システマティックな少女と一般サラリーマンな俺   作:伊駒辰葉

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2way 2

「本当に2wayである必要はない。客が充足感を得られるのは、リリースされた製品版の方なんだよ。……お前が言ったようにな」

 

 あ。そうか。だから勝亦は俺にわざわざ2wayの性能を見せたのか。俺のシステマに関する知識が客と同じ程度だから。

 

「製品版のほうは確かに二倍近い処理速度が出せるけど、専用のソフトが必要だし、同期処理のために安定性や操作性がどうしても従来よりも劣ってしまう」

 

 俺の理解力に極力合わせようとしてるのか、勝亦がいつもよりゆっくりとした口調で話し始める。俺は黙って話を聞くことに専念した。

 

「だから、処理速度が速くなっていても総合的な処理効率は実は従来機種と大差無いんだ。本物の2wayシステムなら使用感は一台の時とほとんど変わらない。処理速度と安定性が共に向上するから、処理効率は従来機種から格段に向上するけど、使う側から見れば特にこれまでと変わり無く感じるはずだ。だけど、だからこそ逆に客の満足感は得られにくい」

 

 要するにありがたみがないってことだ。そう言って勝亦は疲れたように笑った。もしかしたらこいつ、そのせりふを上司の誰かに言われたんじゃないか?

 

「僕も子供じゃない。決定には従うし、納得もしてる。でもやっぱりちょっと悔しいというのはあるんだ」

 

 そう言った時の勝亦の顔はやけに沈んでいた。多分、2wayってのが理解出来てねえんだろな、俺は。勝亦の悔しさってのが今ひとつ判らん。でも俺は正直に思ったことを話す気にはなれなかった。勝亦の感じてることがまったく判らないはずがないと思うじゃないか。腐れ縁かも知れないが、一応は長い付き合いなんだぞ。それを判らないってのはどうなんだ、と自分で思うわけだ。

 

 勝亦は無言で二台のシステマを片付けにかかった。とは言っても服を剥がしてケースに戻すだけだがな。俺はそんな勝亦を硝子窓越しにぼんやりと眺めてた。あの二台だけじゃない。ここに納まってるシステマは全て休止状態になっている。下手に動かすと学習機能が働くだけじゃない。それだけでコストがかかるからだ。ここなら開発中のシステマと一緒にしておけるから、大した手間も金もかからないってのが勝亦の説明だった。

 

 裸になった二台がそれぞれのケースに戻る。青く透き通った液体の中に身体を横たえる二台のうち、俺はいつの間にか女性型のシステマを見つめていた。勝亦曰く、女性型の方がTypeA、男性型の方はTypeBというらしい。音声入力も可能だから、インターフェイスなしでもある程度は稼動する。言語も理解してるからその気があれば話も出来るんだと。……そんなこと、どのシステマでも当り前に出来るのに、何故かこの二台がそれを出来ると聞いた時に俺は驚いちまった。勝亦が呆れてたもんな。悪かったよ、どうせ俺はシステマの営業の自覚なんぞねえよ。ふん。

 

 急遽、RC2がリリース決定されたのにはとある背景があるのだと勝亦は教えてくれた。RC1に比べるとRC2は軽量でしかも大量生産が可能だ。その上製造コストも断然、RC2の方がかからない。つまり、I 3604 Twinsは本当に2wayである必要はないのだ、と上役が判断したのだ。

 

 大混乱した工場も今は何とか落ち着いているという。だが勝亦が所属していた開発チームのチームリーダーは責任を取って辞職したそうだ。ただ中止にするには余りにも事態の変化が急すぎたのだ。

 

 勝亦は事後処理に未だ追われているという。リーダーを失ったチームは恐らく解散になるだろう。そんな話も勝亦はしていた。もしかしたら勝亦は、周囲の誰にもそんなことを言えず、全く関係のない部署の俺だからこそ喋ったのかも知れない。

 

「人……みたいだったな。あいつら」

 

 話が一段落ついたところで俺はそう勝亦に言った。すると奴は少し笑って眼鏡を指で押し上げた。急行電車の吹き付ける風に煽られながら勝亦が頷く。

 

「いい出来だろ? 僕らの自信作だから」

 

 勝亦の顔色はあんまり変わらないが、それでもすっきりした表情をしている。多分、喋ったから気も晴れたんだろ。だが、そうだなと同意しつつも俺は全く別のことを考えていた。行き過ぎた電車を見送って思わずため息をつく。ホームには俺たちの他に誰もいない。次の便が最終だ。

 

 どうしてもあの二台がシステマに見えないのだ。ジャケットを投げつけた時のあの動き。あれはまさに人そのものの動きだった。関節部の動きもとても滑らかで、ぎこちなさなんて全くなかった。営業所にあるシステマとは比べ物にならないほどだ。

 

 滑り込んできた電車に乗って俺は出来るだけ不自然にならないよう、その話を勝亦に振ってみた。勝亦は妙な顔をしていたがきっちり答えてくれた。どうやら話を聞く限りでは、奴らの反射神経はヒトと変わらないらしい。それと特殊なソフトを入れてあるために動きも段違いに滑らかなんだと。

 

 飲みに来るか、という誘いを断って俺はマンションに戻った。飲みたいのは山々だったんだが一人で考えたいこともあったしな。それに勝亦が妙に俺のことを心配しだしたりして、実はちょっとうっとうしかったんだよ。

 

 心配されるようなことなんてあるもんか。俺はそんなことを思いながら、マンションの入り口のポストに突っ込まれたちらしの類をまとめてごみ箱に放り込んだ。けっ。資源の無駄だって判んねえのかよ。こんなもん誰が見るかっての。

 

 部屋に戻っても俺の気分は晴れなかった。くそ、勝亦の奴はあんなに清々した顔してやがったのに、俺は逆に不愉快になっちまった気がする。いや、不愉快っていうのとはまた違うな。

 

 足で冷蔵庫の扉を開けてビールを取り出してそこで一息。あーあ。もう二時だぞ。こんな時間までなにやってるんだかな、俺も。誰もいない部屋でそんなこと呟きながら、俺は立ったまんまでビールを一本空けた。

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