マブラヴ オルタネイティヴ episode HAGAKURE 作:不屈闘志
「チッ!」
夕呼はみちるに聞こえないほど小さな舌打ちをした。が、すぐにその不機嫌に舌打ちをした自分の感情に疑問を持つ。
(何を舌打ちしてるの、あたしは? これであいつが隠してる『核融合エンジン』や『人工AI』の技術が手に入るんじゃない。むしろ、計画通りで喜ぶべきでしょ。)
一方、夕呼の近くに立つみちるは、夕呼以上に厳しい表情で画面を見ていた。
(葉隠が死んだ…私の最初で最後の大切な生徒が…体力、才能、直向きさもかつての私より遥かに溢れていたのに…)
みちるは、ここが自室なら悲しみのあまり泣いていただろう。かつて訓練兵時に見た、自分の教え子を事故で亡くし、自室で隠れて泣いていた元教官である神宮寺まりものように。しかし、みちるは今現在、自らが教官であり、ましてや演習の最中である。故に悲しみを圧し殺すような厳しい顔しかできなかった。
同時刻、A-01の隊員達も、モニター越しに頭が壁にめり込む覚悟を見ていた。彼女達の表情は、悲しみ、怒り、絶望など様々だ。今まで何人もの仲間を見送った彼女達だが、それに慣れることは有りえなかった。
そして、複雑な周囲の人間達の反応をよそに、さらに闘士級は、覚悟の体を解体する為に右腕に触手を伸ばし始めた。
死体に対しても容赦がない闘士級の行動にみちるは厳しい顔のままだが、あくまでも冷静に夕呼へ意見する。
「副指令…よろしければ自爆のボタンを。なるべく葉隠の遺体を損傷なく回収させて下さい。」
「…………」
夕呼は、みちるの進言に無言で頷き、闘士級の自爆ボタンを押そうと胸元からスイッチを取り出す。
(葉隠…貴方の死は事故として処理され、墓も立たないわ。けれど、安心して…貴方の残した技術は、私が人類のために有効活用して…え?)
夕呼は、画面の中の闘士級の様子を見て表情が変わった。
「……待って! 伊隅、あれを見て!」
「!?」
画面の中の闘士級は、何故か触手を覚悟の右腕に巻き付けたまま動かない。闘士級の象の鼻のような触手は、人間の首を引き抜く程の力があるはずなのにだ。
「ま、まさか?」
触手が制止しているのではない。闘士級は覚悟の腕を何故か引きちぎれず、互角の綱引きをしているように体全体を使って踏ん張っているのだ。よく見れば、死んでいるはずの覚悟の指が万力の如く闘士級の触手を握りしめ逆に引っ張り返している。
「副司令! これを!」
遥が画面を見てくださいと言わんばかりに夕呼とみちるに叫んだ。
急いで二人は、遥が指定する画面を確認する。
「副司令!?」
「こ、これは!?」
画面には覚悟のバイタルが映っており、心臓の鼓動が力強く波打っていた。
ガラガラッ…
夕呼達が、画面で覚悟のバイタルを確認した数秒後、覚悟の上半身がゆっくりとめり込んだ壁から現れた。壁から出てきた覚悟の頭部は出血など一切見えず、さらに髪の毛も顔のパーツすべても確認できなかった。それは、頭部が壁に激突してぐちゃぐちゃだからではない。首から頭の頂点が、光輝く金属に覆われていたからだ。
それを見た夕呼は、残念そうではなく、興奮した声で呟く。
「なるほど…器用なものね。闘士級の一撃が入るわずかな瞬間に避けれないと判断して、零式鉄球を頭まで覆って凌いだのね。」
覚悟は、金属を吸収して元の頭に戻ると闘士級に対して向き直る。
「貴様らの戦闘行為、残虐極まりないが、それに反して殺気が全く感じられぬ故に一撃を許した。 だが…もう食らわぬ! でやぁっ!」
そう言い切った覚悟は、掴んでいる右手で闘士級の触手を思い切り引き、ピンと張り積めさせた。それと同時に左腕を振り上げる。
「零式鉄球!」
振り上げた左手の表皮から、零式鉄球をナイフの如く尖らせた瞬間…
ザシュ!
