マブラヴ オルタネイティヴ episode HAGAKURE   作:不屈闘志

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第十三話 悪鬼の一族

 武以外の五人は、覚悟が名乗った『葉隠』という名字に絶句していた。

 

 彼女達は、周りの者には秘密にしているが、それぞれ武家、軍、政府のトップクラスの家柄であり、この基地に来るまで特別な環境で生きてきた。故に同じ国連軍であるが、一般家庭出のみちるや茜といった者には、知り得ない知識も有している。そして、その知識の中にある葉隠という名字を聞き、彼女達が一瞬で連想した言葉は、もう滅びた武家、亜細亜最悪最凶の軍人、日本帝国の顔に永遠に消えない泥を塗った部隊と様々だが、全員が共通している認識がある。

 

 それは…

 

『人の皮を被った悪鬼の一族』。

 

 一方、武は五人の表情に困惑していた。

 

 (今も前の世界でも初対面の俺に優しくしてくれたお前らが、何でそんな顔をしてるんだ!?)

 

 武は、過去の足手まといの自分と今の訓練兵以上の実力を持つ得体の知れない自分を受け入れてくれた五人が、初対面の真面目そうな印象しか受けない覚悟を異質物を見る目で見ていたことが信じられなかった。

 

 そんな一秒にも満たない異様な雰囲気の中、冥夜がボソリと呟いた。

 

「『葉隠』…四郎と同じ…悪鬼の一族…」

 

 だが、次の瞬間…

 

「御剣ィィッッッ! 貴様ァッ!! 入隊する仲間に対してその言葉は何だぁっ!?」

 

 普段は厳しい顔で檄を飛ばすのみのまりもが、本気の怒った顔で冥夜に向かって怒鳴った。

 

 その言葉に冥夜は自分がとんでもないことを口走ったことに気付き、素早く起立し深く頭を下げた。

 

「す、すまぬ! 私はなんということを口走ったのだ!? どうか、許すがよい! 葉隠っ!」

 

 悲痛な顔で頭を下げる冥夜に、さらなる厳しい言葉を投げようとするまりもだが、その前に覚悟が先に口を開いた。

 

「一向に構いません。君…いや御剣さんの言う通りですから。」

 

「え!?」

 

 予想外の言葉に冥夜が困惑した顔で頭を上げた。

 

「それで良いのか? 葉隠?」

 

 怒りの表情からやや悲しげな顔になったまりもは、葉隠に確かめる。まりもは、覚悟の事情をみちると夕呼から聞いていた。それは覚悟の曽祖父である葉隠四郎の瞬殺無音部隊、戦後の葉隠家への扱い、覚悟の生い立ち等である。それ故にみちるは、自分の教え子達の覚悟への扱いに敏感だった。

 

「私は少しも気にしておりません。ですゆえ、どうか彼女にご容赦を…」

 

 今度は、覚悟がまりもに頭を下げた。自らを卑下した者に対して、頭を下げる覚悟にまりもは軽くため息を付き再び六人に向き直った。

 

「そうか…もういい御剣、席に座れ! 葉隠に感謝しろよ! それと御剣だけではない! 次に誰か、似たような言葉を吐けば、私が厳罰に処す! 分かったか貴様ら!」

 

「「「「「「了解!」」」」」」

 

 みちるは、普段の教官の表情に戻る。

 

「ふぅ…まぁとにかくこうして、小隊がやっと七人揃ったんだ。明日からは気合を入れてゆけ。葉隠、貴様は白銀の後ろの席に座れ。」

 

「了解!」

 

 みちるの指差す白銀の後ろの席に覚悟は向かうが、覚悟が六人の席の間を通った時、今度は武含めた六人が、やや不思議な顔をした。

 

「「「「「「?」」」」」」 

 

 六人の鼻腔に嗅ぎなれない線香の匂いが漂って来たからだ。

 

(さっき会った時は気付かなかったけど、覚悟のヤツ葬式にでも行っていたのかなぁ?)

