マブラヴ オルタネイティヴ episode HAGAKURE   作:不屈闘志

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第十話 総戦技演習開始

みちるは、あの食堂の一件から、覚悟に常識を身に付けさせるべく、授業で積極的にヴァルキリーズ達に関わらせた。

 

彼女達は、たまに出る覚悟の常識知らずな面に驚きはすれど、整備や射撃、救急演習など一通りのことを覚悟に分かりやすく教示した。意外にも覚悟は、武に及ばないまでも並の訓練兵より優秀であった。これは朧と零から訓練を受けていたためである。

 

覚悟も、彼女達を心の底から感謝、尊敬をしているため素直に命令に従い、たまに茜を怒らしはすれど、関係は良好であった。

 

しかし、束の間の穏やかな時を謳歌する覚悟に、自ら招いた危機が迫っていた。

 

それは、たまに夕呼が自分の知識欲を満たすべく、平行世界のことを覚悟に話させていた時だった。

 

「……ふぅん。その英吉っていう戦術鬼の攻撃方法ってすごく興味深いわね。一回見てみたいわ。ああ、そういえば、葉隠。零や月狼って、あんたが確実に死ぬのを確認したらどうなるの?自爆するんだったら、その機能停止しときなさいよね、大迷惑だから。」

 

「零は、何も変わりません。再び己が選ぶ着装者を待つのみです。月狼は、私の死亡を確認すれば、すべての機能が停止いたします。」

 

その覚悟の言葉を聞いたとき、夕呼の胸の内から暗い考えが湧き上がった。

 

「ねぇ、それって月狼が可哀想じゃない?前の世界では、闘える人はあんた以外いなかったけど、今は仲間がいるんだし、あんたの道連れにしちゃ駄目よ。」

 

普段の夕呼からは、考えられない優しい言葉が飛び出した。その不自然さに気付かない覚悟は、少し考えるように沈黙した後、夕呼の問いに答えた。

 

「なるほど、確かに。では私が死んだ後は、操縦権を香月副指令と霞さんに移るように致します。」

 

「そうして頂戴。」

 

その後、夕呼との平行世界の話は終わり、覚悟は自分の部屋に戻った。

 

 

夕呼は、覚悟が部屋から出たのを確認すると感情を殺した顔になり、コンピューター画面を開いた。

 

(あいつは、こういった軍事関係のことは、隠しはするけど嘘はつかないはずだわ。ということは、あいつが死ねば、月狼の操縦権と未知の技術が記されたデータが、すぐに私のものになる。環境浄化の技術や、未だに机上の空論である核融合エンジンは米国垂涎の技術……。正直言って46文書だけなら、嫌がらせなく『XG-70』を全機取り寄せるのが限界だわ。 そのデータが手に入れば、12月後半になってもオルタネイティブⅣが完成しない場合、オルタネイティブV発動を先伸ばす取引材料となる。)

 

夕呼は、覚悟の為に考案した少し厳しいが安全な総戦技演習のぺージをすべて削除し、新しい総戦技演習を作成し始める。

 

(葉隠、あんたが本当に正義を行う者ならこれを乗り越えて、白銀と同じく使える駒であることを私に証明しなさい。そうでなければ、この世界のために死んで頂戴。)

 

そして、時は過ぎていった。

 

 

2001年11月18日

12時35分

夕呼の執務室につながる廊下

 

みちるは、覚悟が総戦技演習を受けるに値する兵士か否かの報告をするために、夕呼がいる執務室に向かっていた。

 

(初めて教官の役割を与えられ、もう六日か……。)

 

歩きながら、みちるは覚悟に指導した一週間を振り返る。

 

______________

 

「葉隠、副指令が至急来るようにと仰せだ。できるだけ急いで執務室に向かえ。」

 

「了解!」

 

覚悟はいつものように敬礼して答えるが、

 

(至急という命令ならば、急がねば。)

 

執務室に向かう最短ルートのはずである階段には向かわずに、ゆっくりと換気の為に空いてある窓へと近づいた。

 

「葉隠?まだ、施設の中が解らないのか?」

 

不思議そうに目を向けるみちるを背に、覚悟は空いている窓から顔を出し、下に人がいないのを確認すると、いきなり三階から飛び降りた。

 

「え……」

 

一連の覚悟の行為を見送ったみちるは、一秒程フリーズした後、

 

「葉隠ぇぇぇぇぇっっっ!!!!!」

 

