マブラヴ オルタネイティヴ episode HAGAKURE   作:不屈闘志

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第九話 死神と戦乙女

2001年11月14日

午前9時00分

横浜基地訓練校の教場

 

本来の使用者がいない207小隊の教場で、たった一人の生徒の為にBETAに対する基本的な座学が開かれていた。

 

教壇で教鞭を振りながら教えているのはみちる、真面目にペンを走らせているのは覚悟だ。

 

覚悟は昨日、夕呼から話のあらましを聞いていたので座学の内容がよく理解できた。もし、昨日何も教えられずに座学に挑んでいたら、昨日のように激昂していたかもしれない。授業の中の繰り返されるBETAと人類の闘争の歴史は、それほどまでに悲惨で壮絶なものであったからだ。微妙に夕呼が話してくれた内容と違うが、そこは恐らくは機密事項なのだろうと覚悟は、理解した。

 

そして、一時間半の座学が終わり、みちるが覚悟に告げる。

 

「葉隠、次は近接戦闘訓練だ。エクゾスカル計画を担う貴様の実力を見せてもらうぞ。着替えてグラウンドに向かえ」

 

「了解!」

 

 

覚悟は、素早く着替えてグラウンドに向かっていると、先にグラウンドに到着している集団がいた。

 

そこには、ヴァルキリーズの隊員達が揃っていた。その中で速瀬水月中尉が覚悟を見つけ声をかける。

 

「あ!来た、お~い。葉隠訓練兵。こっちこっち。」

 

覚悟は、それを見て急いで水月の前に立つ。

 

「何故、A-01の皆様がここに?」

 

「この頃、戦術機に乗る訓練ばっかりしていたから、葉隠の訓練も兼ねて、少し体を動かせって隊長からの命令なのよ。」

 

「了解。」

 

「ああ、それと。」

 

水月は、急に真面目な顔になり背筋を伸ばし覚悟に告げる。

 

「葉隠訓練兵。伊隅大尉も言われていたが、副隊長の私とヴァルキリーズ全員から改めて礼を言わせてくれ。先日は、軍規を破ってまで私達の仲間の命を救ってくれて本当に感謝する。貴様がいなかったら、あの二人は激痛の中、苦しみぬいて死んでいただろう。本日は、わずかな時間だが、貴様の五日後の総戦技演習合格の手助けがしたい。」

 

水月は、そう言って頭を下げ、後ろに整列しているヴァルキリーズの隊員達も水月に習い全員頭を下げる。

 

「皆様、顔を挙げてください。こちらこそ、先日は私の勘違いから、不快な物を見せてしまい申し訳ありませんでした。そんな素性の知れない私のために強姦容疑で銃殺刑に処されないよう、嘆願書をお書きになられたと聞いております。お礼を言うのはこちらです。本当に有り難うございました。」

 

覚悟もそう言って深く頭を下げる。

 

「そう?じゃあお互いに貸し借りなしでいい?」

 

表情が柔らかくなる水月。

 

「中尉がよろしいのであれば。」

 

「よし、じゃあ私達は今からお互いにお礼も謝罪もいいっこなし。今日は私達も訓練の内だと考えるから、手加減しないからね。」

 

「了解!」

 

そして、お互いの敬礼が終わると同時に、覚悟の背後からみちるが現れた。

 

「敬礼!」

 

水月の声でヴァルキリーズと覚悟は、現れたみちるに対して敬礼をとる。

 

「貴様ら、挨拶は終わったか?」

 

「申し訳ありません。隊長。お礼を伝えましたが、各隊員の自己紹介は、終わっていません。」

 

「解った。時間がないから手短に私がしてやる。この押しの強そうなのが、B小隊を指揮している速瀬水月中尉。貴様の三期上だ。後ろに並んでいる左から、二期上のC小隊を担当している宗像美冴中尉。一期上の風間祷子少尉。貴様の同期になるかもしれない柏木晴子少尉、涼宮茜少尉、築地多恵少尉……」