 

 不思議そうにしている六人にさらなるみちるの声が飛ぶ。

 

「後は、貴様らがこの隊のことを明日までにすべて教えろ。ではこれで解散!」

 

 みちるは、その言葉を最後に教室から出ていった。

 

 その数秒後、冥夜が素早く覚悟の席の前に立ち、他の者たちが注目するなか、覚悟に向かって再度深く頭を下げる。

 

「葉隠。もう一度、先程の無礼な言動を謝罪させて欲しい。本当に済まなかった。」

 

 目の前の申し訳ない顔で頭を下げる冥夜に覚悟は、先程と同じ無表情のまま声をかける。

 

「頭を上げてくれ、御剣さん。先程も申したように私は、御剣さんの言う通り、悪鬼の一族なり。だが、胸の内の心意気は君達と同じだと思っている。むしろ、こんな私を受け入れてくれと願い奉るのは私の方だ。」

 

 そう言いながら、覚悟は席を立ち六人に向かって冥夜以上に頭を深く下げた。

 

 そんな起立正し過ぎる覚悟に冥夜は頭を上げて慌てる。

 

「や、止めてくれ、葉隠! そんな態度を取られると逆に困ってしまう。許して貰うのはこちらの方だ!」

 

「では…」

 

「ああ、受け入れるからもう頭を上げてくれ!」

 

 そんな頭を下げっぱなしの二人のやり取りを見守る武、鎧衣、千鶴、慧、壬姫だったが、武には彼女達の表情が段々と柔らかくなっていくのが分かった。覚悟が自分達がかつて教えられた悪鬼の一族とはまるで違っていたからだ。

 

「ごめんなさい。葉隠さん、私も実はちょっと驚いちゃいました。」

「ボクもだよ。ごめんね変な顔して。」

「私も…ごめん。」

「確かに分隊長にあるまじき態度だったわ。」

 

 そして、彼女達も頭を下げる。その様子を見た白銀は、雰囲気が変わって安心したのか彼女達に明るく声をかける。

 

「おいおい、俺だけ仲間外れかよ〜。そもそも『アッキ』の一族ってどういう意味なんだ。お菓子の名前か? 葉隠って家族で何か昔やってたのか?」 

 

「それは…「言わなくて良いわよ、葉隠」?」

 

 覚悟が武に説明する前に千鶴がその言葉を遮った。

 

 不思議そうに千鶴の方を向く覚悟。

 

「あんなのをワザワザ説明しなくて良いわよ。すご~〜〜く長い歴史のお話なんだから。」

 

「ん、長くなる歴史の話なのか? まぁ、委員長がそう言うなら…別にいいかぁ。」

 

 千鶴は、何も知らない白銀に『悪鬼の一族』を説明すれば、自分達と同じように覚悟を見る目が変わってしまうことを恐れたのだ。

 

(白銀は気にしなさそうどけど…念のため。それにわざわざ、あんな日本帝国の恥部を説明するのも寒気が走るわ。お父さんの話では四郎の直系はもういないらしいし、この覚悟って人は、四郎とは血も繋がってもいない葉隠家の生き残りでしょう…まだいたのはちょっと驚いたけど。)

 

 覚悟も珍しくそんな千鶴の気持ちを汲み取った。

 

「了解した。委員長分隊長。」

 

「違う! 私の名前は委員長じゃないっ! 榊千鶴っ!ていうか、何で長が二つ付くのよっ!?」

 

「「「「「アハハハハハ……!!!!」」」」」

 

 教場に愉快な笑いが木霊した。

 

 

「じゃあ、こっちのチームは俺、彩峰、冥夜、そっちが覚悟、美琴、委員長な。タマは審判頼む。」

 

「わかりましたー!」

 

 その後、自己紹介を済ませた武達は、食堂に行く前に交流も兼ねてグラウンドでバレーをすることにした。普段なら、できるだけラリーを続かせる他愛もないものだが、武の久しぶりに対決したいの一言で本格的なバレーの勝負をすることになったのだ。

 

「初めてのチームプレイだね〜。」

「彩峰には、絶対に勝つわよ。葉隠!」

「了解…」

 

 そして、武チームのサーブからバレーが始まった。

 

「行くぜ覚悟っ!」

 

 武が思い切り打ち込んだボールが弧を描きながら、丁度覚悟の前に来る。しかし、覚悟は棒立ちでボールをわざと見送った。

 

 虚しくテンテンと地面を転がるボール。

 

「「「「「「?」」」」」」

 

 六人が不思議そうな顔をするなか、覚悟の声がその場に響く。

 

「どうした、武! カスリもせぬぞっ!」

 

「「「「「「「え?」」」」」」」

 

 一瞬、覚悟以外の者の時が止まった。

 

 数秒後、静止した時を破るかのように同じチームの美琴が、覚悟の後ろから恐る恐る声をかける。

 