間髪入れずに振り下ろし、闘士級の触手を切断した。
しかし、闘士級は切断に怯まず、人に当たれば粉砕骨折必至の蹴りを放つ。
だが、覚悟は冷静にその蹴りをかがんでかわし、唯一バランスを取っている残りの足に組み付き、零式の関節技を放つ。
「零式巨兵殺し!」
ベキャ!
覚悟のヒールホールドは、闘士級の足関節を一瞬で粉砕した。
グラッ…
闘士級は、まともな足が残り一本となり、バランスを崩す。
倒れかけ、大きな隙を見せた闘士級に覚悟のさらなる零式の技が炸裂する。
「零式両手螺旋!」
ずぶぶ!!!
覚悟は、空手の抜き手のような技を両手で放ち、闘士級の体を貫いた。普通の生物なら、この時点で命を失うだろう。だが、この時覚悟は忘れていた、地球上の生物とBETAは、根本的に違う構造だと。
「なにっ!?」
ググググッ…
腹部を両手で貫かれたまま闘士級は、その深手にも関わらず覚悟に迫り来る。
「やはりこの生物、全く油断がならぬ!ならば!!」
BETAのしぶとさを再確認した覚悟は、闘士級を貫いたまま、空へ向かって縦に回転しながら跳躍した。
「零式超旋回!」
闘士級は、凄まじい回転により発生した遠心力に引っ張られ反撃できない。
覚悟は、回転しながらもさらに叫ぶ。
「貴様を倒すのは、『俺』ではないっ!貴様らが何十年も、無抵抗が故に傷付けてきた物言わぬ大地なりっ!」
やがて覚悟と闘士級は、高速回転しながらも、重力に引かれて地面に近づいていく。
戦術機の中で覚悟の様子を見ているA-01の隊員達は、心の中ではなく、声に出して叫ぶ。
「「「「「「いっけぇぇっー!葉隠ぇぇ!」」」」」
「兄上直伝、星義スープレックスッ!!!!」
ドグチャァァッッッ!!!!
覚悟渾身の星義スープレックスにより、闘士級の上半身は、勢いよく地面に衝突しグチャグチャに潰れた。
それは、散々削られ抉られてきた物言わぬ大地が、BETAに対して初めて反逆した瞬間でもあった。
半秒ほどブリッジしたままの覚悟だったが、素早く技を解き、闘士級の生命活動の停止を己の手で実感しながらも、残りの敵がいないか五感すべてを使い辺りを探る。
「…………」
BETAは、殺気を出さずに相手を殺すことができるが、もう何も感じられない。今度こそすべて殲滅させたものと確信し警戒を解く。しかし、覚悟は、構えを解きながらも集合地点へと向かわずに、別の方向へと走る。
((((((?)))))
みちる含む周囲の者達が覚悟の行動を何をするつもりだ?というふうに不思議そうに見守るなか、覚悟が向かった先は、螺旋で戦車級の体内から吐き出された上半身だけの衛士の遺体だった。
そして、遺体の前に付くと右手を素早く上げる。
覚悟がしたのは敬礼だった。
(祖国を守るため、戦いの中で散っていった誇り高き戦士よ。暫しの間、無惨な姿白昼に晒すこと許したまへ。願わくは、その魂、御家族の下へご帰還できますよう…)
任務中でも死者に敬意を払う覚悟を見たみちるは、小さく呟く。
「馬鹿者…作戦行動中だぞ。減点だな…」
言動とは裏腹に、みちるの表情は笑みを浮かべ爽やかだった。
その後、敬礼を終えた覚悟は、すぐに全速力でみちると夕呼の下へと急いだ。
◇
数分後、通信車の前、夕呼と戦術機から降りたA-01の隊員達が見守る中、覚悟は、厳しい顔に戻ったみちるから総戦技演習の総評を聞いていた。
その内容は、『最初の銃を持った者達に対しては、もっと気を付けて慎重に行動すること』、『危険な高射砲は直接攻撃するよりも反撃しないレドームをまず探すこと』、『遺体に敬礼するよりも任務を優先すること』といった細かいことであった。
覚悟は、みちるの指摘に真面目な顔で素直に頷く。
A-01の面々は、そのやり取りをみちるの背後から笑顔で見ていた。彼女達は、みちるが本当は、BETAから生き残った覚悟に真っ先に合格だと伝えて、一緒に喜びたいのを我慢し、あえて教官として厳しい態度で接しているのが解っているからだ。
