システマティックな少女と一般サラリーマンな俺   作:伊駒辰葉

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I 3604 Twins RC(3

 勝亦は特にシステマに用があって呼んだ訳ではなかったらしい。が、システマからシャツを剥ぎ取ることもなく席を立つ。ついでだからちょっと付き合え、と言われて俺は渋々と勝亦に従った。

 

 開発部の部屋を出たところでふと勝亦が足を止める。IDカードを携帯しているか確認され、俺は素直に頷いた。というか、基本的に俺はポケットに財布突っ込んでるからな。カードはいつも持ってるぞ。そう答えた俺に勝亦がよし、と頷く。何なんだよ、一体。

 

 客に直に接することのない開発部所属の勝亦の格好は今の俺と変わらない。うわ、何か遊びに来てるみてえ。そんな感想を言った俺に勝亦が困ったように笑う。よし。勝亦の顔色はまだ良くはないが気分は良くなってきてるみたいだ。飯も食ったしこれなら大丈夫だろう。勝亦と喋りつつ俺はそう思った。

 

「お前、納品担当にならなくて良かったな」

 

 からかい混じりの勝亦の言葉に舌打ちをし、俺はため息をついた。要するに納品担当の連中は裸のシステマを当り前に扱ってるって言いたいんだろう。それは判る。

 

「仕事なら別に動揺もしないだろ。そのうち見慣れるだろうし」

 

 エレベーターに乗り込んでから俺は階層を示すパネルを見つめ、勝亦に声をかけた。

 

「何階だ」

「四十二」

 

 はあ? たかが二つ上? そんなもん、階段上がった方が早いじゃねえか。俺はしかめっ面で勝亦を振り返った。だが勝亦は平然としている。へえへえ、と返事して俺はボタンを押した。ほどなくエレベーターの扉が閉まる。軽い抵抗感の後、エレベーターはあっけなく四十二階に着いた。まあ、そりゃそうだわな。地下鉄の駅のある地下二階から営業所までにしたって、エレベーターでかかる時間なんて短い。二階層分くらい、あっという間に着いてしまう。会話する間もなかったな。そんなことを思いながら俺は開いた扉の向こうを見て絶句した。

 

 青白い廊下が真っ直ぐ続いている。

 

「ほら。何してるんだ」

 

 ご丁寧にエレベーター前にガードボックスが設えてある。俺は疑問を覚えつつも勝亦と同じようにカード入りの財布をボックスにかざした。

 

 この本社のビルの中で見たことがないような細く長い廊下が続くせいか、周囲の景色は酷く現実離れして見えた。ライトも何もないのに廊下全体がぼんやりと青白い光に包まれているのだ。勝亦曰く、壁が半透過性の材質で出来ており、向こう側の光を通すんだと。いや、それにしたってだよ。何でまた青白なんだよ。こんな不健康そうな色の光に囲まれてると、無意味に鬱になりそうなんだが。

 

 俺はおっかなびっくりで壁に触った。つるんとした奇妙な感触がある。だが確かに勝亦の言う通り、壁そのものが光ってる訳じゃないらしい。ひんやりとした壁をしばし指先で確かめるように撫でてから俺は勝亦をうかがった。俺が好奇心に負けて色々してるのが面白いのか、勝亦の奴、わざわざ立ち止まってやがる。

 

「興味があるなら素材の解説でもしようか?」

「要らん」

 

 勝亦の言い方にかちんと来て俺は素気なく返事した。そうか、と頷いて勝亦が歩き出す。今度は俺もちゃんと勝亦について歩いた。

 

 ここが同じビルの中だとはとても思えない。誰もいない長く細い廊下が続いている。時折、影が過ぎるのは壁の向こうを何かが横切るからだと言う。青白かった勝亦の顔色は、この光のせいで余計に悪く見える。

 

 直線に見えていた廊下は実は緩やかなカーブを描いていたらしい。光の加減でごまかされて真っ直ぐだと思いこんでいたようだ。気がつくと俺たちは振り返ってもエレベーターが見えないところに居た。へえ、曲がってたのか。振り向いてエレベーターが見えないことを確認してた俺は、勝亦に促されて壁の端にあるガードボックスに財布をかざした。……おいおい。一体何台ボックス設置してるんだよ。エレベーター降りてちょっと歩くだけでこれか。しかも特にドアがあったりする訳じゃない。ただの廊下のど真ん中だぞ。

 

「あの部屋に着くまでに七回チェックがあるかな」

 

 俺が文句を言おうとしてたことに気付いたのか、あっさりと勝亦がそんなことを言う。ちょっと待て!

 

「七回だと!? んな、社長室に行こうってんじゃねえんだろ!?」

 

 うちの会社役員は最上階からその二階層下辺りまでに個人的な部屋を持っている。その階層に足を踏み入れたことはないが、所長の自慢話によるとIDチェックも相当厳しいらしい。

 

 だがここは違う。この階は開発部の管轄のはずだ。

 

「あんまり大きな声を出すなよ。一応、能戸は部外者なんだし」

「てめえが連れて来たんだろうが」

 

 呆れるやら腹が立つやらで、ついつい怒鳴ってしまいたいところを堪えて俺は低い声で言った。くそったれ、勝亦。てめえ、どこまで俺を引っ張り回せば気が済むんだ。

 

「そうだっけ」

 

 とぼけた顔で言い切ってからまた勝亦が歩き出す。さすがに付いて行くのもばからしくなり、俺は勝亦に背を向けた。

 

「あほくさ。そんじゃ、俺は帰るぞ」

「新しいシステマを見せてやろうと思ったんだけどな」

 

 即座に勝亦が言う。俺は歩き出そうとしていた足をぴたりと止め、慌てて振り返った。勝亦がにやりと人の悪い笑い方をする。このやろう……。

 

「まだ出来てねえんだろが」

「過程とか、気にならないか? 僕なら気になるなあ。どんな風に作られた物を自分が売っているか、とか」

 

 くそ、痛いところを突きやがって。俺はふん、と鼻を鳴らして廊下を再び進み始めた。冗談じゃねえぞ、まったく。文句言いまくりつつも俺は勝亦について歩いた。

 

 青白い光の中に硬質な金属の扉が浮かぶように立っている。エレベーターからここまでそんなに距離はない。なのに何だ、この厳重な警戒ぶりは。たかだか廊下歩いて部屋に行くだけのことだぞ。しかも目的のドアが見えてからもガードボックスが二つ。もう、ここまで来ると警戒どころの騒ぎじゃねえだろ。

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