と悲痛な声を挙げながら急いで窓に近づく。窓から顔を出しながら、最悪の事態を想像するも、覚悟の怪我が骨折程度で済んでいることを願い落下地点を確認する。

しかし、落下地点には、覚悟の姿自体見当たらない。みちるは急いで周囲を探すと10m先に、怪我など微塵も考えられない速歩きで急ぐ覚悟の姿を見つけた。みちるは、安心すると共に覚悟に対して初日と同じく人目を憚らず、大音量で怒鳴る。

 

「葉隠ぇぇぇっっ!!!後で私の元に来いぃぃぃっっ!!!」

 

覚悟は振り返り、何事もなかったようにみちるに敬礼する。

 

「了解!!」

 

_______________

 

(ふふ、あの時は急いでいても三階から飛び降りるな、階段を使えと、30分は指導したな。そういえば他にもこういったこともあったな……)

_______________

 

射撃演習が終了し、少しだけ授業の時間が余ったみちるは、ヴァルキリーズに片付けを、覚悟にはグラウンドを走るように命令した。その時、覚悟はある提案をした。

 

「伊隅教官、グラウンドを周回している時、歌を歌ってもよろしいでしょうか?」

 

「……………………理由を述べろ、葉隠。ふざけて言っているのであれば、許さんぞ。」

 

「私の零式防衛術には、声で相手を制す技があります。故に普段から、声帯も鍛練せねばなりません。そして、零式防衛術ではなくとも丹田からの正しい気合いを発すれば、相手が人間ならそれだけで相手を倒すことが可能になります。」

 

軍や警察の学校なら、集団で走る訓練であれば掛け声を挙げながら走るのが普通である。しかし、覚悟はヴァルキリーズと走ることはあったが、みちるの指示で競争するのみで、その機会がなかったのだ。

 

「いわゆる、ミリタリーケイデンスというわけか。わかった。では、出来るだけ大声で我が訓練校の校歌を歌え、完全装備でスピードと音声を苦しくても落とすな。わかったな。」

 

「了解!」

 

みちるから了承を得た覚悟は、素早く完全装備の姿になり、開始地点に急ぐ。

 

ジーーーーー!

 

ヴァルキリーズは、覚悟がどんな風に歌を歌うのか興味があり、自分達の銃を片付けながらも開始位置に急ぐ覚悟に注目した。

 

やがて覚悟は開始位置に着く。そして……大きく息を吸い込んだ。

 

((((あ……なんか嫌な予感……))))

 

次の瞬間……

 

「♪♪♪♪♪♪♪♪♪ッッッ!!!!!!!!!」

 

横浜基地にズドンと腹にくる大音量が響き渡った。

 

思わず、耳をふさぐみちるとヴァルキリーズ。

 

零から月面まで届くとお墨付きをもらい、武鬼の白田玄兵衛を呼び寄せるほどの覚悟の声は、手加減をしているものの、横浜基地中のガラスを震わすのに十分であった。そして、次々と基地の窓から軍人達が、何事かとグラウンドに注目する。

 

その様子を見たみちるは、このままでは、横浜基地の業務に支障をきたすと感じ、急いで覚悟にトーンダウンを指示する。

 

「葉隠ぇ!もっと声量を落とせぇ!」

 

しかし、大音量を発している大元の覚悟には、生半可な声は聞こえない。次は、ヴァルキリーズ全員で声をかける。

 

「「「「声量を落とせぇぇぇ!」」」」

 

聞こえない。

 

この時覚悟は、歌いながら中学生の時に通った有機学園を思い出していた。

 

(確か、あの時もこうやって剣道部の先輩方と発生練習をしたな。む?)

 

今度は、ヴァルキリー全員、両手を思い切り振りながら、覚悟の元に走る。

 

その様子にやっと気付いた覚悟。

 

「♪♪……どうしました?皆……」

 

「「「「「声をっっ落とせぇぇぇぇぇっっっっ!!!!!」」」」」

 

今度は、横浜基地中にヴァルキリーズの怒声が響いた。

______________________________________

 

(あの時は、副指令に大笑いされ、各部署に謝罪するのが大変だった。それにあいつの厄介なところは、罰でどれだけ腕立てやランニングさせても嫌な顔せず簡単にこなすところだな。今考えれば、最初から何かミスをしたら連帯責任で……涼宮の妹あたりに同じペナルティを課していたら、責任を感じて、少しは殊勝になっていたかもしれないな。)

 

 

--同時刻

 

ゾクリ!