そして…
「………ということだが、理解したか葉隠! 今回だけは偶然にも関門を突破出来たが、本番ではこうも容易くいかないことを肝に命じろ!」
「了解!」
「では、これで総戦技演習を終了する! 故に私の教官としての任もこれまでだ。これからは、教官ではなく大尉と呼ぶように。そして最後に…」
みちるの顔が優しい笑顔に変わった。
「合格おめでとう。葉隠訓練兵、よく頑張ったな…」
「はっ! これも伊隅教官のがおかげです!」
「馬鹿者、教官ではないく大尉と呼べと言っただろう。これから励めよ、葉隠。」
伊隅は、そう最後に告げると、覚悟に踵を返し、夕呼の方へと歩いて戻って行った。
そして、それと同時にみちるの背後にいたA-01の面々は、歓声を上げて覚悟に殺到した。
「葉隠っ! 良かったわねえ!」
「頭が壁にめり込んだ時は、死んだかと思ったよ!」
「BETAを素手で倒すなんて凄いわ!」
「有難うございます。これも皆様に御指導を頂いたおかげです。」
覚悟は、総戦技演習に出発するに見せた爽やかな笑顔ではなく、相変わらずの無表情で答えた。
その言葉を聞いた茜は、あきれたような顔になり、一週間何度も繰り返したツッコミと小言が混ざった口調を覚悟に浴びせ始める。
「いやいや、私達は、あくまで衛士として基本的な事を教えただけだよ。高射砲を石で投球して壊したり、BETAを素手でぶっ殺したりとかハチャメチャなことは、スン…一切教えた覚えはないから。それと…」
しかし、段々とその口調が鼻声になり、瞳が涙で潤んでくるが他の隊員達にも分かった。
そして…
「けど…本当に…生きてて良かっ…は!?」
遂に覚悟が生還して本当に嬉しいと言った胸の内が漏れ出てしまう。
だが、その瞬間、自分の潤んだ瞳を周りの隊員達に笑顔で注目されていることに気付き、茜は途中で言葉を区切り覚悟に背を向けた。
「ふ、ふん! 君に死なれちゃあ、散々迷惑を掛けられた仕返しが出来ないだけだよ! 前にも言ったけど、衛士になってヴァルキリーズに入隊したら、伊隅隊長以上にシゴイてあげるんだからっ!」
覚悟は、茜の気持ちに気づいているのか、いないのか解らないような、いつもの無表情で敬礼をする。
「涼宮少尉の私の未来までの心配り、誠に痛み入ります!」
覚悟の相変わらずの言動に茜は、後ろを振り向いたままボソリと呟いた。
「……頑張りなさいよね。」
そんな和やか雰囲気を一新させるようなみちるの声が響く。
「コラッ! いつまで浮かれている! 葉隠はともかく貴様らの仕事は、まだ終わってない! 早くBETAの死体と壊れた機関銃の撤去だ! それが終わったらまた訓練だぞ! モタモタするなっ!」
「「「「「了解っ!!!」」」」」
みちるの一声に茜を始めとしたA-01の隊員たちは、元の軍人の顔に戻り、覚悟に目も向けずに己の戦術機に向かって走って行った。
(伊隅教官…もとい大尉殿、A-01の皆様方。総戦技演習に合格したのも貴方達のおかげです。まことにありがとうございました。)
その場を去るA-01の戦術機に向かって覚悟は、彼女達が見えなくなるまで敬礼を続けた。
◇
同日
11時30分
執務室
「午後は、好きに過ごせと?」
「そ、前にも言ったけど、207小隊がまだ演習で帰ってきてないのよ。だから、今は本当に何にもすることがないの。」
覚悟は、試験の後、夕呼の部屋に呼ばれていた。
夕呼の言うには、覚悟が所属するはずの第207衞士訓練分隊B小隊は、昨日まで離島で試験をしており、帰るのは本日の18時になる予定であること。小隊がいない今現在、覚悟に命令することはなく、17時30分までは自由にして良いことである。
「本当によろしいのですか?」
