システマティックな少女と一般サラリーマンな俺   作:伊駒辰葉

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会議は踊る? 2

 開発部長の質問はそれで終わった。俺はさっさと会議室を出てオフィスに戻ろうとした。このまま居たら所長にどんな文句を言われるか判ったもんじゃない。慌ただしく端末を片付けて席を立った俺を嫌なタイミングで開発部長が呼び止める。余計なことは言うな、と長根所長が釘を刺して出て行く。あんたな! そう思うなら先に行くなよ!

 

「なんすか」

 

 やけくそ気味に俺は開発部長に返事した。こう言っちゃなんだが、俺の笑顔ってのは営業用と決まってるんだ。無愛想極まりない態度で俺は開発部長を見た。相変わらず考えてることがよく判らん笑顔で開発部長が手招きする。ああ、うぜえ。そうは思ったが俺は仕方なく呼ばれるままに開発部長の近くに行った。幸い、会議のメンツは出て行ってしまっている。残ってるのは開発部長と俺だけだ。

 

「君の意見はとても参考になったよ。ありがとう」

「いえ」

 

 ストレートに礼を言われて他に言い返すことも出来ず、俺はぶっきらぼうにそう返した。大体、何で所長が怒ってたのかが俺にはまだ判らんのだが。

 

「長根君には私から言っておこう。私は君の発言を言質として取った訳ではないんだよ」

 

 俺の疑問を読み取ったように開発部長が言う。なに? じゃあ俺が営業所に不利になるようなこと言っちまったってことか。うわ、そりゃ所長は怒るって。……でも俺、そんなやばいこと言った覚えはないんだけどなあ。

 

「はあ」

 

 でも俺の口から出たのは曖昧な返事だけだった。というか、開発部長は何の用があって俺を呼び止めたんだ? わざわざ所長に口を利いてやるって言いたかったのかな。それとも別に理由が……。

 

「ところで能戸君。開発部の提出した資料に新タイプのシステマが2wayシステムであるとは、恐らく間違いなくどこにも書かれていないんだがね」

「あ!」

 

 俺は思い切りはっきりと慌てた声を上げた。しまった。勝亦の奴からさんざっぱら聞かされたせいで、無意識に言っちまったんだ。確かに開発部長の言った通り、渡された資料にはそんなことはどこにも書かれていなかった。

 

 一気に血の気が引く。多分、この時の俺は真っ青になってたんだろう。開発部長が笑みを引っ込めて大丈夫か、と声をかけてくる。だが動揺しきってた俺はろくな返事が出来なかった。勝亦の立場が機密を漏らしたってことで悪くなっちまうんじゃないだろうか。そんなことを考えてたからだ。

 

 だが開発部長は俺を責めなかった。

 

「もしも君が事前に一切の情報を知らずにあの資料を見た場合、新タイプのシステマにどういった感想を抱くと思うかね」

 

 笑顔に戻って開発部長が訊く。俺は反射的に周りに誰もいないことを確認してから小声で言った。

 

「多分、同じことを言ったと思います」

 

 確かに俺には事前に得た情報があった。が、それを抜きにしてもあの資料を見る限り、新しくリリースされるシステマが2wayタイプだと思うだろう。俺は表現に苦しみながらそう説明した。勝亦の名前が何度出そうになったことか。

 

 その答えで開発部長は納得したのだろう。俺を解放してくれた。俺がオフィスに戻った時には所長が難しい顔をして腕組みをしてた。が、どうやら開発部長は本当に所長に話を通してくれたらしい。俺を睨みつけてはくれてたが、所長は何も言わなかった。

 

 終業まで残り時間は少なかったが俺はいつものように外回りに出た。出先で江崎に連絡を入れてどこまで回ったかを訊ね、残りの客のところに向かう。営業をこなしながら俺は全く別のことを考えていた。

 

 2wayシステムだと勝亦はうるさいくらいに言っていた。だが開発部長の口ぶりだと違うのではないか。そもそも仕様書に明記しない理由はないだろう。それとも書けない理由があるのか? とりとめのない考えが頭の中を巡る。

 

 結局、その日は大した成果もあげられないないままに俺は営業所に戻った。まばらに人の出入りするオフィスでとりあえず営業日誌を書く。とは言ってもそんなに書くことはないんだけどな。例の会議のおかげで今日は二件しか回れなかったし。不満と不服を込めてため息をついてから俺はふと顔を上げた。

 

 システマが世界を変えるなんざ、幻想以外の何物でもないとは思う。なのに何でたかが商品、たかが道具のこいつらに俺が振り回されにゃならんのだ。苛立ちを込めて硝子の部屋に座るシステマを眺める。だがシステマはこちらに気付いた様子もなく、ぼんやりとどこかを見つめたままだ。そんなシステマを睨むように見ながら俺は深々とため息をついた。ついこの間までは何事もなく平穏にやってこれたのだ。今さら俺の生活に深く切り込んで欲しくない。それがシステマに対する俺の正直な感想だ。便利便利っつったって、結局のところ使うのは人間なんだぞ。くそ、とぼやいたところで俺は気配を感じて隣を見た。机についていた江崎が不思議そうに俺を見てる。

 

「どうしたんですか、先輩。難しい顔して」

 

 心配顔でそこまで言ってから江崎は声を落とした。

 

「もしかして何か会議で嫌なことでも」

「あ、いや、まあ」

 

 所長が空席であることを確かめてから俺は肩を落とした。まずいなあ、と思っても上司の顔色をうかがう癖が抜けない。これだから変な奴に目をつけられたりするんだって判ってるんだがな。

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