 

名前を呼ばれた衛士は、次々と敬礼していく。

 

「そして、少し離れて立っているのがCP将校をしている涼宮茜少尉の姉である涼宮遥中尉だ。今回の訓練には参加しないが礼を言うためだけに来てくれたのだ、感謝しろよ。次はお前だ、葉隠挨拶しろ。」

 

「了解!葉隠覚悟と申します。皆様、本日はよろしくお願いいたします。」

 

覚悟の挨拶が終わると同時に、みちるはこれで挨拶の時間は終了というように手を叩く。

 

「よし、葉隠、早速私にお前の曾祖父が開発したという零式防衛術とやらを少し見せてみろ。その為に私の部隊の隊員達を呼んだのだからな。」

 

そう言って、覚悟にゴムナイフを渡すみちる。

 

「解りました。」

 

すると覚悟は、渡されたゴムナイフをしまい、人差し指だけを立てた。

 

それを見たみちるは不思議そうに覚悟に問う。

 

「葉隠。それは何の儀式だ?」

 

「零式防衛術をお見せするのであれば、この指先にてお相手つかまつります。」

 

覚悟の行動と言葉でヴァルキリーズの隊員達は、ざわめき始める。

 

その中で涼宮茜だけが、ヴァルキリーズの中から一歩進み、覚悟の前に立ちふさがった。そして、静かだが怒気に満ちた声で覚悟に問う。

 

「君、私達を舐めてるの?」

 

覚悟は、剣呑な雰囲気を放つ茜に対して、何も感じないように無表情に答える。

 

「戦術機においては、私など涼宮少尉含めて皆さま方の足元にも及ばないでしょう。しかし、格闘技においては、当方に一日の長があります。それに零式防衛術は、一撃必滅ゆえ手加減が出来ぬ技がほとんどです。どうか、ご容赦を。」

 

(この人達は、BETAさえ来なければ軍人ではなく一般人として生活していた牙なきもの達だ。ゆえに絶対に傷つけるわけにはいかない。)

 

「へぇ~そうなんだぁ~。優しいんだね葉隠訓練兵。君には感謝してるけど、貸し借りなしってことだから、私は本気でいくからね。怪我して、総合演習受けられなくなっても後悔しないでよ。」

 

そう言ってゴムナイフを構える茜。

 

「了解。全力の胸をお貸し下さること感謝致します。しかし……」

 

覚悟は、そんな茜から目を外し、そばで控えているヴァルキリーズの面々を見渡し、最後にみちるへ不思議そうに質問する。

 

「伊隅教官、私の御相手は全員同時ではなくお一人ずつですか?」

 

その言葉で自分が敬愛して止まない伊隅ヴァルキリーズを愚弄したと感じた茜は、遂に怒りの頂点に達した。

 

「衛士を……伊隅ヴァルキリーズを無礼るなぁっっーーーー!!!」

 

そう叫びながら、ゴムナイフで覚悟の胸を突き刺すように体ごと突進する。

 

その瞬間……

 

トン。

 

「因果!」

 

「きゃぁっーーーー!!」

 

覚悟に指先で肩を押さえられた茜は、三メートル程吹き飛んだ。

 

「「「「「「涼宮!」」」」」」

 

ヴァルキリーズの隊員達は、すぐに吹き飛んだ涼宮に駆け寄り声をかける。

 

「大丈夫か!?」

 

茜は、痛そうにゆっくりと上体をゆっくり起こすが…

 

「ううっ……あれ、あんまり痛くない?」

 

何事も無かったかのようにすぐに立ち上がり、あまり痛みを感じていない自分の体を不思議そうに確認する。

 

「え? あれだけ吹き飛んだのに?」

 

茜を取り囲む隊員たちもすぐに立ち上がった茜を驚きの表情で見る。

 