覚悟の再度の念押しに、夕呼は手の平を不機嫌そうに振りながら答える。
「良いわよ別に。あたしは、試験受かった直後に次はこれ勉強しとけとか、教官の真似事とかやりたくないし、そんなのは本当の教官に任せるわ。けど、そうね…」
夕呼は顎に指を当て数秒間考える素振りを見せる。
「じゃあ、月狼と零を連れてここらへん見て回んなさいな。この基地以外のことは、演習場だけじゃ解らないでしょ?」
◇
14時20分
柊町の商店街跡
覚悟は月狼に乗り、後部座席の零ともに疾走していた。覚悟は、散から貰った月狼に乗るのは、彫刻と同じく数少ない趣味の一つであり、前の世界でもよく罪子と様々なことを語り合いながら走ったのは、胸の内に輝く宝石の一つだ。
しかし、この世界で初めて思う存分疾走している筈の覚悟は零とともに血涙を流していた。
覚悟が通る道に次々と現れる商店街、病院、噴水、駅といった建築物、そのすべてが崩壊していたからだ。かつて覚悟の世界でも崩壊した街は日本中でも見られた。しかし、決定的に違う点がある。
そこら中に残る弾痕、時間が経ちどす黒く変色した血潮、そして、撃墜された戦術機の数々。
それは新エネルギーの開発事故や大地震ではあり得ない戦場の傷跡。
ヴヴヴヴヴヴヴヴヴ…
覚悟と共にすすり泣くように震える学生鞄。
(演習場以上に何処までも続く凄まじい戦禍の傷跡…BETAとの戦いは、こんなにも凄まじいものだったのかっ?)
二時間後
荒れ果てた廃墟を疾走し続けた覚悟は、ある建物の前に人狼を停車させ、七生と書かれたヘルメットを脱ぐ。そこは撃墜されたであろう戦術機によって半壊した一般家屋の前。現れた覚悟の表情は、やるせなさに満ちていた。
(兄上もこうやって荒れ果てた大地を見て、人類を憎んだのか…今の俺なら、兄上の痛みがあの時よりも解る。元来のお優しい心を殺してまで、人類を憎まなければならなかった痛みが…)
零式防衛術は、敵を憎んではならない。憎むのは敵を恐れる己の心。しかし、零式防衛術で殺しても次々と生まれてくるBETAに対する憎しみ、怒り、恨み、そして無慈悲に殺されたであろう人々の悲しみ、嘆き、無念さが覚悟の胸中を嵐のように渦巻く。
やがて覚悟は、我慢しきれなくなったかのように大声で叫んだ。
「う…お…おおおおおぁぁぁっっっ……!!!!!!」
『桜歌七生撃』の声量以上の悲しみの声が、廃墟の街に虚しく木霊した。
(俺の新たなる任務。それは残存人類を無常にも虐殺する地球外起源種共の撃滅…)
叫びながら覚悟は、胸に新たなる誓いを立てた。
同時刻
執務室
ピクッ…
突如、霞は何かを感じ振り返る。
「どうしたの? 霞?」
それを執務室のデスクで不思議そうに見る夕呼。
「いえ…」
「そう? それよりも本当にあいつは、盗聴器とか仕掛けずにここを出て行ったの?」
「大丈夫です。目の前で鞄も持っていきましたし、声も聞こえません。」
「わかったわ。」
夕呼は納得すると、机上の受話器を取っておもむろに話し始めた。
「もしもし。ピアティフ? いきなりで悪いけど、米国の……に繋いでくれない? え? 米国は今、深夜? 大丈夫よ、私は気にしないわ…冗談よ。重要なことだし。これを聞いたら飛び起きるわ。」
すぐに夕呼の耳に電話の待合音が響く。それを聞きながら、夕呼は本日の覚悟の総戦技演習を心の中で振り返る。
(葉隠が死ななかったのは、やや残念ではあるけど、オルタネイティブⅤ発動の12月までまだ時間がある。それよりも、まずはあの機体を取り寄せる方が先決だわ。この電話を聞かせないために覚悟を基地外に行かせたのは成功したけど、この話し合いはどうなるかしら…)
その考えを遮るかのように電話の聞き取り口から、不機嫌かつ眠たそうな声が聞こえてきた。そんな声に構わず、夕呼は口を開く。
