一話が長すぎますかね?(汗)
誰が洗うんだ!! 1
雨傘を傘立てに放り込んでにっこり笑顔で店員に挨拶。ついでにご機嫌伺いなんぞして、俺はとある営業先の店長が出てくるのを待った。
待ちに待った新製品のリリースは梅雨のど真ん中のとある日に行われた。前評判は上々、客の食いつきもすこぶるいい。うちの営業所長はいつも以上の売上に珍しく上機嫌ときた。
「お待ちしておりました! さあ、どうぞ」
にこにこ笑顔の店長が店の奥から出てきて俺にそう言う。おいおい、どっちが客だかわかんねえよ。そんなことを思いつつもいつもの通りに笑顔を作って営業開始。ああ、うぜえ。
足を棒にして稼げ、なんて古臭いせりふで所長は俺たちに毎朝はっぱをかける。新製品が出てから一週間、それがずっと続いている。うざいったらないよな。あれだけ俺たちを毎日こき下ろしてた所長がだぞ。一気に手のひら返した日には、気持ち悪いとしか言いようがないだろ。
それでもやっぱり中條先輩の成績は群を抜いていて、契約結んだ客の数は俺とは桁違いだ。いや、やっぱ中條先輩は凄いわ。俺も江崎も感心しきりで、でもそんな俺たちも酒飲んでる余裕がないくらいに営業に追われてた。
本当は多分、売れ行きが好調だと喜ぶべきなんだろう。それは俺も判ってる。だが俺は件の製品版システマが初めてうちのオフィスに搬入された時、やっぱり落胆しちまった。ああ、勝亦の言ってたことは正しかったんだってな。
営業所にお目見えしたシステマは、あの日、俺が見たものとは全く違っていた。姿形はこれまでに出ているうちの製品とそう変わらない。子供ほどのサイズだ。男女で揃ってはいるらしいが、俺の目にそれはさして珍しいものには見えなかった。あの時に感じた衝撃も何もない。ああ、これが新しい製品なのかと心のどこかが妙に冷えただけだった。
そんな新製品がリリースされてからたかだか三日。その三日の間に営業所内はがらりと変わった。とにかくI 3604 Twinsを持ってこいと客がせがむのだ。前評判は確かに高かったが、何故ここまで売れるのか。その謎について考えつつ俺はいつも以上に手を抜いた営業トークを展開した。……正直、やってられっかよって気分だ。
相手は笑顔を見せながら新しいシステマについて根掘り葉掘り聞いてくる。その度に俺も仕様書をご覧下さいとかわすんだが、それで客は諦めたりしない。要するにシステマの内容を仕様書を見るのではなく、俺の口から聞いて理解しようとしてるんだな。阿呆か。俺は開発者じゃねえんだよ。んな、商品のことを隅から隅までいちいち知ってる訳ねえだろうが!
どうやらこのI 3604 Twinsって奴は客の間でもかなりの噂になってたようだ。そのことはリリースされた直後に俺にもはっきりと判った。そうでないとこの売れ方は説明出来んだろ。普段はのんびり適当に営業してる俺が、毎日残業までする始末だ。ああくそ、飲みにいきてえ。
こっちがどれだけ手抜きの対応をしても客はお構いなしで話を振ってくる。中でも特に多いのは商品を優先的に回してくれって話だ。だが残念ながら俺だけじゃなく、営業の連中は複数の客を持っている。その上、工場から上がってくる商品の数には限りがある。一人あたりどれだけの注文を取ることが可能かは、実は最初から決まってるんだな、これが。まあ、その上限設定が役に立つのは営業所始まって以来のことらしいが。
成績優秀者である中條先輩と俺の商品販売限界数には一桁の差がある。ま、当然だな。普段の成績を考えたらそれでも差が少ないくらいだ。そんでもって営業所はうちだけじゃない訳だ。それを考えると市場にどれだけの数が出るか、俺には見当もつかん。
でも何かが気に入らない。俺は客を適当にあしらってその店を出た。傘立てから取り上げた傘を片手で開く。お願いしますよ、という店長の声に押されるようにして俺は足早に店を後にした。
勝亦の奴から聞いた話では、正式に商品化されたシステマは、俺が見たあのシステマとは別に製品候補に上がってたものらしい。そのことを話したあの日から今日まで、勝亦は珍しく俺の前に姿を現していない。俺からも連絡を取っていないから勝亦が今何をしているのかは判らないままだ。もしかしたら新しい製品の開発に着手しているのかも知れないし、それとも少しはのんびりしているのかも知れない。そんなことを考えつつ、俺は雨の中を足早に歩いた。
社用車の中で一息。鞄から引っ張り出したボトル入りの茶はぬるくなっちまってる。ジャケット脱いで汗を拭き、とりあえず俺は乾ききった喉を潤した。このくそ蒸し暑い中で、何で喉だけ律儀に渇くかな。湿気がこれだけあれば、呼吸するだけで肺から水分取り込んでも良さそうなもんじゃないか。それとも何か。出してる汗のが摂ってる水分より多いって……まあ、実際、そうなんだけどな。
エンジンかけて空調入れ、涼しくなったところで俺は鞄から携帯端末を取り出した。営業表を呼び出してさっきの店をチェックする。契約数書き込んで、商品搬入予定日を書き込む。うわ、やっぱり今日も残業かよ。残りの客数見た俺はうんざりしてため息をついた。
自慢じゃないが、俺は特に仕事が好きって訳じゃない。要領よくやって、出来れば楽して金だけ貰いたい。なのにちっとも上手く行かないんだよなあ。内容のことなんざどうでもいいと思ってるのに、勝亦の奴がシステマの解説をしまくってくれる。営業成績なんてそこそこでいいじゃんと思うのに、所長は目を吊り上げて俺を説教する。中條先輩も江崎もそれなりに上手くやってるってのに、何で俺は駄目なんだろう。
あ、やばい。のんびりしてる暇なんてなかったんだ。俺は慌てて車を出した。
疲れ果てて仕事を終え、帰った家でビールの一本でも飲めれば上出来って日々がしばらく続いた。最初は家に帰ってベッドに直行してた俺も、日が経つにつれて忙しさに慣れていった。I 3604 Twinsの売上は相変わらずで、爆発的って言ってもいい勢いで市場に流出してる。マスメディアで商品のことを取り上げられることも多いらしい。宣伝費が浮いていいねえ、と笑ってたのは確か広報の奴らだったかな。奴らが特に動かなくてもマスメディアが勝手に取り上げてくれるんだと。
うーん。スマホ表示にした時、かなり長いかも知れない……。
途中で切って次の段落にした方がいいのかどうか悩みます(泣)
分割中w