そんな不思議そうな彼女達に、覚悟は驚きもせず平然と声をかけた。

 

「今吹き飛んだのは、涼宮少尉自身の力なり。私は攻めの枕を押さえたのみ。もし、指先でなく私の全力の拳なら、体をも貫いていたでしょう。」

 

その言葉と因果の一撃で覚悟が並みの兵士、いや人間でないことが一瞬でヴァルキリーズ全員に伝わった。

 

一連の様子を見ていたみちるも一人ずつでは相手にならないと感じ、全隊員に告げる。

 

「解った。ならば葉隠の注文通り全員でかかれ。ただし、訓練兵だと思わず、兵士級や闘士級を仕留めるつもりでやれ。わかったな!」

 

「「「「「「了解!」」」」」

 

みちるの言葉で十人以上の歴戦の衛士達が回復した茜と共に覚悟をゆっくりと取り囲み始める。

 

「…………」

 

当の覚悟は、真剣な表情で自分を取り囲む彼女達を確認もせず、相変わらずの無表情で前を向いたまま少しも動かない。

 

やがて覚悟を何処からも襲撃できる位置に隊員達は着いた。

 

「じゃあ葉隠…遠慮なく行くよっ!」

 

そして、覚悟の真後ろにいる水月の掛け声を皮切りに全ての隊員達が同時に覚悟に襲いかかる。

 

しかし…

 

トン……トン……トン……

 

「ぐぁっ!?」「きゃぁ!?」「くそっ!?」

 

襲いくるすべての隊員達は、覚悟の掌や指先を使った因果により、次々と吹き飛ばされていった。

 

「負けるかぁぁっっ!」

 

吹き飛ばされても、大したダメージはないゆえに、茜を筆頭に再び向かうヴァルキリーズの隊員達。

 

その凄まじい覚悟の動きを見たみちるは、覚悟を見くびっていたことに気付く。

 

(この前の戦いで見せた強さは、ゼロを纏っていたからではないのか。副指令に近接戦闘では、素手で戦車級を倒せる程鍛えてあると聞いていたが、冗談ではなく、まさかこれ程とは。)

 

 

十分後

 

「う、嘘」

 

遥は目の前の光景に青ざめる。ダメージがないとはいえ、度重なる因果にヴァルキリーズの隊員達は、一人残らず息も絶え絶えで空を仰いでいたからだ。

 

そんな死屍累累な彼女達の中で呼吸を乱さず、一人静かに立つ覚悟。その光景は、例えるなら可憐な戦乙女達を無情にも虐殺した死神の如く。

 

「伊隅教官、近接格闘訓練は終了ですか?」

 

「いや、まだだ。」

 

「しかし…」

 

覚悟は、やや困った顔で地に伏せている隊員達を見る。

 

だが、そんな覚悟の前にみちるがずいと一歩前に出て口を開いた。

 

「今度は私が一人で相手になる。」

 

「……了解」

 

覚悟は、一瞬だけ沈黙したが無表情のまま了解した。

 

(私も隊長の矜持があり、逃げるわけには行かない。お前の言動を矯正するためにも。そして、あの因果という技には攻略法がある。)

 

覚悟とみちるの意を汲み、疲労困憊の体にむち打ち、ヴァルキリーズは、二人の邪魔にならないように移動する。 

 

そして、みちるはゆっくりと覚悟の五m先に立った。

 

……………………みちるは動かない。

 

「貴様の因果という技は、相手の力を利用して打つ。だから、それを封じさせてもらうぞ。葉隠、貴様からかかってこい!」

 

「了解、積極っ!」

 

ドンっ!

 

覚悟は、五m離れたみちるに対して文字通りひとっ飛びで間合いを詰め空中から零式の技を放つ。

 

(こいつ、なんという跳躍力だ!)

 

「零式千手撹乱撃!!」

 

(((((腕が、無数に別れた!!!)))))

