マブラヴ オルタネイティヴ episode HAGAKURE 作:不屈闘志
覚悟が挑んでいる総戦技演習は、監視カメラが障害のある場の至る所に設置してあり、演習に望む覚悟の様子が通信車の画面で見られるようになっている。
覚悟には、音声とバイタルデータを送る機械を装着しており、常に夕呼とみちるに通話が可能だ。
故に覚悟は、常に動作と音声、そして感情をすべて監視されているに等しい。
2001年11月19日
午前10時10分
二つ目の演習場
武装した兵士をわずかな時間で制圧した覚悟は、みちるが提示した二つ目の障害の場所へと着いた。そこは、何の変哲もない一直線の道であり、一つ目の障害と違い、兵士の姿も気配もない。
その静けさに覚悟は、数日前に茜が話してくれた総戦技演習の内容の一部を思い出した。
(涼宮少尉の話では、かつて207小隊B分隊は、地雷源に入り全滅したという。ならば、この道は地雷が埋まっているやもしれぬ。しかし、地雷ならば、障害を排除せよという命令に矛盾が生じてしまう。)
覚悟は、走るのを止めて考えを廻らせるが数分後、意を決したように前を向いた。
(ここは、自らの体で試す他あるまい。障害というならば、必ず私の進行に害をなす物が出現するはずなり。)
覚悟は、そのまま一本道を全速力で走ることを選び、10m程走り始めたが、
キュィィィン……
機械音がしたと同時に
ダダダダダダタ……!
地面を撃ちながら、土煙を上げて弾丸が覚悟に迫ってきた。
「くっ……」
覚悟は、『零式鉄球・防御形態』をとろうとする。しかし、演習前のみちるの説明で、禁止されていることを思い出す。
覚悟は、身構えるのを即座に止め、代わりに弾丸を高速のバック転で避け、そのまま射程距離外のビルの壁に隠れた。
(砲台……動くものに反応する自動制御式か。)
覚悟は、ビルの壁から少し顔を出し、十秒ほど辺りを見渡すと50m先のビルの屋上に自分を撃った砲台を見つけた。
(あの位置ならば、回り道をすれば標的にならずに、楽に三つ目の演習場にたどり着ける。しかし、私の任務は指定された道順を通り、尚且つ障害の排除なり。ならば!)
覚悟は、壁に隠れたまま、道に落ちている石を選別し始めた。
夕呼は、それを見て少し不思議そうな顔をする。
「あいつ、何やってるのかしら?レドームはそんなところにないわよ?」
やがて、覚悟は拳台の砲丸並みに重い石を選ぶ。そして、ビルの壁から全身を姿を現した。
キュィィィン……
再び、砲身が覚悟を狙う。
しかし、覚悟は、慌てずに石を持ちながら、上半身を思い切り捻った。そして、
「でゃぁぁ!!!」
野球のピッチャーの如く石を砲台に投げた。かつて、我理冷夫(ガリレオ)から、90m戦車包並みと、評された投球力で投げた石は、放物線を描くのではなく、直線上に砲台に向かっていき、
グジャ!!
と見事に直撃し、二つの砲身をグニャリとへし曲げた。
「兄上直伝トルネード螺旋投法……」
夕呼は、それを見て感心する。
「苦労して特別に設置した砲台がへし曲がったわ。てっきり、コンクリートの壁を切り出して、盾のように進むかと思ったけど、ストレートに攻略してきたわね。まぁいいわ、ここまでは予想通りかしら……」
夕呼と対称的にみちるの表情はまだ浮かないままであった。
(普通の総戦技演習なら、あの砲台を攻略すれば受かったに等しい。しかし……)
覚悟はその後、他の障害を探りながら通るが、砲台以外の障害はどうやらないことに気付く。そして、最後の演習場に向けて走り出した。
午前10時30分
最後の演習場
覚悟は、最後の演習場である二つ目の演習場より広い真っ直ぐな通りに着いた。
(ここも二つ目の演習場と同じく何も気配を感じぬ。しかし、砲台も見当たらぬ。やはり、今度こそ地雷源か?)
覚悟が、最後の演習場を注意して通り抜けようとした瞬間、
ガバッ!
足元の地面から、白い人間のような手が表れ、覚悟を掴もうとする。
「?!」
それにいち早く気づいた覚悟は、手の主に注目しながら、思い切り真後ろに飛び上がった。数瞬後、手の主が地面から全身を現す。
(この者、人間でも戦術鬼にもあらず!!)
