マブラヴ オルタネイティヴ episode HAGAKURE   作:不屈闘志

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すいません。また、覚悟onlyです。



プロローグ その三 予期せぬ報告

二〇〇一年十二月三〇日

移動菩薩G・ガラン内の医務室

 

人間サイズのカプセルがいくつも並ぶ中、1つだけ治療液で満たされたカプセル。その中にいるのは、五日前に実験材料208号に致命傷を負わされた覚悟であった。

 

そこに容姿が怪しく整った若い男が入室し、カプセル横の機器を操作する。するとカプセルの治療液が抜けはじめ、すべて抜けきると同時に覚悟は目を覚ました。そして、目の前の人物を見て覚悟は五日間睡眠していた者とは思えない程、目を見開いて叫んだ。

 

「兄上!」

 

「久方ぶりだな覚悟」

 

そこにいたのは半年前に激闘繰り広げながらも和解し、世界に旅立ったはずの実の兄、散であった。

 

覚悟は、208号に貫かれた筈の自分の腹部を触りながら問う。

 

「ここは?私は何故生きている?」

 

散は、怪しい唇で薄く笑った。

 

「覚悟よ。危ないところであったぞ。私がかわいい弟への誕生日プレゼントを持参し、今さら会いたくもない父上のいる実家に帰省したら、貴様は土手っ腹に穴を空け、雪に埋葬されかけているではないか。だが、G・ガランの設備、そして散の医術なら、それくらいの傷わけはない。もう一人は年齢的に無理であったゆえにねんごろに埋葬しておいた、安心せい。」

 

「そうですか…お心遣い感謝致します。」

 

覚悟は、実験材料208号の成仏を改めて深く祈った後、ようやく自分が年を重ねたことに気づいた。

(そうか、忘れていた。クリスマスは、キリストの生誕した日であるとともに、私の誕生日でもあったのだ。 )

 

散は、覚悟に衣服を与え、かつて堀江罪子と食事をした部屋へと案内する。

 

広い豪華な室内に入ると、中央の机に真っ赤なリボンに巻かれた白い包装紙に包まれた箱があった。中央に進んだ散は、それを覚悟に投げて寄越した。

 

「兄上ありがとうございます。慎んで拝領致しまする。」

 

お礼を言いながら上手く受けとる覚悟。

 

「覚悟よ、堅苦しい礼は後だ。送り手が一番見たいものは、相手の驚く顔よ。」

 

覚悟は、その真面目な性格を象徴するがごとく、包装紙もリボンも傷つけずに器用に開けてゆく。包装をすべてはがし、最後に蓋を開けると中身は、二冊の分厚い文書と二個のメモリーチップであった。

 

「これは?」

 

散は、机に座りながら、上半身を反り役者のように片手を大袈裟に挙げながら覚悟に答えた。

 

「それは、血涙島で発掘した陸軍葉隠瞬殺無音部隊のすべての研究が収まった文書。もうひとつは、G・ガラン、挺身結晶、転送刻印、極楽蝶など、それらの作成の手引きを記した文書なり。」

 

「兄上、これを私に渡してどうしろと?」

 

散は、覚悟を正面から見つめ真剣な顔で答える。

「覚悟よ。釈迦曰く、闇を知るものにしか光の経は読めぬという。その光で牙なき人の明日を照らすため、葉隠の深い闇を私たちは、忘れてはならぬ。

もう一冊は、散が居なくなったときのための文書だ。散が発明した数々、人類にはちと早いがいずれは理解できるものが現れるだろう。」

 

そういうと、また散は、表情を崩した。

 

「そのため、趣味の彫刻しかできぬ貴様のために、わざわざパソコンに打ち込んで編冊したのだ。弟への無限大の愛、深く推し量るべし!」

 

葉隠の暗部を痛ましいほど、熟知しているのは、この世で二人のみでよい。しかし、平和な時が経ち二人がいずれは寿命でこの世を去り、零や雹も破壊、封印されればどんなに口伝で葉隠家が語り継ごうともいずれは、風化してしまうだろう。

そして、鬼の血が流れる葉隠家は、また四郎と同じ過ちを繰り返す者が出るかもしれない。それを防ぐために散は、戒めとして書物と情報端末を残したのだ。

 

「最初の文書の意図は理解できます。しかし、兄上が寿命以外でいなくなることは考えられませぬ」

 

散は、また笑いながら言った。

 

「あはは、忘れたか?散は、これでも二回死んだ身だ。それゆえの念のためよ。」

 

 

それから、覚悟は散と食事をしながら、新東京湾で別れた後の半年間のことを話した、学校、級友、初めての飲酒のこと。

 

話題が尽きたその時、覚悟は先程話していた時と表情を変え真剣な顔で、散にあることを伝えた。

それは、先日から打診されていた、かろうじて荒れた日本を統治している政府の管理局からの提案である。

 