 

『零式防衛術・千手撹乱撃』

 

千手撹乱撃とは、目で追いきれないほどのフェイントの拳で相手を翻弄し、真の一撃を見舞う零式の戦技。螺旋など他の技と複合しやすい攻めの技であり、カウンターを得意とする覚悟と違い、先制攻撃を得意とした散がよく使用した技でもある。

 

「くそっ、てゃぁぁっ!!」

 

みちるはそんな覚悟の無数の腕に目もくれず、覚悟の胸目掛けてゴムナイフを逆手に持つ拳を突き出す。

 

(傷つけてはいけない。守らねば、この人達は牙なきもの達なのだ。)

 

覚悟は、みちるの体を傷つけずゴムナイフだけを破壊し、『棺』で怪我なく制圧するつもりであった。

 

しかし、今まで因果を撃つためヴァルキリーズの体裁きしか見ていなかった覚悟は、攻めに転じて初めて相手の眼、つまりみちるの瞳を見た。

 

(な、なにっ?!)

 

その瞬間、覚悟に電撃が走る。

 

(この瞳の輝き、どこかで見たことがある、そうだ父上の瞳だ。)

 

覚悟は死んでなお、敬愛して止まない父である葉隠朧を思い出す。

 

『覚悟……』

 

そんな父と同じ瞳をしたみちるに射竦められたように覚悟の体は、硬直した。硬直した時間は、対戦相手のみちるやヴァルキリーズ隊員達にもわからない程のわずかな時間であった。しかし、その刹那の瞬間、つまり因果のタイミングで偶然にもみちるの拳が覚悟の拳より先に覚悟の胸骨に炸裂した。

 

「ぐぁぁっ!!」

 

因果が決まり、覚悟の力がそのまま覚悟自身に跳ね返り、その体は8m程後方に吹き飛んだ。

 

それは最後の戦乙女が持つ聖なる剣によって、残酷の限りを尽くした死神が討たれた瞬間であった。

 

「え?」

 

それに一番驚いたのが、拳を打った本人のみちるである。みちるは、覚悟が八m先に倒れると同時に急いで覚悟に駆け寄る。

 

「葉隠ぇぇぇっ!」

 

予想外に吹き飛んだ覚悟に驚いたヴァルキリーズの隊員達も、急いで駆け寄る。

 

「どこも怪我をしてないか?」

 

「あんた、一番吹き飛んだわよ。頭打ってない。」

 

ヴァルキリーズ全員が取り囲み、覚悟を心配そうに見下ろしている。

 

その複数の瞳は、すべてみちると同じ輝きを放っていた。

 

(そうか、『俺』の眼は節穴だった。俺は心の底で彼女達を勝手に牙なき者と扱い、庇護対象として見ていたのか。この人達も俺と同じく命を掛けて牙なきものを守るために戦っている戦士なのに。)

 

覚悟は、青空を仰ぎながらこの世界に召喚されて初めて笑みを浮かべた。

 

「ふふ、初めて因果を受けた胸と心が妙に熱いぜ!」

 

それは、自分の考えを改めるのと同時に自分と同じ志を持つ多くの先輩、師を得て久しぶりに興奮した覚悟の本来の熱血な性格が表に出た瞬間であった。

 

((((((!!!!!!!!))))))

 

しかし、その覚悟の年相応の少年のような笑顔、言動で逆にヴァルキリーズに動揺が走った。

 

「やっぱりあんた頭打ったのね。動いちゃダメよ!」

 

「は、早く医療室に!」

 

「馬鹿者!だから、頭を動かすな!」

 

そんなあわてふためく彼女達を見た覚悟は、深呼吸をして元の無表情に戻り、上体を起こし落ち着かせるため何事もないように告げる。

 

「御安心してください。受け身をとりましたゆえ、頭も体も安泰です。」

 

「本当か、ならばこの指は何本だ。」

 

「三本です。教官殿。」

 