 

茜は、背中に何か違和感を感じ、周囲を見渡した。

 

その様子を見た同期の多恵が、不思議そうに問う。

 

「茜ちゃん、どうしたの?早くPX行こ!」

 

「あ、うん!」

 

(今のゾクリとした感覚は、何だろ?また葉隠がなんかして、私に実害が起こりかけたような。)

 

 

頭の中で大変だったと思いながらも、みちるは、優しい笑みを浮かべていた。しかし、その表情が段々と曇っていく。

 

(しかし、先程の授業で言っていたことは、本当なのか?)

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「覚悟、これで私の教官としての授業は終了だ。昼休憩の時間になれば、副指令に貴様の総戦技演習の報告をしてくる。合格か否かは、昼休憩後、ここで心して待っていろ。終了の挨拶はその時聴いてやる。」

 

「了解!」

 

「まだ、時間があるな……。少し話そうか、葉隠。今日までの演習、まぁほとんどが及第点以上だったが、その中でも特に近接格闘訓練の零式防衛術というやつは、目を見張るものがあったな。私の部隊の精鋭達が、手も足も出なかったとは。」

 

「有り難うございます。幼き頃より訓練して参りましたので。」

 

「前にもその台詞は聞いたが、一体いつから訓練していたのだ?」

 

「自意識というものが形成される頃には、もう訓練していたと思います。」

 

「成る程、しかし幼年部や初等部に通いながらの訓練とは、同級生は驚いたんじゃないか?」

 

「お恥ずかしい話ですが、私が学校に通い始めたのは、中等部の三年生からなのです。それまで兄と父の三人で山中で暮らし、毎日訓練の日々でした。私は、その間、家族以外の人物と出会ったこともありません。」

 

「え…………」

 

「ですが、父上はその自意識が生まれた幼き時から、私によく葉隠一族の心条を言い聞かせてくれました。『覚悟よ!人の世に安らぎもたらさんと思わば、おまへは進んで弾丸雨飛の真っ只中に身を置くべし。善い事とは苦痛を堪えることである。腕一本目一つとなろうと問題なし!我ら葉隠一族は七度生まれ変わるなり!』と。」

 

ゾクッ……

 

みちるは、その言葉で覚悟の人格形成の一端を見た気がした。

 

兵士達のほとんどは恋人、家族、国、仲間を守るため、己を捨てる覚悟で戦っている。けれど、その精神はある程度人生を経験し、他人と関わり、心と体が成長をしてから培われるものだ。覚悟のように自意識を持ったときから、その境地に至っているのは、はっきり言って異常である。

 

(こんなに純粋な捨身成仁の心を持ったやつは初めてだと思ったが、それは人格形成の大事な時期に家族以外の他人と一切関わらず、戦闘の訓練だけをしていたからだったのか……。)

 

「ちなみに……どんな訓練をしていたんだ。」

 

みちるは、心の中と裏腹に何気なくといった様子で、覚悟に問う。

 

「心身を鍛えるため、雪が降り積もるなか、周りの積雪が肩に達するまで、格闘訓練をしたり、熊を相手に戦闘をしたりといったところです。」

 

(一週間程過ごしているから解る。こいつは、こんな時に嘘をつかない。だったら……)

 

平静を装い、みちるはさらに覚悟に問う。

 

「その訓練の中……嬉しかった思い出はあったか?」

 

「十三才のころ、零式防衛術のすべてを納め、初めて父上の笑顔を見て、愛の言葉を聞いたときです。その後、父上と兄上はすぐにいなくなりましたが、あれが訓練の中で一番最良の日でした。」

 

覚悟は、相変わらず無表情であったが声の調子でみちるに、本当に嬉しかったという感情が、ありありと伝わってきた。

 

その嬉しい声に反して、みちるはまた背筋がゾクリとした。

 

(やはり異常だ。十三年間も家族以外誰にも会わずに父親の愛の言葉、ましてや笑顔を見たことがない父子関係など聞いたこともない。)

 

みちるは、最後に覚悟に問う。

 

「葉隠、貴様が戦う理由はなんだ?」

 

覚悟は、みちるの目をじっと見据えて

 

「我が葉隠一族が戦う理由はただ一つ、『牙なきものを守ること』です。」

 

と答えた。

 

(昔の私のような、建前で言っている綺麗事ではない。こいつは、間違いなく心の底から言っている……。)

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(葉隠は、なんであんな生い立ちなんだ?それにあの時、度々出た単語『葉隠一族』とは一体?)

