君色の栄冠   作:フィッシュ

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毎年恒例ダイジェスト回で短めです


第12球 駆け抜けろ!

今年の至誠は、投打がガッチリ噛み合った快進撃を続けていた。

3回戦は左のエース洲嵜が先発し6回を1失点、牧野が1回を無失点。

しかし打線は2点しか援護出来ず、しかもその2点も7回で入ったもの。

2対1といきなり危ない試合から始まった。

 

4回戦は京王義塾との試合。

浜矢が先発し6回を無失点、神宮が1回を無失点に抑える好投を見せると、栗原、茶谷、鈴井の3名のホームランも出て6点を奪い快勝する。

 

 

5回戦は洲嵜が5回と1/3を2失点、神宮が1回と2/3を無失点。

この日は鈴井が大暴れし、4打点を挙げ結果6対2で勝利した。

 

6回戦は浜谷の先発で7回を1失点に抑え完投勝利。

5点の援護もあり試合も快勝し、準決勝へと駒を進めたのだった。

 

 

「さて! 準決勝の相手は横浜隼天です、警戒すべきは1番の宮崎さん」

「神奈川の安打製造機と呼ばれるアベレージヒッターで、変化球に強い」

「だから本当は伊吹ちゃんに先発してもらいたいんだけど……決勝でも投げてもらうから真理ちゃんに任せるよ」

 

相性は悪いが今の洲嵜なら抑えられない相手ではない、そう判断して先発を任せた。

任されたのならば必ず役目を果たす、洲嵜の目には強い意志が灯っていた。

 

 

「宮崎さんだけじゃなく、横浜隼天にはアベレージ型の選手が多く揃っています」

「チーム打率は.384で本塁打は10本、総得点数は48点だ」

「強打のチームだけどその反面守備は粗い部分が見えます、そこを突きましょう!」

 

強豪だった頃は守備も良かったが、最近は低迷しなりふり構ってはいられなくなった。

その為守備を多少捨ててでも打力重視のオーダーを組み、ここまで打ち勝ってきた。

 

「ウチは逆に守りのチーム……相手に釣られてエラーしないようにね!」

「なんでこっち見るんですか!?」

 

千秋からの視線を感じた栗原がそう叫ぶ。

目を逸らして関係無いフリをしているが、茶谷もターゲットだ。

 

 

「だって2人が心配だから……スパルタノックするよ!」

「だと思いましたよ……あーめんど」

「んー? 佳奈利ちゃん100本ノックやりたいって言った?」

「一球一球魂込めて捕るんで、その半分で平気です!」

 

珍しく焦った表情で情けを乞う茶谷。

千秋は笑って誤魔化しているが、最初から100本打つつもりでいる。

 

「投手陣は投球練習もいいけど、しっかり休んでね? 捕手陣と配球確認してもいいし」

「私は明日試合で投げないからどうしよっかな」

「伊吹ちゃんは打撃練習してて、私は真理と練習するから」

 

鈴井に振られた浜矢は絶望の顔をするが、周囲に励まされ何とか立ち直った。

そして2年生と共にトス打撃を行う事になり、浜矢は石川とペアを組む。

 

 

「ハマ先輩って打撃意外といいですよね」

「神田とか佐久間ほどじゃ無いぞ」

「流石にあそこと比べるのは……本当に初心者だったんですか?」

「ホントにホント、まあ小学校の時2年だけやってたけど」

 

――けど殆どフォームとか感覚とか忘れてたし、初心者って言っても合ってるよな?

 

定義的には微妙だが、本人がそう言っているのであればそうなのだろう。

事実彼女は入学当初セカンドの守り方を一切覚えていなかった。

 

「てか先輩元々セカンドだったってマジですか?」

「マジマジ、鈍足で下手だったけどね」

「ハマ先輩脚速そうな見た目してるのにな〜」

「それ何回も言われてるよ、てか一般人に混ざったら速いからな?」

 

あくまで野球選手のカテゴリー内では遅いだけであって、クラスや学年の中では速い方だ。

そこを誤解されるのが一番嫌だと浜矢は思っている。

 

 

「また決勝まで行きたいですね〜」

「決勝まででいいのか? 優勝しようぜ」

「その為には横浜隼天に勝たないとですよね……平気かな」

「守備がアレならイケると思うけど」

 

野球では守備の乱れから流れを持っていかれる事は多々ある。

守乱のチームの隙を狙っていけば、勝てない相手ではないと浜矢は言う。

 

「横浜隼天もですけど、やっぱ蒼海大にリベンジしたいですね」

「……ああ、それに神田にだってまだ勝ってない」

「ライバルなんでしたっけ?」

「ライバルというかなんと言うか……そんな感じだけど」

 

この2人をライバルと呼ぶかは微妙なライン。

神田は浜矢の事を下に見ているし、浜矢は神田にムカつくと思っているだけ。

浜矢から神田への感情はライバルに対するものと捉えていいが、神田から浜矢へはライバルの感情は無い。

 

 

「ディーバとも戦いたいな」

「確か厨二病のチーム、でしたっけ」

「そう、けど皆いい奴だったよ」

 

厨二病なだけで性格に問題は一切無い。

それに加え野球の実力もあり成績良好な飛鷹こそ、ディーバという学校を象徴する生徒だろう。

 

「ハマ先輩って低め得意ですよね」

「いきなり話変わるな……なんか打ちやすくない? 高めは苦手だわ」

「私は高さはあんま考えた事ないですね、インコースが苦手です」

「三振する時、いつもインローのストレートのイメージあるわ」

 

石川は高さで得意不得意は無いが、インコースの球に滅法弱い。

俊足なので転がせば内野安打になる事もあるが、弱点が明確すぎるのは考えもの。

 

 

「じゃあ交代!」

「はーい、んじゃ内角お願いしまーす!」

「言われなくてもそのつもりだったよ」

 

浜矢は石川の内角を目掛けてトスを出す。

最初の数球は窮屈なスイングだったが、最後の方になると滑らかな動きで打ち返せていた。

 

「2人ともー、終わりだよ! 片付けしてー」

「ウィッス! 私はボール片付けるので、先輩はバットお願いしますね!」

「りょーかい、ゆっくりでいいからな」

 

そんな事を口にしながらも、2人は素早く片付けをして解散する。

明日は遂に準決勝、因縁の蒼海大まであと1つ。


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