システマティックな少女と一般サラリーマンな俺   作:伊駒辰葉

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システマと人 2

 そこまで考えてから俺は自分のばかさ加減に笑いたくなった。俺は営業なんだよ。システマを売る側の人間なんだ。なのにそんな立場の俺があの二人をまるで人のように扱ってる。そりゃ、さぞ珍しいだろうよ。開発部長の話を聞きながら俺は自然と俯いてしまった。システマに対する俺の態度が変わってるって説明なんぞ、聞いたところで判る訳がない。何しろ俺は普通の扱いって奴がまるで判らないんだからな。

 

「どうしたのかね? 具合でも悪いのかな」

「いえ」

 

 我ながら情けない。俺は今の今まで他の奴らがシステマをどう扱っているのかを知ろうと思わなかった。売る側の人間なのにな。客がどんな風にシステマを使ってるかってことには全く興味なかった。意を決して俺は顔を上げ、真面目に他の連中がシステマをどう扱うのかを開発部長に訊ねた。

 

「普通はシステマとして使うのではないかな。収集家は別だろうがね」

 

 客の中にはコレクターなるものもいて、彼らがシステマを集めたりしていることは俺も知っている。そういう客はリリースされた端から全ての機種を買い漁るとも言う。立体模型と考えてシステマを飾る趣味の奴もいる。そうじゃない、ごく一般的なクライアントはシステマをシステマとして使う。……そうだよな。当り前なんだよ、それが。システマは道具だってことは職場に入って真っ先に言われたことだ。

 

「でもあの二人は……その……人によく似てるし」

 

 自分に言い聞かせたのとは裏腹に俺はそう言っちまった。言ってからやばいって気付く。だが開発部長は俺が慌てたことには気付いていないのか、別段様子は変わらない。

 

「RC1のコンセプトは知っているかね?」

 

 コーヒーカップを置いて開発部長が言う。どうでもいいが、このくそ暑いのによくホットコーヒーなんぞ飲めるな。まあ、ここは空調が効いてはいるが。

 

「ええと……2wayシステムですか」

 

 出来るだけ声を落として俺は言った。本社ビル内でまさかそんなことはないだろうが、それでも用心に越したことはない。そんな俺の不安を肯定するかのように開発部長が重々しく頷いて声を潜める。

 

「それもだが、RC1は本来のシステマ……つまり、初期型に近づけようというコンセプトの元に作られたのだよ」

 

 それはつまり。俺は開発部長に言われたことを心の中で反芻して目を見張った。だからあの時、勝亦は酷く消沈した顔をしていたのだ。本当はRC1が世に出ることを望んでいたからこそ、急なリリース計画の変更に落胆したのだろう。

 

 本来のシステマという開発部長の言い回しが妙に心に刺さる。もしかしたら初期型の世界を救ったというシステマは、実際はもっと人に近い形をしていたのではないだろうか。今の世に出ている多くのシステマは生身であるにも関わらず、人形のようにぎこちない動きをする。だがそれがもしも、わざとそうされているとしたらどうなんだろう。現状のシステマでさえ反対派なんてものが存在し、そいつらが道端に座り込んだりなどの運動に励んでいる昨今だ。今以上に人間の外見とそっくりだったりしてみろ。その程度の反対運動で済むはずがない。

 

 最初にシステマを作った人間は生き物の治癒能力に目をつけ、自己再生能力の活かせる端末を開発しようとした。そしてそれは実現し、人そっくりのシステマが生まれた。もしかして初期型の開発者はシステマに人間性を求めたのではないか。計算を繰り返すただの機械ではない、人の心を持った……。

 

 あー、駄目だ。考えるだけで頭が痛くなる。俺はため息をついて肩を落とした。

 

「がっかりしたかな?」

「いえ、そうじゃないんですけど」

 

 思わず素直に答えてから俺は愛想笑いを浮かべた。自分の想像に没頭してました、なんて言えるかよ。しかも俺の想像っていうか、これって妄想だろ。何の根拠もない勝手な……だけど。

 

 だけどもしも本当にそうだとしたら。

 

「あの」

 

 暑さでいかれちまったんじゃねえの。俺は自分のことをそう思いながらも訊ねていた。この時の俺の心境を表すなら、いてもたってもいられない、というのが一番近かった。

 

「あの二人って、感情とか、あるんですよね」

 

 笑えるくらいにたどたどしく俺は言った。出来るだけ言葉は選んだつもりだが、どうしても声は震えちまった。緊張しすぎてグラスを握る手まで震えやがる。

 

「おや。邪魔かね? 何ならカットすることも可能だが」

「そうじゃなくて」

 

 あー、くそ。どう言えば判り易いんだ。まさかそのまんま言う訳にもいかねえし。かと言って、下手に遠回しに言ったって俺のことなんざ知らない開発部長に通じるとも思えない。

 

 静かな店内にはアヴェ・マリアが流れている。美しい女性の歌が邪魔ならない音量で流れているのを俺はしばし黙って聴いた。開発部長は俺がまともに質問するまで待ってくれるつもりなのだろう。何も言わない。

 

「あの二人は人間になれないんですか」

 

 たぶん、ばかな質問だったんだろう。システマだぞ。人間になんてなれるかよ。心の片隅で俺はそう呟いていた。だが不思議なことに開発部長は俺の言ったことを笑い飛ばしたりしなかった。相変わらずの穏やかな笑顔でどうだろうな、と答える。

 

「システマの肉体の構成物質そのものは人間とほぼ同じだ。ただ、脳等の組織が若干違うだけでね。そういう意味ではシステマは人間とさして違いはないのだろうが」

 

 淡々と説明してくれる開発部長の顔をぼんやりと見ながら俺は考えた。正直なところ、脳だの組織だのと言われても俺にはよく意味が判らない。だがシステマと人がそう大差ない身体をしているのだと言われたのは理解できる。

 

「システマには学習能力がある。人にももちろん学習能力は備わっているが、システマは人間とは比べ物にならないほど能力が高いということだけは言っておこう」

 

 そう言いながら開発部長はスーツのポケットから何かを取り出した。名刺ホルダーの中から一枚の名刺を取り出す。開発部長がテーブルを滑らせたものを見て俺は絶句した。これは名刺じゃない。

 

「試してみるかね」

 

 真っ白なカードには何も書かれていなかった。

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