急いでオフィスに戻って所長に叱られた後、日誌を書いて慌ただしくまたオフィスを駆け出す。そんな俺のことを、怒られてる癖に妙に嬉しそうにしやがって、なんて所長は誰かに言ってたらしいが、そんなこと俺の知ったことか。ああ、ちなみに言い訳するとだな。叱られてるのが嬉しいわけじゃねえよ。おれは所長の説教なんぞはなっから聞いちゃいねえってだけだ。
「んじゃ、おつかれ!」
「は、はい。お疲れ様でした」
元気良く言った俺に驚いたように江崎が答える。だが江崎の声が聞こえた頃にはもう、俺はオフィスのドアのとこにたどり着いていた。オフィスを駆け出した俺の傍をいけ好かない連中が入れ違いに過ぎる。すれ違いざまに何か言われた気がしたが、んなもんいちいち構ってられっか。
エレベーターに乗って開発部に向かう。たどり着いた開発部一課のドアを、俺はそれまでの勢いを殺して静かに開けた。こっそりと中を伺う。幸い、仕事をしてる連中は俺に気付いた様子はない。一応、別の部署だしな。騒ぐのも悪いだろ。だから俺はここに来る時はいつも大人しくしてるんだ。
「本当にいつも時間通りだな」
呆れたように言いながら勝亦が立ち上がる。周辺の奴らが口々にお疲れ、と勝亦に言う。勝亦はちょっと出てきますと挨拶して白衣を着たまま俺のところに来た。
「たまには遅れたりしないのか」
ため息混じりに言われて俺はふん、と笑ってみせた。
「自慢じゃないが俺の営業成績は最悪なんだ。残業するほどの仕事はねえよ」
だからこそ残業しなきゃだめなんじゃないのか? という勝亦の厭味を聞き流しつつ、俺は考えを巡らせた。
新商品として売り出されたI 3604 Twinsの評判は上々だ。今でもまだその商品を入荷してくれと言う客は多い。だが出だしの頃のような爆発的な勢いはもうない。ちなみに他社がうちの勢いに便乗してリリースした新商品は売上の方は今ひとつのようだ。そりゃあね。それだけうちのが革新的なシステマだったんだろ。
いや、そんなことはどうでもいいんだ。売れてるのがI 3604 Twinsだろうが他社新商品だろうが、そんなことは俺の知ったことじゃねえ。
「毎日毎日……。部長がこの間笑ってたぞ。やけに熱心だなって」
まあ、だからカードを預けて貰えたんだが。勝亦がしかめっ面でそう解説する。うるせえよ。何でもいいからさっさと行こうぜ。そんな俺の言い分に勝亦はため息をついてやれやれと肩を落とす。
二人してエレベーターに乗り込んで四十二階へ。いつものように勝亦がケースを動かしてる間に俺は急いで小部屋を出た。部屋の前にある細い廊下の手すりに乗り出してケースが動くのをじっと見守る。近頃では大量にあるケースのどの辺りに目当てのものがあるか、勝亦の操作の仕方から見当がつくようになっちまった。一面の青い液体の上を滑るようにしてケースが移動する。お、あれだあれ。俺が目星をつけた右奥のケースが思った通りに徐々に近付いてくる。手すりつきの廊下からせり出した台に俺は進み出た。
目の前に停止したケースを覗きこむ。中のシステマを見止めて俺は思わず口許を緩めた。昨日と同じ格好で少女が横たわっている。青い液体の中で手足を丸め、眠るように目を閉じたシステマの様にしばし見とれてから俺は振り返った。硝子窓から覗く勝亦に頷く。するとほどなくケースの蓋が開いた。
口から鼻からどろどろと液体吐くのは見目的にどうなのかって? ああ、そんなもんちょっとの間だから余所向いてりゃいいし、第一もう慣れちまったよ。そもそも人間だって赤ん坊の頃は涎だの鼻水だの垂らして泣き喚くだろ。それと同じだと思えばいいんだよ、要するに。
身を起こしてぼんやりしてるシステマの腕を取る。手早くケースから取り出したところで次のケースがタイミングよく台の前に滑り込んでくる。続けて少年のなりをしたシステマの片割れを取り出す。シャワールームに二人を突っ込んでから服をロッカーから引っ張り出す。ああ、このロッカーな。いつもどこぞから服を持ってくるのは面倒だしってんで、空いてたのを借りて置かせてもらってるんだ。
バスタオルから服一式揃えたところで俺はシャワールームのドアを開けた。脱衣所の籠に二人分の服とタオルを入れて部屋に戻ったところで何故か勝亦と目が合う。
「何だよ」
「よく飽きないな」
そりゃあ、てめえらみたいに毎日毎日システマ弄ってりゃ飽きもするだろうさ。でも俺はこれが初めてだからな。そんな風に説明して、俺は勝亦にさっさと行けよ、と手を振った。何で追い出すのかって? 決まってんだろ。勝亦の奴はまだ仕事が残ってるんだよ。んだから、俺が遊んでる間は開発部に戻って仕事の続きをするって訳だ。
ちなみに今はこのフロアは無人だ。開発部の奴らも見学の奴らもいない。試作品でもあがってくればまた別だろうが、今は俺がいても邪魔にならないってことだ。
「能戸。判ってると思うが」
「あー、はいはい。ログはとってるって言いたいんだろ? 別に妙なことなんて考えてねえよ。それに俺に何が出来るってんだ」
自慢じゃないが機械おんちだぞ、俺は。そんな風に笑って俺は勝亦を送り出した。渋々の態で勝亦が部屋を出て行く。手を振ってそれを見送ってから、俺はいそいそとテーブルと三脚の椅子を用意した。続いて鞄から引っ張り出したものをテーブルに乗せる。よし。これで準備完了。タイミングよくシャワールームから出てきた二人をそれぞれの椅子に腰掛けさせる。
「ほら。続きが見たいって言ってたろ?」
そう言いながら俺は鞄から携帯端末を取り上げた。すっげえ旧式のやつ。いやいや、見かけはぼろいかも知れんが、今ではもう流通してないデータが中に入ってるけっこうな貴重品なんだぞ。入ってるのは俺が随分と前に読んでた本のデータだ。黒いボディのそれを差し出すと、男性型のシステマが会釈をして受け取る。おお、ちゃんと学習したみたいだな。きっちりとありがとうございます、なんてな言葉も出てくるじゃねえか。感心感心。
ヤバい……
改行入れてたら女の子の外見年齢が思ってた以上に高いことが判りました(汗)
これをロリって言ったら怒られる!!!><