今年の至誠は、投打がガッチリ噛み合った快進撃を続けていた。
3回戦は左のエース洲嵜が先発し6回を1失点、牧野が1回を無失点。
しかし打線は2点しか援護出来ず、しかもその2点も7回で入ったもの。
2対1といきなり危ない試合から始まった。
4回戦は京王義塾との試合。
浜矢が先発し6回を無失点、神宮が1回を無失点に抑える好投を見せると、栗原、茶谷、鈴井の3名のホームランも出て6点を奪い快勝する。
5回戦は洲嵜が5回と1/3を2失点、神宮が1回と2/3を無失点。
この日は鈴井が大暴れし、4打点を挙げ結果6対2で勝利した。
6回戦は浜谷の先発で7回を1失点に抑え完投勝利。
5点の援護もあり試合も快勝し、準決勝へと駒を進めたのだった。
「さて! 準決勝の相手は横浜隼天です、警戒すべきは1番の宮崎さん」
「神奈川の安打製造機と呼ばれるアベレージヒッターで、変化球に強い」
「だから本当は伊吹ちゃんに先発してもらいたいんだけど……決勝でも投げてもらうから真理ちゃんに任せるよ」
相性は悪いが今の洲嵜なら抑えられない相手ではない、そう判断して先発を任せた。
任されたのならば必ず役目を果たす、洲嵜の目には強い意志が灯っていた。
「宮崎さんだけじゃなく、横浜隼天にはアベレージ型の選手が多く揃っています」
「チーム打率は.384で本塁打は10本、総得点数は48点だ」
「強打のチームだけどその反面守備は粗い部分が見えます、そこを突きましょう!」
強豪だった頃は守備も良かったが、最近は低迷しなりふり構ってはいられなくなった。
その為守備を多少捨ててでも打力重視のオーダーを組み、ここまで打ち勝ってきた。
「ウチは逆に守りのチーム……相手に釣られてエラーしないようにね!」
「なんでこっち見るんですか!?」
千秋からの視線を感じた栗原がそう叫ぶ。
目を逸らして関係無いフリをしているが、茶谷もターゲットだ。
「だって2人が心配だから……スパルタノックするよ!」
「だと思いましたよ……あーめんど」
「んー? 佳奈利ちゃん100本ノックやりたいって言った?」
「一球一球魂込めて捕るんで、その半分で平気です!」
珍しく焦った表情で情けを乞う茶谷。
千秋は笑って誤魔化しているが、最初から100本打つつもりでいる。
「投手陣は投球練習もいいけど、しっかり休んでね? 捕手陣と配球確認してもいいし」
「私は明日試合で投げないからどうしよっかな」
「伊吹ちゃんは打撃練習してて、私は真理と練習するから」
鈴井に振られた浜矢は絶望の顔をするが、周囲に励まされ何とか立ち直った。
そして2年生と共にトス打撃を行う事になり、浜矢は石川とペアを組む。
「ハマ先輩って打撃意外といいですよね」
「神田とか佐久間ほどじゃ無いぞ」
「流石にあそこと比べるのは……本当に初心者だったんですか?」
「ホントにホント、まあ小学校の時2年だけやってたけど」
――けど殆どフォームとか感覚とか忘れてたし、初心者って言っても合ってるよな?
定義的には微妙だが、本人がそう言っているのであればそうなのだろう。
事実彼女は入学当初セカンドの守り方を一切覚えていなかった。
「てか先輩元々セカンドだったってマジですか?」
「マジマジ、鈍足で下手だったけどね」
「ハマ先輩脚速そうな見た目してるのにな〜」
「それ何回も言われてるよ、てか一般人に混ざったら速いからな?」
あくまで野球選手のカテゴリー内では遅いだけであって、クラスや学年の中では速い方だ。
そこを誤解されるのが一番嫌だと浜矢は思っている。
「また決勝まで行きたいですね〜」
「決勝まででいいのか? 優勝しようぜ」
「その為には横浜隼天に勝たないとですよね……平気かな」
「守備がアレならイケると思うけど」
野球では守備の乱れから流れを持っていかれる事は多々ある。
守乱のチームの隙を狙っていけば、勝てない相手ではないと浜矢は言う。
「横浜隼天もですけど、やっぱ蒼海大にリベンジしたいですね」
「……ああ、それに神田にだってまだ勝ってない」
「ライバルなんでしたっけ?」
「ライバルというかなんと言うか……そんな感じだけど」
この2人をライバルと呼ぶかは微妙なライン。
神田は浜矢の事を下に見ているし、浜矢は神田にムカつくと思っているだけ。
浜矢から神田への感情はライバルに対するものと捉えていいが、神田から浜矢へはライバルの感情は無い。
「ディーバとも戦いたいな」
「確か厨二病のチーム、でしたっけ」
「そう、けど皆いい奴だったよ」
厨二病なだけで性格に問題は一切無い。
それに加え野球の実力もあり成績良好な飛鷹こそ、ディーバという学校を象徴する生徒だろう。
「ハマ先輩って低め得意ですよね」
「いきなり話変わるな……なんか打ちやすくない? 高めは苦手だわ」
「私は高さはあんま考えた事ないですね、インコースが苦手です」
「三振する時、いつもインローのストレートのイメージあるわ」
石川は高さで得意不得意は無いが、インコースの球に滅法弱い。
俊足なので転がせば内野安打になる事もあるが、弱点が明確すぎるのは考えもの。
「じゃあ交代!」
「はーい、んじゃ内角お願いしまーす!」
「言われなくてもそのつもりだったよ」
浜矢は石川の内角を目掛けてトスを出す。
最初の数球は窮屈なスイングだったが、最後の方になると滑らかな動きで打ち返せていた。
「2人ともー、終わりだよ! 片付けしてー」
「ウィッス! 私はボール片付けるので、先輩はバットお願いしますね!」
「りょーかい、ゆっくりでいいからな」
そんな事を口にしながらも、2人は素早く片付けをして解散する。
明日は遂に準決勝、因縁の蒼海大まであと1つ。