「もしもし、夜分申し訳ありません。オルタネイティブⅣ関連ではないのですが、お伝えしたいことが。いえ、あの話でも有りませんわ。単刀直入に申し上げます。あの葉隠四郎の46文書を入手致しました。いえ…冗談ではなく本当です、本当なのです。」
電話先の気怠げな雰囲気が一変し、いきなり興奮した口調になる。
「落ち着いて下さい。入手方法はご想像にお任せいたしますわ。そして、肝心の内容ですが、残念ながらあの悪鬼の研究でも、BETAを瞬時に全滅させるほどの物は有りませんでした。しかし、今現在でも考えられない設計の…戦局が確実に有利となる発明品が、多数見つかりました。あとで動画とデータもお送り致します。その変わりに…」
◇
横浜基地正面ゲート
17時00分
新たなる思いを纏った覚悟は、横浜基地の正面ゲートに付くと同時に月狼から降り立った。顔を見せるためヘルメットを脱いでいると、午前にいた兵とは違う黒人とアジア人の門兵がやってくる。二人は覚悟の前に立つと先に黒人の門兵が口を開いた。
「午前ギリギリに外出した者がいるとファイルにあったが、物好きな奴だなぁ。何処までも行っても廃墟だろうに。」
その黒人の人懐こい笑顔に対して、覚悟は敬礼しながら無表情で答える。
「恥ずかしながら、ここに入校してから一度も守護るべき地を確認しておりませんでしたので。」
覚悟の言葉を聞いたアジア人の門兵は、寂しげな笑顔でを見せる。
「そうか…お前新入りなのか。それにしても真面目な奴だなぁ。じゃあ、許可証と認識票を出してくれ。」
覚悟は、言われた通り許可証と認識票を二人に提示した。
それを本物であると確認した二人は、すぐに門を開く。
「OK! 通っていいぜ!」
覚悟は、月狼を再び押しながらゲートを通過し、夕呼の所ではなくまずは月狼を停めるための駐車場へと向かって行った。
その後ろ姿を門兵二人は、興味深そうに見送る。
「この前、無理矢理通ろうとした新入りとは何か正反対な感じだな?」
「ああ、けどあいつが被ってた自筆で書いたっぽい『なましち?』って漢字の白へる…」
二人は、面白そうに顔を見合わせる。
「「ちょーCooolだなっ!」」
数分後、月狼を駐車場に止める覚悟を、今度は30m後方から訓練から帰るA-01のメンバーが見つけた。
早速、いつもの様に水月が気軽に声を掛けようとする。
「あ、葉隠だ…おー「止めとけ、水瀬」い?」
その水月をみちるが珍しく止めた。
「B小隊がもう帰っていると言えば解るだろう?」
「ああ、そうですね。上官である私達が引き留めて遅刻させたら悪いですよね。」
やがて覚悟は、後方のA-01の隊員達に気付かないまま、夕呼のいる建物へと入り見えなくなった。
それを無言で見送った隊員達だが、茜がその沈黙を破る。
「晴子…あいつ、B小隊でやってけるか心配ね。鎧衣や珠瀬ならすぐに打ち解けそうだけど…」
同調する様に同じ訓練小隊であった晴子が口を開く。
「まぁ確かに、マイペースな彩峰はよくわかんないけど、意外と御剣とは仲良くできる気がする。けど、榊とは…」
「まぁ、最初の私達みたいに100%、厄介なことになりそうね。」
そんなやや不安気に話す二人の間にみちるが割って入る。
「私は大丈夫だと思うぞ。忘れたか? 207小隊の教官は我らを教育したあの神宮寺軍曹だぞ。一時的な教官である私より上手くやるはずだ。一応は、通信で葉隠のことを伝えたが、全力で衛士にすると言っていた。」
みちるの言葉に茜は、納得したような顔になる。
「私は伊隅大尉も葉隠をよく指導したと思いますが、そうですね。神宮寺教官…もとい軍曹なら大丈夫でしょう。」
「けれど、隊長! 私はもう一つ気になることが有ります。」
安心した茜とみちるの会話に、今度は水月が手を上げながら元気に間に入る。
「ん、何か他に心配事か?」