その提案とは、

「これからの日本は復興に力をいれ、十年以内には新東京全域が、四十年以内には日本全体が、地殻変動が起こる前のような平和な時代に戻れるだろう。

世界各国のどんな独裁国家も今では、戦いよりも復興に予算を注ぎ込んでいるゆえに、かつてのような世界大戦は、半世紀程は起こらないと断言できる。

荒れ果てた時代は、人の心を荒ませ、それゆえ人の皮を被った鬼が出現するが、平和な世には、葉隠四郎のようなものは現れない。それに四郎の意思を継いだ帝国再建を目論む者達も雷電の着装者の黒須京馬という者が殲滅した。

それでも犯罪が起こるのは確実だが、そのレベルなら警察や『衛府』で処理できる。

しかし、また百年後、二百年後には、我々でも対処できない何かが起こるかもしれない。その時代の牙を持たぬ人達を守るために我々が開発した冷凍睡眠装置に入り、来るべく戦いに備えてくれないか?」である。

 

散は、整った顎をしゃくりながら、覚悟にいう。

 

「ふむ、要約すれば平和な時代には、強化外骨格や零式防衛術は存在するだけで戦乱のもとになり、何より反乱でも起こされたらもっとやっかいだ。故に、役目が済んだ刃は鞘に収めるべしということか。」

 

そう言いきった散は、冷徹に笑った。

 

「ははは!人を物扱いどころか、危険物扱いか。覚悟よ、貴様はそれでよいのか。冷凍睡眠に入れば心を繋いだ学友や、何より愛する堀江とも永遠に会えなくなるぞ。」

 

覚悟は、嘘偽りのない声と表情で答えた。

 

「最初は、その提案飲む気などあり得ませんでした。しかし、三ヶ月前の悶十郎、五日前の208号、そして、何より平和になった時の零と零式防衛術は、どう扱われるか考えました。それらをすべて、考慮してその話を了承しようと思います。兄上、私は彼らを心より、愛しているがゆえに眠りにつくのです。」

 

散は、笑うのを止め、愛する弟の悲しき心情を一瞬で読み取った。

 

平和な世では、一瞬でその平和を破壊可能な武装の宝庫である強化外骨格は、人々にとって戦乱の象徴となる。

そして、戦いを知らない極端な平和主義者やテロリズムを持つものなら、それを排除、または奪取すべく襲いかかるかも知れない。零式防衛術を極めた覚悟なら、どんな刺客であろうとも意に返さないだろう。

 

だが、刺客が自分より強大な標的を倒すためにまず狙うのは、標的その物ではない。

常に最初に狙われるのは、標的の弱点となる標的の命より大切にしている者達なのだ。

 

「そうか、それならばこの散、もう止めはせぬ。しかし、堀江にはこのことしかと伝えておけ。何も告げずに逐電すれば、あやつは貴様を探すため火星まで出向くであろう。それは、死ぬよりも不憫じゃ。」

 

覚悟は、敬礼して答える。

 

「了解です。」

 

 

 

二〇〇一年十二月三十一日

新東京04番区 仮設住宅区域

 

プルルル!

 

一週間連絡がない覚悟を待ち続ける堀江に、一通の電話の音が響いた。

 

「はい、堀江です。」

 

「覚悟です。堀江さん明日、家に来て下さい。話したいことがあるのです。」

 

 

 

二〇〇二年一月一日

新東京逆十字寮

 

堀江罪子は、トレードマークのリボンをピョコピョコ弾ませながら、一週間連絡のなかった愛する人のもとへと急いでいた。

 

(葉隠君たら、ずっと連絡寄越さないで、私、心配したんですから!大切な話って、お父さんが交際、許してくれたのかな?それとも愛の逃避行?けど普通に初詣の誘いですよね!)

 

そんなことを思いながら罪子は、葉隠覚悟のナンバープレートがかかった部屋につき、インターホンを押す。

 

(葉隠君好きよ)

 

ポンピーン

 

「はーい」

 

ドカッ!

 

罪子は、半年前と同じく勢いよく開けられたドアに吹き飛ばされ、三階から落ちるギリギリで柵に捕まった。

 

「あれ、誰もいねぇ。」

 

「ここよ…。」

 

 

 

 

「どべの堀江がやっと到着したぜ。」

 

勝手知ったる他人の家と言わんばかりに、部屋の中に案内する学帽をかぶり常に歯ブラシを咥えている長身の男、堀江とは三才からの幼なじみである覇岡。

 

「覇岡さ~ん。俺らは同じ寮なんだから早いのは当たり前ですよ~。」

 

覇岡の舎弟の一人でネギを生やしたよ

うな独特な髪型をしているぴょん助。

 

「そうですよ。僕も三十秒で着けるし。」

 

同じく舎弟である、よく覚悟や零の絵を描いてくれるロン毛のポン太。

 

「私も住んでるとこ近いしね~。」

 

罪子の女友達で顔に包帯を常に巻いている青木の四名が先についていた。

この四人は、覚悟が学校で特に親しくしている級友達である。

 