地面から出てきたのは白い人間のような手、人間より二廻りほど大きい頭、黒い目、大きい歯茎。その生物は間違いなく、
「BETA!!!!!!」
みちるの授業で習った兵士級と言われるBETAであった。
兵士級が地面から現れるのを皮切りに、周囲の土も動き始め、次々と小型種のBETAが現れ始めた。それらを確認した覚悟は、空中にいながらも、急いで通信機で副指令に連絡する。
「コード991発生!コード991発生! 副指令、指示を与えてください!」
しかし、BETAが現れるという緊急事態に対して通信機から、やけに落ち着いた夕呼の声が聞こえてくる。
「葉隠、これが最後の障害よ。早めにギブアップを勧めるわ。そうすれば、BETAの体内の爆弾を作動させてすぐにでも助けることができるし。」
そう、三つ目の障害とは、先日、A-01部隊が捕獲したBETAの一部を使用した実戦であった。
(酵素が切れる時間は計算通りね。けれど、ギリギリだった。覚醒の時間が早まっても、自分達のエネルギー補給のために戦術機を無視して、横浜基地に向かい、葉隠と正面からぶつかるはずと考えていたけど、あいつの障害を突破する時間があまりにも早かったから、少し焦ったわ。まぁ結果的には、タイミングよく葉隠の目の前に現れて良かった。 )
夕呼の命令で横浜基地には、緊急事態の警報がでないようにしている。さらにみちるを説得するためにBETAの体内には、夕呼が握るスイッチでいつでも爆発できる遠隔式と演習が終われば自動で爆発する時限式の爆弾、そして逃亡防止の発信器が埋め込まれている。さらにA-01の部隊が取り囲んでいるのは、万が一にも爆弾で仕留めきれない時や作動しない時の為であった。
夕呼の通信が終わると同時に、覚悟は地面に着地し、
「問題ありません。」
と冷静に返信した。
夕呼の隣に立つみちるは、表情に出さないが、心の内では覚悟を心配していた。
(始まった…。葉隠、一族の名声回復など考えるな。自分の命を第一に考えてくれ。貴様は今、パワードスーツであるエクゾスカルを着ていないことを忘れるな。そもそも人類は、素手でBETAと戦えないんだ。貴様の命の捨て所はここではない!)
A-01の隊員達も戦術機の中のデータリンクにより、夕呼と同じ画面で覚悟に注目していた。
茜も複雑そうに覚悟を見ている。
(ごめん。葉隠。私達は、BETAから君を守るためにいるんじゃないんだよ。BETAの体内に入っている爆弾が作動しない時の保険でいるだけなんだよ。だから、葉隠、絶対に私達を出動させないで。)
周りの人間が様々な思いで見守るなか、地面からいち早く這い出た兵士級が、人間では考えられない速度で着地した覚悟に迫る。その足の速度に驚く覚悟。
(この者、やはり通常の人間よりも速い!)
兵士級は、速度を保ったまま驚く覚悟の頭部目掛けて歯を突き立てようとする。
闘いを見守るみちるとA-01の隊員達は、画面越しの覚悟の窮地に心の中で悲鳴を挙げた。
((((((((((葉隠っ!!!!!)))))))))
しかし、次の瞬間
グチャ!
ある物体が回転しながら、空を舞った。
食いちぎられた覚悟の体の一部ではない。それは、兵士級の上顎から頭の部分。
「因果……」
覚悟は、噛みつかれる瞬間に自らの拳を兵士級の口内に入れ、そのまま上顎にアッパーカットを繰り出したのだ。例え、人間より素早かろうと、覚悟の因果の最高時速は550km、噛み付かれる瞬間でも、覚悟からは制止しているに等しかった。
「その人類に対する容赦ない補食行動、宣戦布告と見なす。当方に迎撃の用意有。」
覚悟は、破邪の構えをとった。
「覚悟完了!」
同時刻、通信車の遥が驚きの声をあげる。
「また、バイタルデータが……」
遥の驚きの声に夕呼とみちるが何事かと注目する。
「どうしたの?涼宮?何か異常でもあったの?」
「葉隠訓練兵のバイタルデータが、兵士や砲台の弾丸、BETAを前にしても、ずっと演習前から変わっていません。」
「機械の故障なの?」
「いえ。走る時などは、若干、上下していますので故障ではありません 。」
例え、戦術機や強化外骨格を着装している熟練の衛士や強化兵でも、BETAと対峙すれば、バイタルは跳ね上がる。しかし、覚悟はBETAと対峙し、ましてや小銃一つも所持していない状態でも、演習が始まる前の状態と比べて、バイタルに変化がなかった。
「多分、あいつの言い分を借りると覚悟が完了してるってことじゃないかしら?二年間、まぁまぁきつい経験していたから。」
みちるも、覚悟のバイタル画面を複雑そうに見る。
(覚悟、貴様はいったいどんな経験を得て、この境地にまで至ったのだ?)
構える覚悟に、今度は前方の左右から二匹の兵士級が腕を伸ばしながら、大口を開けて襲いかかる。覚悟の体を掴んでから、齧ろうとしているのだ。
しかし、掴まれる直前、それぞれ二匹の兵士級の腕の隙間に、覚悟の左右の拳が先に炸裂した。
「零式因果双拳!!」
グチャチャ!