「心配事では無いのですが、さっき葉隠が持っていた『七生』と筆で書かれたヘルメット、もしかして自筆で書いたのか少々気になります。」
「ああ、あれか。私も少し気になったが…葉隠の性格上、自分で書いたと思うぞ。」
そうみちるが言うとA-01の面々は、覚悟が筆を使って悪戦苦闘する姿やマスクとゴーグルをしてスプレーをかける姿を思い浮かべた。
(((((((((戦術機ならともかく、白ヘルメットにあのデザインはちょっとダサい…かな…))))))))
そんな周囲の思いを知らない覚悟は、夕呼の執務室前に付いた。扉の向こうの気配を感じながら、そのまま覚悟はノックをする。
コンコンコン…
するとすぐに扉の向こうから夕呼の声が響いた。
「ああ、葉隠ね。入ってらっしゃい。」
「失礼します…!?」
覚悟が扉を開けるとそこには、机に座る夕呼ともう一人、短髪で凛々しい表情の覚悟と同じ訓練兵がいた。
「すみません。お取り込み中でしたか?」
「いいえ、違うわ。あんたが来るのを待ってたのよ。紹介するわ。こいつが以前言っていた平行世界から来たもう一人の…」
すると青年の訓練兵は、覚悟に近付くと笑顔で右手を差し出した。
「白銀武だ。葉隠覚悟って言うのか。お前も平行世界から来たんだってな。夕呼先生から大まかなことは聞いてる。呼び方は武でいいぜ。」
青年の名は、『白銀武』。覚悟と同じく平行世界から召喚された男である。夕呼のオルタネイティブⅣと人類滅亡の引き金となるⅤのことを知る数少ない人物でもある。武は、予定よりも早く離島から軍基地に戻ることができ、総戦技演習の合格を伝えるために覚悟よりも早く夕呼の下へと来たのだ。
そこから、夕呼から覚悟のことを説明されるが、武は、最初は覚悟のことを怪しんだ。武の目的は、オルタネイティブⅤの発動を止め、オルタネイティブⅣを成功させることである。故に自分の過去の記憶にない覚悟の出現にオルタネイティブⅣの障害となるのではと考えたのだ。
しかし、覚悟の能力、武装の数々はオルタネイティブⅤを遅らすことができると聞き、考えを改めた。それに元々武は心の底では、自分と同じような特殊な境遇の者がいることが素直に嬉しかったのだ。
「葉隠覚悟だ。こちらも覚悟で構わん。よろしく頼む。」
覚悟は、無表情ながらも快く握手に応じた。
ギュッ…
「「………………ッ!?」」
しかし、お互い手を握りあった瞬間、二人は不思議な感覚に包まれた。
(なんだこの感覚? 覚悟は、前の、そのまた前の世界にもいなかった筈なのに、まるで昔からの兄弟みたいな感じがしやがる。)
(この武という者、初めて応対したのにも関わらず、強烈なシンパシーを感じる? 何故だ?)
二人は、まるでもう一人の自分にあったかのような不思議な共有感覚を感じていた。それはまるで題名とジャンルは違うが、同じ熱血歌手が主題歌を歌う別のアニメの主人公が、作品を越えて共に手を取り合ったかのような…
暫く無言で握手をし続ける遠い目をした両者に夕呼は、不思議そう顔で声をかける。
「どうしたの? あんた達? もしかして二人共そっちの人なの?」
すると二人は、慌てて我に還り、すぐにに手を離した。
「へ、変なことを言わないで下さいよ! 先生!」
「私としたことが…一瞬我を忘れていた。」
自分から声をかけたのにも関わらず釈明する二人を無視し、夕呼は興味なさそうに手を叩く。
「はいはい…まぁ冗談はさておき、白銀は一旦、みんながいる教場に戻りなさい。葉隠は、後でまりもと一緒に行くわ。」
「そうですか…じゃあな覚悟! また会おうぜ! 今夜は、お前の世界の話聞かせてくれよ!」
「了解だ。武よ。」
武はそう言って勢いよく扉を開けて、他の隊員達が待つ教場へと向かって行った。
(すげえ奴が助っ人に来てくれたもんだぜ。それに総戦技演習も全員合格出来たし。もしかしたら…いや、確実に未来はいい方向に向かって来ている!)