皆を急かすように覇岡が言う。

 

「そんなことはもういいじゃねぇか、早く初詣行こうぜ。なぁ覚悟。」

 

その声を止める覚悟の落ち着いた声が響く。

 

「みんな、話がある。」

 

「なんだよ!わかった。零を御神体代わりにして、皆で拝まして賽銭とるきだろ?」

 

覇岡の冗談を無視し、さらに覚悟は宣言する。

 

「私は、9日後この地から去る。」

 

その爆弾発言に罪子を除く四名から次々と質問が浴びせられる。

 

「嘘だろ?葉隠?」

 

「本当ですか?葉隠さん!卒業まで後2ヶ月ですよ?お兄さんがもう見つかったからずっと逆十字にいるっていってたじゃないですか?」

 

「時期がおかしいよ!」

 

「いったい次は何処に転校するの?近いところよね?もしかして、実家の北海道?」

 

「違う。皆とは、もう永遠に会えない。」

 

その一言でその場が水を打ったように静まり返る。

 

その中で震える声で、罪子が呟く。

 

「覚悟君、詳しく教えて。」

 

 

 

覚悟は、散と話した次なる戦いのために冷凍睡眠装置に入ることを皆に包み隠さず伝え、さらに政府と逆十字学園の校長にもそれを了解したことを伝えた。

 

その言葉を聞いて五名は、何も言えずに顔を一斉に伏せる。

 

しかし、青木がいいことを思い付いたように顔を挙げ覚悟に自分の考えを述べた。

 

「葉隠君がいない間に、前みたいに戦術鬼?の生き残りの悶十郎みたいなやつが来るかも?あんなの警察じゃ無理だよ。葉隠君がいなくちゃ。」

 

顔を伏せたままの罪子以外の皆が、そうだと言わんばかりに頷く。

 

すると予想していた質問というように、覚悟が淀みなく答えた。

 

「兄上が、かつて血髑髏が使用していた戦術鬼レーダーで調べてくれた。

戦術鬼は、もう一匹足りとも残っていない。」

 

血髑髏とは、散がかつて率いた不退転戦鬼軍団の幹部の一人であり、戦術鬼総支配の役職を持ち、覚悟を追い詰めた者の一人である。

 

一呼吸おいて続けて覚悟は言う。

 

「それに奴は、私を狙っていた。私がいなければ、覇岡も皆も負傷しなかったはず。私という存在は、平和な世には不用なのだ。」

 

覇岡は、それを聞くと悲哀から憤怒の顔になり、覚悟に詰め寄った。

 

「それ、マジでいってるのかよ」

 

覚悟は真剣な顔でうなずいた。

 

バキッ!

 

その瞬間、覇岡は覚悟を殴った。

 

「バカ野郎、俺はてめぇのその身勝手なところが大嫌ぇなんだ。9日後とか言わず今すぐ氷付けになりやがれ。畜生!」

 

覇岡は、そう叫ぶと勢いよく玄関から飛び出した。

 

「「待ってください覇岡さん!」」

 

ぴょん助とポン太も覇岡の後を追いかけ玄関から出る。

 

級友が三人減った部屋で青木が覚悟ではなく、先程からずっと顔を伏せた罪子に気まずそうに問う。

 

「堀江は…それでいいの?」

 

罪子は、伏せていた顔を挙げた。

 

その顔は覚悟の予想に反して朗らかだった。そして、その表情を崩さずに覚悟にこう言った。

 

「覚悟君自身が悩んで決めたことだから仕方ないわ!大丈夫よ。私たちは、もう覚悟君なしでも生きていける。これからも覚悟君に頼りっぱなしだと、覚悟君が疲れちゃうわ。私のことは、気にしないで覚悟君。未来の私達の子孫によろしくね!それじゃあ、もう私行くね。」

と早口で捲し立てた後、玄関から出ていく。

 

「待って堀江!」

 

そんな堀江を追いかけるべく、青木も出て行った。

 

しかし、青木が玄関から出た十数秒後、罪子の悲痛な泣き声が寮全体に響き、それは罪子が寮から出るまで聞こえた。

 

泣き声が聞こえなくなり、床の間に鎮座している零が、覚悟に慰めるように話しかける。

 

『覚悟よ、きっと堀江達もいつか分かってくれる日が来るだろう。』

 

覚悟は、罪子のその悲鳴にも見た泣き声、自分を思うゆえの覇岡の怒りに零の慰めの言葉も聞こえず、虚ろな表情で一人正座を崩さずに心の中でいつまでも謝り続けた。

 

(すまぬ。すまぬ。すまぬ。すま…)

 




次で本当に覚悟の前日譚は、終了です。
この話で少し他の山口貴由先生の作品のネタを混ぜたのですが、お読みいただいた方はいくつ解ったでしょうか?
マブラヴファンの方は、次は、できるだけ早く挙げますので許してください。
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