「よし、だったら立てるか、葉隠?」

 

みちるの手を借りて立つ覚悟は、再度みちるの瞳を見た。

 

やはり、伊隅教官は、俺以上に辛い経験を何度も繰り返している瞳をしている。ゆえに預けよう、この人に私の運命を。

 

「伊隅教官の拳、私の体のみならず心にまで響きました。どうも有り難うございます!」

 

覚悟は、自分の間違いに気付かせてくれたみちるに全力の敬礼を返す。

 

「そうか、これで貴様も身に染みただろう。実力があるのは解ったが、これからは尊大な言動は慎むことだ。」

 

「了解!」

 

そして、頭のどこにも出血がないことを確認したみちるは、覚悟と隊員達に向けて叫ぶ。

 

「よし、訓練兵に負けて貴様らは、悔しいだろう。ゆえにリベンジマッチを組んでやる。次はどちらが早く、10km走れるか勝負だ。ただし、葉隠は完全装備で走れ。葉隠に負けた奴はさらに5km走ってもらう。だが、途中でどこか痛み出したら遠慮せずに申し出て、すぐに医療室に向かえ!」

 

「「「「「了解!」」」」」

 

覚悟は、今まで軍の上下関係ゆえに尊敬心なく従っていたが、この瞬間から、彼女達を心から尊敬するがゆえに従うようになる。

 

だが、ヴァルキリーズの全隊員は、皮肉にも覚悟に同じ戦士と認められたゆえに本気を出され、20kgの完全装備のハンデがありながらも敗北してしまう。彼女達は、10kmを走ったのにも関わらず息も乱れない覚悟に見守られながら追加の5kmを走らされた。

 

その中で一番後ろに走っていたのは以外にも涼宮茜であった。茜は覚悟に一番多く飛びかかり、体力を限界まで消費していたからだ。

 

「涼宮っ!貴様が一番ドベだぞっ!」

 

そんな茜にみちるの撃が飛ぶ。

 

「はぁはぁ…あいつが、衛士になってヴァルキリーズに入隊したら、先任少尉として、はぁはぁ……戦術機の訓練でしごきまくってやる……」

 

 

そして近接格闘訓練の授業が終わり昼休憩の時間になり、素早く着替えた覚悟は、PXで一人で食事を取っていた。そこにヴァルキリーズの面々が現れる。

 

「お~す。葉隠訓練兵~そこら辺、座っていい?ああ、敬礼はしないで、しないで。」

 

水月が明るい口調で声をかける。

 

敬礼を止められた覚悟は、無表情で答える。

 

「構いません。中尉殿。どうぞ、お好きなところに。」

 

そして、葉隠を取り囲むようにヴァルキリーズ全員が座った。

 

それに気にせず、覚悟は相変わらず旨し旨しと食事を頬張る。

 

そんな覚悟の隣に座った水月は、一時間前の訓練のことが気にならないかのように楽しそうに覚悟に絡む。

 

「さっきはやられたよ~葉隠~。私もあの因果って覚えたら、戦術機が撃墜されても生き残れるかも。いつから、あんた訓練してたの」

 

「解りませぬ。物心ついた時から訓練をしていましたゆえ。」

 

「生まれた時からなんてすごいわね。けれど私も水泳なら、負けないよ。授業ではすごかったんだから。」

 

「そうですか……」

 

会話が一瞬で途切れた。

 

そんな覚悟の言動に我慢できず、向かいに座る茜が叫ぶ。

 

「葉隠、君、総戦技演習落ちても受かっても、軍を辞めない限りどっかの隊に配属されるんだから。そんな態度続けてたら、上の方から目をつけられるよ。遠回しで全員かかってこいとか一日の長ありとか言わないで、少しは隊の先輩を立てる言動や行動をした方が身のためだよ。」

 

そんな涼宮の言動に覚悟は、少し食事を止め、何か考えているように答える。

 