兵士級の頭が二つ、同時にまた吹き飛んだ。
(すごい…因果ってあんなに凶悪な技だったんだ)
覚悟の手加減なしの因果と崩れ落ちる兵士級を見たA-01の隊員達は、身震いをした。かつて、近接格闘訓練で覚悟が、本気で打てば体を貫くと言ったことが誇張でないことに気が付いたからだ。
次に迫るBETAを見据える覚悟だが、足元の地面から、再び振動を感じ始める。
ドゴォッ!
次の瞬間、足元の地面が割れ、兵士級よりも大きい戦車級の腕が覚悟を襲った。
だが、覚悟は、それをいち早く察知し、再び上空へ高く飛び上がった。そして、空中で冷静に敵の総数を確認する。
(残り戦車級3体、闘士級2体。問題ない、10体までなら無傷で倒せる!)
覚悟は、上半身のタンクトップを勢いよく脱ぎ捨て、気合いを込める。
「零式鉄球・体内吸引!」
ズズズズ……
覚悟の八つの零式鉄球が、体の中に吸収しされ始める。八つの零式鉄球は皮膚の56%を超鋼と化す。それはすなわち両手足の完全なる鎧化が可能となるのだ。
「特攻形態!」
額に七生と刻み、両手足の鎧化を終えた覚悟は、三階の壁面に取り付いた。
茜は、覚悟の零式鉄球を吸収する様を見て驚愕する。
「あれって、変なファッションじゃ無かったんだ…あれもエクゾスカル計画の一つ?」
A-01の隊員達は、覚悟の体に埋まる零式鉄球を独特のファッションだと思い、あえて触れずにいたのだ。
三階の壁面に覚悟がとりつくと同時に、戦車級がそれを追いかけるように、覚悟以上のジャンプ力で一気に襲いかかる。
戦車級の恐るべきところは、何でも噛る咬合力だけではない、一瞬で戦術機の頭まで飛び上がる跳躍力でもあるのだ。
だが、覚悟は戦車級の、跳躍する直前の一瞬の溜めを見切り、すでに零式の技に移っていた。後ろの廃ビルの壁を思い切り蹴り、推進力を得て、蹴りの構えで空中の戦車級に向けて飛び出す。
「零式奥技大義っ!」
空中で因果のタイミングで戦車級と覚悟が交差する。
ズガァァッッ!!!
軍配は、覚悟の方に上がった。戦車級は自分自身の恐ろしい跳躍力がそのまま自分に返り、覚悟に体を突き破られた。
重力が90kgある零を着装できない今、覚悟の打撃力は著しく落ちている。しかし、零式鉄球を纏い因果を決めれば、戦車級であれどひとたまりもない。
一匹目の戦車級を倒し、地面に着地しようとする覚悟に、二匹目の戦車級の手が伸びる。
だが、覚悟はその動きも見越したように、空中で逆に戦車級の腕に取り付いた。
「撃つ蹴るだけが、零式に非ず!」
覚悟は、長い戦車級の腕に全身を使った腕ひしぎ十字固めを掛けると同時に、落下の勢いを殺さず大回転。そして、
メリメリメリメリ……ブチィッッ!!!
戦車級の巨大な腕を引きちぎった。
「零式・零十字っ!!」
跳躍式逆関節技『零式防衛術・零十字』
技のかけ始めは、只の腕ひしぎにしか見えない。だが、それだけでは終わらない。零十字は、腕の肘関節を折ると同時に全身すべてを使った回転で前腕部をねじり切るという手加減不可な凶悪な技なのだ。
覚悟は、引きちぎった腕を捨てながら、戦車級に飛び乗り、間髪入れず零式鉄球を纏った拳で、高速の下段付きを放つ。
「直突き(じき)!直突き(じき)!直突き(じき)!直突き(じきぃっ)……!」
ドドドドドドドド!
やがて、覚悟の拳が、戦車級の体を突き破り地面に届く。それと同時に二匹目の戦車級は、動かなくなった。
そして、一息つく暇を与えず、戦車級に止めを指した覚悟に俊敏な闘士級が背後から迫り来る。
闘士級は、象のような触手で背後から覚悟を狙い、その突きが右肩に炸裂した。しかし、その瞬間、突いた力を利用して、覚悟の体が横に回転した。覚悟は、闘士級の攻撃を見切って、その突きの力を利用したのだ。そして、遠心力に乗って、右足で蹴りを放つ。
「零式積極重爆蹴っ!」
グリリッ!