 

そんな疑問を抱きながら、みちるは夕呼の執務室の扉を叩いた。

 

 

--数分後

 

「…………………………故に私は、葉隠訓練兵は衛士に相応しいと考え、総戦技演習を受けるに値すると判断致します。」

 

「わかったわ。貴方がそう言うなら、明日、葉隠訓練兵の為の総戦技演習を実施する。そして、これがあいつが受ける総戦技演習の内容よ。明日、A-01の皆にも手伝ってもらうから、今軽く目を通して。」

 

みちるは、夕呼から演習の内容が記載してある紙を少し訝しげな顔で受け取り、パラパラと読んでいく。

 

(A-01部隊が必要な総戦技演習の内容とは一体?機関銃の設置か?)

 

あれこれと予想するみちるだが、読み進めていくうちに表情が段々と青ざめていく。そして、すべてに目を通したあとに我慢しきれず夕呼に対して叫んだ。

 

「こ、これは正気ですか?副指令!この演習の内容では、葉隠が100%死んでしまいます!」

 

「本気よ。あいつが背負うエクゾスカル計画はね。強化外骨格だけではない、戦術機にも転用できる技術もある大切なものなの。だから、生半可な試験では合格にできない。それに伊隅も一週間過ごしてわかったでしょ。あんな常識がないくせに妙な方向に優秀な奴は、戦場で場を乱しかねない、それは敵よりも危険で厄介な存在になってしまうわ。」

 

言葉を一旦区切り、コーヒーをすすった後、夕呼はさらに続ける。

 

「そんな奴をエクゾスカル計画に選んだのは、葉隠は戦術機が撃墜されて、どんなBETAに囲まれても生き残り、また無限に戦場に復帰できるような衛士になると見込んだからよ。この演習はあいつのデメリットを帳消しにするくらいの力があるかを見極めるための最終テストでもあるわ。それに安心して、あたしも落第イコール死亡とかそんな極端な結果にならないように安全策を何重にする。」

 

副指令である夕呼の言葉でも素直に納得できないみちるは、覚悟の衛士の資質を心の中で再確認する。

 

(あいつは、突拍子もない行動で私達を何度も混乱させたことがある。確かにそれは戦場であれば、味方を巻き込み死亡させかねない。けれど、性格の天然さは一週間も過ごせば慣れるくらいのものだ。現にA-01の隊員達も覚悟の扱いに慣れ始めている。それに、あいつにはあの比類なき戦闘力と無表情の裏にだれよりも熱い感情がある。 けれど……)

 

「副指令、葉隠に関してお聞きしたいことが……」

 

 

--同時刻

 

覚悟が、PXで食事を取ろうとしたとき、聞きなれた声が聞こえた。

 

「葉隠訓練兵~!こっち来て一緒に食べよう~。」

 

ヴァルキリーズの水月が覚悟を呼ぶ。彼女達はこの頃、覚悟と偶然的にも食事の時間が合い、よく食事を共にしていた。

 

「今日の昼でしょ?隊長が葉隠の総戦技演習、受けられるか否かの報告をするのは?隊長も焦らせるわねぇ。その結果を本人より先に副指令に報告するのが先だって言うんだから。」

 

「構いません。ハムッ…重要な事項は、まず下の者より上に報告をしなければいけないのは承知のうえです。私もこの一週間、全力を尽くしたのみであり、どのような結果であろうと潔く受け止めます。ハムッ…」

 

緊張と無縁そうな食欲を見せつけながら、覚悟は水月の問いに答えた。

 

茜は、その覚悟のマイペースぶりにあきれた様子で、いつものように毒づく。

 

「君、少しは緊張しなさいよ……本当に淡々として、いつも通りだね……」

 

晴子も茜に同調する。

 

「確かに、葉隠は緊張とか無縁そうな感じだよね。」

そんな隊員達の言葉を、遥が優しくなだめる。

 

「まぁまぁ、緊張してご飯が喉を通らないよりかましよ。」

 

「ふん。君、いつもマイペース過ぎるから、恋とかしてドキドキしたことないんじゃない。」

 

「恋ですか……ハムッ、深いところまで付き合い、今だ想い続けている女性はいますが。」

 

((((え!!!!!!!!))))