「もしかして葉隠って…バレー初めてなの?」

 

「初心なり…」

 

「じゃあどんな球技だと思ってたの?」

 

「球を互いにぶつけ合い、どちらかが降参するまでそれを継続する勝負なり。」

 

 覚悟の頓珍漢な答えに美琴より先に千鶴が口を開け叫んだ。

 

「そんな根性で勝敗が決まるドッチボール、するわけないでしょうがぁっ!?」

 

「了解…」

 

 その後、すぐに千鶴は美琴とバレーのルールを覚悟に教え始めた。

 

 対戦相手と審判である武達四人は、二人に教えてもらっている覚悟の様子をすぐ近くで見守るが、彼等の表情は疑問点に溢れていた。

 

「あいつの世界…じゃなくて周りは何で遊んでたんだ?」

「うぅむ? もしや、あやつの性格から察するに訓練漬けの毎日だったのではないか?」

「真面目そうな人ですからねぇ。」

「ありえるかも…何か榊とは違った変な生真面目さを感じるし。」

 

 数分後…

 

「了解した。零式の戦技にバレーも追加しておこう。」

「分かったなら、今度は相手の陣地に向かって思い切りボールを打ち返しなさい。(零式?)」

「じゃあもう1回武のサーブからやろう。」

 

 美琴が声をかけると七人は、また試合前の位置に戻り、武がボールを持ち再びサーブの構えを取る。 

 

「行くぜ。うりゃあ!」

 

 武の打ったボールは、先程よりも高く打ち上がり、コートの後ろ側にいる美琴の方へと向かう。

 

 美琴もそれを予測し、迫るボールをレシーブしようと身構えた。

 

「よし! 今度は、ボ…ク…が…」

 

 しかし、構える美琴のボールへの視線を遮るように一体の影が舞い上がった。

 

 覚悟だ。

 

 覚悟は、自分の頭上を二mは超えて通過するであろうボールに助走なしの垂直跳びで一瞬で到達したのだ。

 

 覚悟の凄まじい跳躍力にバレーを忘れて目を見張る六人だが、当の覚悟はそんな彼等に気付かぬように千鶴に言われた通り、思い切り渾身の力を込めてスパイクを撃ち込んだ。そう、思い切り…

 

「因果ぁっ!」

 

 バゴォ゙ォ゙ォ゙ンッッッッ!!!!!!

 

 瞬間、周りに大音響が響いた。

 

 ボールが地面に激突した音ではない。その音は、覚悟の全力の因果にボールが耐えきれなくなり、爆発した音だった。

 

 六人がさらに絶句するなか、覚悟が音も立てずに着地する。

 

 数秒後、武チームの陣地に破れたボールがパサリと落ち、それと同時に審判の壬姫が一言呟いた。

 

「ボールが爆発しちゃった…これは、榊さんチームに一点なの…かな?」

 

「そんなわけ無いでしょぉっ!! 葉隠っ!! この馬鹿ぁっ!」

 

 本日、二度目の千鶴の怒号が辺りに響き渡った。

 

 

 19時00分

 PX

 

「まぁまぁ、委員長。葉隠も反省していることだし、許してやれよ。」

 

「むしろ隊員の失敗は、隊長の責任って自分で言ってなかった?…」

 

 七人は、ボールが破損した後にバレーを切り上げてPXにて食事を取っていた。しかし、その間、覚悟は千鶴から説教に近い小言をずっと聞かされていたのだった。

 

「解っているわよ。けど、明日から戦術機の操縦訓練が始まるし、解らないからって操縦機を壊されても困るわ。」

 

「榊隊長の言うことは尤もなり、是非もっと御指導頂きたい。」

 

 覚悟は千鶴の言うことを少しも嫌な顔をせずすべて聞いていた。元々、無表情だからということもあるが。

 

「ケホン…けれど、葉隠ってすごいよね。ボクは、空中でバレーボールを破壊しろって言われてもできないよ。」

 

 その場の空気を変えようと美琴が違う話題をふる。

 

 美琴の考えが伝わったかのように冥夜と壬姫も彼女に続く。

 

「そうだな、そなたのあの跳躍力やボールへの一撃は目を見張る者があったぞ。」

 

「もっと早くに入隊していたら総戦技演習ですごい活躍していたかもですね〜」

 

 自分を褒める三人に覚悟は、座りながらだが軽く頭を下げる。

 

