システマティックな少女と一般サラリーマンな俺   作:伊駒辰葉

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腰痛いです。(内容と関係ありません


会議は踊る? 1

 ジャスト十四時。会議室はしんと静まり返っていた。おいおい……。ほんとに俺がここに居てもいいのか? 俺は集まったメンツを見回して帰りたくなった。企画部長や開発部長が居るのは仕方ない。そういう会議なんだからな。しかし何で総務の部長だの、経理部長……おいおいおい。専務までいるってのはどうなんだよ。まさか幻影じゃねえだろな。副社長の顔まで見えてるのは俺の気のせいなのか?

 

 奴らの顔を全部覚えてる俺もなかなか偉いな。そんな風に心の底で俺は自分を褒め称えてみた。そうでもしなけりゃ、俺はこの場から逃げ出しそうだったんだよっ。しかも勝亦の奴、いねえじゃねえか! でかい会議室のドアに一番近い席についた俺は、この場にいない勝亦に胸中で罵詈雑言を浴びせることで何とか逃げ出さずに済んだ。

 

 会議そのものは特に問題なく進んだ。資料についての説明を開発部の人間が行い、それについて意見を述べるというタイプの会議だった。次第に緊張感が解け、俺はその場に居る人間の観察をし始めた。長根所長の様子を見てると……ははあん。なるほど。要するに営業としてはこの商品、出来れば出して欲しくないと。そういうことっすか。まあ、確かにちょっと内容がこれまでとは違ってるし、営業はきつそうだよな。技術営業のリーダーも難しい顔してる。

 

 だが既に商品を出すことは決まっているようだ。まあ、そりゃそだろ。でなけりゃ勝亦もあんなことを俺に言ってこないし、何より所長。あんただってほんとはこの商品は何やっても出るって判ってんだろ? そうじゃなかったらクライアントに先回りして情報ちらつかせるなんて真似、しなかっただろうし。……くそ、思い出しちまった。ああ、腹立つ。

 

 淡々と会議が進む中、うちの所長が意見を述べた。このタイプのシステマを世に出すにはまだ時期が早いのではないか。そう言う所長の背中を押すように他の営業所の所長たちも同意見だと述べる。技術営業のリーダーたちも口を揃える。だが結局のところ、それは無駄に終わった。まあな。所長たちも建前としてそう言っただけなんだろ。革新的すぎる商品だからさほど売上が伸びなくても仕方がないのだ。そう、事前に逃げを打っておけば自己保身も兼ねられる、と。まあそういうこったな。

 

 これで会議は終了ってことで俺はほっと息をついた。こんなメンツに囲まれて安心してろってのが間違いだ。一刻も早く部屋を出たい。そんなことを願ってた俺に唐突に誰かが声をかけた。

 

「能戸くん」

 

 呼びかけに仰天して俺は慌てて声の主を見た。うわ! 開発部長! 何だってあんたが俺に話し掛けてくるんだよっ。しかも会議終了ってことでざわめいていた部屋の中が静まり返りやんの。冗談じゃねえぞ。

 

「そういえば君の意見を聞くのを忘れていたよ。君は新タイプのシステマをどう思う?」

 

 白髪混じりの穏やかな風貌を持つ開発部長が静かに訊ねる。俺はどうしよう、と切羽詰ったものを感じつつちらりと横に座る長根所長を見た。うわ。こええ。そんな、おもっきり睨まなくてもいいだろうが。

 

「まあ……売れるんじゃないですか?」

 

 しばし迷ってから俺は素直に答えた。すると開発部長が根拠は、と訊ねてくる。やだなあ、この雰囲気。みんな黙ってこっち見てるじゃねえか。

 

「新しいモノは人気がありますし」

 

 当り障りのないことを言いながら俺は苛々していた。くそ、ここで事前調査と称して勝亦が俺に何させたか言う訳にもいかんし、かと言って所長がクライアントの目に付くとこに情報転がしてました、なんて話す訳にもいかない。むかつくが恩義ってのがあるからな。ぶちまけてやりたい、という衝動を堪えて俺は開発部長の顔色をうかがった。……あんた、営業に来たらどうだい? 考えてることが読めないその笑顔ってのは営業向きだと思うぞ。

 

 なんてなことを心のどこかで思いつつも俺は必死でどう言おうかと考えていた。下手なことを言うと後で所長に厭味を食らう。勝亦の立場が悪くなることも口に出来ない。そう考えると俺に言えることなんて限られる。

 

「業界最大手のうちの商品ってだけで、クライアントはまず食いつきます。ただ、だからクライアントの期待を裏切ると怖いですね」

 

 これなら大丈夫かな、と心の中でいちいち確認しつつ俺は喋った。頼む、これで納得してくれ。そんな俺の願いはある意味では聞き届けられたのだろう。誰も反論はしない。開発部の部長が興味津々の顔でほう、と言った以外はなっ。

 

「それで?」

「いえ、それでと言われても」

 

 すかさず訊き返してくれた開発の部長は相変わらず人好きのする笑みを浮かべている。俺は思わずそう答えてから言葉を濁した。

 

「いや、私は君の忌憚ない意見を聞きたいんだがね」

 

 忌憚ないと来たか。俺だってぶちまけたいのは山々だがな。生憎と恩義を踏みにじるほど人間は壊れてねえんだよ。

 

 会議が終わってさっきまで部屋を出ようとしていた連中は、俺と開発部長のやり取りが面白いのか、誰も出て行こうとしない。隣では所長がもの凄い顔で俺を睨んでいる。うわ、こりゃなに言っても後で厭味攻撃だな。どうやら所長は俺が開発部長と話をしていること自体が面白くないらしい。ばかやろう、俺だって嫌に決まってんだろう。

 

「2wayタイプってだけでも新しいですしね。値段はそれなりになっても、性能だけじゃなくて見た目がはっきり違う訳ですから客も納得し易いでしょう」

 

 頼む、早く解放してくれ。心底、そう思いながら口にした俺の言葉に開発部長はすぐには答えなかった。不思議に思って俺は伏せかけていた目を上げた。うわ。俺、何かまずいこと言ったか? みんながこっち向いてるのはさっきまでと同じだが、俺を見る目がそれまでとは違う。何でだ? 何でみんな変な物でも見るみたいな顔してるんだ。

 

「そうか。なるほど」

 

 しばしの沈黙の後、開発部長が腕組みをして頷く。

 

「貴重な意見だな」

 

 納得顔で言って開発部長が微かに笑う。嫌な予感を覚えて俺は息を潜めた。やばいこと口走ったのか、俺。でも心当たりはないぞ。隣に座ってる所長が極々小さな声でばかめ、とほざく。おい、理由も説明せずにそれかよ。文句があるなら下っ端に質問しやがる開発部長に言いやがれってんだ。




よく考えたらこの話、男の比率が高い……(汗)
先に断るべきでしょうか。
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