その足取りは、本人の浮かれている気分と相まって非常に軽かった。
◇
18時00分
第207小隊教場
教場に着いた武は、5人の少女達に覚悟のことを聞かれていた。彼女達は、第207小隊B分隊の隊員たちである。
彼女達は、覚悟の紹介の為だけに教場に集められていた。
「武さん、何で新しい隊員さんのことを秘密にするんですかぁ? もう会ったんなら教えて下さいよ。せめて名前だけでも。」
「そうだよ、武。先に一人だけ会うなんてずるいよ。ボクなんて帰りの船の中、どんな人が来るかずっと気になってたんだからね。」
武に無邪気に問いかけるのは、ピンク色の髪に二つのお下げをしている猫のような可愛らしい雰囲気の少女『珠瀬壬姫』と一見、男性が女性かわからないようなボーイッシュな短い空色の髪の少女『鎧衣美琴』。
「もうよいではないか、二人とも。後、数分で嫌でもわかることだ。」
「そうよね…まぁどうせ白銀以上の変な奴はもう来ないと思うし…」
そう二人を宥めるのは、濃い青い髪をサムライポニーのように括っている鋭い目つきをした少女『御剣冥夜』、黒い髪を纏めず無造作に下ろしているやや気怠げな少女『彩峰慧』だ。
「へへっ、まぁ俺から言えるのは、俺に似てとても頼りになりそうなやつってだけだ。」
そんなやり取りを見ていた茶色い髪に二つの三つ編みをしている真面目そうな眼鏡をかけた少女『榊 千鶴』は、騒がしい五人を注意する。
「貴方達、静かに!もう時間よ!」
その声が終わると同時に教場の前の引き戸がガラリと開き、一人の茶色い長髪の女性が入って来た。指導教官である神宮寺みちるである。
みちるが壇上に立つと分隊長である榊 が声を上げる。
「起立! 敬礼! 着席!」
武達は、私語を止め真剣な顔になる。
みちるは壇上で六人をゆっくり見回すと大きく口を開いた。
「諸君、総戦技演習ご苦労だった。明日からまたより厳しい訓練が始まるから、早く休めと言いたいところだが、その前に今日の昼に言っていた新しい小隊の隊員を紹介する! おい、入れ!」
そうみちるが引き戸に声をかけると、ガラリと戸が開き、無表情の覚悟が入ってくる。その姿を見て武以外の五人は、思い思いの感想を抱く。
(うわぁ、見るからに軍人って人だぁ~)
(武みたいに仲良くできるかな?)
(あの歩き方、何か日本武道を納めている…)
(一見、榊みたいなやつ…もしかしたら苦手かも?)
(真面目そうな雰囲気ね。彩峰みたいなやつじゃなくて助かったわ。)
だが、その思いは十秒後に粉々に吹き飛ぶことになる。
みちるは、自分の隣に立つ覚悟に声をかける。
「おい、自己紹介をしろ。」
「了解、本日付けでこの第207小隊B分隊に入隊いたします。『葉隠覚悟』と申します!」
覚悟は六人に対して見事な敬礼をした。
(ふふふ、こいつがBETAを素手でぶっ飛ばせるって知ったら驚く……え!?)
心の中でニヤつく武は、五人をチラリと横目で盗み見ると目を疑った。
五人は、覚悟を自分が入隊した時のような仲間を迎え入れるような目ではなく、目を大きく見開き、信じられない異分子を見るような目で見ていたからだ。
そんな中、覚悟の敬礼が終わる前にいつもなら任務中や授業中、絶対に口を挟まない筈の冥夜が、頭の中の思っていることが溢れ出るように呟いた。
「『葉隠』…四郎と同じ…悪鬼の一族…」
久しぶりに自分の小説を読んでる途中で、当時の自分の熱に感化されてしまい、気が付いたら続きを書いていました。
後、あの状態じゃ覚悟は、死んだままだし…目覚めが悪くて…
本当は、二年前の時点で二千文字くらい書いていたのですが、色々ありまして…とにかく二年間、開けてすいません。
次もいつ書けるか解らないので気長にお待ち下さい。
こんな私が言うのもなんですが、劇光仮面とマブラヴのアニメ、早く続きが見たいです。