 

覚悟の何気なく言った言葉でヴァルキリーズに衝撃が走り、数秒間、その場は覚悟のカチャカチャとしたスプーンの音だけが支配する。

 

だがすぐに、嵐のようなヴァルキリーズからの質問が覚悟を襲った。その内容は『どこで会った?』『告白の台詞は?』『関係はどこまでいってるの?』等である。

 

彼女達は興奮していた。男子の兵士が貴重な日本帝国では、色恋沙汰の話は少ない。ましてや彼女達は、誰かが死んだ話より、誰かが恋してるといった話が好きな年齢であり、さらにそれが恋とは程遠いイメージな覚悟の口から出たからだ。

 

ヴァルキリーズの意外な反応に覚悟は、心の中で後悔する。

 

(父上が昔、仰っていたのは、こういうことでもあったのか。)

 

「皆さま方、申し訳ありません。暴力はなるべく避けるもの、恋は極力秘めるものと亡き父上からの教えゆえ、ご容赦を。」

 

覚悟の言葉でも彼女達は、食い下がらない。

 

そのなかで水月が、覚悟に率先して質問した。

 

「もう固いわね!じゃあ、質問を三つだけにしとくから!答えて、これは上官命令よ!」

 

「了解……。三つだけならば、お答え致します。」

 

「じゃあ、まず一つ目!告白したのはどっち?葉隠からなら、どんな台詞?」

 

「私からです。もしも願いがかなうなら、俺は君の歌になりたいと告白しました。歌うのが上手く大好きな人だったので。」

 

覚悟は、いつもの真面目な目付きではなく、どこか懐かしむ寂しいような目付きでそう言った。

 

浮かれているヴァルキリーズの中で、茜だけがその目に違和感を覚える。

 

(あれ、あの瞳、昔どこかで見たような?それに片想いならともかく、もう付き合っているのに想い続けているって少しおかしい表現だよね。まさか……。)

 

「葉隠って見た目?と違って以外と詩的で情熱的ね。」

 

「じゃあ次、私ね、彼女とキスしたことある?あったら最初にキスした場所は?」

 

「廃墟になった遊園地です。」

 

(なんか、寂しいところでしたのね。けど、なまじ人がいるロマンチックなとこより、情緒とか雰囲気あるし、何より葉隠らしいわね。それに二人だけの空間でイチャイチャしてゆっくりできそう。)

 

「じゃあ、最後の質問。彼女からプレゼントもらったことある。」

 

「それでしたら、誕生日にもらったこれが。」

 

覚悟は、制服の胸のポケットの裏に縫い付けてある誕生日にもらったお守り『雫』を取り出した。

 

「キャーー!手作りじゃない!スキって書いてある。しかも、肌身離さず持ってるし。」

 

喧騒が頂点に達したとき、茜が冷静に四つ目の質問を覚悟に問いかけた。

 

「ねぇ、葉隠。深く付き合っていたのは、わかるけど、今だ想い続けているってどういう意味?」

 

「彼女はもうこの世界にはいませんゆえ。」

 

「え……それって軍を除隊したってこと?」

 

「いえ、軍事機密故に詳しくは言えないのですが、生きている限りはもう二度と会えないところにいます。」

 

ヴァルキリーズに数分前と違った重苦しい沈黙が走る。

 

先程、見せた縫いぐるみは、間違いなく、一週間前に見たエクゾスカル零を模した物だ。だとすると、死の原因を軍事機密で隠さなければいけない葉隠の彼女は、エクゾスカル計画の一員だったが、何かの事故で死んでしまったと考えるのが妥当である。

 

優秀なヴァルキリーズの面々は、一瞬でそう悟った。

 

その沈黙の中、最初に浮かれて質問をした水月が、申し訳なさそうに覚悟に謝罪する。

 

「葉隠、浮かれて辛いことを何度も聞いてしまった。本当にすまない。許してくれ。」

 

しかし、真摯に謝罪する水月に対して覚悟は、不思議そうに答える。

 

「速瀬中尉、何を謝ることがあるのです?彼女との思い出は、辛い過去ではありません。今だ私の胸の中で宝石の如く輝いております。それに私もいつか命果つる時、必ずまた会えると信じております故。どうぞ、お気になさらず。」

 

その言葉を聞き、遥は覚悟を優しそうな目で見ながら言う。

 

「そうよね。好きな人との思い出は少しも辛い思い出なんかじゃない。この世からいなくなったとしても、永遠に会えなくなったわけじゃないよね。」

 

数分後、覚悟は食事を終え、彼女達に一礼するとPXから立ち去った。

 

覚悟の後ろ姿を見つめながら、水月は、遥に喋りかける。

 

「私、なんか葉隠のこと今まで大分勘違いしてたかも。心の底では実力はあるけどただの無愛想な天然で常識知らずって思ってた。実際そんな面もあるけど、本当は私達と同じような感情もあって、普段はそれをわざと殺して過ごしてるような気がするわ。」

 

水月の言葉に遥も、懐かしそうに答える。

 

「水月。今日、訓練が終わったら私の部屋に来て少し昔のこと話さない。なんか、葉隠訓練兵の話を聞いてたらそういう気分になってきちゃった。」

 