「涼宮少尉の仰る通りですね。常識知らずの田舎育ち故、今までお気を悪くしたのでしたら申し訳ありません。」

 

(本当にその通りだ。私も衛士になるために成長しなくてはいけない。)

 

「ふんっ……。」

 

「ちょっと、涼宮~。」

 

怒る茜を嗜める晴子。

 

いつもの覚悟であれば、謝罪した後で、何事もなかったかのように再度、黙々と食事を続けていただろう。しかし、そんなプリプリ怒る茜に対して、先刻、尊敬心の上に協調心も生まれた覚悟は先程の茜の言葉を真摯に受け止めて、精一杯考えた台詞を告げる。

 

「しかし、そんな無骨物の私故に気づけることもあります。今回行った格闘訓練では、伊隅大尉の次に涼宮少尉が一番太刀筋がお見事でした。一直線のあの刺突は、私の反応が百分の一秒遅れていたら伊隅大尉と対戦したように無様に私の方が空を仰いでいたでしょう。涼宮少尉は、格闘技の才能がおありです。」

 

初めて他人を誉める覚悟の言葉で、驚きと共に少しだけ気を良くする茜。

 

「え!そ、そうなの!」

 

そこに合いの手を入れる晴子。

 

「そうだよ、涼宮は訓練兵の時、成績も良かったし、207小隊A分隊の分隊長もしていたからね。」

 

同じく合いの手を入れる同期の築地多恵。

 

「そうそう、演習が受かったのも茜ちゃんのお陰なんだしね。」

 

「なるほど、道理で……。」

 

(ふふん、中々見る眼あるじゃない。やっぱり、ヴァルキリーズに入隊したら特別に目を掛けてやろうかな?)

 

ヴァルキリーズの隊員達の周りが、やっと本来の穏やかな雰囲気に包まれる。

 

しかし、次の瞬間、その雰囲気を一瞬で打ち砕く言葉が覚悟から発せられる。

 

「涼宮少尉、先程の私の一連の言葉はどうでしたか。私は、先程少尉の仰られた通りにできましたか?」

 

「「「「「「ぶっ!」」」」」

 

ヴァルキリーズのほとんどの隊員が口に含んでいたものを吹き出した。

 

(((((え!!!さっきの一連の台詞、本心じゃなくて涼宮をわざとヨイショするために言ったの?!!!)))))

 

案の定……

 

ピキッ!

 

「零点だよ……。バ覚悟訓練兵……。」

 

「零点、辛いですね……ならば、これからもご指導、御指摘よろしくお願いいたします。」

 

そんな覚悟に影のある笑顔で茜は、励ましのエールを送る。

 

「葉隠、君、絶対、総戦技演習受かって衛士になりなさいよ……ヴァルキリーズに配属されたら、誰よりも私が先任少尉として鍛えてあげる……。」

 

(こいつ、やっぱりいつか、戦術機でボコボコにしてやる。)

 

「涼宮少尉、励ましの言葉、誠に感謝致します。後四日間ですがその言葉を糧とし精進致します。」

 

覚悟は、少し頭を下げ無表情ながらも、弾んだ声でお礼を言った。

 

そんな一連の出来事を食堂の遠くで見つめるみちる。

 

(やっぱり、クソ真面目で実力もあるが、それを帳消しにするほど天然だ。それにしてもまずい。葉隠なら、既存の総戦技演習であれば力業で一人でも合格できるだろう。けれど、気まぐれな副指令ならどんな試験を出すのか、私には解りかねる。もし、総戦技演習が常識を問われる筆記試験なら、100%落ちる…………。)




今回の話を読んだヴァルキリーズのファンの方は、許して下さい。覚悟の言動が不快に感じないようにしていますが、そう感じた方も許して下さい。
後、参考文献の漫画を見ると茜達の初出撃は、12.5事件からでした。解っていてあえて、突っ込まないでいてくれた方は有り難うございます。

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