覚悟の蹴りを頭部に受けた闘士級は、頭部が二回転し、回転断裂葬。
(……あいつの強さ、見くびっていたわ。こんなことなら、突撃級や要撃級を用意するべきだった。)
BETAを次々と葬る覚悟を見て夕呼は、頭の中で後悔する。しかし、胸の中では心地好い興奮に溢れていた。
夕呼は、今まで何十回と、BETAに食われていく衛士の悲鳴や咀嚼音を機械越しに聞いていた。その度に表情には出さないが、恨みや憎しみをBETAに募らせていた。だが今、夕呼の目の前で逆に人間が素手?でBETAを蹂躙する痛快な様が映っている。それ故に頭の中では、覚悟の死を願うも胸の内では、さらなる活躍を願ってしまう。
それは、A-01の隊員達も一緒であった。
最初の数分は、覚悟の棄権を望んでいたものの、現在は夕呼と同じく興奮気味に覚悟の活躍を見ている。
((((((頑張れ…頑張れ!葉隠!))))))
だが、自分を興奮気味に見守る周囲に反して、覚悟は表情に出さないが背中に大量の冷や汗をかいていた。
(この者達、十日前の戦闘でも感じたが、類を見ない残虐な働きをしても、殺気が全く感じられぬ!こんな生物がこの世に存在するのか!?直接的な戦闘力自体は、戦術鬼とそう変わらぬが、感情や思考が読めない分、こちらの方が数段手強い!!)
そして、二匹の戦車級と一匹の闘士級を倒した覚悟に、最後の戦車級が時速80kmで迫る。
(十日前の密集した状態では分かりにくかったが、この戦車級というもの。足の速さは、私より確実に速い!)
覚悟は、戦車級の迫る様を見て、右手を下げながら深く前屈みになった。
構える覚悟に戦車級が、地面を這うのがまどろっこしいと言わんばかりに跳躍し、大口を開けながら、空中から襲いかかる。
覚悟は冷静に、空中で迫る戦車級の大口の下顎辺りに勢いよく掌を押し当てた。
「螺旋!」
『螺旋』それは大地の威力を十二分に体の中で回転させ、それを相手の体内に放ち、内臓を回転させ爆発させる零式の技。
螺旋を受けた戦車級は、空中でビクリと痙攣したと思うと、地面に着地した瞬間、袋を裏返したように、色々な物を噴水の如く空に吐き出し始めた。
そして、戦車級の死を確信する覚悟に最後の闘士級が迫り来る。覚悟は戦車級から目を外し、例え最後の一匹であろうとも油断なく闘士級を見据え、迎撃の構えを取り、因果を狙う。
しかし、対峙する一人と一匹に螺旋の一撃で吹き上げられた戦車級の内容物が雨のごとく降り注いだ。その中で一際大きいある物体が、迎撃する覚悟の目の前に落下してきた。
「?!」
迫る闘士級を見据える覚悟の視界を遮ったのは、生きながら食われたであろうヘルメットを被った衛士の上半身であった。死体はもう十日も前ゆえに腐りはてて、ガスで膨らんでいる。それは、腕の長さ、ヘルメットからはみ出ている長髪をみる限り恐らくは、女性の衛士。
ドクン!!!
「バイタルが!!」
遥は、どれだけ動いても穏やかだった覚悟のバイタルがいきなり乱れ驚愕する。
覚悟は、感受性の豊かさゆえにその衛士が、死ぬ前に辿った痛みや苦しみを普通の人間よりも感じてしまう。そして、英吉に襲われた武装風紀や覇岡を見た時と同じように怒りに心を曇らせ、バイタルが乱れたのだ。
それでも相手が散ではない闘士級故に、覚悟の因果の拳が先に届くはずであった。しかし、落下する衛士の遺体が闘士級を写す覚悟の視界を遮ってしまう。それにより、例え遺体であろうと敬意を払い無下にできない覚悟と、ためらわない闘士級の差が、残酷な結果で表れた。
ドム!!!
覚悟の拳より先に闘士級の触手が、容赦なく覚悟の顔面を思い切り突き、そして……
ドガァァッ!
覚悟は、思い切り吹き飛ばされ、近くのビル壁に上半身が仰向けでめり込んだ。
その様子は、壁の中で隠れてはいるが、覚悟の頭部が破壊されていることは、想像に難くなかった。
A-01の隊員達は、先程の興奮した状態が嘘のように、絶望の表情となった。
茜も他の隊員と同じ表情で壁にめり込んだ覚悟を見ている。
(う、嘘…葉隠…君、死んだの……)
覚悟のススメの覚悟は、後半になると最初と比べて戦術鬼を素手で楽に何体も倒しているので、エクゾスカルの覚悟より、あからさまに強いと思います。
BETAの体内に発信器や爆弾をつける作戦、本当にできるのか疑問を持ちながら書きました。すぐにでも取り除かれるような?
もし、原作で否定されているシーンがあれば、感想欄にお便り下さい。
後半も三月以内に挙げられると思います。