「ありがとう。私は身体能力を買われてこちらに来たゆえ。」

 

 覚悟の買われたという言葉を聞き、千鶴は少し不思議そうな顔をした。

 

「買われたって…誰に?」

 

「香月副司令なり。」

 

「え、貴方、白銀と同じで特別な理由とかがあるの?」

 

「武のことは知らぬが、こんな力だけの田舎者の私を副司令が拾ってくださったのは事実だ。」

 

「「「「「「へぇ~!!!」」」」」」

 

 武以外の五人は、驚きの声を上げた。

 

「そうなんだ! 葉隠は、すげ〜んだぜ! あの副司令に認められてるんだからな。」

 

 武が自分のことのように自慢気な笑顔になる。

 

 そんな盛り上がった場にやや興奮した声で美琴が、覚悟にさらに質問する。

 

「じゃあ、体にあるその鉄球も何か関係あるの?」

 

 美琴は、そう言いながらタンクトップからはみ出ている零式鉄球をコンコンと指先で突っついた。

 

「ば、馬鹿…止めなさいよ、鎧衣。」

 

 美琴の質問と行動に千鶴含めた五人は、やや焦った顔になる。

 

「え、何で?」

 

 美琴が小首をかしげるなか、千鶴は小言でコショコショと耳打ちする。

 

(あれは、どう見たって治療の後でしょっ)

 

(あ…)

 

 最初の挨拶をした当初から見えていた覚悟の零式鉄球だが、美琴以外の者達は、それを傷跡を治療した後だと思っていたのだ。

 

 その場がやや居た堪れない雰囲気になりかけた時、覚悟が口を開いた。

 

「安心してくれ鎧衣さん、榊分隊長、これは治療跡に非ず。」

 

「「え…」」

 

「これはち…」

 

 覚悟は口から出かけた『父上』という言葉をぐっとこらえた。

 

「……この零式鉄球は司令官から撃ち込んで頂いた物だ。君達へ使用方法を説明する許可は下りていないが…いずれ下りると思われる。」

 

 覚悟の言葉を聞き、六人はやや驚愕した顔になる。それは、夕呼が特別に目をかけた兵士ということを再確認したのではなく、鉄球を撃ち込んだという言葉にだった。

 

 そして、冥夜が六人を代表するかのようにその疑問を覚悟に問う。

 

「う、撃ち込んだと聞こえたが、その鉄球…手術で入れたのではないのか?」

 

「いや、この零式鉄球は、高射砲で直に撃ち込まないと肉と骨に癒着しないゆえ、先程言った通り香月副司令に直に撃ち込んで頂いたのだ。」

 

「痛くなかったんですか!?」

 

 今度は、壬姫が冥夜と同じ表情で覚悟に問う。

 

「無論、一発一発が常人なら死ぬ程の痛みであった。しかし、香月副司令にその痛みについて事前にご教授して頂いていた故、耐えることが出来た。それに葉隠家の信条は、理不尽に決起することではなく、理不尽に忍耐することなり。」

 

 覚悟にそう説明された六人は、覚悟が夕呼に鉄球を撃ち込まれる場面を想像した。

 

 

 何故か、雪が舞い散る日本家屋の庭で鉄棒に鎖で繋がれた褌一枚の覚悟。

 

 そんな状態の覚悟を大砲のような物で狙いをつける夕呼。

 

「じゃあ、今から零式鉄球を貴方に伝授するわよ。ほんのちょっとだけ死ぬ程痛いけど、これに絶えなきゃこれからの実験…じゃなかった、訓練は耐えられないわ。」

 

「お願いします!」

 

「じゃあ、発射♡」

 

 夕呼は満面の笑みで零式鉄球を覚悟へ向かって容赦なく発射した。

 

 鉄球は、凄いスピードで次々と覚悟の体に容赦なく吸い込まれてゆく。

 

 ドムッ!ドムッ!ドムッ!ド……!

 

「ぬぐ! がはっ!」

 

 覚悟の体の左側に痛々しく撃ち込まれる鉄球だが、覚悟はそれを気丈にも耐える。

 

 数秒後、夕呼は八個の鉄球が覚悟の体にめり込みんだのを確認すると、球を発射するのを止めた。

 

「ごめんなさ〜い。全身へ均等に撃ち込もうとしたけどちょっと左側に寄っちゃた。まぁとにかく、よく耐えたわね葉隠。褒めてあげるわ。」

 

 瀕死の覚悟を前に夕呼は相変わらずの満面の笑みで、そんな彼を褒めた。

 

「あ…ありがとうございまし、ばはぁっ!?」

 

 覚悟はお礼を言いながら遂に吐血した。

 

 

 (あの鉄球を入れたのは、本当は夕呼先生じゃあないのは解ってるけど、何か容易く撃ち込んだ場面を想像出来ちまった。ん? 委員長?)