昔を懐かしむように話す二人を複雑そうに見ていた茜は、あることに気がついた。

 

(ああ、そうか……。さっきのあいつの彼女を語る時の目って、どこかでよく見たと思ったら、お姉ちゃんと水月先輩が、死んだあの人をまだ想っている時の目とそっくりなんだ……。)

 

 

覚悟は、食堂を後にして、廊下を歩いていた。

 

茜達が察したことは、おおむね間違ってはいない。しかし、決定的に違うところがあった。それは、平行世界ゆえに死んだとしても、堀江罪子に会えるかわからないこと。そして、死亡すれば零に取り込まれる覚悟は、成仏を否定した英霊達と共にこの世を永遠にさ迷わなければいけないことである。

 

(俺は軍人だ。例え、死んで会えないとしても、逆十字学園の皆は、俺の胸の内で燃え続ける。この世に安らぎをもたらすまで……)

 

 

 

「悪鬼の一族、その末裔ですか?」

 

「そうよ。訓練兵を教えるにあたって、変な先入観を持って欲しくなかったから、貴方には、あえて最初に話さなかったの。けれど、葉隠には自分の判断で話していい許可を出してたわ。まぁ、あいつの性格上、ペラペラと自分の生い立ちを聞かれてもいないのに全部話すわけないからね。大方、貴方が子供のころどんな生活をしていたっていう感じの、何気ない質問を端的に答えて、疑問を持ったっていうところかしら?」

 

夕呼は、みちるに平行世界関係以外の覚悟のことを話した。それは、葉隠家は元譜代武家だったこと。曾祖父である葉隠四郎と、彼が率いていた瞬殺無音部隊のこと。その件で一族のほとんどが自殺し、生き残った祖父が、日本国民から差別されて逐電したこと。覚悟は十三年以上、家族以外の人と関わらず、零式防衛術と人を救う教えを受けていたこと。父と兄が病で死に、山を降りたところで保護され、夕呼に偶然拾われたこと。人が少ない中等部に半年だけ通い、その後、葉隠家の汚名を灌ぐため、エクゾスカル計画に二年以上、孤独に協力していたことである。

 

(まさか、葉隠が御家解体された武家で、人目を避け山中に隠れ住んでいたとは…あいつがあんなに純粋で常識知らずなのはそういった理由があったのか…)

 

「どうする……これを聞いても総戦技演習受けさせる?判断するのは貴方だし、私はそれに従うわ。けれど、忘れないでね。教官は、軍に必要じゃないやつや不利益をもたらすやつ、戦場に出しても死ぬだけのやつを排除する役目も持っていることを。」

 

夕呼の言葉を聞き、目を閉じたみちるは、かつて訓練兵時代のことに思い出す。そして数秒後、開眼して夕呼の目を真っ直ぐ見つめ告げる。

 

「あいつの過去は、関係ありません。葉隠は、衛士の資質があります。明日の総戦技演習よろしくお願いいたします。葉隠が安全に演習が受けられるようA-01の私達もお手伝い致します。」

 

 

そして、覚悟はその日の午後、みちるから明日の総戦技演習実施を告げられたのだった。

 

 

2001年11月19日

午前9時00分

演習場

 

「今回の総戦技演習は、時間もそうかからない単純なものゆえに、口頭で説明する。」

 

みちるから、説明された演習の内容はこうである。敵地のど真ん中で戦術機が撃墜され、エクゾスカルも使用できない。その状態で指定する道順を通り、味方陣営に無事に帰還すること。しかし、その通り道で三つの障害が順番にあり、それをすべて排除すること。そして、三つ目の障害以外は、機密情報である零式鉄球は絶対に使用してはいけないということである。

 

「了解。」

 

覚悟は、敬礼して命令を拝命した。

 

そして、演習の説明を終えたみちるは、厳しい命令口調を和らげ、若干心配するような口調に変わる。

 

「葉隠、今回の総戦技演習は、通常の訓練兵なら下手をすれば、命を落とすくらい過酷なものとなっている。故に危険を感じたら遠慮なく、通信機でギブアップを告げろ。副指令には内緒だが、もし落第しても、私が地面に頭を擦り付けて、強化兵部隊や一般兵部隊に入隊させてやる。だから、無駄死には絶対に許さない。これは教官ではなく上官としての命令だ。」

 

