文章の感想欄だけ、返事がないのは、すべての感想に返信したら、この物語を読んでくれている読者様が気を使って気軽に感想を書き込めないのではないかと思って返信してないだけです。短い文でも、充分に励まされて元気をもらっています。