 

 武が心の中で苦笑いをするなか、千鶴がいきなり席を立ち覚悟の方へと近づいてゆく。そして、覚悟の後ろに立つとゆっくりと肩に手を優しく置いた。

 

「葉隠、あんたも苦労してきたのね? 困ったことがあったら、分隊長の私に言いなさい。」

 

 千鶴の顔は、憐れみの表情一色であった。

 

「?…了解。」

 

 いきなり千鶴の自分を見る目が変わり、やや不思議そうにする覚悟だったが、周りを見ると武以外の四人も同じ表情をしていた。

 

「葉隠、私達はもう同じ仲間だ。これからは何でも気軽に話すがよい。」

「そうですよ。葉隠さん! いつでもお話聞きますよ」

「ボクも力になるよ!」

「そうそう、ついでにあともっと実験…じゃなかった、鍛錬の話、聞かせて。」

 

 仲良くなった?六人を見た武は、先程の想像したことを思い出す。

 

(なんか、委員長達も同じ想像をしたっぽいな。けど、平行世界のことを隠すためだとはいえ、夕呼先生の株、ちょっと下がったかも知れないなぁ…)

 

 だが、武の心配を他所に夕呼の株は少しも下がっていなかった。幸か不幸か、夕呼なら自分達が想像したくらいのことは平気でするだろうと五人は前々から認知していたから…

 

 

 十数分後、食事を終えた七人は会話を交わしながら、宿舎へと歩いていた。彼等の雰囲気は穏やかで、特に御剣、鎧衣、榊、彩峰、珠瀬の五人は、普段と変わらない武と無表情の覚悟と比べて、教場の時と違い表情が柔らかくなっていた。

 

「そうか、そちらの演習ではそのようなことが…」

「そうなんだよ! ゴールに着いたと思ったらいきなり、砲撃されてさ!」

「あの時は、タケルが撃たれないか冷や冷やしたよ。」

「それにレドームも遠かった…」

「珠瀬がいなければ、もっと苦労したやも知れぬな」

「あの狙撃が無かったら、確実に一日は遅れてたわね。」

「え〜そんなことないですよぉ」

 

 もし、この世界ではなく武や覚悟の世界の住人がこの七人を見れば、学校帰りの仲の良い高校生が歩いている風にしか見えなかっただろう。

 

 そうこうと和やかに話しながら七人は、いつの間にか宿舎の自分達の部屋の前まで来ていた。

 

 すると武は、会話を止め自分の部屋の扉の前に六人の方を向きながら立つ。

 

「ほんじゃあ、俺も部屋に戻るわ。明日から皆で頑張ろうぜ!」

 

 覚悟は、明日から自分の命を預けるかもしれない仲間に別れの敬礼をした。

 

「武よ、明日からよろしく頼む。」

 

 覚悟の敬礼を見た武は、困ったように微笑む。

 

「おいおい、覚悟、同じ小隊の仲間に敬礼は必要ないぜ。勿論、頭を下げる必要もな。明日からはもっと気軽にいこうぜ。」

 

 そう言って覚悟に親指を立てる武を見て千鶴は、ため息を付く。

 

「白銀、あんたは気軽過ぎよ…」

 

「え〜」

 

 わざとらしく困った顔をする武に対して、今度は覚悟が武と同じく親指を立てた。

 

「了解した、明日から心掛けよう。」

 

「それでいいぜ! 後、積もる話は、やっぱりまた明日な覚悟! おやすみ!」

 

 武は、自分の真似をした覚悟を満足気に微笑むと部屋に入っていった。

 

 武を見送った覚悟も続いて、自分の部屋の扉を開ける。

 

「では皆さん。明日からよろしくお願い致します。」

 

 そう言って覚悟は、自分の部屋へ入った。

 

 覚悟を見送った五人は、また会話をしながら自分の部屋へと歩いていく。

 