みちるの言葉にヴァルキリーズの隊員達は、少し驚いていた。これでは、遠回しにすぐ棄権しろと言っているようなものだからだ。彼女達は、かつて自分達が経験した総戦技演習なら、覚悟なら難なく受かると考えていた。その覚悟にギブアップを進める程の演習は、一体どれだけ危険なのか。

 

しかし、みちるの心配を余所に覚悟は、いつも通り無表情で答える。

 

「それでもA-01の皆様が経験したどんな戦場より安全です。問題ありません。」

 

覚悟のいつもと変わらないマイペースさにみちる以外の隊員達は、幾分安心した。そして、彼女達は『頑張れ』『お前ならいける』といった激励の言葉をかけ、茜も覚悟に声を掛ける。

 

「葉隠、この前はあたしに気を使って太鼓持ちみたいなこと言ってたけど、やっぱり君は嘘が下手くそだから、そのまんまの方がいいわよ。」

 

「嘘?いつの話ですか?」

 

「忘れたの?ほら、近接戦闘訓練の後のPXでみんなと食事したときだよ。」

 

「涼宮少尉をお褒めしたときですか?あれは、嘘ではなく真実でしたが?」

 

「え……?」

 

「零式防衛術には、虚偽を操る戦技はありません。私は、今まで戦闘に関しては、同じ仲間がいなかったゆえ、誉める機会はありませんでした。必死に褒め方を考えて言葉を述べたのですが、嘘の如く聞こえたのであれば、謝罪いたします。申し訳ありませんでした。」

 

(じゃあ、あの時私に言った言葉や態度も本当のことだったんだ。う……なんか今さら恥ずかしくなってきた。)

 

段々と顔が赤くなる茜。

 

「では、改めて言わせて頂きます。涼宮少尉は、格闘技の才能がおありです。あの時の刺突は、気迫、速さ共に目を見張るものであり……」

 

「も、もういい!わかったよ!」

 

嘘をつかないと宣言された相手から誉められ続けて、茜は顔が真っ赤になっていた。

 

そして、全員の激励の言葉が終わったの見計らい、みちるは覚悟に告げる。

 

「葉隠、まだ時間はあるが、余裕を持ってそろそろ開始地点へ行け。」

 

「了解!では、皆様行って参ります!」

 

覚悟は、ヴァルキリーズに笑顔で敬礼した。それは五日前の近接格闘訓練で見せた少年のような笑みではなく、人を安心させるような優しい笑顔。 だが、その笑顔は、かつてライと決闘に向かう前にクラスメイトに向けた笑顔そのものだった。

 

((((((!!!!!!!!!!!)))))

 

自分の笑顔に驚く彼女達を背にし、覚悟は開始地点に走って行く。

 

茜は、覚悟の背を見ながら、動揺する自分達の心の中を代弁するかのように声に出して毒づく。

 

「なんで今、あんな笑顔するんだよ……葉隠。きみはいつも通り、鈍感で…無表情で…淡々としなさいよ。私達を心配させないためって解るけど、あんなの見せられたら逆に……」

 

その茜の呟きを遮るが如く、急にみちるの声が響いた。

 

「集合しろっ、貴様らに説明することがある。」

 

いきなりのみちるの集合の声に、何事かと隊員達が集まる。

 

「副指令の命令で葉隠の総戦技演習を我々も手伝うことになった。これを直前に告げるのは、今まで類を見ない内容の演習ゆえに情報漏洩の可能性があったからだ。」

 

みちるは、覚悟の演習の内容を、素早く隊員達に話しはじめた。彼女達は一つ目と二つ目の演習の内容を静かに聞いていた。しかし、三つ目の障害でざわざわと騒ぎだす。

 

茜も信じられないことを聞き、目を大きく見開く。

 

(嘘…こんなの総戦技演習なんかじゃない!…葉隠っ!!!)

 

 

午前10時00分

一つ目の演習場

 

覚悟が通過しなければいけない道筋に五人の兵士がいた。彼らは、ここにくるはずの訓練兵を15分間、先に通さないようにと夕呼から命令されている横浜基地の兵士である。

 

「ちっ!面倒くせ~。なんで俺たちがこんなことを手伝わなけりゃいけね~んだ。」

 

お互いの通信機で喋り会う防爆服を着た五人。

 

「仕方ないですよ梟さん。副指令、直の命令ですからね。」

 

「せっかく、比較的安全な横浜基地に配属されたってのに、これを達成しなきゃ、他の地域に転属になるって話だからな~。」

 

彼ら五人は、BETAの襲撃が少ない横浜基地の安全さにあぐらをかき、人目なくば、サボりも日常茶飯事という不逞の輩である。夕呼は、そういう輩を炙り出し、条件を突き付け演習に駆り出したのだ。

 

「まぁしかし、闘士級の一撃も吸収するこの特注の防爆服さえあれば、楽勝よ。」

 

やがて、地平の向こうから土煙をあげながら覚悟が走ってやって来た。

 

「随分はぇーな。おい、君たち!目を狙いなさい!対人間様のゴム弾でも目を傷付けて失明しちまえば、こっちのもんよ。」

 

「「「「りょうかーい!」」」」

 

覚悟が射程距離内に入ると、五人はゴム弾のマシンガンを一斉射撃した。

 

ダダダダダダ……!

