システマティックな少女と一般サラリーマンな俺   作:伊駒辰葉

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誰が洗うんだ!! 6

 案内された部屋はこの間とは違い、透明な壁張りの外からも丸見えってのじゃなかった。硝子のでかい窓はあるが、ごくごく真っ当な普通の部屋。ちょうど俺のマンションのリビングくらいの広さか? でかい窓の向こうに見えるのは、こないだ見たのと同じ光景だ。だが見学室よりこの部屋の方がはるかに卵型のケースに近い。しかもドアなんてついてるから、直接にケースの並んでるとこまで行ける。

 

 ……というか、行ったんだけどな。二人して。ずらっと卵型のケースの並んでるとこまで。ケースが並んでる空間の手前には廊下が渡してあって、間近にシステマを見ることが出来るって寸法だ。ずらりと並ぶケースだけでも壮観だが、実際に間近に寄るとその光景に迫力すら感じてしまう。たかが硝子窓、たかが壁。なのに間に一枚あるだけで随分と見え方って変わるもんなんだな。

 

 先に勝亦が移動させたおかげでTwins RC1のケースが二つ、部屋のまん前に来てる。俺はまじまじとそのケースを覗きこんだ。……やっぱ、凄い。横向いて膝抱えて丸くなってるシステマは、少女にしか見えない。綺麗な横顔が青い液体の中に沈んでる。もう片方のケースに横たわってるシステマも、これまた少年にしか見えない。Twinsの名前は伊達じゃねえな。二台のシステマの面立ちはとてもよく似ていた。

 

 でも俺は開発は嫌だって心底思ったな。感動なんてあったもんじゃねえ。ケースから起きたと同時にこいつらときたら……。

 

 俺だって多少は期待もしていた。青い液体に満たされた卵型のケースから、まるでお伽噺みたいに優雅にシステマが起き上がる。なんてなことをちょっと思ったりもしてたんだよ。人魚姫かいばら姫、それとも白雪姫でもいいかな。まるで海から生まれたばかりって感じのイメージって言うか、とにかく幻想的なものを俺は心のどこかで期待してたんだよ。

 

 なのに現実はどうだ。ケースを覆ってた透明な板が音を立ててケースの内側にずれる。身体を丸めて横たわってたシステマが静かに目を開けてむくっと上半身起こした直後……どろどろと口から鼻から青いのを吐き出しやがったんだよ! 開きっぱなしの口や鼻から垂れ流される青い液体……青だぞ、青! 鮮やかなオーシャンブルーの……うああ、見たくねえ! せめて俯くとか口許隠すとかないのか! 特に女性型の方のお前!

 

「吐くな!」

「吐くなって……能戸、それは無理な注文だろう」

 

 休止中のシステマは胃や肺を溶液で満たされてるんだぞ。勝亦のそんな忠告なんざどうでもいい。俺はケースの中で身を起こした二台のシステマを指差して喚いた。ケースに上半身起こしたシステマはまだ口や鼻からどろどろと青いものを垂れ流してる。

 

「だから吐くなって言ってるんだ!」

「無茶を言うなよ」

 

 後ろから呆れたように勝亦が言う。俺は怒りに震えながら振り返った。

 

「じゃあ、機械か何かで吸い出せ! 見苦しい! 掃除機はないのか、掃除機は!」

「見なきゃいいだろう」

「ああ、そうする!」

 

 俺は怒りに任せて勝亦とシステマに背を向けた。背中越しに文句を垂れる俺によっぽど呆れたのか、勝亦は黙っている。しばらく後、もういいぞと言われて俺は恐る恐る振り返った。

 

 二台で一台。そう勝亦が説明した例のシステマ……Twins RC1が俺たちの立ってる廊下に並ぶ。こうして見てもはっきりと判る。こいつら、やっぱりリリースされたのとは違う。なにが違うって見た目からもうはっきりと違うんだよ。このTwins RC1は俺たちと大差ないサイズだ。歳で言えば十五、六歳ってとこか? しかもおまけに丸裸ときてる。俺は舌打ちをして並んだ二台のシステマから目を逸らした。嫌がる勝亦から剥がした白衣を手早く女性型のシステマに着せる。次いで俺は持ってたジャケットを男性型のシステマに投げつけた。顔面に向かって投げたジャケットをシステマが器用に受け止める。……あれ? えらく動きがスムーズじゃないか?

 

「とりあえず洗浄しないとな」

「待て。それはつまり」

「シャワールームくらいあるぞ?」

 

 当り前の顔で勝亦が言う。俺は慌てて言い返した。うわ、自分で判るぞ。俺、絶対赤くなってる。

 

「誰が洗うんだよ!」

「……なにを期待してる、なにを。そのくらいのことは出来る程度に自律しているに決まってるだろう」

 

 呆れたように言って勝亦が二台のシステマを連れて歩き出す。待て! 俺を置いてくな!

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