「また、白銀と同じく変な奴が来たもんね。」

「最初から変に気安い武とは、まるで正反対だな。」

「軍教育が始まって、男の人からさん付けて呼ばれたなんて初めてだよ。」

「けれど、真面目そうな方で良かったです。」

「真面目だけど変人…」

 

 彼女達が話していたのは、覚悟の変わった性格といった他愛のないことだけであった。だが、実は心情では、悪鬼の一族が何故この基地に来たのか、日本全体で迫害されていた一族がどうやって今まで生き延びたのか、解体された武家にも関わらず信条などと言っていたことなど、話し合いたいことが山程あった。しかし、彼女達も人には言えない秘密を抱えている故にお互いの家柄や過去は、暗黙の了解で不干渉としている。それ故に覚悟も何かしらの理由があると感じて、そういったことを話題に上げる者はいなかった。

 

 武達と別れて十数分後、覚悟は鞄から零を取り出して前の世界の自室みたく鎧のように飾っていた。

 

 飾られながら零は、対閃光暗視眼をギラリと光らせ、覚悟と会話していた。

 

『他の隊員達も信頼足る者達であったか……』

 

「うむ、私と同じ若輩なれど、皆戦士の瞳をしていた。」

 

『そうか、実に喜ばしいが、少々複雑だな。我々の世界でもあのような者達は、もっと他の生き方が選べる筈だったのだが……』

 

「ああ、特に武は何故か私と同じくとても大きな宿命を背負う目をしていた。」

 

『ほう……』

 

 覚悟は、そのまま床に就き零と会話しながら眠りについた。

 

同時刻――

 

帝都のとある某所

 

 赤い格式ある服を着た長く緑がかった髪の二十歳過ぎの女性が、同じく白い格式ある服を来た三人の少女達と話している。

 

「武御雷の搬入準備は済んだか? 神代?」

 

 緑髪の女性が三人の内の神代と呼んだ少女に質問をする。

 

「はい、月詠様。整備も完璧です。明日の午前には横浜基地に搬入できるかと。」

 

「よし、冥夜様にどう思われようと我らは殿下の尊い御意志を尊重するまで。後は、戎、巴、調べていたニ件はどうなった?」

 

 月詠と呼ばれた女性は、次に神代の隣にいる二人の少女に声をかける。

 

「はい、まずはこちらを…」

 

 戎と呼ばれた少女は、数枚の紙を月詠に渡す。

 

 月詠は、暫くその書類を読む内に表情が険しいものに変わり一言呟いた。

 

「死んだ人間だと?」

 

 その呟きに戎は、同じく険しい表情で答える。

 

「この白銀武という男、戸籍上は、ΒETAの横浜侵攻以後一年以上生死不明のまま失踪扱いになっています。それ自体は、当時のあの地域の住民としては珍しいことではありません。ですが…」

 

「何故か、死人が冥夜様のお側にいるということか…」

 

「そのうえ207訓練小隊B分隊に於いて、この男のみがなんの変哲のない一般家庭出身です。表向きあの部隊に配属される理由が存在しません。」

 

 剣呑な雰囲気で会話をする月詠と戎。だが、月詠は、夷の後ろに控える同じく数枚の書類を持った少女を見ると、やや表情を和らげた。

 

「後は、十日前の国連軍から寄せられた電話の件だが…恐らくは何かしらのいたずらであろう。この非常時にあの薄汚れた一族の名を語るとは、とんだ不逞の輩が居たもの……どうした巴?」

 

 表情を和らげた月詠に対して、巴と呼ばれた少女は厳しい顔を変えず書類を渡す。

 

「十日前の件、調べましたところ、驚くべきことが判明いたしました。」

 

「!?」

 

 巴の言葉と表情を見て、只事ではないと感じた月詠は、急いで渡された書類に目を通す。

 

「何だと、まさか…」

 

 数分後、月詠は書類の全てに目を通すとそれをぐしゃりと握りつぶした。その表情は、武の件とは比べ物にならない程の憎しみ、嫌悪、怒りと負の感情で溢れていた。そして、その感情が勢いよく溢れ出るかの如く、大声で叫んだ。

 

「何故、おぞましい『葉隠』の一族がまだ生きているっ!?」




本当は、もっと七人が打ち解けるまで時間を掛けようと思ったのですが、あの五人の性格と背景を考えると嫌う展開は想像できなかったです。ガチで国民に家族ごと嫌われてた彩峰にも優しく普通に接してますし。

けれど初対面の武にもう一回死ぬかって脅した月詠さんなら…
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