 

零式鉄球が使えない覚悟だが、持ち前の素早さで弾を避けながら、五人に迫り来る。

 

「あいつ、なんちゅうスピードよ。このままじゃあ、やべーぜ。」

 

しかし、五人にあと10mまで迫った覚悟は、急に近くの廃ビルに身を隠した。

 

覚悟を追って、すぐに廃ビルに入ろうとする兵士をリーダー格の梟という名の兵士が一喝する。

 

「追うんじゃねー!このまま時間切れを待ちぼっくり!」

 

「「「「りょーかい!」」」」

 

 

覚悟ならゴム弾を避けながら、防爆服を着込んでいようと、彼らを骨折や打撲させ、制圧することができた。しかし、同じ基地の同士であることが頭をよぎり、どうやって傷付けずに無力化するか考えるためにここへ逃げ込んだのだ。

 

(殺すは易し、無傷で無力化は難しか……ならばあの技を使用いたす他あるまい。)

 

覚悟は、所持している通信機に向かってしゃべる。

 

「副指令、聞こえていらっしゃいますか?聞こえていらっしゃるのであれば、これから音波攻撃を仕掛けるので、十秒程通信機をお切り下さい。」

 

電源が入ったままの通信機から、夕呼の声がした。

 

『わかったわ。』ブツッ!

 

電源が切られたのを確認した覚悟は、

 

「すぅ~~」

 

と思い切り息を吸いみ始めた。そして、数秒後、肺一杯に空気を溜め終わった覚悟は、三階の窓から五人の兵士の方向に飛び出す。

 

「あ、飛び出してきたぞ!!着地点を狙「♪♪♪♪♪♪♪ッッッ!!!!!!」

 

飛び出した覚悟は、空中で『零式防衛術・桜歌七生擊』 を五人の兵士に放った。

 

闘士級の一撃や至近距離のダイナマイトの爆発さえ耐える防爆服であるが、覚悟の衝撃波のような美声は遮断できずに、兵士達の鼓膜は破裂した。

 

「き、聞いてねーぜ……困難(こんなん)……」

 

梟は、そう呟きながら他の四人と気絶した。

 

 

覚悟の大音量の声は、通信車の夕呼とみちる、遥、そして零が入っている鋼鉄の鞄にも届いた。

 

その声を聞いた夕呼は、遥に気絶した兵士達のバイタルデータを調べさせ、 鼓膜破裂以外の外傷がないことを確認した。

 

(この横浜基地には、あんた達みたいな腑抜けた兵士はいらない。せっかく最後にチャンスをあげたのに、それを生かせないなんてね。あんた達は、大陸の最前線に送ってあげるわ。)

 

そして、夕呼は、通信機のスイッチを入れる。

 

「第一関門突破よ。葉隠訓練兵、次の演習場に向かいなさい。」

 

「了解!」

 

 

カタカタ……

 

『見るまでもない。あれくらいの敵なら、覚悟の圧勝なり。しかし、この胸騒ぎは何だ?油断するなよ!覚悟!』

 

 

--同時刻

三つ目の演習場

 

戦術機に乗り込んだA-01の隊員達は、静かに覚悟を待っていた。

 

その配置は、距離は離れているが、覚悟の為に設けられた障害を取り囲むようだった。まるで覚悟が、三つ目の障害を排除し損ねた時の保険のように。




『梟』
初出は、『悟空道』に出てくる妖魔の一人。基本敵だが、裏切りキャラなので味方になるときもある。「俺は多勢(せいぎ)の味方」という言葉が印象深い。『衛府の七人』にも同じ名前で登場している。
実は、『蛮勇引力』という作品にも名前は出ていないが似たキャラが登場している。

覚悟がちょっと天然すぎてアホの子になっていないか心配です。
そして、今は覚悟がどうしゃべるかより、茜がどう思い、しゃべるか考える時間の方が多いです。キャラクターの口調ってやっぱり難しいですね…
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